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映画『コリーニ事件』感想(ネタバレ)…その法律は正義ですか?

コリーニ事件

その法律は正義ですか?…映画『コリーニ事件』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Der Fall Collini(The Collini Case)
製作国:ドイツ(2019年)
日本公開日:2020年6月12日
監督:マルコ・クロイツパイントナー

コリーニ事件

こりーにじけん
コリーニ事件

『コリーニ事件』あらすじ

新米弁護士カスパー・ライネンは、ある殺人事件の国選弁護人を担当することになる。それはドイツで30年以上にわたり模範的市民として働いてきた67歳のイタリア人コリーニが、ベルリンのホテルで経済界の大物実業家を殺害した事件だった。張り切って仕事に臨むが、実はその被害者はライネンの少年時代の恩人だったことがわかり動揺する。しかも、調査を続ける中で驚愕の事実が判明し…。

『コリーニ事件』感想(ネタバレなし)

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このドイツ映画会社は勢いに乗っている

「ベルント・アイヒンガー」という人をご存知でしょうか。

このドイツ人はドイツ映画界に多大な功績を残したことで有名であり、2011年に亡くなって以降は、ドイツ映画協会が創設した「ベルント・アイヒンガー賞」としてその名前が語り継がれています。

このベルント・アイヒンガーが何をしたのかというと、「コンスタンティン・フィルム」という映画制作会社を引っ張ったのでした。この会社は1983年からは映画制作事業に参入したのですが、『ヒトラー 最期の12日間』(2004年)や『帰ってきたヒトラー』(2015年)など多数の名作ドイツ映画を生み出しただけでなく、『バイオハザード』シリーズなどハリウッド映画も支えていました。意外に知られていないと思います、あのハリウッド映画を後ろでプッシュしていたのがドイツ企業だったなんて。日本では公開されていないのですが、『Fack ju Göhte』というシリーズ映画も手がけ、これはドイツ国内で特大ヒットを記録しています。とにかく大成功をおさめているドイツ映画会社なのです。

そんな「コンスタンティン・フィルム」が2019年に手がけて話題を集めた映画が登場しました。それが本作『コリーニ事件』です。

本作は小説の映画化なのですが、この原作の時点ではかなり注目度の高い作品だったそうです。原作者であるフェルディナント・フォン・シーラッハはクライスト賞(ドイツの文学賞)を受賞したほどの高評価を獲得しており、自身も刑事事件弁護士だったという経験を活かした濃厚でリアルな社会派ミステリーが持ち味。そして初の長編小説となった「コリーニ事件」もベストセラーになりました。

ただこの小説、単にヒットしたというだけでなく、なんと出版から数ヶ月後の2012年1月にドイツ連邦法務省が省内に調査委員会を設置するほどの騒ぎになったとか。一体何がどうなってそうなったのか。それこそ作品の根幹に関わるので一個もネタバレできないのですが…。

内容は法廷ドラマ&サスペンスですが、二段三段と衝撃の事実が明らかになっていく話運びは確かに目が釘付けになります。なるべく前情報に極力触れないで鑑賞するのがオススメですかね。この前半感想でもこれ以上は言及しないようにしておきます。

とはいっても事前知識を必要とする映画でもないのでそこまで身構えないでくださいね(まあ、もちろん基本的な教養は求められますけど…)。

監督は『クラバート 闇の魔法学校』(2008)という作品で数々のドイツ国内映画賞を受賞した“マルコ・クロイツパイントナー”。私は『クラバート 闇の魔法学校』を観たことがないのですけど、魔法学校を舞台にしたファンタジー作品らしく、そこから一気にリアルな法廷モノにジャンルチェンジしても映画作りの上手さが変わらないのは、やはり実力があるんでしょうね。2014年には『Coming In』というロマンティックコメディ映画も監督しており、本当に多才な人です。

