ブラック・クランズマン
映画『ブラック・クランズマン』(ブラッククランズマン)の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:BlacKkKlansman
製作国:アメリカ(2018年)
日本公開日:2019年3月22日
監督:スパイク・リー

あらすじ

1979年、コロラド州コロラドスプリングスの警察署で、初の黒人刑事として採用されたロン・ストールワース。署内の白人刑事たちから冷遇されながらも捜査に燃えるロンは、新聞広告に掲載されていたKKKのメンバー募集に勢いで電話をかけ、そのまま潜入捜査をすることになる。

ネタバレなし感想

こんな時代だからこそ、スパイク・リーの出番

差別というのは人の心を傷つけるだけでは終わりません。最悪の場合、殺戮に変貌します。それがヘイトクライム。世界中で差別思想を源流とした殺傷事件が相次いでいます。2019年3月15日、ニュージーランドで差別思想を掲げる男がモスクを襲撃し、50人が殺される痛ましい悲劇が起きてしまい、またもやその怖さを私たちに刻み込みました。

しかし、それでもこの事件の被害者の方を批判する人も、大物政治家からネットユーザーまでわんさか現れるのです。特定の人種を排除しようと罵詈雑言を浴びせる人、女性主演という理由だけで映画を荒らす人、過去に起こった虐殺の歴史を証拠がないと否定する人、ヘイトを煽るようなサイトを運営する人…パターンはさまざまでも差別主義者であることは同じ。凄惨な事件が起これば自制するかと思いきや、ますます勢いづきます。ほんと、どうしたらいいのでしょうか。

無気力さに襲われるばかりですが、私なんかよりも差別に直面してきた人ははるか昔からずっと戦ってきたのですよね。

そして、その先頭に立ち続けてきた映画監督のひとりとして間違いなく断言できるのが“スパイク・リー”です。

平然とアメリカ社会の日常に居座る黒人差別に反発するアフリカ系アメリカン人たちの公民権運動…ブラック・パワーが沸き起こったのは1960年代。その活動がピークに達したのは1970年代初頭。そこからしだいにブラック・パワー・ムーブメントは縮小していくのですが、「いや、俺はまだまだ声を上げる!」と抵抗してみせたのが“スパイク・リー”監督でした。1980年代から「映画」という武器で黒人差別と対決。『シーズ・ガッタ・ハヴ・イット』(1986年)、『ドゥ・ザ・ライト・シング』(1989年)、『マルコムX』(1992年)と反差別を明確に打ち出す映画で世の中に挑戦してきました。

“スパイク・リー”監督作の特徴はとにかく「人種差別から逃げない」という姿勢。揉め事を避けたいがために「黒人vs白人」という対立構図から極力距離を置く映画も多いなか、「それは違うだろう」と言わんばかりにタブーを無視する作家性は痛快ですらあります。また、挑戦好きでありどんどん新しいことを取り入れて自分の作品に活かしていく柔軟なクリエイティブもクセにつながっています。

そんな“スパイク・リー”監督も2000年代以降は少し影が薄かった感じでした。とくに最近はそもそも映画を作っていないような気さえしていた人もいるはずです。実は作ってはいます。ただ、日本では劇場未公開だったり、NetflixやAmazonビデオでの配信になっていたので目立っていないだけ。

ところが、差別主義者の絶大な支持でアメリカという国のリーダーの座を手に入れた“あの人”の登場できっと“スパイク・リー”監督の闘争本能に火が付いたのでしょう。2018年の最新監督作『ブラック・クランズマン』は久々のアグレッシブなストレートパンチを決めてくる一作に仕上がっていました。カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞、アカデミー賞で脚色賞を受賞…と「Spike Lee」の文字が栄光に輝いてくれたのは嬉しいかぎり(これまで賞の世界では全然評価が乏しかったですから)。

お話としては、白人至上主義団体「クー・クラックス・クラン(KKK)」に潜入したロン・ストールワースという黒人警官の実話モノなのですが、それだけでもサスペンスとして面白いのに、ここに“スパイク・リー”監督特有の味付けが凄くて…。言葉に言い表しづらいので感想に困る…いや、感想とか考察とかいらない、感じろ!みたいなノリなのでしょうけどね。

少なくとも一定の人種問題に関するリテラシーは必要になる映画です。アカデミー賞作品賞を受賞した同じく人種問題を描く『グリーンブック』のように、誰でも親しめる敷居の低さはないです。
『グリーンブック』感想(ネタバレ)…この映画に満足する人と失望する人の違い
事前にちょっとでも知識を入れておきたい人は、“スパイク・リー”監督の過去作を観るよりも、『13th 憲法修正第13条』『私はあなたのニグロではない』といったドキュメンタリーの方がオススメです。
『13th 憲法修正第13条』感想(ネタバレ)…「アメリカは犯罪率が高い」の真っ黒なカラクリ
『私はあなたのニグロではない』感想(ネタバレ)…これが差別
『ブラック・クランズマン』はドキュメンタリー的な要素も入ってくるのでなおさら。知識不足だと、最初の冒頭でいきなり“ぽか~ん”となりますから。間違っても「あれ、違うスクリーンに入っちゃったかな」と慌てないようにしてくださいね。

