ソング・オブ・ザ・シー 海のうた
映画『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。 

原題:Song of the Sea
製作国:アイルランド・ルクセンブルク・ベルギー・フランス・デンマーク(2014年)
日本公開日:2016年8月20日
監督:トム・ムーア

ソング・オブ・ザ・シー 海のうた

あらすじ

灯台が建つ小島に父と一緒に暮らす兄妹のベンとシアーシャ。シアーシャが生まれた日に母と別れたことで、ベンはシアーシャのことがどうも好きになれない。ある日、祖母に連れられて兄妹だけで町へ引っ越すことになる。そして、言葉が離せない妹のシアーシャの秘密が明らかに…。

ネタバレなし感想

アイルランド発、アニメ映画界の新星「トム・ムーア」

最近のアニメーション映画といえば、どの大手アニメ製作企業もみんなCGばかり。確かに実写なのかと見間違えるようなリアリティ溢れる質感表現や、圧倒的な物量によるスケール感など、CGだからこその魅力があります。近年から登場とともに急速に劇場での存在感を増している3Dや4Dとの相性の良さも売りでしょう。

また、まるで写真みたいな美麗な背景が魅力のひとつである『君の名は。』は2016年一番の話題独占作品になっています。確かにああいう精密なアニメーション描写も素晴らしいし、誰でもその良さはすぐに伝わります。

そんなリアル一強のような時代に、抽象的な手描き表現の良さを思い出させてくれる一作が『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』です。

手描きといっても、日本でテレビ放映しているようなアニメの手描き感とは全く違います。奥行き表現さえもあえて排除した、完全に平面で描かれているのが驚きです。まるで絵本のような温かみがありつつ、新鮮な気持ちで見られると思います。

本作を監督したのはトム・ムーアという人物。彼はアニメ業界ではすでに高い評価を得ている人で、初長編作品『ブレンダンとケルズの秘密』でアカデミー賞で長編アニメーション賞にノミネート、そして本作でも同じくノミネートされています。つまり、ディズニーやピクサーと肩を並べてアカデミー賞常連になっているクリエーターといえるでしょう。まだ39歳くらいのはずなので、今後巨匠になるかもしれませんね。

手描きという手法的側面以外にも注目したいのが、アイルランドの神話的世界観。トム・ムーア監督が2作のアニメで描いてきた世界はアイルランドの文化や神話に基づいています。『ブレンダンとケルズの秘密』では、アイルランドの国宝である「ケルズの書」をめぐる物語でした。今作『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』で描かれているのはアイルランドの民間伝承で登場する「セルキー」という空想上の生物のお話し。この神話的物語と挿入される曲、そして絵柄が非常にマッチしており、独特の作風を確立させています。ゆえになかなか他にはマネできません。

そういえば今年は『ブルックリン』や『シング・ストリート 未来へのうた』とアイルランドを描いた名作が多い気がします。本作と合わせればアイルランドをどっぷり堪能できるでしょう。

全体的に濃厚なアイルランド成分で構成されていますが、ところどころ日本のアニメの影響を受けているような部分もチラホラと…。探してみると面白いかもしれません。

『ブレンダンとケルズの秘密』と『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』、両作共に評価は非常に高く、米映画サイト「The Playlist」が選ぶ「21世紀のアニメ映画ベスト50」に2作品とも選出されています。

ぜひ一度は見ておきたいアニメです(現時点で『ブレンダンとケルズの秘密』は日本語翻訳版がないので見づらいのですが…)。

予告動画





↓ここからネタバレが含まれます↓




ネタバレあり感想

好きです、これ

結論を言えば、私、この映画の全てが大好きです。以上。

いや、それだとあまりにあっけないのでもう少し語りますが、でもあんまり言葉が出てこないのですよね。そういうことってたまにあると思うのです。なんだか説明できないけど、全部が好きと言える映画に出会う瞬間が。

『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』はまさにそういう感じの作品でした。

アニメーション表現だけを見ても、決してクオリティが高いなんて言い方で褒めるべきなのかはよくわかりません。でも魅力は間違いなくあります。

思い出すのは子どもの頃に絵本を読んでもらった感覚です。子ども向けの絵本なんて、絵自体はシンプルでかなりわかりやすいようにオーバーなイラストになっているものです。でもなぜか当時は夢中になって釘付けで見ていました。それは絵という素材から物語を膨らませる“想像力”の賜物だったと思います。