主演は“エリアス・ムバレク”(エリヤス・エンバレクとも表記)。チュニジア系オーストリア人なのですが、コンスタンティン・フィルムの大ヒット作『Fack ju Göhte』シリーズでも主演をつとめ、ドイツでは有名。『ピエロがお前を嘲笑う』や『はじめてのおもてなし』など他の話題作にも出演する人気者のようです。

物語の鍵を握る謎めいた人物を演じるのは大物の“フランコ・ネロ”。彼と言えばデビュー時はマカロニ・ウェスタンで活躍しており、あの『続・荒野の用心棒』(1966年)でジャンゴを演じていたので、案外と見ている映画ファンもいるはず。そのつながりで『ジャンゴ 繋がれざる者』にも出演しています。最近だと『ジョン・ウィック チャプター2』にてコンチネンタル・ホテル・ローマ本店のオーナー兼支配人の役でも登場していました。

他には『ヒトラー 最期の12日間』でヒトラーの秘書役を演じたことでも印象深い“アレクサンドラ・マリア・ララ”、『はじめてのおもてなし』でもメイン出演していた“ハイナー・ラウターバッハ”など。

濃密な法廷ドラマを堪能したいなら間違いなく需要を満たすでしょう。繰り返しますけど、鑑賞前にネタバレは見ないように。後半の感想では「あれ」の詳細などについて少し調べて整理したりしています。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(歴史や法廷モノが好きなら)
友人 ◯(歴史や法廷モノが好きなら)
恋人 ◯(恋愛要素はないが…)
キッズ ◯(社会勉強には良い)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『コリーニ事件』感想(ネタバレあり)

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無言の奥には絶望があった

2001年、ベルリン。廊下を歩く老齢の男。そこはそれなりに品のあるホテルであり、その男はある部屋に入っていきます。ドアを開けるとそこにいたのは別の老齢の男。相手の男の顔は真っすぐ現れた存在を見つめるようにこわばり、カチャ…と音がして…。

エレベーターを降りる先ほどの廊下を歩いていた老齢の男。靴裏に血がべっとり。疲れ切ったようにロビーの椅子にドサッと座ります。明らかに怪しいのでホテルのスタッフの女性が近づいてきますが、男は「奴は死んだ」と部屋を口にするだけ。異変を察知したスタッフはすぐに部屋に向かい…。

それから少し経って。カスパー・ライネンが法廷に入ってきます。被告はファブリツィオ・コリーニというモンテカティーニ出身のイタリア人で家族はいない…ジャン・バティスト・マイヤーを殺害した容疑であり、ホテルのスイートルームで犯行は行われた…と簡単に説明を受けます。

さっそく拘留されているコリーニと面会。「あなたの弁護士です」と挨拶するもコリーニは無言

簡単な形式的な罪状認否が始まり、自供はしてないないが物的証拠はじゅうぶんであり、そのまま進行。とくに何事もなくライネンが国選弁護人に認定されました。

ライネンは3か月前に司法試験に合格したばかりであり、ベテラン勢は何か初々しく空回りしている彼のことをやれやれと目で見ていました。

ライネンは司法仲間から、その事件の被害者はあのハンス・マイヤーだと言われてハッと思い出します。実はライネンは少年時代にハンス・マイヤーにお世話になっており、それはもう良くしてくれたのでした。ハンス・マイヤーの家で過ごした思い出は鮮明に残っています。

ハンス・マイヤーは知る人ぞ知る著名人であり、あらゆる人に善意で支援をする活動をしていたことで、彼を恩師を慕う人たちは大勢いました。

そんな中、孫娘のヨハナ・マイヤーと夜に外でこっそり待ち合わせするライネン。彼女とも昔から付き合いがあります。ハンスの事件に関して自分が容疑者の弁護士になったことを伝えると、当然のように「辞退してほしい」と不快感を露わにされます。しかし、もう引き受けた以上、弁護士としての責任もあります。

遺体の検分に同行。かなり損傷を受けており、頭部には複数発の銃弾を受け、踏みつぶされるか何かもされたようです。非常に計画性があり、かつ殺意があったことが窺えます。ただ、ライネンの頭には昔の記憶が思い出されていました。あんなに良い人だったのに…。

