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『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』感想(ネタバレ)…理想の実写映画にモッコリ

シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション

理想の実写映画にモッコリ…映画『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Nicky Larson et le parfum de Cupidon
製作国:フランス(2018年)
日本公開日:2019年11月29日
監督:フィリップ・ラショー
性描写 恋愛描写

シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション

してぃーはんたー ざむーびー しじょうさいこうのみっしょん
シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション

『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』あらすじ

ボディガードや探偵を請け負う凄腕のスイーパー「シティーハンター」ことリョウは、相棒のカオリとともに日々さまざま依頼を請け負っていた。そんな落ち着きのない2人のもとにある日、その香りを嗅いだ者を虜にする「キューピッドの香水」の奪回という危険な任務が持ち込まれる。しかも、安易にその香りを嗅いでしまった2人が元に戻るには時間制限があって…。

『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』感想(ネタバレなし)

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理想の実写化がフランスからやってきた

漫画やアニメの実写化は地雷である…漫画&アニメ大国の日本に生きる私たちはそのことを否応なしに身に刻み込まれる経験をしてきました。別にそれは日本コンテンツだけの悩みではなく、マーベルやDCのようなアメコミだって実写化で散々な失敗をしてきており、その積み重ねが今の大成功につながっているわけですが…。ただ、日本は題材となるコンテンツの豊富さに反して、実写化の正攻法を見いだすのにいまだに悪戦苦闘しています。それは考えるに日本のコンテンツのバラエティな幅広さがハードルを上げているのかもしれませんし、もしかしたら愛よりも商業性を重視する忖度ばかりな製作体制に原因があるのかもしれません。

一方で、海外が日本コンテンツを実写化する事例も増え、伝説に残る手痛い失態もあれば、結構イケるのでは?という成功もあります。「ドラゴンボール」の実写映画『DRAGONBALL EVOLUTION』(2009年)はトラウマ級の代物を生み出しました。「攻殻機動隊」の実写映画『ゴースト・イン・ザ・シェル』はキャスティングに対する批判もありながら難しい世界観の扱いに苦労している跡が見えました。他にも『Death Note デスノート』『人狼』『名探偵ピカチュウ』など、個性豊かな挑戦が続いています。

そんな中で「これ以上のベストな実写化はないのでは?」と称賛したい一作との出会いが2019年にありました。それが本作『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』です。

言うまでもなく本作は北条司が1985年より連載していた漫画「シティーハンター」が原作です。北条司の前作「キャッツ・アイ」の系譜を引き継ぐ、ミッション達成型のハードボイルド&ややお間抜けなコメディ。日本では今も根強い人気があり、2019年には『劇場版シティーハンター〈新宿プライベート・アイズ〉』という最新アニメ映画も公開され、ファンをワクワクさせました。

でも正直、実写化は難しいのでは?と思ってしまう内容です。なにせ原作が極めて漫画的テイスト全開で描かれており、とてもじゃないですけどそう簡単にはリアル路線では成立しないように見えます。実は香港や中国では実写映画化されており、韓国ではドラマ化もされているのですが、「シティーハンター」らしさを出すのには相当な苦労が窺えたりも…。原作のコンセプトはシンプルなのに映像化は高難易度になるというのは、作品個性がしっかりしている証拠で、さすが北条司ワールドという感じですが…。

そんな「シティーハンター」をまさかフランスが実写映画化するとは予想外な方向からの弾丸でした。フランス国内では「シティーハンター」のアニメは「Nicky Larson」というタイトルで親しまれているのだそうです。どれくらい親しまれているのかというと、「シティーハンター (アニメ)」のWikipediaの単独ページが日本語以外だと唯一フランス語にある…それくらいです。このことからもフランス人は別格で「シティーハンター」を愛してくれているのがわかるでしょう。

