ブラック・アニメーション・ライヴズ・マター!…「Disney+」アニメシリーズ『全力!プラウドファミリー』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2022年~)
シーズン1:2022年にDisney+で配信(日本)
シーズン2:2023年にDisney+で配信(日本)
原案:ブルース・W・スミス
LGBTQ差別描写 人種差別描写 恋愛描写
全力!プラウドファミリー
ぜんりょくぷらうどふぁみりー
『全力!プラウドファミリー』あらすじ
『全力!プラウドファミリー』感想(ネタバレなし)
黒人とアニメーションの歴史
アフリカ系の人種、いわゆる「黒人」がアニメーションの歴史でどう描かれてきたのか、あなたは気にしたことがあるでしょうか。
本格的なエンターテインメントのアニメーションの歴史は100年近い長さがありますが、初期の頃に作品内で描かれてきた黒人キャラクターはそれはもう酷い描写でした。『ルーニー・テューンズ』でも『トムとジェリー』でも『ダンボ』でも、黒人をモチーフにしたキャラクターはどれもステレオタイプそのもので、当時の黒人に対する世間の認識が窺い知れます。
アメリカだけではありません。現在の日本でもです。アニメに黒人が登場すること自体が珍しいですが、いざ登場したとしても、かなり偏見にまみれた描写になっていることが多々あります。しかし、日本社会は人種差別に無自覚なせいもあって、あまり論争になりさえしません。
メディアの「But Why Tho」では黒人のライターである“ラネイシャ・キャンベル”が「日本のアニメには残念ながら“anti-blackness”の歴史があります。私はアニメが好きですが、この問題にどう向き合えばいいでしょうか」と事例を挙げながらその葛藤を綴っています。
アメリカでアニメーションにおける黒人の表象が適切かつ主体的に描かれるようになってきたのは本当に最近の話で、『プリンセスと魔法のキス』(2009年)、『スパイダーマン スパイダーバース』(2018年)、『ソウルフル・ワールド』(2020年)と続いています。これでも「やっとここまで来たのか」という歩みの遅さなのですが…。
そのアメリカのアニメーションにおける黒人表象において、初期に大きな実績を残した人物がいます。それが“ブルース・W・スミス”という黒人のアニメーターでした。
“ブルース・W・スミス”は1992年に『Bebe’s Kids』という黒人主体で主人公を設定したアニメーション映画を監督し、歴史の土台を作ります。
その後、以前にいたディズニーに舞い戻り、2001年に『プラウドファミリー』という子ども向けアニメシリーズを製作。これが黒人主体で主人公を設定したアニメーション作品として大きな話題となりました。この作品は、とある平凡な家族を描いている…『ザ・シンプソンズ』なんかと同じ定番のコメディ家族モノです。でも黒人の家族であるということ。これがいかにこれまでの歴史で実現しなかったかを考えると、本当にパイオニアとなりました。
この『プラウドファミリー』は2005年まで放送が続き、愛されつつも終わりを迎えたのですが、2022年にまた戻ってくることになります。
それが本作『全力!プラウドファミリー』です。
本作は以前の『プラウドファミリー』のリバイバルであり、一応はそのまま世界観も受け続き、同じ家族を題材にしています。ただ、ちょっとプチ・リブートしており、具体的には時代性が「今」になっています。要するに主人公の女の子はスマホ&SNSが当たり前のデジタルネイティブになっていたり、そういう現代の若い視聴者に届けるならこうした方がいいよねという範囲で時代修正しています。それ以外だとキャラクターデザインも変わっているのですが、まあ、それはいいでしょう。
この『全力!プラウドファミリー』にも“ブルース・W・スミス”が再登板してガッツリ関わっているのですが、ディズニーのアニメシリーズの中では最も先駆的な作品のひとつと言って間違いないクオリティに仕上がっています。
例えば、黒人はもちろん他の有色人種に対しても漏れなく文化を丁寧に描き、加えて同性愛などLGBTQへの包括性も満たしているなど、明らかに作り手のアップデートしようという姿勢が垣間見えます。
『アウルハウス』でもそうでしたが、ディズニーは映画よりもアニメシリーズの方が多様性の表象では先行しており、ディズニーのレプリゼンテーションを語るならアニメシリーズこそ押さえるべきところ。『全力!プラウドファミリー』も当然必見です。
『全力!プラウドファミリー』は「Disney+(ディズニープラス)」で独占配信中。気楽に観やすいアニメです。とくに前作『プラウドファミリー』を観ていなくても問題ないので安心してください。