『グリーンブック』も素晴らしい映画でしたが、あちらは"差別をする側”の視点が主軸となって改心するための補助線になる作品でした。『ブラック・クランズマン』は“差別を受ける側”の「そう簡単に融和とか抜かすんじゃねぇ」的なメッセージの突き刺さる作品です。どちらも観ないと意味はないと思います。

オススメ度のチェック
ひとり◎(人種問題を考えよう)
友人◯(人種問題を考えよう)
恋人△(恋愛要素は薄め)
キッズ◯(やや難しいけど勉強になる)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

風と共に去って…いない

冒頭、いきなりのびっくりシーンをぶっこんできた“スパイク・リー”監督。明らかに現代ではない時代。多くの人々が地面に横になり、その間を歩く女性。はためく南軍旗。

気づく人はすぐわかるでしょうけど、これはあの名作『風と共に去りぬ』からの引用シーンです。ヒロインのスカーレット・オハラが医者を探しに駅まで行くと南北戦争で劣勢に立たされた南軍の負傷者が大勢地面に横たわっている…印象的な場面のひとつ。

まず『風と共に去りぬ』を観たことがない人だったら“わけわからん”状態ですし、『風と共に去りぬ』を観たことがある人でも「なぜこの場面を挿入したの?」とやっぱり“わけわからん”状態になるわけですが、答えは明白。

そもそも『風と共に去りぬ』は南北戦争で消えうせたアメリカ南部のライフスタイルをノスタルジックに懐かしみ、雄大に美麗に再現した映画です。アーネスト・ダウスンの詩で始まるオープニングのとおり。
「かつて在りし騎士道と綿畑の地。人はその地を古き良き南部と呼んだ。その麗しい世界で最後に花を咲かせた。勇気ある騎士達と艶やかな淑女達。奴隷を従えた主人たち。今は歴史に記されるだけの儚い思い出となった。大いなる文化は風と共に去ったのである
でも、どんなに映画史に残る名作であろうとも、奴隷だった黒人側にしてみれば、あの作品は気に入らない映画でもあります。作中では奴隷黒人たちは「白人主人に仕えて喜ぶ、尻尾を振る犬」のように描かれていますから。それを“大いなる文化”呼ばわりすれば、そりゃあ、嫌になりますよ。

そしてここが肝心ですけど『ブラック・クランズマン』を通して“スパイク・リー”が冒頭から言いたいのは「大いなる文化は風と共に去ったと思いますか?」ってことでしょう。

それを象徴するように『風と共に去りぬ』引用シーンの次に映るのは、KKKを正義の救世主として描くこれまた名作とされる『國民の創生』の映写映像の前で、人種差別的な言論を好き勝手にベラベラ語る男。この男を演じているのはドナルド・トランプのモノマネで有名な“アレック・ボールドウィン”ということで、まあ、そういうこと。

つまり、「“大いなる文化”=“黒人を差別する文化”」はまだまだ残っているじゃない!と。そして本編となるドラマでは、黒人を差別する文化の本拠地であるKKKへの潜入が始まるのです。

ブラック・クランズマン

差別主義者はアホです(断言)

ただ意外だったのは、主人公のコロラドスプリングス警察署に勤める黒人のロン・ストールワースが、最初はKKKではなく黒人運動の過激派と見なされていた「ブラックパンサー」という組織に潜入するというくだり。

そしていざ盗聴マイクを服に潜ませて潜入すると、目に映ったのは、熱狂的な観衆に囲まれて壇上に立つブラックパンサーの主席「クワメ・トゥーレ(ストークリー・カーマイケル)」。彼の堂々とした聡明な言葉に「Hell no, we won't go!」「All power to all the people!」とアフロヘアーなどで統一した黒人たちは大合唱。いつのまにかロンも心を動かされ…というシーンでした。

このブラックパンサー潜入パートで重要なのは、彼らは賢く分別があるということ。野蛮でも無知でもありません。

一方、続くKKK潜入パートで映し出される白人至上主義者の面々は、とにかく野蛮で無知でマヌケです。もう銃を持った大きな子どもみたいな幼稚さで、“体”担当して潜入した「ホワイト・ロン」ことフリップもあまりのバカさに付き合うのもアホらしいほど呆れ顔(ちゃんと付き合ってあげてフリップもバカっぽくなるのがウケますが)。ちなみにKKKの一員として登場する太っちょ男を演じた“ポール・ウォルター・ハウザー”が、『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』とほぼ同じ役柄性格で笑ってしまいました。
『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』感想(ネタバレ)…これがファッキン真実よ
疑いの目を向けて割とコイツは利口なのかなと思ったフェリックスさえも、銃で使えと脅したのが「嘘発見機」です。最高幹部デビッド・デュークも、電話でいとも簡単に白人だと思い込んで騙される時点でアホ丸出し。「God bless white America」とテキトーにおだてればすぐに信じ、「motherfucker」とわざと黒人口調全開で語ってやっと「あれ…」と気づく。

