ウィキペディアよりも自分の目で歴史を学ぼう!…「Apple TV+」ドラマシリーズ『タイム・バンディット』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2024年~)
シーズン1:2024年にApple TV+で配信
原案:ジェマイン・クレメント、タイカ・ワイティティ ほか
恋愛描写
たいむばんでぃっと
『タイム・バンディット』物語 簡単紹介
『タイム・バンディット』感想(ネタバレなし)
あのカルト映画をドラマに
「AIに聞けばいいのだから、歴史を学校で学ぶ意味ありますか?」
そんな言葉を今の学校の先生は生徒からぶつけられているのでしょうか…。
でも現行の検索AIで歴史上の人物について質問するとわかるのですが、基本的にだいたいはその回答は「Wikipedia」の情報から引用されたものがほとんどです。要するに「AIに聞く」というのは事実上「Wikipediaで調べた」のと変わりありません。しかも、肝心のWikipediaから雑に一部だけを引用して編集しているだけですからね。日本のWikipediaなんて歴史関連の項目もその内容は結構いい加減で間違った箇所もたくさん放置されています。古い情報や偏った情報も平然と掲載されています。
だから「AIに聞けばいいのだから、歴史を学校で学ぶ意味ありますか?」と言われたら「あなたはWikipediaありきの粗末な知識だけでいいの?」と問い返すだけですかね。
「歴史を学ぶ」のは言うは易く行うは難し。実際にやるとなるとハングリー精神な知的好奇心が求められるなとつくづく思います。効率とか考えてられません。だって歴史は奥深いのですから。
最近も『アフリカン・クイーンズ クレオパトラ』や『アレクサンドロス大王 神が生まれし時』などの歴史ドキュメンタリーを観ていてよく感じますが、歴史というのは明解な答えがありません。もちろん明らかな誤りはありますけど、限られた資料から精査するしかない以上、いくつも歴史解釈が生じます。
学校の授業では歴史は絶対的に判明している事柄のように教えられていましたけど、そうじゃないんですよね。未解明な歴史もあれば、既存の定説が覆ることもある。だから面白いとも言えますが…。
今回紹介するドラマシリーズはそんな歴史の奥深さに魅せられたひとりの少年がまさかの大冒険をする作品です。
それが本作『タイム・バンディット』。
実は本作は1981年に“テリー・ギリアム”監督が手がけた原題『Time Bandits』という映画をドラマシリーズ化したものなのですが、その映画の邦題は『バンデットQ』で、今回のドラマ版は原題に近い『タイム・バンディット』になったので、題名だけみても一瞬わからないかもです。
しかし、内容はおおむね映画に準じています。イギリスに暮らす歴史オタクの少年が、タイムトラベルしながら活動する盗賊団と出会い、いろいろな時代を旅して冒険していくSFアドベンチャー。
モンティ・パイソンのメンバーである”マイケル・ペイリン”が脚本に参加しており、完全にモンティ・パイソンのノリの歴史コメディでした。子どもも見られますけど、悪趣味な演出もいっぱいな…。
そのカルト作な映画をドラマ化した『タイム・バンディット』を引っ張るのが、“イアン・モリス”と“ジェマイン・クレメント”の2名で、そしてこの2人を繋げている”タイカ・ワイティティ”です。『ソー ラブ&サンダー』のような大作であろうとも、『ネクスト・ゴール・ウィンズ』のような小さめの作品であろうとも、その作家性は常にブレないことに定評がある”タイカ・ワイティティ”。
『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』や『海賊になった貴族』などドラマでもその才能は切れ味抜群でしたが、今回の『タイム・バンディット』も”タイカ・ワイティティ”色に染め上げています。
『タイム・バンディット』は子どもでも見られるファミリー向けになっています。
『タイム・バンディット』の主演には、“カル・エル・タック”という子役が抜擢。その主人公の妹役には“キエラ・トンプソン”が出演。子ども同士の掛け合いのギャグはこの製作陣ならお手の物です。
当然、大人もアホばかり。共演には、“リサ・クドロー”が盗賊団のリーダーにキャスティングされ、ドラマ『フレンズ』譲りのコメディセンスを文字どおり他の歴史へと羽ばたかせています。