そして本作『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』を手がけた監督である“フィリップ・ラショー”の名前も特筆しないわけにはいきません。彼はもともとテレビ業界で仕事をしており、そこから俳優、脚本、企画とエンターテイナーとして加速し続け、2014年に『真夜中のパリでヒャッハー!』という映画で監督デビューします。これが大当たりし、続編の『世界の果てまでヒャッハー!』もヒットし、エンタメ監督の先頭を走ることに。日本でもこの2作は公開され(2作目の方が先に公開されました)、珍しいもの好きの映画マニアの目にとまり、密かに話題を集めていました。2017年には『アリバイ・ドット・コム カンヌの不倫旅行がヒャッハー!な大騒動になった件』も公開されています。

“フィリップ・ラショー”監督の持ち味はとにかく破天荒なギャグ。どんどんトラブルが大規模化して収拾がつかなくなるさまを上手くコントロールしながら描ききるセンス。フランスの有名なコメディ映画と言えば『TAXi』シリーズがありましたが、あれも最近に最新作が出ましたが、どうも古臭さが否めない感じもありました。

一方、この“フィリップ・ラショー”監督は完全にアップデートされたコメディの才能を持っており、これは評価されるのも納得な腕前だと私も『ヒャッハー』シリーズを観て関心したしだいです。

“フィリップ・ラショー”自身はかなりの整った顔立ちで全然ビジュアルではスターになれるのに、作中では“残念イケメン”全開なのも体を張っていていいですね。自虐精神たっぷりな人柄が伝わってきます。

この監督作『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』でも主役の冴羽獠を自分で主演しているわけですが、もうピッタリすぎて言うことなしです。

本作は日本でも公開前から話題沸騰で、公開決定後もデラックスな吹き替え版が作られるという、フランス映画としては異例の好待遇を受けていましたが、公開お披露目後はその完成度にシビアな目を持つ観客からも大満足の声が続出。こんなに理想的な成功をおさめた日本コンテンツ実写映画化作品は初めてなんじゃないでしょうか。

ということでまだ観ていないという人、もしくは「シティーハンター」を全然知らない人、全くもってウェルカムですので安心してください。男も女も理想の実写映画に“もっこり”、あ、にっこりです。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(原作ファンも初見も楽しい)
友人 ◎(ワイワイ大盛り上がり)
恋人 ◯(気分も賑やかに)
キッズ ◯(子どもでも楽しめる下ネタ)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』感想(ネタバレあり)

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「Get Wild」を聴きながら

とある美容整形外科の専門病院。男が手術台の上に全裸で横たわり、今まさに処置が始まろうとしていた瞬間。そこへ場違いなほどに遠慮なく乱入する二人の男。ひとりは謎のイケメン。もうひとりはスキンヘッドのグラサン野郎。取っ組み合いの戦闘が展開され、銃が手術台の男の股間の上に。今度はその股間の銃をめぐってせめぎ合いが起き、互いに手を出した結果、銃を握ったのはイケメン、ハゲが握ったのはチン(省略)。イケメンは除細動器で相手をノックアウトします。

数時間前。

ボディーガードや探偵などあれこれを請け負う凄腕のスイーパー「シティーハンター」こと冴羽獠(ニッキー・ラルソン)は、相棒の槇村香(ローラ・マルコーニ)と活動するのが日課です。今日も香は伝言板に新しい仕事の依頼が来ていたのを伝えるために獠を尋ねます。あの女たらしはどうせ今日も女を連れ込んでいるのでは?といつものパターンで疑う香は獠の部屋に勢いよく入ると、パンチングボールで吹き飛ばされました。獠の悪趣味なイタズラに怒りつつ、またライフルのスコープで隣の女性たちを覗いていたことを責める香。二人はだいたいこんな感じの付き合いです。

香の兄である槇村秀幸(トニー・マルコーニ)が何者かに殺されて以来、二人の“相棒”としての関係は続いています。

「今後の依頼人はカワイ子ちゃん?」と欲望という名の期待に純真にワクワクして待ち合わせ場所に向かう獠と、それに冷たい視線を向ける香。

やってきたのはドミニク・ルテリエという帽子のオッサンでした。依頼内容は「キューピッドの香水」という、嗅いだ人は誰でも夢中にさせることができるという魔性の効果を持った品。影響を受けると瞳が赤くなるとのこと。そんなバカなと信じない二人。少し試しに互いにつけてみて、香はそこらへんにいたパンチョという男にアピールしろと煽られ、乗っかるものの…。

