シチズンフォー スノーデンの暴露
ドキュメンタリー『シチズンフォー スノーデンの暴露』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Citizenfour
製作国:アメリカ・ドイツ
製作年:2014年
日本公開日:2016年6月11日
監督:ローラ・ポイトラス

【個人的評価】
 星 7/10 ★★★★★★★
 

Plot Summary

2013年、ドキュメンタリー映画作家であるローラ・ポイトラスにある人物が接触をしてくる。その人物とは、元CIA職員のエドワード・スノーデン。彼の口から語られたのはアメリカ政府による情報監視の恐ろしい実態だった…。

ネタバレなし感想

本物のスパイ映画

インターネットは怖いんですよ…なんてIT音痴な大人の決まり文句みたいですが、ガチで本当に恐怖を感じてしまうのが本作『シチズンフォー スノーデンの暴露』

本作はドキュメンタリー映画です。しかし、ドキュメンタリー映画を普段見る見ない問わず、この映画は現代人が必ず見るべき作品のひとつと断言していいと思います。それこそ学校の授業で上映すべきぐらいの映画です。

インターネットを日々使っている人であれば「エドワード・スノーデン」という人物を知らないということはないのではないでしょうか。もし知らないのであれば必ず知っておくべきです。

簡単に説明すると「エドワード・スノーデン」は中央情報局(CIA)や国家安全保障局(NSA)で働いていた人で、2013年6月にある内部告発をしたことで一躍有名となりました。その内容とは「アメリカ政府は米国民や他の国々の政府等の重要機関の電話やメール等を監視している」というもの。それくらいやってるのは当たり前では?と思うかもしれませんが、重要なのは監視しているのは「テロリスト」や「犯罪者」だけではないということ。端的に言ってしまえば全員です。その人がどういう人か関係なしに全員を事実上監視できる技術を持っているという衝撃的な実態が明らかになり、世界が震撼しました。

この大きな事件の詳細な告発内容や社会的影響についてはネット上の記事や著名な書籍で解説されているので、ぜひそちらを見てください。


そのスノーデン事件を扱った本作は、スノーデン氏の告発が社会にどんな影響を与えたかを詳しくは説明していません(なのでそういうのを期待して見るとガッカリするでしょう)。

では、このドキュメンタリー映画『シチズンフォー スノーデンの暴露』の魅力はどこにあるのかというと、一連のスノーデン事件をスノーデン側に最も近い視点から見られるということ。実は告発を決意したスノーデン氏が最初に接触して対面したのが、本作の監督であるローラ・ポイトラスです。私たちがこの事件を知ったのは当然ニュースからであり、ニュースを通した情報しか知りえませんでした。一方で、本作には、スノーデン氏がホテルの一室で監督を含めた少数の信頼できる人に対して、初めてアメリカの情報監視の実態を暴露している生々しい映像が映されます。つまり、私たちが自身がスノーデン氏から情報を暴露されたような疑似的な感覚に陥ります。映画が進むにつれ、見ている人は強烈な不安感に襲われます。これはそこらへんのサスペンススリラー映画よりも緊張感があります。なにせフィクションではない本物のスパイ映画なのですから。

『シチズンフォー スノーデンの暴露』を見たあとは、パソコンやスマホが怖くなるかもしれません。少なくともインターネットに対する付き合い方を考え直すきっかけになることは間違いなしです。

予告動画







↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

フィクションではないのが信じられない

本作は数あるドキュメンタリー映画のなかでも、リアルタイム感が凄まじい映画です。

スノーデン氏と初めて対面するホテルでの数日間の緊迫感は完全にスパイ映画です。怖いのがスノーデン氏の直接的な告発以外のスノーデン氏の何気ない行動の数々。IP電話は受話器をおいていても盗聴できるので電話線を抜く、ノートパソコンにSDカードをさしっぱなしにしない、パソコンでパスワードを入力するときには頭に毛布を被る…これらの行動は異常に見えますが、でも監視されている実態を知った今は馬鹿にできない。もうホテルでスノーデン氏から話を聞いた監督たちも、私たち観客も完全に恐怖感にとらわれ、疑心暗鬼になってしまいます。

そして、最高に怖いシーンが火災報知器がなるシーン。結局、作動試験で鳴っていただけみたいですが、もう全てが信用できなくなっていきます。この場面はもはやホラーに近い感じでした。実際はなんてことはないのですが、自分の世界が急に信じられなくなるという怖さがあります。

スノーデン氏が自身の告発を報じるニュース番組をじっと見ているシーンも印象的です。そして、恋人に詳細を伝えずもう帰れないとメールするスノーデン氏がせつない。私のような一般市民から見れば、スノーデン氏はアメリカ政府相手に告発するくらいですからさぞカリスマ的な才能を持つ人なのかなと考えてしまいますが、彼もまたひとりの一般市民に過ぎないことがわかります。スノーデン氏もまた不安感と戦っていたのです。それにしても、あの恋人は彼の後を追ってロシアまで来るという愛の強さをみせますが、恋愛映画かと思うくらいです。つくづくフィクションじゃないのが信じられません。

スノーデン氏の暴露にいたるまでの行動をこうやってみていくと、かなり用意周到に考え抜かれているのがわかり、それだけ慎重にならざるを得ない強敵を相手にしていることがビシビシ伝わってきます。決して話題作りなんて生易しいものではありません(まあ、そんな安直な理由でアメリカ政府に喧嘩売る人はいないでしょうが…)。案外、これから何か内部告発しようとしている人がいれば、今作はいろいろ参考になるんじゃないでしょうか。

Citizenfour

残念な点としては、ホテル以外の部分は淡々と話が進み、面白みが乏しかった…。これならホテルの場面だけで映画を構成してもよかった気もします。割と唐突に終わってびっくりしました。

確かにスノーデン氏の告発はこれで終わりであり、映画もここで終わるのは仕方がないのですが、現在も展開は続いています。

スノーデン氏の行為に対するアメリカの世論の反応は賛否半々といった感じですが、最近になって欧州議会では国際的な人権活動家として彼を認め、保護することを決議しています。ちなみに当のスノーデン氏は今何をしているかというと、スピーチやTwitterで精力的に情報発信を続けているようです。2016年4月には日本語でツイートする(しかも笑いを意味するネットスラングの「w」を使ってる)など、変なところで日本人の注目を集めたりしました(詳細はITmediaの記事が詳しいです)。

スノーデン氏の後を継ぐ人もたくさん出現しています。映画にも登場したウィキリークスは定期的にニュースになりますし、最近では4月にタックスヘイブンへの法人設立代行で有名なパナマにある法律事務所から2.6TBに及ぶファイル(通称:パナマ文書)が流出し、世界中の富豪著名人の資産運用の実態が明らかになったばかり。

「インターネットの精神に“ヒドラ”というものがある。1つ頭がつぶされても7つ頭が出てくる」映画中でスノーデン氏が言っていたこの言葉のとおりです。インターネットはこれからも「人を監視する道具」と「不正を暴く道具」の両極端な2面性を抱えていくのでしょうね。

この映画はスノーデン氏の遺志を継ぐ最初の映画です。映画業界では今後はオリバー・ストーン監督が描く伝記映画「Snowden(原題)」が2016年9月にアメリカで公開を予定しています。本作を起点にスノーデン氏の行動がどんなふうに広がっていくのか注視したいところです。

(C)Praxis Films (C)Laura Poitras