感想は2100作品以上! 検索はメニューからどうぞ。

『ヤクザと家族 The Family』感想(ネタバレ)…男のナルシシズムに同情しすぎる映画

ヤクザと家族 The Family

男のナルシシズムに同情しすぎでは?…映画『ヤクザと家族 The Family』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:ヤクザと家族 The Family
製作国:日本(2021年)
日本公開日:2021年1月29日
監督:藤井道人
性描写

ヤクザと家族 The Family

やくざとかぞく ざふぁみりー
ヤクザと家族 The Family

『ヤクザと家族 The Family』あらすじ

1999年、父親を覚せい剤で失った山本賢治は居場所さえも喪失して彷徨っていたが、偶然にも柴咲組組長・柴崎博の危機を救う。それは運命の始まりだった。自暴自棄になっていた山本に柴崎は手を差し伸べ、2人は父子の契りを結ぶ。2005年、短気ながら一本気な性格の山本は、裏社会の隅々まで広がるヤクザの世界で活躍を重ね、頭角を現していた。さまざまな出会いを経験し、やがて自分の家族を守るためにある決断をする。

『ヤクザと家族 The Family』感想(ネタバレなし)

藤井道人監督がヤクザを描く

映画で散々触れてきたつもりの「ヤクザ」…つまり「暴力団」

そもそもそれって何なのでしょうか。犯罪をしている…という漠然としたイメージは浮かびますが、だったら他の犯罪集団と何が違うのでしょうか

思えば子どものとき、「暴力団は何で警察に捕まらないんだろう」と素朴に疑問に思ったものです。悪い人がいることがわかっているんだったら逮捕すればいいだけなのに…と。

まさにそこがヤクザのヤクザたる理由。ヤクザは不正な手段によって経済的な利益の獲得を図る団体ですが、同時に自らの存在を対外的に誇示するという他の犯罪集団にはない特徴があります。構成員や組織トップの人間の名前をアピールするのです。普通はそんなことはしません。犯罪集団は逮捕されたくないので匿名で隠れ潜むものです。見つかったら負けです。

なんでこんなことをしてヤクザは逮捕されないのか。それは不正に利益を得る仕組みが巧妙で、自分たちの組織にまでは逮捕の手が伸びてこないようになっているからです。そして自らを誇示することで恐怖によって支配もできる。まさに裏社会をコントロールできる特権を持っています。

そんな特殊な立ち位置で利益を貪るヤクザを取り締まるべく、暴力団対策法暴力団排除条例といった狙い撃ちをする取り締まりの囲いが生まれているわけです。

そのヤクザは恐怖だけで世間を牛耳っていたわけではありません。意外なもので世間に印象を与えます。それは話が戻りますが映画です。1960年代からヤクザ映画は大人気となり、日本の大衆に「ヤクザはこういうものである」というイメージの刷り込みに成功します。どこまで意図したどおりなのかはわかりませんが、結果的に日本人の中には今でもヤクザをフィクショナルなカッコいい存在と思っている人も少なくありません。

現実ではヤクザは弱体化しているとか言われていますが、ヤクザ映画の人気はまだまだ続きそうです。

今回紹介する映画も令和の2021年に登場した新たなヤクザ・ムービー。それが『ヤクザと家族 The Family』です。

物語は1999年、2005年、2019年の3つの時代を舞台に、ヤクザの世界に身を投じたひとりの男を主軸にした人生史となっています。なんだかちょっとフランシス・フォード・コッポラ監督の『ゴッドファーザー』シリーズっぽいですね。

監督は2019年の『新聞記者』で国内で高く評価された若手新鋭の“藤井道人”『デイアンドナイト』のようなクライムドラマを手がけたかと思えば、『宇宙でいちばんあかるい屋根』のようなファンシーな作品を生み出したり、クリエイティブの幅の広さが目立っていましたが、今回はヤクザときたか…。

