ふたりの女王 メアリーとエリザベス
映画『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Mary Queen of Scots 
製作国:イギリス(2018年)
日本公開日:2019年3月15日
監督:ジョージー・ルーク

あらすじ

16歳でフランス王妃となりながら、18歳で未亡人となったメアリーは、故郷のスコットランドに帰国。再び王位の座に就くが、家臣の陰謀や内乱などによって何度も王座を追われそうになり、厳しい運命に翻弄されていく。一方、イングランドを統治するエリザベスは、自分と違い美しく、結婚もして子どもを産んだメアリーに、複雑な思いを抱いていた。

ネタバレなし感想

今度はメアリー視点

英国王室が相次ぐ人種的差別コメントに耐えかねてSNSガイドラインを発表し、特定ユーザーのブロックも辞さないと決めたというニュースを見て、ロイヤルファミリーといえども私たち一般人と同じくネット被害の対象になる時代なんだなとボンヤリ考えた今日この頃。大昔だったら王室関係者を誹謗中傷しようものなら極刑もありうるでしょうに、現在の王室と庶民の垣根が消えた世界は、良いことなのか、悪いことなのか…。

まあ、そんなネット上で差別的暴言を吐く奴らはさておき、基本的に英国王室は世間では大人気な存在です。英国王室を舞台にした映画はひとつのジャンルとして確立しているほどであり、イギリスだけでなく、日本でも好きな人は大勢います。

でも歴史にそれほど詳しくない人は、英国王室を舞台にした史実ベースの作品はたくさんあればあるほど混乱したりもしますよね。なんとか1世、なんとか2世…みたいな似たような名前の人物も多いし、ある程度時代は違っても衣装は統一されていたりするし…。かくいう私も英国王室映画を鑑賞するたびに「これってどういう時代でどんな人間模様があるんだっけ?」「あの作品と同じ時期かな?」と一度考え、場合によっては勉強しないとよくわからないまま物語を目にするだけになってしまいます。

そんな世界史に疎い自分の補助資料として、これまでに公開された英国王室映画を、描かれる時代と主要人物ごとに一覧化した年表を、下記にまとめておきました。


1200年代
    エドワード1世、ロバート1世
  • 『アウトロー・キング スコットランドの英雄』(2018年)

1300年代
    エドワード2世
  • 『エドワード II』(1991年)

1400年代
    ヘンリー5世
  • 『ヘンリー五世』(1989年)

1500年代
    ヘンリー8世
  • 『わが命つきるとも』(1966年)
    アン・ブーリン(後のエリザベス1世の母)
  • 『ブーリン家の姉妹』(2008年)
  • 『1000日のアン』(1969年)
    メアリー(メアリー1世)、エリザベス1世
  • 『メアリー・オブ・スコットランド』(1936年)
  • 『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』(2018年)
  • 『エリザベス』(1998年)
  • 『エリザベス ゴールデン・エイジ』(2007年)

1600年代
    チャールズ1世
  • 『クロムウェル』(1970年)

1700年代
    アン女王
  • 『女王陛下のお気に入り』(2018年)

1800年代
    ヴィクトリア女王、エドワード7世
  • 『ヴィクトリア女王 世紀の愛』(2009年)
  • 『ヴィクトリア女王 最期の秘密』(2017年)

1900年代
    ジョージ6世
  • 『英国王のスピーチ』(2010年)
  • 『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』(2017年)
    エリザベス2世
  • 『ロイヤル・ナイト 英国王女の秘密の外出』(2015年)
  • 『クィーン』(2006年)


全部の映画を網羅したわけでは当然ありませんが、これを見れば多少、各作品の関係性と時代の流れがわかるかなと思います。

そして今回取り上げる映画『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』は、英国王室の歴史の中でもとくに題材になりやすい時代をテーマにした一作です。

主要登場人物としてメインで描かれるのは、タイトルにもあるとおり二人。スコットランド女王の「メアリー・スチュアート」と、イングランド女王の「エリザベス1世」。ただ、日本の宣伝ではまるでこの二人の対立を描く“女バトル”のような雰囲気でアピールされていますが、実際の映画の中身は少し違います。本作は原題が「Mary Queen of Scots」で、原作もジョン・ガイが2004年に発表した評伝「Queen of Scots: The True Life of Mary Stuart」となっており、その名が示すようにメアリー・スチュアートの視点が主軸になっています。なので邦題が少し誤解を招きますね。