突然の爆発。吹き飛ばされた一同。獠はドミニクとべったりくっつき、香はパンチョに重なり、なんだか香水の効果が発揮されてしまっている様子。それよりも香水が入ったが消えました。獠はバイクを撃って転倒させ、走って逃げる男を追い、美容整形外科の建物へ。

敵は海坊主(マンモス)。その戦闘は香がテキトーな注射をぶっ刺したことでひとまず終了。

しかし、手に入れた鞄は別物で、バイク転倒時に近くの男が持つ鞄とすり替わったと発覚。効果開始から48時間以内に解毒剤を使わないと永遠にこのままなので、あと47時間。獠は女に興味がなくなってドミニク一筋になり、香はパンチョに付きまとわれることになってしまいます。

一方、香水を手に入れてしまったジルベール・スキッピーという冴えない男は、ジェシカ・フォックスというセレブに会いに旅立ってしまったようです。道中であれこれと女たちを(カルガモも)メロメロにさせ、突き進んでいくジルベール。

獠と香(とパンチョ)も後を追いますが、そこには香水をゲットしたい追っ手たちの追撃が…。

はた迷惑な香水をめぐる騒動は無事に消臭、違った、収拾をつけることはできるのか…。

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なんなんだ、この再現度

『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』は多くの人が心配する再現度に関しては文句のつけようがないレベルの達成度を誇ると思います。

どうしてもコスプレの延長線になりそうなものですが、もともとの原作からして(日本人名だけど)日本人的なキャラではなかったせいもあり、フランスの白人キャスティングでもなんら違和感がないのが功を奏しています。というか、白人の方が合っている気さえするほどで、逆に本作を観てしまうとこれを超える日本人キャスティングは思いつかないんじゃないか…。

まず冴羽獠を演じた“フィリップ・ラショー”。クールでスタイリッシュだけど、終始駄々洩れている残念感を、完璧に体現していました。ほんと、アホなイケメンを演じさせたらこの人の右に出る者はいないような…。

個人的には槇村香を演じた“エロディ・フォンタン”の存在感は獠を超える再現性だと感心しました。ビジュアルの再現もさることながら、ちょっとした仕草や佇まいがもう香そのもので、変に露骨な女らしさを一切出さない徹底っぷりが良いです。100tハンマーが似合う女なんてそうそういませんからね。

本作はアクション映画でもあり、“フィリップ・ラショー”監督は『ヒャッハー!』シリーズの時から思いましたが、コメディとアクションをキレよく描くのが本当に上手いです。美容整形外科での戦闘もそうですし、あの中盤の車に乗っていると罠に嵌められて主観視点で戦闘していくシーン。主観視点では凄くカッコいいのに、それを傍で見ている香の視点になるとなんかショボく見えるという、絶妙な抜け具合がいいですよね。キザになりすぎないというか、ちゃんと笑いをとる意味をわかっているというか。

後半にはジルベール拘束状態なままのベッド引きずりカーアクションも展開。“フィリップ・ラショー”監督はこういう盛りすぎている乗り物アクション、いっつもやりますね。

そんなアクションはドラマ部分とも呼応しているのも本作のナイスさ。射撃オンチと、獠への恋心を意識し始めたことが香の中に伏線として蓄積され、それらダブルで一気に解放される終盤の獠との乱戦爽快アクションのカタルシス。ここでもコンビネーションの最中にギャグを小刻みに挟みつつ、ジルベールは鳥シュートやパンチョの無能っぷりも合わさっての、謎のチームワークが感動的ですらあります。

ここでは香に花を持たせつつ、獠が単独でカッコいいシーンを最後の最後にとっておいてくれているのもニクイ演出です。

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下ネタ満載、でもモラルも守っている

『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』は、原作の実写化を考えるうえで最大の難問は「下ネタ」をどうするかだと思います。

冴羽獠は女好きで美人に目がないという欲望直球型の男であり、原作でも性のネタに関して遠慮がありません。一方で、昨今の規制的にも実写化にはその要素が支障をきたすのではないか、原作どおりを求める人は規制にガッカリし、かたや性を扱う笑いのネタに不愉快さを感じる人も出るのでは…そういう危惧もあったことでしょう。