次にベルリンの刑務所でコリーニと面会。無言です。謀殺で終身刑だと説明するも、「なぜ殺したのですか」と動機を聞こうとするも、常に無言。早々と立ち上がって出ていってしまいました。

裁判の日。マスコミの注目は高く、裁判所前には大勢のカメラがいます。法廷では当然のように終身刑が求刑され、ライネンは無言を貫くコリーニをどう弁護するのか難しい問題に直面していました。

もう一度コリーニと面会すると、自分の父親について聞かれ、いつか別れの時が来るから会った方がいいと諭されます。なぜそんなことを言うのか、さっぱりわかりません。自供すれば7年で済むと言っても興味ないと一蹴されましたが、遺族の苦しみを口にするとコリーニの表情は一瞬だけ動いた気がしました。

手詰まりなライネン。ところが思わぬところにヒントがありました。凶器となった銃です。それはワルサーP38で、第二次世界大戦中にドイツ軍が使用したもので今は入手は難しい代物。その銃がハンスの書斎の本棚の奥にもあったのを少年時代に発見していたことを思い出し、もう一度その書斎に行って探すと確かにありました。

何かを察知したライネン。一週間の休廷を求めて裁判を中断し、コリーニの出身地であるイタリアのモンテカティーニに向かいました。歴史ある街並みが残る平穏な場所です。そこで住人に話を聞いた結果、驚愕の事実が判明。全ての理由がわかりました。

裁判は再開されます。一同が固唾を飲んで見守る中、ライネンはこう切り出しました。「1944年6月19日」と…。

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あの事件をもう少し詳しく

『コリーニ事件』は出だしから王道の法廷ドラマ路線を淡々と歩んでいきます。最初は主人公ライネンと被害者ハンス・マイヤーの関係性に関する情報が少しずつ提示されていき、あまり容疑者のコリーニの方にはフォーカスされません。ライネン自身も駆け出しの弁護士なので「ほんとにこいつで大丈夫なのか」と観ているこっちもその腕前に心配になってきてしまいます。

ところが映画が半分を超えたあたりくらいで、ついに事件の裏側が判明します。それはドイツ映画なので「まあそうくるよね」という予想の範囲内なのですが、それでもあの歴史的事実についてよく知らない人も多いでしょう。かくいう私もあまり理解している方ではありません。だからこそこういう映画で知識が深まるきっかけを得られるのが楽しいのですが。

第二次世界大戦において、ドイツ・イタリア・日本は枢軸国と呼ばれてまとめられていましたが、この国々が一致団結して何か戦っていたわけではありませんでした。

とくにイタリアは事情が違います。1943年7月24日、「イタリア王国」でクーデターが発生したことを発端に、体制は大きく崩壊。9月8日には「イタリア王国」は連合国との休戦協定締結を発表し、事実上の降伏。しかし、9月23日にはドイツに逃亡したムッソリーニを首班とする「イタリア社会共和国」が成立し、枢軸国として戦闘を続行していました。つまり、「イタリア王国」はドイツの敵で、「イタリア社会共和国」はドイツの味方。二分されたのでした。

そのような状態の最中、イタリアにおける忌まわしいドイツの戦争犯罪が起きたのです。『コリーニ事件』で描かれているのは、イタリアのモンテカティーニで起きた住民の虐殺。「イタリア王国」と戦闘するドイツ・ナチス軍は、「そっちが攻撃してくるならこちらのイタリア社会共和国内のイタリア人を報復で殺してやるからな」と脅し、実際に殺害を無慈悲に実行。こ

れは一か所ではなく、イタリア各地で起こり、数万人が処刑されたと言われています。また殺人だけでなく略奪やレイプも発生しました。アルデアティーネ洞窟での大虐殺など有名な事件もあれば、小さな事件もあり、とにかく悲惨で目を覆いたくなるツラい歴史です。