『タイム・バンディット』は「Apple TV+」で独占配信中で、シーズン1は全10話。1話あたり約30~35分程度なので、サクっと観れます。
『タイム・バンディット』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :歴史風刺を楽しんで |
友人 | :暇つぶし感覚でも |
恋人 | :適度な気楽さで |
キッズ | :歴史を好きになって |
『タイム・バンディット』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
2024年、イングランドのビングリー。目覚ましのアラームと共に飛び起きたのはケヴィン・ハドックという少年。今日は待ちに待った11歳の誕生日です。両親の眠る部屋に駆け込んでハイテンションで誕生日をアピール。でも両親はややローテンションで子を迎えるだけでした。
ケヴィンは歴史オタクで、この特別な日に行きたかった場所はウッドヘンジ。妹のサフロンは退屈そうですが、「ここにはミステリーが詰まってるんだよ」とケヴィンは力説します。両親はそんな息子にやっぱりそっけない態度をとるだけ。
歴史への熱意を理解してくれる人はケヴィンの周囲にはいません。学校でサッカーをするときも歴史を語りだし、同級生には避けられていました。歴史の本だけが相棒です。家でもひとり遊び。自分を褒めるのは自分しかいない…。
夜、部屋のタンスが急にぎしぎしと動き、戸を開けると広大な世界が広がっていました。しかも、弓の兵に襲われます。一緒に逃げるように部屋に飛び込んできたのはヴァイキングみたいな男。サクソン人に襲われていたらしいですが、もしかして別の時代に繋がっているのか…。
親は夢だろうと信じないので、部屋に戻ってヴァイキング男と対話を試みるケヴィン。率直に「なんでヴァイキングは農耕に変わったの?」と疑問をぶつけますが、相手にしてくれません。
そうこうしているうちに、自分の部屋の一面が別の外の世界に変わります。しかし、急に戻ってしまい、普通の部屋に激突。
翌日、ケヴィンは不思議な体験を親に報告しますが、愛想のない両親は「21世紀に生きなさい」と呟くのみでした。
まだ忘れられないケヴィンはその夜もタンスが気になり、ベッドで眠ったふりをすると、またもタンスから人が出てきました。今度は5人です。
そんな5人の前で起き上がって話しかけると、「創造主かと思った」と5人は驚いています。無害な子どもだとわかると、地図を広げ、何やら今後を話し合っています。
彼らは盗賊団らしく、ペネロピ、ウィジット、ジュディ、アルト、ビトリグという名前のようです。
そのとき、まばゆい光とともにタンスから声がしたかと思えば、巨大な頭が出現し、「私の地図を盗んだな」と迫ってきます。
盗賊団は壁を押し倒し、時空の暗闇へジャンプ。ケヴィンも巻き込まれ、ついていきます。気が付くと船の上。ここは1810年のマカオで、中国の海賊がイギリス海軍と戦っている真っ只中でした。
また別のポータルを通り抜けると、今度は建設中のストーンヘンジがあります。大興奮のケヴィン。落ち着いてから、焚火を囲んで今後どうするかみんなで話し合います。
その頃、闇の世界では、閣下と呼ばれる存在「ピュア・イヴィル」が創造主の地図が盗まれたと知り、横取りしようと企んでいました。
この盗賊団が持っている地図はとんでもない代物なのですが、一同に危機感はなく…。
シーズン1:超ゆるく歴史に触れる
ここから『タイム・バンディット』のネタバレありの感想本文です。
AIは歴史を学ぶのに役に立たないみたいなことを冒頭で述べておいてなんなのですが、このドラマ『タイム・バンディット』も歴史の教科書になってくれるわけでは正直ありません。史実を正確に学ぶには適さないです。『T・Pぼん』のような規律を守ろうとする歴史介入組織もないですし…。
本作は歴史を超ゆるくハードルを下げまくって紹介してくれる作品ですね。
ただ、単に悪ふざけしているわけでもなく、ちゃんと一貫した真面目さも備わっています。
例えば、ある歴史上の文化に対するステレオタイプをジョークを交えて解きほぐすこともあります。第2話では、『アポカリプト』など何かと野蛮さを強調されがちなマヤ文明を「人間を生贄になんかしないよ?」とやけにフレンドリーに描きつつ、こちらを疑心暗鬼の中で揶揄ってきます。サフロンが居ついた氷河期のネアンデルタール人については、そのコミュニティを温かく描き、劣った種という偏見をマンモスごと吹き飛ばします。
