ブライトバーン 恐怖の拡散者
映画『ブライトバーン 恐怖の拡散者』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Brightburn
製作国:アメリカ(2019年)
日本公開日:2019年11月15日
監督:デヴィッド・ヤロヴェスキー

ブライトバーン 恐怖の拡散者

あらすじ

母親になる夢を抱いているトーリのもとに、待望の赤ちゃんがやってくる。赤ちゃんはブランドンと名づけられ、聡明で才能にあふれ、好奇心旺盛な子どもへと成長。トーリと夫カイルにとっても、かけがえのない存在になっていく。しかし、12歳になったブランドンは、普通の人にはない異常な力を発揮し始め、やがて地元の町をかつてない恐怖に陥れていく。

『ブライトバーン』感想(ネタバレなし)

ジェームズ・ガン、プロデュース

「銃が人を殺すのではない、人が人を殺すのだ」

これは全米ライフル協会の有名なスローガンであり、つまるところ「銃は悪くない、だから規制すべきではない」という言い分として利用される言葉です。しかし、これは典型的な“論点のすり替え”のわかりやすい例でもあります。このスローガンは「銃」の部分を「車」「包丁」「核兵器」に変えても表面上は通用しているように見えてしまいます。でも、どんな道具にせよその力を行使するのは人間です。人と道具は切っても切り離せません。銃が自立意思を持って単独行動でもとっているわけではないのですから。その力(道具)をどう使うか、人はその責任から逃れられないのです。

この議論をもう少しファンタジーな世界に置き換えてみましょう。そういうテーマの作品はいっぱいあります。全てを凍り付かせる能力を手にしてしまったらどうしよう…という題材の『アナと雪の女王』、超人的能力を持つゆえに社会に多大な影響を与えるヒーローが悩んで対立する『シビル・ウォー キャプテン・アメリカ』。さまざまな素材に置き換えやすい普遍的な命題なので、映画にもなりやすいです。

そして今回紹介する『ブライトバーン 恐怖の拡散者』は、その系譜のかなりマニアックに偏った到達点かもしれません。

本作は超人的能力を持った少年がしだいにその力を暴走させていく過程をスリルたっぷりに描いた映画です。超人的能力を正しいことではなく悪用させていくことで取り返しのつかないことになっていく作品は、別に他にもありますし、例えばジョシュ・トランク監督の『クロニクル』(2012年)なんかがそうでした。でも『ブライトバーン 恐怖の拡散者』はそれら類似作に埋もれるまいと、とにかく極端にわかりやすい特徴で固められた一作です。

その特徴の第一が、完全に「スーパーマン」の物語からインスパイアされて作られているということ。いや、ほぼ同人的な「if」に近いかもしれません。ご存知「スーパーマン」はある日、地球のアメリカの田舎に宇宙から超人的能力を持った赤ん坊が不時着し、その子を地球人の夫婦が育てるという導入から始まります。『ブライトバーン 恐怖の拡散者』はそれが正義のヒーローではなく、非行少年に育ってしまったら…という着眼点です。こんなネタでDCは怒らないのかなと思うのですが、案外と寛大なようです。

そして第二の特徴が、描き方がホラー、それも『13日の金曜日』のようないわゆるスプラッター映画のジャンルにカテゴライズされる内容になっているということ。かなりグロいです。人体破壊描写に力が入っており、苦手な人は目を背けたくなるのも無理はない…。超人的能力とどう向き合うかという社会的な議論なんか早々に放り捨てて、ひたすら残酷シーンの連発を堪能するという、一部の人のみが大はしゃぎできる方向性で開き直った作りなので、そこは覚悟をお忘れなく。誰かと一緒に本作を観るつもりなら、その人の趣味に合うかちゃんと検討しましょうね。