エリザベス1世の視点を描く作品は『エリザベス』『エリザベス ゴールデン・エイジ』の2部作で作られており、それとは異なった面白さで楽しめると思います。

英国王室映画と言えば出演俳優も毎度豪華で魅力ですけど、本作はメアリーを“シアーシャ・ローナン”が、エリザベス1世を“マーゴット・ロビー”が…という、アカデミー賞ノミネート経験ありの最も勢いのある若手女優の二大共演となっており、凄まじいオーラを放っています。まだ二人とも20代なんだけどな…。

鑑賞する上での事前知識はそこまで求めないシンプルなストーリーテリングなので大丈夫です。むしろ観終わった後に史実の歴史をおさらいすると良いかもしれません。ただ、さすがに「スコットランドとイングランドって何?」みたいなレベルの知識の場合は困るので、あれです、Wikipediaでも読んでください。Netflixで配信している映画『アウトロー・キング スコットランドの英雄』なんかを観ると、この二国の対立の歴史の一端がわかるでしょう。
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歴史映画というだけでなく、現代にも通じるジェンダー映画でもあるので、そこも注目してみるとさらに興味深いと思います。

オススメ度のチェック
ひとり◯(王室モノ・俳優好きなら)
友人◯(王室モノ・俳優好きなら)
恋人◯(ジェンダーを考えるきっかけに)
キッズ△(若干の性描写あり)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

現代にも通じるジェンダー論

メアリー・スチュアートの視点が主軸となっている本作ですが、メアリーとエリザベスは物語上、非常に重要な意味を持つ対比関係にあります。

最近に公開された同じく英国王室映画である『女王陛下のお気に入り』も権力をめぐる女性の争いが描かれていましたが、こちらの方はまさに物理で相手を殴るような、限りなくプロレスに近い肉体バトルでした。
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対する『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』では二人は直接的に戦い合うようなことはしません。それどころか作中では二人が面と向かって出会うシーンが最後の最後しかないという大胆かつ象徴的な構成になっています。そう意味ではまるでチェスに近い心理バトルが本作の特徴といえるかもしれません。

二人はスコットランドとイングランドの頂点に立つ指導者として国家対立を担うライバル(敵)でありながら、実は“同じ強大な敵”に立ち向かっているライバル(仲間)でもあります。

その二人にとって共通の強大な敵とは、女性に対する社会の圧力…もっといえば“女らしさ”という押しつけ

つまり、本作は保守的な女性観が跋扈する世の中で、それに翻弄され続けた女性の話です。例え、国のトップに立とうともその苦しさは変わらない。それどころか余計に苦しさは増す。その無慈悲な保守的な女性観に対して、全く異なる対極の生き方を貫いた二人ですが、どちらも呪縛からは逃れられなかった。悲しい二人の女性の残滓が映画に映し出されています。

そう考えると非常に現代的なジェンダー論に通じる映画とも解釈でき、なるほど今の時代に作られる英国王室映画らしいなと思うものでした。

女らしさを手に入れたけど…

作中で描かれる二人の生き方を具体的に見ていくと…。

まずスコットランドの女王となるメアリー。彼女は、現代の学校クラスに例えるなら、真面目な優等生で皆からも好かれる学級委員タイプ。華やかなフランス王宮育ちということもあり、教養に長け、勉学は優秀、語学も堪能。リーダーとしての指導力もありながら、自分よりも身分が低い者(侍女や兵士)に対しても優しく接する心の持ち主。しかも、「美貌の女王」と呼ばれるほど、美人であって…。まさに理想的な王女を体現したパーフェクト・ウーマンなわけです。そのせいもあってなのか、結婚相手候補はわんさかやってくるし、婚約もでき、子どもも生まれます。

しかし、そのメアリーは、自分より明らかに無能…だけども権力だけは持っているような男たちに、結局はいいように扱われ、従うしかなく、最後は捨てられる。悲しい結末を遂げます。完璧と思えたメアリーが蹂躙されていくしかない状況に耐えるだけの姿は見ていてツラいものがありました。とくに2番目の夫となる「ダーンリー卿ヘンリー・スチュアート」との付き合い方は悲痛そのもの。あの全然愛などないけど王位継承者となる子を産むためにしかたがなく事務的にセックスしているさまは、ゾッとする光景で…。

