スペシャル・デリバリー!…映画『パーフェクト・ドライバー 成功確率100%の女』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:韓国(2022年)
日本公開日:2023年1月20日
監督:パク・デミン
パーフェクト・ドライバー 成功確率100%の女
ぱーふぇくとどらいばー せいこうかくりつひゃくぱーせんとのおんな
『パーフェクト・ドライバー 成功確率100%の女』あらすじ
『パーフェクト・ドライバー 成功確率100%の女』感想(ネタバレなし)
特別配送でお届けします
Amazonで商品を注文すると、発送からしばらく後、家の玄関前に商品が梱包された箱や袋が置かれ、商品を置いたことを証明するその現場の写真が撮影されたものを添付してメールで知らせる。今や当たり前になった配送の風景です。
大きな商品や高価な品は今も大手の配送業者が担っていますが、小さめの商品は個人事業主配達が主流になっています。増大する配送需要に答えるため、そしてコスト削減のため、こうした一部の配送の個人事業依存は今後も加速するばかりなのかもしれません。
ひと昔前だったらこんな人知れず品を置いていって相手に渡すなんて、なんだか良からぬブツをやり取りするときのやり方みたいに思われていましたけど、まさか庶民に広く浸透する時代になるとは…。
でもこの置き配サービス、非対面で受け取れるのは確かにメリットもあるのですけど、いろいろな新たなトラブルや犯罪の原因にもなりそうで、今後どうなるのかなとも思います。たぶんしばらくは試行錯誤が続くのでしょうね。
今回紹介する映画も、顧客の需要にプロフェッショナルかつスタイリッシュに答える配送の物語です。置き配なんかと比べると随分と目立ちまくりですが…。
それが『パーフェクト・ドライバー 成功確率100%の女』。
韓国映画で英題は「Special Delivery」。これは主人公が働いているのが「特送」という名の配送業者で、その英名をそのまま取ってきたタイトルなんだと思います。だったら邦題も「スペシャル・デリバリー 特送」とかにすれば良かったのに…。すでにそういう似たようなタイトルの映画があるからかな…。
『パーフェクト・ドライバー 成功確率100%の女』はワケありな配送を承る特殊な仕事を淡々とこなすひとりのドライバーを主役にしたサスペンス・アクション映画です。配送するのはモノでも人でも何でも良し。高額な報酬でありつつ、危険も隣り合わせ。しかし、華麗に車を走らせて仕事を完了させます。
『トランスポーター』みたいなジャンルですが、本作『パーフェクト・ドライバー 成功確率100%の女』の特徴は何と言っても主人公が若い女性だということです。ただただ女がカッコよく運転し、ひとりでたくましく生き、恋愛も性的に見られることもない…。なんだ、最高の映画じゃないか…。
その超カッコいい女主人公を熱演するのは、“パク・ソダム”。最近は『パラサイト 半地下の家族』で主要人物のひとりを演じ、国際的な注目を集めました。今回の『パーフェクト・ドライバー 成功確率100%の女』は“パク・ソダム”のカッコよさにひたすら惚れるばかりの作品ですので、たっぷり酔いしれてください。青龍映画賞でも本作で主演女優賞にノミネートされ、“パク・ソダム”のキャリアに輝きを追加する一本となりました。
共演は、『真犯人』の“ソン・セビョク”、『エクストリーム・ジョブ』の“キム・ウィソン”、ドラマ『未成年裁判』の“ヨム・ヘラン”、『出国 造られた工作員』の“ヨン・ウジン”など。なお、子役として“チョン・ヒョンジュン”も出演し、重要なキャラクターとして物語を左右するのですが、“パク・ソダム”とは『パラサイト 半地下の家族』で共演したばかりです。
『パーフェクト・ドライバー 成功確率100%の女』の監督は、『キム・ソンダル 大河を売った詐欺師たち』の“パク・デミン”。
劇走が迸るカーチェイス、クールな女の生き様、癖の強すぎる悪役、ところどころ差し込まれる可愛い猫…観客の需要を隅々まで満たすエンターテインメントなサービス精神満載のドライビング・テクニックを披露してくれます。そんなに身構えることもない、気軽に見やすい娯楽映画でしょう。
『パーフェクト・ドライバー 成功確率100%の女』みたいに配送されても現実では困るのですが、商品を届けてくれたのがイケてる姐さんの“パク・ソダム”だったら、多少家の前の路面がタイヤ痕で汚れようともオールOKかな…。
『パーフェクト・ドライバー 成功確率100%の女』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :カーアクション好きなら |
友人 | :韓国映画好き同士で |
恋人 | :恋愛要素は無し |
キッズ | :やや残酷描写あり |
『パーフェクト・ドライバー 成功確率100%の女』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):特送、現在配達中!