主演は、『楽園』『影裏』『ドクター・デスの遺産 BLACK FILE』と最近も活躍しまくりの怪演俳優である“綾野剛”。ヤクザなんてお手の物でしょう。

そして組長の役には“舘ひろし”をキャスティング。『あぶない刑事』ならぬ「あぶないヤクザ」なのか!と思いましたけど、作中の“舘ひろし”は今回はあまり危なっかしくないです。

他には『影踏み』の“尾野真千子”、『本気のしるし』の“北村有起哉”、『劇場版 おいしい給食』の“市原隼人”、『今日から俺は!! 劇場版』の“磯村勇斗”、『花束みたいな恋をした』の“岩松了”、『浅田家!』の“駿河太郎”、『オー・ルーシー!』の“寺島しのぶ”、新人の“小宮山莉渚”など。

ヤクザ映画好きであればとりあえずチェックしておくべき作品なのかな。

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:ヤクザ映画好きなら
友人 3.5:俳優ファン同士で
恋人 3.0:恋愛気分ではない
キッズ 2.5:犯罪はダメだよ
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ヤクザと家族 The Family』感想(ネタバレあり)

あらすじ(前半):家族になった

スクーターでフラっとやってくる髪色が白く目立つ男。彼の名前は山本賢治。ここは葬儀会場です。

1999年。ため息と舌打ちをしながら席にドカっと座る賢治。悲しんでいる様子はありません。その隣に大迫という男が座り、「このあと顔だせ」と言われます。

その大迫は「ケン坊、お前これからどうするんだよ」「お前は父親みたいになんじゃねぇぞ」と心配しているような口ぶりで接してきますが、賢治は「おめえに関係ねえだろ」と静かに呟くだけ。

今の賢治は自暴自棄でした。不良として街をほっつき歩くくらいしかできません。賢治は慕ってくる2人と一緒に住宅地の道を歩いていると、売人の車に接近。近づきます。新規さんは受け付けないと言われますが「山本正治」の名を出すとあっけなく売ってくれます。しかし、急に賢治は殴る蹴るの暴力を振り、バックを奪って逃走するのでした。

仲間2人にカネを渡し、薬物は海に捨てる賢治。「あんなんゴミだ」

その後、昔から親しい木村愛子の焼き肉屋で飯を食べているとそこに柴咲博とその仲間が来店。柴咲組の組長で明らかに貫禄があります。そんな相手を賢治は遠慮なくじっと見つめます。

そこにドアを勢いよく開けてくる中国語の集団。いきなり柴咲組を襲いだしました。店内は騒然。銃を向けられる柴咲。しかし、後ろにいた賢治が襲来者をぶちのめしてしまい、そのまま賢治は何食わぬ顔で立ち去っていきました。

その次の日。賢治の家に柴咲組の中村努がやってきて、組の建物に案内されます。そこにいたのは柴咲たち。「昨日はありがとな」と言われますが、「別にあんたらを助けたわけじゃねえから」と賢治はここでも冷たい態度。

どうやら仕事もしないでフラついている自分の情報を仕入れてきたらしく、仲間に誘おうとしているようです。俯いたまま「ヤクザにはならねえよ」と言い放つ賢治。「お父さんのことか」「あんなやつどうでもいい」「うちはシャブには触らんよ」「じゃあ何やってるんだよ」

柴咲は中村にヤクザとは何かを問います。「ヤクザとは義理人情を重んじ、漢を磨き、漢の道を極めることだと自分は思っております」と直立して律儀に答える中村。

こうして一緒に目の前の寿司を食おうと気楽に誘ってきて、賢治は名刺を貰うのでした。

それが終わり、商店街を歩いていると突然の電話。「賢治さん、逃げてください」…すぐに自分を追ってくる集団に気づきました。必死に逃走しましたが、鉄棒で殴られ…。

目覚めるとどこかに縛られ監禁。現れたのは侠葉会若頭の加藤。「お前、山本のガキなんだって?」「で?盗ったもんどこにやった?」…仲間の細野竜太が拷問され、海に捨てたと喋ります。