監督は“デヴィッド・ヤロヴェスキー”という人で、2014年に『インバージョン 転移(The Hive)』という作品を撮っていますが、知名度はほぼ無し。

それよりも『ブライトバーン 恐怖の拡散者』でもっぱら強調されているのは、“ジェームズ・ガン”のプロデュース作品だということです。MCUの『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』で一躍大人気監督の仲間入りを果たした“ジェームズ・ガン”でしたが、2018年7月、普段から差別主義者への反対を示す言動をとっていたところ、その反発的な姿勢を恨まれ、逆に過去の自分の差別的ツイートを掘り起こされてしまい、ディズニーからMCUを降板されるという判断に。映画ファンは大騒ぎとなりました。その後、DC映画に移籍して『スーサイド・スクワッド』新作を監督するという電撃的転身も話題騒然となり、結局、2019年3月にMCUに復帰。そんなエピソードがあったものですから、このアメコミに喧嘩を売るような作風である『ブライトバーン 恐怖の拡散者』も注目されやすい空気感がありました(なお、この映画の企画自体は2017年頃に発表済みなので、クビ騒動は関係ないです)。

『ブライトバーン 恐怖の拡散者』の脚本は“ジェームズ・ガン”の弟の“ブライアン・ガン”と、いとこの“マーク・ガン”が手がけており、他の製作陣もおなじみの人も多く、なんかすっかりファミリーメイドな映画になっています。“デヴィッド・ヤロヴェスキー”監督も“ジェームズ・ガン”の付き合いつながりです。

また、本作は日本では映画事業に参入した楽天の配給作品第一弾「Rakuten Distribution」だというのも、一応、メモがてらに書いておきます。今後、日本映画界に変化をもたらすのかな?

それにしてもなんで「恐怖の拡散者」っていう副題にしたのだろうか。確かに恐ろしい事態を引き起こす根源にはなるのだけど、鑑賞後もイマイチぴんとこない…。

ちょっと人を選ぶ映画ではありますが、インパクトは絶大なので、ゴア描写OKという人なら、アメコミ好きも嫌いも分け隔てなく鑑賞してみてください。

オススメ度のチェック
ひとり◯(変わった映画を観るなら)
友人◎(ネタとして話題性高め)
恋人◯(ホラー好きなら)
キッズ✖(残酷描写たっぷり)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『ブライトバーン』感想(ネタバレあり)

世界を手に入れろ

カンザス州の何もない田舎。ベッドの上でイチャイチャする夫婦。するとふと何かを感じて立ち上がる女性。その瞬間、地面が揺れる大きな衝撃をハッキリ感じます。窓の外には、何か落ちてきたのか、家からそれほど離れていない地点に赤い光を発する落下物の痕跡が…。

場面はパッと切り替わり、愛くるしい赤ちゃんのホームビデオな映像。その赤ん坊は親の愛情に恵まれ、すくすくと成長していきます。

なお、この時点で「スーパーマン」を知っている人は、この夫婦が宇宙から飛来した“人間ではない能力を持った”赤ん坊を育ててしまったのだなということを察するのは容易いです。でも「スーパーマン」を知らない人は後半になるにつれ「え、この子は地球人じゃないの?!」とさぞかし驚愕するんだろうか…。ちょっと認識差がでますね。

話を映画の物語に戻します。10年後。カイルを夫に持つトーリは息子ブランドンと仲睦まじく家族を築いて生活をしていました。ブランドンが養子でも、その愛は不変です。

ある日、トーリはブランドンが真夜中に畜舎内にある錠前でロックされた床扉を開けようとしている姿を発見。正気を失っていたようで、声をかけると急に戻りますが、何か声が聞こえたと口にします。

一方、ブランドン自身も異変を感じていました。なにげなく芝刈り機が動かそうとしたとき。なかなか起動しない芝刈り機にイライラし、思いっきり引っ張ると、通常では考えられないほどはるか彼方に飛んでいってしまいます。放り出された芝刈り機はひっくり返り、その裏返ったグルグル高速回転する刃におもむろに手を突っ込むと、自分の手が切れないどころか刃が壊れて…。