そんな殺戮に関与したナチスの親衛隊の人間がのうのうと戦後も普通に暮らしているものなの?と思うかもしれませんが、ナチスの大半はとくに罪にもならなかったことはドキュメンタリー『アウシュビッツの会計係』でも語られているとおり。

1945年には「約80万人」のSS隊がいて、そのうち現在まで「10万人以上」を捜査し、その中でも「6200人」が裁判にかけられ、殺人で有罪になったのはたったの「124人」。

だからハンス・マイヤーのような過去に非道な行為をした元ナチス人間は普通に社会に溶け込んでいるんですね。しかも、過去のイメージを上書きするためにあえて善行をバラまいている人もいる。それが本当に反省の上に成り立っているならよいのですが…。

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あの法律をもう少し詳しく

これだけでも歴史をよく知らなかった人には衝撃です(ドイツ国内では常識でしょうけど)。ただ『コリーニ事件』はさらなる衝撃を暴露します。それこそドイツ国内すらも震撼させるような。

それが例の「法律」です。

この作中でも問題として取り上げられる法律は「秩序違反法施行法(Einführungsgesetz zum Gesetz über Ordnungswidrigkeiten ; EGOWiG)」と呼ばれ、1968年に改定され、当時はそこまで話題にならずに密かに施行されたそうです。そもそもな目的な交通違反のような軽微な犯罪を非犯罪化することでした。しかし、結果的に元ナチスの刑を軽くすることにつながります。

どうやらドイツではもともと元ナチスの赦免を目指す動きがあったそうで、いろいろな人物が裏で活動していました。その中には当然元ナチス当事者もいて、法律関係の仕事をしている人もいたのです。要するに法律の専門知識を完全に自己の罪をもみ消すことに悪用するという、最悪の職業倫理違反をしていたんですね。

このEGOWiGという法律の誕生の中心にいたのが、エドゥアルト・ドレーヤーでした。ドレーヤーは連邦司法省刑法部長であり、当時の業界に大きな力を持っていました。実は彼もまたナチスとのつながりがあった過去があり、しかしいろいろなコネで潔白という扱いになり、何食わぬ顔で公務に復帰することができていました。

そしてこのEGOWiGという法律のせいで作中で簡単に説明されるとおり、謀殺罪に関しては幇助犯には通常の正犯に科される最高刑(終身刑)を科せないこと、最長でも15年の自由刑しか科せないこと、さらには公訴時効の期間は自動的に15年へと変更されてしまったのです。つまり元ナチスの幇助犯を訴追することは将来的に不可能ということに…。

この法律は当然すでに見直されたのですが、あらためて怖いなと思うのは、悪いことをしている人間が法律を作るという立場にいる恐怖です。これでは法律は市民を守るためのものではなく、一部の権力者の盾になるだけの存在になってしまいます。法治国家というのは国民のための法律があるという前提条件で成り立つものであり、その法律が悪意で操作されているならそれはただのディストピア。

映画『コリーニ事件』はその危険性を過去に大きな罪を犯したドイツで再び静かに提示することで、いつまたあの時代に逆戻りするかもわからないのだという警告を発しています。不必要にエモーショナルにせずにあくまで粛々と証拠を突きつけていく感じが余計に観客の心に刺さるものがありました。

韓国映画の『弁護人』なんかもそうですが、こうやって新米の弁護士が法律がどうあるべきかという初心を思い出させてくれる作品というのはたびたびありますけど、大事なことだなと思います。好きにはさせないぞ、チェックしているからな…という警鐘になりますしね。

それに日本も無縁ではないですから。日本も法律が誰のためにあるのかわからない事例が時々起きています。憲法を進化論の錯誤概念で変更しようとアピールしてくる政治家もいる国です。法律は何のためにあるものなのか、常に自分で問いかけないといけないですね。それが正義が正義であるためには欠かせないことです。

『コリーニ事件』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 82% Audience –%
IMDb
7.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)2019 Constantin Film Produktion GmbH

以上、『コリーニ事件』の感想でした。

The Collini Case (2019) [Japanese Review] 『コリーニ事件』考察・評価レビュー