若い臓器は高く売れると港まで車で運ばれる一同。船に乗せられる際に財布と携帯を取り上げられますが、名刺を見て現場の雰囲気は変わります。

「お前、柴咲の知り合いか」「だったらケジメつけねえといけねえわ」

「柴咲組なんか関係ねぇ、俺は山本賢治だ!」

解放されたボロボロの賢治。柴咲組に運ばれ、柴咲は「えらく頑張ったらしいな、ケン坊」と頭を撫でてくれました。「行くとこあんのか、ケン坊」と優しく語りかけられ、すすり泣く賢治。

しばらく後、親子血縁盃の儀式が行われます。「親分、よろしくお願いします」…こうして賢治は家族となりました。

子犬みたいな綾野剛

ヤクザ映画と言えばたいていは俳優陣のアンサンブルが期待されるところですが、『ヤクザと家族 The Family』もその点に関しては鑑賞前からわかっていたことですけど上質でした。

“綾野剛”の上手さは言わずもがな。ああいう捨てられた子犬みたいな雰囲気を出しつつ、愛してくれる飼い主に拾われて、コロっと尻尾を振るようになってしまう。あの犬キャラは“綾野剛”の得意技かな。3つの時代の年齢経過も見事に体現していましたし、これはいずれは組長キャラみたいな大物もガンガンやるようになりますね。

個人的には木村翼を演じた“磯村勇斗”の、あの世界における異質な佇まいが良かったです。ジョーカー的な何をしでかすかわからないハラハラがあって、もう少し見せ場が見たかったな。

“藤井道人”監督作の見どころにもなっている映像センスの良さも随所で発揮されていました。

侠葉会の加藤とクラブで揉めたことで、車移動中に柴咲と賢治は銃撃され、運転手の大原が亡くなってしまう事件。あそこの流れるような長回しカメラワークもひきこまれます。今作でも撮影を担当する“今村圭佑”は『ホットギミック ガールミーツボーイ』でも良い撮影を見せていましたし、安心感がある。2019年になってからの後半はアクティブな映像がだいぶ抑えられてしまい、セリフ説明が多めになってしまうのはちょっと残念でしたね。

同情させたいのが見え見え

実力をすでに示している“藤井道人”監督と俳優陣が揃っているのですから『ヤクザと家族 The Family』も全体は良質な出来栄えになるのは最初から目に見えていましたが、私としては本作はかなり欠点が目立つ部分も多く、そこは映像や演技では誤魔化しきれないなと思ったりも。

本作はとにかくヤクザという存在に対して同情的すぎると思うのです。ヤクザに都合がいいパブリックイメージを賛意たっぷりに描くことに徹してしまっているというか。

確かにヤクザが法令で私権を制限されているのはわかります。ドキュメンタリー『ヤクザと憲法』では実際の姿が生々しく映し出されていました。

『ヤクザと家族 The Family』でも2019年に舞台が移ると、携帯も普通に買えない、口座も保険も与えられない、5年ルールの縛り、反社というバッシング…などなどとにかく悲壮感たっぷりです。

“藤井道人”監督はインタビューでこう答えています。

やくざという職業にフォーカスしていますが、そこには、コンプライアンス重視で「間違っているものは駄目」、「能力の低い人は、社会から排除します」といった不寛容な風潮に対する疑問が強く込められています。

引用:エンタメOVO

なのでこれは監督の意図的な立場が反映されたものなのでしょう。

ただそれにしたってあの柴咲組は、同情させるためだけに故意に設定されたコミュニティのようにしか思えません

シャブはやらないし、直接的で陰惨な暴力描写も避け、とにかく人情を全面に出す。“ヤクザしか生きる道がなかった連中”の理想のようなセーフティーネット。

しかし、柴咲組はあくまでヤクザの世界の競争に負けただけで、別にヤクザの代表でも何でもありません。それなのにそんな柴咲組に「ヤクザ」を主語に全体論を語らせてよかったのか。