そんな異変が相次ぐ中、ブランドンの12歳の誕生日祝い。おじさんおばさんであるノアメリリーからプレゼントをもらったブランドン。中身は立派な狩猟ライフル。しかし、すぐさま「ダメだ」と父は没収。それに対してブランドンはこれまでにないほど厳しい口調で反抗し、周囲を驚かせます。その後、夫婦で話し合ったトーリとカイルは「あれぐらいの年頃は感情の変化が激しいものだ」「自分たちはもっと悪ガキだったし」ととりあえず納得。

しかし、朝食時にブランドンがフォークを噛んで曲げてしまったり、ベッドの下からポルノの他に何かの生き物を解剖した内臓画像が出てきたりして、明らかに思春期の少年の傾向とは違う状況に不安が増していく夫婦。なんとか息子を理解しようとキャンプに出掛けて家族水入らずの時間をセッティングします。ところが畜舎の鶏が全滅するという事件が発生。直前にすぐ近くで突っ立っていたブランドンが犯人ではないかと疑うカイル。そんなわけはないと庇うトーリ。

その底知れぬ違和感に翻弄され始めた家族の余波は別の近隣住人にも及び始めます。ケイトリンという少女は、ある夜中、自分の部屋の窓の外で同級生のブランドンが立っているような光景を見ますが、母が来た時には影も形もありませんでした。

そして学校で露骨にブランドンを嫌ってしまう行動をとったケイトリンは、その手をブランドンに握りつぶされ、骨折する重傷を負う事態に。

停学になったブランドンは再び畜舎の床扉の前に出現。その中にあるものを目撃。それは地球にあるはずのないもの。母トーリに真実を聞かされます。

自分が何者なのか、親と信じていた存在の嘘…全てを知ったブランドンを止められる者は誰もおらず…。

ブライトバーン

反抗期は誰にでもある(いやちょっと…)

『ブライトバーン 恐怖の拡散者』は実に悪趣味な物語で、製作陣の性根の悪さがどす黒く光っており、「こういうのが見たかった!」と大はしゃぎする人と、「え…なにこれ…」とドン引きする人で、反応が二極化するのも当然な映画です。

ホラー演出としては平凡なスタイルなのですが、怖さの積み重ねが上手いので、映像にのめり込んでしまいます。とくにブランドン本領発揮モード以降のスプラッター映画化してからは、やりたい放題。

まず第一の犠牲者となるケイトリンの母エリカの体感する恐怖からして酷い。あの眼球にガラス片が突き刺さるというビジュアルを映像化しちゃう作り手からの嫌がらせ。しかも、破片を目から抜くっていう動作まできっちり描く。そんな悪質なサービスに観てるこっちの眼も痛くなってきます。そこからの視界不良状態での瞬間移動してくる謎の存在に追い詰められて…いや、もうひと思いに殺してくださいよ、ブランドンさん。

続いてのターゲットはメリリーおばさん。彼女は殺害されないにしても恐怖はじゅうぶん体験します。カウンセラーという職業、あの家の感じといい、この夫妻は裕福みたいですね。そんなメリリーに対して、ここで怖いのは“あくまで無垢な子どもを装って接近している”という点。策士です。

それが通用しないとわかるや否や、ノアおじさんに敵意をむきだし。恐怖のドライビングを体験させ、そのまま車を頭から突き落とすというダイナミック交通事故(どう考えても事故じゃない)。顎を粉砕する大怪我を負うという、なぜか一番グロテスクな半死半生を見せてあげる、視聴者サービス。この映画を作ったのもブランドンなんじゃないか…。

いよいよ魔の手は育ての両親へ。手に負えない息子を葬るために背後から頭めがけて猟銃を発砲するも、1ダメージも与えられず、あえなく“目からビーム”の餌食になって、頭部にいい具合の穴が開くカイル。

そして最後に残った母トーリ。ここでもわざとなのか、ジワジワと怖がらせていくブランドン。ラストは母を“高い高い”してあげるという親孝行(キャッチはしない)。う~ん、子どもの反抗期って怖いんだなぁ~(その感想でいいのか)。