このブラックパンサー潜入パートとKKK潜入パートは明らかにそれぞれの組織内の黒人・白人の描写が対比的で、わざとやっています。そもそもの話、実在のロンはブラックパンサーのような黒人団体には警察仕事で潜入したことがあるらしいですが、KKKには警察の職務で潜入したことはないはず(あくまで個人で“なりすまし”して潜入した)。あえてフィクションで脚色してまで“スパイク・リー”監督はこの対比を見せたかったんですね。

なんでこういう脚色なのかと言えば、そっちの方がエンタメとして面白いからというのも当然ですし、昔の映画では黒人がアホに描かれていたのでその反転をしたという皮肉でもあります。また、当時のブラックスプロイテーション映画に見られたバカ・エンタメっぽさを出す効果もあります(序盤でファイルの保管庫で働くロンがアクションポーズをとっていましたし、『コフィー』『スーパーフライ』のような映画が露骨に示されていました)。

個人的には「差別の本質」を表現する意味も大きいかなと思いました。要するになぜ白人至上主義者は黒人を差別するのか…それは肌が黒いから…つまり「アホでもわかる」特徴で判断しているんですね。逆に言えばそれ以外の特徴はわかっていない。だからなりすませるし、対面しても嘘発見器に頼るほかない。自分たちでは判断できない。結局、白人至上主義者は人種に関して素人以下なんですね。

現在進行形のアホが暴れている…

本作の意図的に演出された対比が最高潮に強烈に強調されるのは、黒人コミュニティと白人至上主義者コミュニティの会合の要素がカットバックで展開するパート。

黒人コミュニティは1916年に起きた「ジェシー・ワシントンリンチ事件」という凄惨な人種的暴力に関する生々しい証言をみんなで聞くことで“正しい知識”を“正しい情報源”で入手しています(ハリー・ベラフォンテという歴史の実際の証人が語っているのも重要)。一方の白人至上主義者コミュニティは洗礼の儀式で自分たちのキャリアを得た後は、『國民の創生』応援上映に興じてバカ騒ぎしているだけ。“正しい知識”も“正しい情報源”も何もない。「Black power!」「White power!」の合唱が平等にぶつかり合っているように見えますが、実際はあまりにレベルが違いすぎます。 

で、その人種的な意味で無学文盲な白人至上主義者が企てた爆弾テロ計画は、お決まりのプランBを用意しても、陳腐な結末に終わるのが当然の報いで…(爆発物がポストに入らないならそのへんの草むらに隠せばいいのにね…)。

相手はアホ集団。勝敗は決まっていました。事件も無事に解決し、なんか職場のアホも解雇されて、みんな笑顔になりました…そんなハッピーエンドで終わらせてくれない“スパイク・リー”監督。

ラストは本作一番の衝撃といっていい映像を観客に突きつけます。「“大いなる文化”=“黒人を差別する文化”」はまだまだ現代にも残っている…それもさらに過激さを増している感じさえする。これはアホという言葉で片づけられるレベルを超えているような事態。ヘイトのない場所は存在しないこのアメリカ、そしてこの世界で、私たちはどうやって生きるべきなのか。
「批評家を含め誰が何と言おうと関係ない。我々はこの映画をもって歴史の正しい側に立っている」
そうインタビューで語る“スパイク・リー”監督は揺るぎません。撮影が終わっていたにも関わらず、ラストにあえて2017年に起きたバージニア州シャーロッツビルの事件とその犠牲者の女性(ヘザー・ヘイヤーさん)を映すのは、監督の明確な立ち位置の表明でしょう。黒人も白人も関係ない。ヘイトに「No」を突きつける人間が大事。

“スパイク・リー”監督の卓越した才能で、リアルとフィクションを融合し、エンタメとドキュメンタリーの両面を持ち合わせた本作はきっと最後にこう私たちに示したのです。

正しいことをしよう、と。レッツ・ドゥ・ザ・ライト・シング!

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 96% Audience 83%
IMDb
7.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★★

関連作品紹介

KKKを題材にした作品

・『ダリル・デイヴィス: KKKと友情を築いた黒人ミュージシャン』
…KKKに潜入するのではなく対話によって友人になった黒人に密着したドキュメンタリー。“黒人vs白人”では片づけられない問題の複雑さがうかがえる興味深い作品です。

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↑『ドゥ・ザ・ライト・シング』…“スパイク・リー”監督の初期作にして代表作。
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