昨今のリアル重視の2Dや3Dの絵は、この“想像力”を刺激することが少なくなってきたのかなと。だって想像しなくてもリアルな世界がそこに描かれていますから。だから自然と映像を目に流しこんでいればいいだけになってしまいがち。それはそれで何か決定的な面白さを消失しているような気がしてきます。

しかし、『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』は違いました。

単純な平面、それもパーツを著しく削いだキャラクターや背景の造形。でも、ゆえにこれからどんな風に絵が動くんだろうとワクワク感を引き立てます。そして、自分でこう動くのかな、いやあんな風に動くといいなと想像させてくれて、実際に絵が動くと自分の思い通りだったり、予想と違った動きだったりで、また楽しい。

本作を見てなにより驚いたのが完全に平面で描かれているにもかかわらず、工夫を重ねてさまざまなシチュエーションを表現しきれていること。単にキャラを横から描いた、絵本にありがちな絵面ではない…「そうくるか!」という演出のつるべうちです。これだけでも見ていて飽きません。

この表現スタイルは一種の絵本を延長して確立されたもので、あまり発展性がないのかなと思っていましたが、とんでもない。私の想像力が衰えているだけでした。私のバカ…。

正直、本作の表現スタイルにハマってしまうと、一般的なアニメーション作品があまり面白くなくなってくるという副作用があるのが困りものですね。このピクチャー・ブックな感じで、世の中にあるあらゆる物語をアニメーション化してほしいです。もし私に100億円が降ってきたら全額を本作の製作スタジオに寄付して、映画を作ってください!と支援したい気分です。

ベンの成長、シアーシャの可愛さ、犬の万能感

物語はベタといえばそうなんですが丁寧に描かれていました。『ブレンダンとケルズの秘密』と比べてストーリー構成が格段に上手くなっていたと思います。公式サイトなどではあらすじとしてかなりストーリーのネタバレをしているのであれですけど、例えば劇中における母の真相の見せ方。冒頭、お腹に赤ちゃんを抱えた母が幼いベンに歌を歌ってあげていると髪が白くなり、突然家を出たかのように見えるシーン。そこから少し成長したベンが映り、隣に妹だというシアーシャがいる。これだけだと観客には「あれっ、お母さんはどうなったんだろ?」となるのですが、わりと後になるまで母の真相は明らかになりません。父の消沈っぷりから死んだのかと見せかけておいて…という展開は普通に上手いです。他にも妖精とかのファンタジー世界の絡め方も良かった。

キャラについても主役から脇役にいたるまでどれも魅力的。

しゃべらないシアーシャは仕草がいちいち可愛い。個人的には、おもちゃの銃を兄に突きつけられ、律儀に両手を上げ続けているところが一番好き。その次に可愛いのが、ラストで兄の顔にケーキを押し付けてやり返そうと狙う場面ですね。

Song of the Sea

主人公のベンも、兄として頼もしく成長していく姿が好感もてます。犬のクーは本作最大の功労者で、ちょっと凄すぎる気もしなくもないですが、良しとしましょう。神出鬼没すぎて、こいつも妖精的な何かなんじゃないかと思いました。でも大きい犬が頼りになるのがある種の定番ですね。

魔女マハはもろに『千と千尋の神隠し』の「湯婆婆」っぽいです。フクロウになる姿といい、やられ方といい、真っ先に連想しました。ジブリ関連でいえば、犬のクーが魔法的力で風のように走っている場面は「ネコバス」みたいでしたね。

キャラとストーリーで惜しいなと思ったのが、父の活躍があんまりないのと、魔女マハと父の改心が早過ぎないかという2点でしょうか。

音楽はサントラを買っちゃったくらい気に入ってます。とくにリサ・ハニガンが歌う冒頭で流れるテーマ曲、ノルウェン・ルロワが歌うエンディングで流れる「Song Of The Sea (Lullaby)」がGood。 なんでこんなに異国の音楽は良いものなのか。


トム・ムーア監督の次回作も楽しみに待ってます。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 99% Audience 92%
IMDb
8.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)Cartoon Saloon, Melusine Productions, The Big Farm, Superprod, Norlum