吸血鬼警報が発令されました…映画『ドラキュラ デメテル号最期の航海』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2023年)
日本公開日:2023年9月8日
監督:アンドレ・ウーヴレダル
ドラキュラ デメテル号最期の航海
どらきゅら でめてるごうさいごのこうかい
『ドラキュラ デメテル号最期の航海』あらすじ
『ドラキュラ デメテル号最期の航海』感想(ネタバレなし)
“吸血鬼”特別警報!
2023年の夏もピークが過ぎて、今年もたくさんの警報が日本でも発令されました。ずっと停滞し続けるスローすぎる台風であったり、赤い雨雲レーダーに怯えることになる線状降水帯であったり、連日の長期記録更新をする猛暑だったり…。
かたや海外でも警報級の自然災害が目立ちました。ハワイのマウイ島で起きた大規模森林火災では8月末時点で115名の死者が確認され(日本経済新聞)、政府対応の甘さや観光客の無神経さが指摘もされていました。
こういうものを「しかたがない」と片付けることなく、しっかり万全に備えておきたいものです。
基本も押さえておきましょう。日本の気象庁では「注意報」「警報」「特別警報」の3段階の発表があるのは把握していますか? このうち特別警報は「大雨」「大雪」「暴風」「暴風雪」「波浪」「高潮」の6つだけ。つまり、「なだれ注意報がでてるけど、特別警報になってないから、まだ大丈夫だな」という認識は間違っています。注意報でもじゅうぶん警戒して行動をとってください。
では今回の「吸血鬼」警報が発令するお話へと移っていきましょう。
ん? さっきまで真面目だったのに、急にふざけたことを口走り始めたぞ? そうです。ここからは脳内のリアリティラインをグッと緩和して、ゆったり構えてください。まあ、隙だらけだと吸血鬼に襲われて死ぬんですけどね…。
ということで本作『ドラキュラ デメテル号最期の航海』です。
この映画は、1800年代終わりにとある帆船が突如として「恐怖の存在」に襲われ、乗船した人たちが阿鼻叫喚の地獄に陥る…というホラー映画。その「恐怖の存在」とは…いや、もうわかりますね。邦題に書いてあるし…。はい、吸血鬼、ヴァンパイア、ドラキュラです。
何を隠そうこの映画は、あの吸血鬼ジャンルの礎となった“ブラム・ストーカー”の1897年の小説『吸血鬼ドラキュラ』を映像化したものだからです。ただ、正確にはその小説全部ではなく、一部の章を翻案したものですが…。
そもそも“ブラム・ストーカー”の『吸血鬼ドラキュラ』、読んだことはありますか? この小説、やや変わっていて、一般的には主人公の視点などで物語が語られるものですが、これはそういうものではなく、日記・手紙・電報・新聞記事など第3者的な視点の情報を切り集めて断片的に語られるような構成になっています。いわゆる「書簡体小説」というやつです。
私はこの“ブラム・ストーカー”の『吸血鬼ドラキュラ』を最初に読んだとき、そういうものだとは全然知らなくて、すごく戸惑いながら読破しましたよ。
『ドラキュラ デメテル号最期の航海』は、その原作小説にでてくる航海日誌の部分だけを抽出して、一本の映画にしたものになっています。1992年に“フランシス・フォード・コッポラ”監督が『ドラキュラ』というタイトルの映画にしたときは、この船の話はちょこっとしか登場しませんでしたが、今回はずっとたっぷり船一色です。
なんでも2000年初め頃から映画企画があったそうで、長期にわたって開発が停滞。やっと映画として企画が動いて完成し、公開されたのが2023年。それだけ年月が経てば映画業界も様変わりしてますよ。
監督に抜擢されたのは、「実はトロールがいるんです!」のネタ一発からなる『トロール・ハンター』(2010年)で鮮烈な印象を残し、『ジェーン・ドウの解剖』、『スケアリーストーリーズ 怖い本』、『MORTAL モータル』と個性作を連発している、ノルウェー人の“アンドレ・ウーヴレダル”(アンドレ・ウーブレダル)。
私も、“アンドレ・ウーヴレダル”監督は個性が際立っているので好きな監督です。
俳優陣は、『イン・ザ・ハイツ』の“コーリー・ホーキンズ”、『シークレット・オブ・モンスター』の“リアム・カニンガム”、『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』の“デヴィッド・ダストマルチャン”、『ナイチンゲール』の“アシュリン・フランシオーシ”など。
ドラキュラを演じるのは、この業界では有名な“ハビエル・ボテット”です。