『全力!プラウドファミリー』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :多様な表象が観たいなら |
友人 | :海外アニメ好き同士で |
恋人 | :ロマンス要素あり |
キッズ | :子どもにも多彩な視点を |
『全力!プラウドファミリー』予告動画
『全力!プラウドファミリー』感想(ネタバレあり)
あらすじ(序盤):変わったようで変わってない
いつものように朝に自室で起きた14歳のペニー・プラウド。しかし、鏡を見てびっくり。身長も少し伸びてなんだか自信がついてくるじゃありませんか。
1階に降りるとスナック販売をしている父のオスカーは新しいグミを開発中。でも失敗ばかり。母のトゥルーディーは近所に暮らす兄のボビーに車のペイントをしてもらい、獣医事業を拡大予定。母の方が稼いでいます。ペニーの幼い二卵性双生児の妹弟のビービーとシーシーがグミを食べてしまい、焦っているオスカーをよそに、それでもオムツ換えはあなたの仕事だとトゥルーディーは言い放ちます。そんな賑やかな家族のもとにやってきたのは、愛犬パフを連れた祖母のシュガーママ。高齢でも元気で、恋人のパピと熱愛中です。
外へ出たペニーは幼馴染のディジョネイ、友人のマイケル、ゾーイ、ラ・シェネガと遭遇します。みんなもどこか成長しており、ラ・シェネガにいたっては髭とニキビが生え、顔を隠しています。
みんなで知り合いのスティッキーの家に行くことになり、途中で常に感じの悪いグロス3姉妹と対面。もうカツアゲじゃなくてラップでいくらしく、そんなこちらも変わった3姉妹をスルー。
スティッキーは日本に引っ越したらしく、その家にいたのは別の少年、KGともうひとりはマヤでした。挨拶しますがマヤは愛想が悪いです。
ペニーは学校でマヤと仲良くなろうと必死になりますが距離をとられるばかり。人嫌いのマヤは警戒心が高めな様子。
多くの生徒がウズウズしている新学期パーティが近づき、過保護な父に軍服を用意されますが当然そんなダサいものは着ていかず、ペニーは会場を抜け出します。狙いはマヤです。
マヤは動物の解放を求めて動物園でデモをしているそうで、いざ現場に行ってみると、マヤは堂々と動物園に忍び込んでしまいます。そんなマヤに思いっきり言いたいことを口にして、スッキリしたペニーは会場に戻ります。
父に「私は変化している」と語り、父もそれをそれなりに受け入れてくれたようです。
そんなペニーたちの毎日はなんだかんだで騒動も多いです。ペニーもお年頃で、ときには親に反抗し、ときには自立心が暴走して承認欲求でヘマをしてしまったり、失敗が重なって落ち込むこともあります。それでも家族がいる、友達がいる…その支えがペニーの青春の道標です。
今日は何が起きるのでしょうか…。
シーズン1:変化を受け入れて
『全力!プラウドファミリー』は第1話冒頭からキャラクターデザインの変化を実にアニメーションらしい強引な方法で納得させるパワープレイを披露。うん、思春期ならよくある。
今作のリバイバルの魅力はやはり前述したとおりレプリゼンテーションという本作の最大の意義がさらにボリュームアップしたことです。
美人という評判(でも第1話はなかなかに悲惨になる。あれは『サウスパーク』のケニーのパロディかな?)のラ・シェネガはラテン系です。第9話では親戚のラ・ブレアと張り合いながら、「キンセアニェーラ」という15歳になった女の子を祝うラテンアメリカ文化の誕生会がピックアップされています。こういうときに人種の垣根を超えてとりあえずみんな集うのがアメリカらしいですよね。
そう言えば脇役ですがこのシリーズにはチャン三つ子というアジア系の生徒が3人並んでいて、過去作ではかなりアジア系のステレオタイプな見た目だったのですが、今回『全力!プラウドファミリー』では似ても似つかぬほどにデザインが変わっていましたね(シーズン2で明確に登場)。
LGBTQ表象もついにこのシリーズに盛り込まれました。マヤとKGを養子にしているゲイカップルの父親たち、バリーとランドール。異人種カップルという点も特筆ですが、オリジナルの声を演じているのは“ザッカリー・クイント”と“ビリー・ポーター”で地味に豪華です。
第4話はマヤたちの父親がゲイであることが広まりつつ、ホモフォビアはカッコ悪い!と高らかに言い放つ、そんなストーリーでした。表現としては露骨で直球ですけど、子ども向けならこれくらいズバっと言っていいのだと思います。だって同性愛差別がみっともないのは事実なんですから。