第4話では、1929年の禁酒時代のニューヨーク・ハーレムを舞台にし、黒人文化のルネッサンスとギャング抗争を並行で描いて、ところせましと楽しませてくれます。人類史上最高額の資産があったとされるマリ帝国の王のマンサ・ムーサが登場する第6話の1324年の北アフリカの回では、傲慢な私利私欲の億万長者が跋扈する現代を諌めるように、「富裕層はこうあるべし」という模範を提示します。
対して白人至上主義的な歴史認識ゆえに過剰に持ち上げられやすい白人文化の歴史は適度に”下げ”ていきます。中世はドラゴンのことしか考えていないし、黒死病(腺ペスト)がパンデミックしている1343年のカファでは衛生医療の知識もろくになくデマに流され、ジョージ王朝はサンドウィッチ伯爵を始めインフルエンサーのように人気取りにこだわって自惚れる奴らばかりだし…。
ストーンヘンジもただの貸しスペースで土産売りの場だったからね…。でももし本当にそういう理由で建設されたとしても、現在において成功してみせているのだから…私も2000年後くらいを見据えてそのへんに石を立てて並べておこうかな…。
シーズン1:グレート・リセットだ!
歴史ゆるゆる観光の中、ドラマ『タイム・バンディット』では各登場人物もゆるく人間ドラマを見せていきます。
あの「時をかける盗賊団」も、いずれも何かしらの事情で社会から疎外され、劣等感を抱えていたり、欠点を引きずっていたり、そんな人たちばかりで構成されています。このあたりのキャラクター・デザインは“タイカ・ワイティティ”の得意分野です。
とくに盗賊団の自称リーダーであるペネロピは、実は元婚約者のギャヴィンとの仲を取り戻したくてタイムトラベルで宝を集めていたことが判明しますが、そのギャヴィンは死んだと思われていたスーザンと家庭を築いており、「放っておいてくれ」と言われてしまう始末。愛が成就しない者が自分の次の生き方を見つけるお話なのでした。
愛と言えば、ジョージ王朝を描く回で、好色であらゆる女性(男性も)虜にして関係を持っていたという逸話があるジャコモ・カサノヴァが登場します。でも盗賊団のメンバーであるジュディだけはその色気誘惑が全然効かないという描写になっていました。あれはアセクシュアル・アロマンティックな表象…なのかな? ちなみにジュディを演じる“シャーリン・イー”は、自身をクィアでジェンダーフルイドなノンバイナリーだと表現しています。
そして主人公のケヴィンも忘れるわけにはいきません。それにしてもこのドラマ版でも両親がただただ酷い人間でしたね。ここまで綺麗に「和解する価値のない親も世の中にはいる」と描き切るのは清々しい…。
一方で、映画とは大きく異なるのが、歴史を超越する存在たち。今作では「創造主(Supreme Being)」と「ピュア・イヴィル(Pure Evil)」という勢力の争いであり、人類を惨めにしたい後者(”ジェマイン・クレメント”が演じている)が悪そうなのはわかるとして、今回のドラマ版では創造主側も外道です。「”地球2”を作って、グレートリセットだ」などとどこかで聞いたことがある野望をベラベラ語りだす糞な神を“タイカ・ワイティティ”がノリノリで演じていました(一応解説すると、グレート・リセットはQアノンなどが主張する陰謀論のひとつで、リベラルなエリートたちが世界を都合よく書き換えようとしていると陰謀論ですが、作中では実際にそのグレート・リセットをやろうとしているのが神様だった…というオチです)。
そんな創造主の世界では計画に賛同せずに裏で密かにクーデターを企てる智天使たちがいるのですが(LPsの俳優たちが演じている)、そちらの動向も気になります。
地図を失くした一同の物語の続きは描かれるのかな…。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
関連作品紹介
「Apple TV+」で独占配信しているドラマシリーズの感想記事です。
・『シュミガドーン!』
・『インベージョン』
・『See 暗闇の世界』
作品ポスター・画像 (C)Apple タイムバンディット
以上、『タイム・バンディット』の感想でした。
Time Bandits (2024) [Japanese Review] 『タイム・バンディット』考察・評価レビュー
#タイムトラベル