一度乗ってしまったら生存確率は極めて低いですが、『ドラキュラ デメテル号最期の航海』に乗船するかはあなたしだいです。
『ドラキュラ デメテル号最期の航海』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :じっくり堪能 |
友人 | :ホラー好き同士で |
恋人 | :怖いの平気なら |
キッズ | :やや怖いけど |
『ドラキュラ デメテル号最期の航海』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):アイツと航海なんて嫌だ
1897年8月、イングランド。大嵐の夜に座礁した帆船が断崖の傍で発見されました。発見者によると積み荷はそのままで、乗員だけが全くひとりもいないそうです。不自然でした。
その4週間前。船長のエリオットと一等航海士のヴォイチェクは港町にいました。商船のデメテル号に乗船してイギリスへ向かう乗組員を探していたのです。働きたい人ならここに大勢いるはずで、そこから役立ちそうなやつを選びます。
その希望者の男たちの中にクレメンスという男がいました。医師だそうです。屈強そうでもなく、口答えもしそうなので、無視します。
必要な人数を選び、さっそく積み荷を載せる作業に取り掛かります。しかし、ルーマニアの山奥から届いたというひときわ大きい木箱を吊り上げて慎重に載せている途中、ひとりの船員がその積み荷に描かれたドラゴンの紋章を見て、恐れるように驚き、箱を落下させてしまいます。
落下する箱の真下にいたトビーという少年を間一髪で助けたクレメンス。落とした船員はあれは不吉だといい放ち、帰ってしまいました。トビーは船長の孫だったので感謝され、欠員を埋めるためにクレメンスが雇われます。その木箱から黒い砂のようなものが少しこぼれているのを誰も気づかずに…。
乗組員は、エイブラムス、オルガーレン、ペトロフスキー、ラーセン、ジョセフ。少数です。
帆を広げて出発します。無邪気なトビーはクレメンスに船を案内してくれます。犬のハックルベリーも一緒で、航海に備えて家畜もおり、トビーは動物が好きなようです。
夜は船員は陽気に歌い、この航海をつかの間に楽しみます。
食事中、犬が下に反応しながら吠えます。トビーとクレメンスが見に行くと家畜たちが異様な雰囲気で騒いでいました。
そしてあのドラゴンの木箱が壊れているのを発見。揺れが原因でしょうか。土が大量に床に落ちてしまっています。クレメンスがその土の山に手を伸ばすと、いきなりそこから瀕死の女性がひとり現れます。
なぜここにいるのかは見当もつきません。急いで診療すると、極度の貧血です。急を要するので輸血をします。
その後、何かの気配を感じ、犬も家畜も無惨に死んでしまっているのが見つかります。当然、船員は動揺。意見の対立で一触即発。あの女のせいだという人もいましたが、さっぱり詳細は不明です。
とりあえず家畜を海に捨てます。トビーは落ち込んで悲しんでいました。
また夜。ペトロフスキーは甲板にいたところ、この世のものとは思えない異形の怪物に首を切り裂かれ絶命。それは血をゴクゴクと飲み干すのでした。
すぐにやってきたクレメンスはナイフと血を発見。凄惨な現場に言葉を失います。
船員たちは知ることになります。ここには吸血鬼が紛れ込んでいるのだと…。
”吸血鬼”&“船”版の『エイリアン』
ここから『ドラキュラ デメテル号最期の航海』のネタバレありの感想本文です。
「吸血鬼モノ」は盛況で、今やいろいろなタイプのもので溢れかえっています。「性」と絡めて表象されるのも伝統だ…という話は『吸血鬼すぐ死ぬ』の感想でもしました。
“ブラム・ストーカー”の古典『吸血鬼ドラキュラ』も、さまざまな翻案されてきましたが、『ドラキュラ デメテル号最期の航海』はわりとクラシカルな佇まいです。今流行りの大衆向けのホラー作品と比べると、そんなに尖っていません。やっぱり元の“ブラム・ストーカー”のリスペクトがあるからでしょうか。
しかし、その一方で、1922年の『吸血鬼ノスフェラトゥ』(もしくはそのリメイクの1979年の『ノスフェラトゥ』)などと比べると、ゴシックかつクラシックな立ち位置一辺倒でもありません。
そこは“アンドレ・ウーヴレダル”監督らしさだと思うのですが、ジャンルとしてもしっかり突き抜けた作品になっていました。
今作は、船という閉鎖シチュエーションで吸血鬼に襲われる…いわゆる”吸血鬼”&“船”版の『エイリアン』ですね。“吸血鬼”&”飛行機”版の『ブラッド・レッド・スカイ』と対になるような…。