この点に関してあくまで私の感想ですが、本作はとても良いバランスを披露したのではないでしょうか。少なくとも本作の下ネタに関して原作準拠ファンは一定の満足したはずです。冒頭のアレからしていろいろやらかしまくっていますから、下ネタが少ない!と不満を言う人はいないかな、と。

その一方でちゃんと超えてはならないラインを守っている“正しさ”も持ち合わせている実写化だなとも私は感じました。

一番の心配事項は女性への性的なネタです。でも本作は性的な加害性をともなう行為(ましてやそれを笑いにして肯定すること)は意外にも“ほぼ”(念のためにそう予防線を張っておきますが)していません。例えば、おっぱいがポロンと出る…というシーンが一か所あるわけですが、それはジルベールの母親のものです。結果、女性へのオブジェクティフィケーションというよりはむしろ男側が恥をかくというニュアンスになっており、誰の胸をさらけ出すかの選択がわかっています。

また、香がエレベーターにドレスが巻き込まれて下着姿になってしまうシーンもありますが、ここはランジェリーのファッションショー会場であるせいで、香が性的快楽の目を向けられることはありません。これがもし公共の場で同じシチュエーションだったら全く別の意味(言うまでもなく悪い意味ですが)になってしまうわけで、それを上手いこと回避しています。

そもそも本作のキーアイテムである香水も、使いようによっては性的暴力にいくらでも悪用できる品物です。しかし、ジルベールはそれを肉体的欲求を満たすことには使わないんですね。一応、彼が魅了させてしまう女性は最初から彼に好意(厳密には親切心)を持っている相手に限定されています。これがもし嫌がっている女性に魅了効果を使っていたらレイプと変わらないわけです。最終的にジェシカ・フォックスと急接近できることになりますが、ここでも拘束プレイが展開されるので、男側が劣勢になる状態を用意していて、男の支配性が出ないようになっています。まあ、ジェシカに“パメラ・アンダーソン”を起用しているのも気が効いていますけどね。これでジルベールよりもはるかに年の若い女性をターゲットにしていたらマズい絵になるでしょうし…。

さらにドミニク(男)に魅了されてしまう獠のシーンも、一歩間違えればゲイ差別になりかねません。男同士なんて気持ち悪いというニュアンスを少しでも出したらアウトです。しかし、そのヘマはしないどころか、獠が真っ当に(ステレオタイプなゲイっぽさゼロで)ドミニクを「これが終わったら食事でもどう?」を口説くので、むしろまんざらではないようにすら見えて、普段はもっこりとか言っている獠だからこそ、平等な愛に見えてくる効果も…。

あとは、もっこりと連呼するわりには“それ”を映像で強調することはしないとか、獠が香に女らしさを押し付けることはしないとか、とにかく随所で一線を越えないのです。

これはつまり“フィリップ・ラショー”監督はコメディの中で「やっていいこと」と「やっては悪いこと」の区別がついていて、律儀に順守している、とてもスマートな映画人だということです。

世の中には「ポリコレのせいでギャグができない!」と不満をあげる人もいますが、才能のある人はしっかり問題なく両立できる。表現の自由と表現の正しさは“フィリップ・ラショー”監督くらいの人間なら並行できるのです。

もちろんコメディは本質的に人を不愉快にさせるものでもありますから、本作を観てここが嫌だったという人がいても当然ですし、その不愉快に思った気持ちを表明することを妨げるべきではありません。

でも数ある下ネタコメディ映画の中で、本作は、この課題でもひとつの理想に近いものを示したのではないかと思います。

日本ではいまだに「貧困になった可愛い女性が性風俗で働くようになるから楽しい」と平然と公で言い放つ芸人がいるわけで、こんなようでは本作のような映画を作ることは夢のまた夢ですね。

『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
6.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)AXEL FILMS PRODUCTION – BAF PROD – M6 FILMS シティーハンター ザ・ムービー 史上最香のミッション

以上、『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』の感想でした。

Nicky Larson et le parfum de Cupidon (2018) [Japanese Review] 『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』考察・評価レビュー