個人的には『ブライトバーン 恐怖の拡散者』の最も悪趣味性が滲み出るところは、あの両親はあくまで親として真っ当に頑張っている点だと思います。これが虐待とかしたり、平気で犯罪もするようなダメ親だったら、観てるこっちもむしろ殺してやれ!と息巻いてしまうのですが、そうやすやすと共感させやしないのが本作。父カイルが息子と狩猟に行ったときの、きっと性に目覚めたんだろうという推測のもとマスターベーションなどの教育を暗にしてあげるくだりとか、すごく優しいのに、それが完全に裏目に出るという…。やっぱり製作陣、鬼畜ですね。

今わかりましたけど、たぶん『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』でバットマンがあんなにもスーパーマンを危険視していたのは、『ブライトバーン 恐怖の拡散者』を偶然映画館で観たんだ!…きっとそうに違いない(確信)。じゃあ、しょうがない。そうか、本作はあの映画の補足になる作品だったのか~。

この子役がもう怖い

『ブライトバーン 恐怖の拡散者』自体、正直に言えばあまりに露悪的スプラッター映画のジャンル臭が強すぎて、それ以上の深みはないので「グロかったな~」以上に感想を出しづらいのが欠点。

アンチ・ヒーローでもダーク・ヒーローでもなく、完全なるヴィランの誕生譚でしかなく、そういう意味で見れば、案外と既視感も多い作品です(ただしグロには遠慮がない)。

また最近は『ザ・ボーイズ』というアメコミヒーローの超人的能力だけでなく社会的影響力までもを巧みに風刺した快作ドラマシリーズが登場して話題になったばかりですから、それと比べても『ブライトバーン 恐怖の拡散者』はボリュームも手数も少ないので物足りなさはあります。


一応、本作のエンディングで覚醒したブランドンが大暴れして世界中を混沌に陥れていることがわかるニュース映像が流れてしましたが、どうやら本作、監督は続編を作って発展させていくつもりだったようです。作中で他のヒーロー的なイラストが出てきたりしていますが、まさにどんどんキャラを追加して、それこそ「ブライトバーン・ユニバース」を始める序章にするつもりだったとか。

それが実現するかはわかりません。なにせ“ジェームズ・ガン”も忙しいですからね。もう1回、干されでもしない限り、無理な気もしてくる…。ドラマの方が向いているとも思うので、せっかくのアイディアを無駄にはせず、なんとか軌道に乗せてほしいところです。Amazonの『ザ・ボーイズ』に対抗するためにNetflixとかAppleとかHBOとか、手を差し出してくれませんかね。

私の中では『ブライトバーン 恐怖の拡散者』の最大の収穫は、あの恐怖のスーパーバットマン「ブランドン」を演じた“ジャクソン・A・ダン”をピックアップしたところでしょうかね。この子は本当に佇まいからしてベストな子役で、あの子どもにしては丸っこくなく妙にのっぺりした顔つきとか、素晴らしく不気味さがあって文句のつけようがありません。オーディションでの抜擢とのことで、ここで才能をくすぶらせるのはもったいないので、ぜひともこのまま『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』最新作にも出してあげてほしい。

あのブランドンの衣装もいいですよね。ヒーロー風とはなってはいない、どちらかといえば覆面強盗みたいな風貌。あれもイチイチ着替えているのだろうか…。

他の出演陣も良かったです。“エリザベス・バンクス”も母ゆえに悪に堕ちる息子を捨てられない葛藤を見事に体現していました。なお、“エリザベス・バンクス”は映画『パワーレンジャー』で悪役を演じていたので、悪成分も出せる人。だからこの役にもハマるのかな。

『ブライトバーン 恐怖の拡散者』を気に入った人は、先ほどタイトルを挙げた『ザ・ボーイズ』をまだ観ていないなら確実に要チェックで観てほしいですし、他の同系統映画であれば『ELI イーライ』なんかは雰囲気もあってよいのではないでしょうか。


ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 57% Audience 67%
IMDb
6.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)The H Collective