ちなみに”吸血鬼”&“船”の組み合わせで薄っすらと“ブラム・ストーカー”をオマージュしている他の作品としては、『モンスター・ホテル クルーズ船の恋は危険がいっぱい?!』なんかもありますが、こっちは思いっきり家族向けのアニメーション映画です。
私は船で怪奇現象が起きる映画と言えば、いっつも真っ先に『ゴーストシップ』(2002年)を思い出してしまう…。憑りつかれてるのかな…。
『ドラキュラ デメテル号最期の航海』は構成はベタです。運搬していた荷物の一部の中身は吸血鬼だった!という衝撃。その前に、アンナという実は吸血鬼用の血袋奴隷が最初に見つかることで混乱がより複雑になっていきますが…。
その初期がどうであれ、今作は現代の大型貨物船とかではなく、小さい帆船です。逃げ場なんてほぼなし。しかもこの吸血鬼さんはしっかり飛べます。完全に詰んでいるじゃないですか。
子どもも容赦なく殺すところが“アンドレ・ウーヴレダル”監督っぽいな…。
確かに目新しいオリジナリティは全然ないですが、堅実にジャンルとしてのお約束を丁寧に映像化し、積み上げていったうえに最後にホラーらしい後味を残す。『ドラキュラ デメテル号最期の航海』は硬派なファンほど「これが手堅い良作だったね」と満足させてくれる気がします。
主人公はあのキャラと重なる
ではこの『ドラキュラ デメテル号最期の航海』のオリジナリティをあえて掘り起こしてみようと考えてみると、まず主人公の存在です。
今回は“コーリー・ホーキンズ”演じるクレメンスという医師が主人公です。詳細は語られていませんが、彼はおそらく人種差別的な背景もあり、自分のスキルを活かすような仕事にありつけていません。わざわざこのそんな立派でもない船への乗船を希望するくらいですから、そんなに余裕もないはずです。
医者という肩書からして、原作でもドラキュラに次いで有名な「ヴァン・ヘルシング」を連想するキャラクターでもあります。ドラマ『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』のように、ヴァン・ヘルシングもしょっちゅうネタにされやすく、今ではやりたい放題にアレンジされ尽くしていますが、この『ドラキュラ デメテル号最期の航海』はクレメンスをヴァン・ヘルシング的に捉えるとすれば、ある意味はエピソード0(ゼロ)です。
最終的に生き残ったクレメンスがドラキュラにつけられた傷(そして心のトラウマ)に怯えながらも、この後に対決に向けて学問的にも磨きをかけていく…そうやって考えると続きが見たくなりますね。
次に本作で唯一の女性キャラであるアンナです。原作でも女性キャラは何人かでてくるのですが、犠牲者になることが多い中、本作のアンナはいろいろな要素がミックスされています。彼女も吸血鬼化するのでそのまま「カーミラ」みたいに女吸血鬼として生きていってもいいのでしょうけど、今回は自ら太陽の光で燃えて死にます。
とは言え、それまでのアンナは勇ましい健闘してましたけどね。あれだけ重度の貧血だったら、私なら1週間はベッドから起き上がれそうにないのに(むしろ即入院レベル)、このアンナは銃を手に戦闘する気満々ですから。
アンナの立場で見ると、吸血鬼は男性的支配の象徴であり、その存在を倒そうとするのは非常に大きな決断です。結局、ドラキュラは生き残り、ロンドンで密かに息づいているというオチは、その時代のイギリスにおけるフェミニズム運動の芽生えと限界を重ねると意味深ではあります。
おそらく2023年は『ドラキュラ デメテル号最期の航海』だけでなく、他にも吸血鬼映画が見られるでしょう。来年以降も吸血鬼と映画で顔を合わせる機会はあるはずです。
いろいろな映画と比較しながら、今後も吸血鬼談義をすることになりそうですね。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 49% Audience 76%
IMDb
6.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
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・『ファースト・キル』
作品ポスター・画像 (C)2023 Universal Studios and Amblin Entertainment. All Rights Reserved. ラスト・ボヤージ・オブ・ザ・デメテル デメテル号最後の航海
以上、『ドラキュラ デメテル号最期の航海』の感想でした。
The Last Voyage of the Demeter (2023) [Japanese Review] 『ドラキュラ デメテル号最期の航海』考察・評価レビュー