同性愛以外にも、ペニーの友達のマイケルや、メイクアップボーイ(セバスチャン・ボイル)というインフルエンサーなど、ジェンダー・ノンコンフォーミングなキャラクターが増え、バイナリーを吹き飛ばして色どり豊かになりました。ちなみにマイケルの声をオリジナルで担当しているのは“EJ・ジョンソン”で、ゲイでアンドロジナスなファッションで知られている人です。
エピソード自体はいつもと変わらず。毎回突拍子もないことが起こって(大学生になったり、送迎ビジネスで起業したり、リゾに励まされたり…)、なんであれ過剰に描かれているのがこの作品の特徴ですが、しかし今作は真面目にインクルージョンを両立させています。
第1話でペニーがわからずやの頑固な父オスカーに「変化を受け入れて」と諭しますが、まさにこれはこのアニメシリーズが現代の視聴者(とくに「こんなの多様性の押し付けだ」とごねるような人)に言い聞かせているも同じでしょう。
表象は変化します。いつの時代でも。それでも私たちを見守ってねということです。
シーズン2:ホワイト・フラジリティ
『全力!プラウドファミリー』はシーズン2でも勢いを加速させます。
このシーズン2の感想を語るうえであらかじめ言っておくべきことがあって、それは実はこの『全力!プラウドファミリー』、アメリカ本国では「こんなのwokeだ!(ポリコレだ!)」と一部の人から猛反発を受けたのでした。保守的なサイトや保守系著名人は、ディズニーによる子どもへの洗脳だと語気を強め、人種差別が蔓延しているかのように嘘(フェイク)をついていると主張し、「ディズニーランドの旅行をキャンセルしてやるぞ!」と息巻いていました(The Mary Sue)。
まあ、別にそんな人はディズニーランドに来なくて全然いいんですけど、なぜそんな反応が起きたのかと言うと、シーズン2のエピソードのいくつかでハッキリ黒人差別の問題を取り上げたからです。
シーズン2第3話の討論会では「奴隷がこの国を作った」と軽快に論説し、第10話では町の誕生に貢献した偉人クリスチャン・A・スミスが奴隷農場主だったと判明し、そんな人の銅像をたてて讃える必要はないとデモし、最終的には街の名をスミスヴィルからエミリーヴィルへと変えさせるまでに。
今作からの新キャラであるマヤ(声を演じるのは“キキ・パーマー”)がこのテーマで大活躍し、非常にZ世代らしいアクティビストっぷりで時代を切り開きます。
マヤの白人の父バリーもその遠い祖先だったことがわかるも、本人はそれを過小評価してしまうという、俗にいう「ホワイト・フラジリティ(white fragility)」…白人が人種問題に向き合えないその脆さを表現する言葉…を浮き彫りにしたり、『全力!プラウドファミリー』は容赦なく描いていきます。
第6話での白人女子としか付き合わないノアの問題に直面することになったゾーイのエピソードも印象的でした。こういう肌の色など本来は人種に直結する要素をただの属性としてカジュアルにしか認識せず、趣味嗜好(もしくは指向)で扱ってしまうことは、日本のアニメ・漫画などの二次元愛好家にも珍しくないんじゃないかな(金髪のキャラが好きとか、褐色肌系のキャラが好みとか)。
一方で黒人文化をやみくもに礼賛するわけでもない自己批判性も兼ね備えています。シーズン1の最終話からシーズン2に連なる、シュガーママの故郷のオクラホマのエピソードでは黒人コミュニティ内の女性差別や先住民差別を描いていて、このあたりも誠実です。
人種とは違いますが、ビービーが自閉症スペクトラムと診断される第9話のエピソードも良かったですね。ペニーの話も児童心理学カウンセラーの人が聞いてくれたりして、あんだけふざけまくっている作品なのに、やっぱりちゃんと丁寧にするべきところはしっかりしてる。
『全力!プラウドファミリー』のような良質な作品を、子どもと大人が一緒に観るのは本当に大切な経験になると思います。
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 100% Audience 24%
S2: Tomatometer –% Audience 24%
IMDb
2.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
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・『スタートレック ローワー・デッキ』
・『ビッグマウス』
作品ポスター・画像 (C)Disney プラウド・ファミリー
以上、『全力!プラウドファミリー』の感想でした。
The Proud Family: Louder and Prouder (2022) [Japanese Review] 『全力!プラウドファミリー』考察・評価レビュー