この「私たちって可哀想なんです」というややチグハグな訴え方、最近も酷評だった『ヒルビリー・エレジー 郷愁の哀歌』と同じ感じです。映画自体の批評性が薄く、過度にエモーショナルな語り口に依存する。映画としては貧相に見えます。

とくに社会的に悪事に手を染めていないのに人権を与えられていない人たちはどんな顔でこの映画を観ればいいのか…。

ヤクザ社会と映画界の共通の問題点

また、ヤクザ社会に映画が同情的なのは良くないなと思うのは、なぜなら映画業界も同じ体質だからです。

ヤクザ社会は言ってしまえば典型的なホモ・ソーシャルの極みであり、それは今の日本に巣食っているものでもあります。ヤクザ社会の構造は全然特殊ではありません。むしろ日本のマジョリティです。

そして映画業界も男社会であり、昨今もハラスメントや差別、不当な労働環境など、多数の問題が浮き彫りになっていますが、改善の兆しはありません。

なので映画界に身を置く一部の人(とくに男性)がヤクザ社会にシンパシーを抱くというのは、想像以上に危険なことだと思います。つまり、映画界とヤクザ社会をホモ・ソーシャルに寄り添わせているのですから。

例えば、『ヤクザと家族 The Family』を見ると、作り手はジェンダー描写はとことん苦手なんだろうと察しがつきます。“藤井道人”監督作の女性像はかなりワンパターンで、「男に口答えできる女=強い」という昭和臭が濃いです。それでいてやっぱり本作でも“少女”性を希望にしてしまっていますし。出だしが性的同意のない行為(事実上の性暴力)でも結果的に恋仲になれるというのも恋愛観として時代遅れ以前の話です。

このことからもわかるように、ヤクザを対象になら人権を積極的に問いたがるのに、他の対象には全然興味を持っていません。

工藤由香の件は母子家庭の社会支援の問題だし、彩の件は教育現場における子どもの人権問題です。けれどもこれらを「男が面倒みてやる」という家父長的なナルシシズムでくるっとまとめてしまうというのはいかがなものかと。女の幸せは男しだいでいいのか。作中では柴咲組のクラブ見守りは健全のように描いていましたけど、あれだって男社会に搾取される女性労働者の構図ですからね。

『楽園の夜』みたいなオチはさすがに極端ですが、あの『アイリッシュマン』の女性陣からの冷たい突き放しのように、『ヤクザと家族 The Family』ももっと男社会を批評すべきでした。

それを上手くこなしているなと最近に思ったのはドラマ『Giri/Haji』ですね。あれはヤクザ社会を日本の保守的な男社会としっかり同一視し、そこに批評を加えて、明確に批判してみせていましたから。

本作だけではなく、日本の男性中心な製作陣はやはり男のナルシシズムに浸りがちです。とくに家族とかをテーマにするとその傾向は本当に如実に滲み出てきます。これを改善するのは容易いことじゃないんだろうなと思うばかりですが…。

今の日本映画界における男性中心構造の弱点みたいなものがハッキリ顕在化した『ヤクザと家族 The Family』。ヤクザと日本男性に足りないのは人権ではなく、自己批判じゃないでしょうか。

『ヤクザと家族 The Family』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
?.? / 10
シネマンドレイクの個人的評価
3.0

関連作品紹介

藤井道人監督作品の感想記事です。

・『新聞記者』

・『デイアンドナイト』

作品ポスター・画像 (C)2021「ヤクザと家族 The Family」製作委員会

以上、『ヤクザと家族 The Family』の感想でした。

『ヤクザと家族 The Family』考察・評価レビュー