「女の幸せは、結婚して子を産むことにある」その正しさどおりに生きているはずなのに、幸せの“し”の字もない人生。斬首直前の彼女の深紅のドレスと表情は、目に焼き付いて離れません。

メアリーを演じた“シアーシャ・ローナン”は、これまでも『ブルックリン』『レディ・バード』『追想』など、純真なヒロインに見えつつ、複雑な内面を抱える女性を見事に演技で表現していましたが、今作もまさにそのタイプ。馬に乗って大地を駆けるだけで絵になる美しさで観客を魅了し、そんな彼女が何もできずに死に突き進む儚さで観客を絶望させる。20代前半にしてこんな深みのある名演を見せる“シアーシャ・ローナン”のとどまることを知らない順当な進化。本当に王女になれそうです。

ふたりの女王 メアリーとエリザベス

女らしさを手に入れられなかったけど…

一方のエリザベス。出番はそこまで多くないものの、もの凄いインパクトをいろいろな意味で残すので、体感的にはメアリーと同じくらいか、それ以上の出演バランスに見えます。

エリザベスもメアリーと同じく幼少の頃から王室という呪いの中で生きてきた存在。しかし、その人生は違う方向、それも正反対の道のりを進んでいきました。こちらも現代の学校クラスに例えるなら、攻撃的カリスマ性で支持を集める女番長タイプ。もともとなのか、それともそうせざるを得なかったのかはわかりませんが、力で王室を支配する姿は、女王の負の側面を結果的に表しています。天然痘に苦しみ、美にコンプレックスを持っていたことも影響していたのか。結婚もできず、子どももいないエリザベスは「ザ・ヴァージン・クイーン」という不名誉なあだ名を付けられるまでに…。

けれども、「女の幸せは、結婚して子を産むことにある」という女性の正しさどおりの人生を送れなかったエリザベスですが、最終的には女を捨てて男になるという決断によって、権力を手に入れることになります。では、彼女は幸せだったのか。それはやっぱりエリザベスも幸福であったとは思えない姿が描写されているだけでした。妊娠に憧れるかのように、影でお腹を膨らませる姿を想像する切ないシーン。ラストのメアリー処刑前の世界全てを笑うかのような感情の発露。こちらも悲痛です。

エリザベスを演じた“マーゴット・ロビー”は役得なキャスティングとはいえ、彼女のキャリアもここまで来たかという凄まじい進化というか、異常変異を見せていますね。キャリア初期はセクシーアイコンとして起用されていたのが、今となっては信じられないですよ。『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』にも通じる本作の演技。これが“マーゴット・ロビー”のスタンダードになっていくのかな。
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英国王室は変化していく

本作は大筋は史実どおりではありますが、細かい部分でかなり踏み込んだ大胆な脚色もしています。英国王室を舞台にしていながら、アジア系やアフリカ系俳優を起用したり、ゲイ要素を入れてみたりと、明らかに現代の観客を意識した仕掛けもチラホラ。

監督は“ジョージー・ルーク”という女性で、本作が長編映画監督デビュー作になるのですが、すでに演劇など舞台業界では高評価連発のキャリアを持つベテラン。演劇作品でもう馴染みのある題材を扱うこともあり、本作のクオリティもじゅうぶん。だからこそ多様な人種をキャスティングする余裕もあったのかもしれません。

演劇的といえば、ラストのメアリーとエリザベスが人知れず密会をするというクライマックスの見せ場。何重もの白い布に遮られ、顔を合わせない二人の会話。立場が違うようで実は共通の苦しさを抱えている二人の一瞬の邂逅。それを同じ空間であのような演出で表現するのは、さすが演劇出身の監督だなと思いました。

「女らしさ」を手に入れて不幸になる女性。「女らしさ」を手に入れられず不幸になる女性。現代でも続く「女らしさ」の呪いが解ける日は来るのでしょうか。

現在の英国王室。ヘンリー王子の妻メーガン妃は、母がアフリカ系、父がオランダ・アイルランド系で、フェミニスト。また、エリザベス女王のいとこであるアイヴァー・マウントバッテン卿は広義の英王族として初となる同性婚を2018年にしました。

少しずつ時代は変わっているのかもしれない…そう思いたいですね。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 63% Audience 42%
IMDb
6.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

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