チャン・ウナはポンコツな廃車を引き取ります。かかりにくいエンジンを慣れた手つきでかけ、華麗なバックで道路へ。埃を被った車をスムーズに走らせるのでした。
向かったのはペッカン産業。ウナの職場です。彼女は一般の郵便では扱えないワケあり荷物を届ける特殊配送会社「特送(とくそう)」で働いていました。この仕事の売りは、何があっても必ず届けるということ。客の満足度は高く、高額の料金でも払ってくれます。
車が並ぶ港のコンテナ置き場へ到着。ここで整備で働いている馴染みのアシフに車の修理を依頼。
ウナは事務所へ顔を出し、ペク社長にビールをとられながらも、さっそく次の仕事を振られます。
指定の場所に行くと間抜けそうな男2人が乗り込んできて、運転手のウナを見るなり「女だぞ。女じゃ無理だろ」と愚痴ってきます。それでも仕方なく乗ってくる2人。
シートベルトの着用を指示して急発進バック。華麗なハンドルさばきで車の向きを変え、一気に幹線道路へ躍り出て加速。追ってくる車をUターンで回避し、しつこい追跡車を停車してやりすごします。静かな運転で狭い住宅街にて巻こうとし、呑気に飲み物を飲みながら、再び加速。工事用の脚組パイプを倒して妨害し、ギリギリの道路幅の場所を突き抜けます。さらに踏切前で立ち往生しつつ、電車の前まで走り抜け、寸前で電車の前を横断。相手を完全に翻弄しきってクリアです。
「俺の下で働かないか?」と先ほどの乗客は舐め切った態度から一転誘ってくるものの、ウナはカネを貰って立ち去るだけでした。
ペク社長は6対4でカネを貰っていきますが、ウナは5対5にしてほしいと強気にでます。
その頃、高級マンションの一室。男が天井から何やら隠していたものを取り出します。それは鍵です。この男は野球投手で名はキム・ドゥシク。賭博ブローカー不祥事が報道され、ピンチでした。幼い息子のソウォンに誤魔化しつつ、この国から逃走するつもりでいました。
ドゥシクは偽造書類で密航して国外へ脱出しようと計画するも、そういう奴の9割は乗船前に捕まると仲介者に言われ、港まで行く最高の方法があると教えてもらいます。そこで藁にも縋る思いで手配を頼みます。
実はドゥシクは賭博絡みの大金を持ち出そうともしていました。その額は300億ウォン。しかし、それを逃がすまいと狙う存在がひとり。チョ・ギョンピルです。彼からの執拗な電話を無視するドゥシクでしたが、結局はでてしまい、持ち逃げしたカネに言及されますが、鍵だけは返せと言われます。なんとか逃げきらないと…。
一方、ウナにソウルでの配送の仕事が舞い込んできます。最初はやりたがりませんが、5対5を約束させ、いざ現場へ。野球場でピックアップして平沢港へ向かうという入念に計画を確認してからの出発です。
球場で待機していたドゥシクは夜にギョンピルとその部下に包囲されます。息子ソウォンに鍵を託し、車に先に行けと指示。裏の小さい窓から逃がします。
近くで待機していたウナのもとにソウォンが必死に走ってきて、ウナの車の窓を叩きます。追手がそこまで迫り、ウナは計画と違うので困惑しつつも悩んだ末に乗せることに。
こうしてもう止められない危険なコースに突き進むことになってしまい…。
東アジア特有の住宅地カーチェイス
『パーフェクト・ドライバー 成功確率100%の女』の見どころは、当然このジャンルですからカーチェイスになってきます。
類似の作品としては『ベイビー・ドライバー』をかなり意識しているのかなと思わせるスタイルです。別に音楽に合わせて運転しているわけではないですが、序盤で繰り広げられるドライビングは軽妙で、追っ手を翻弄しながらの華麗なテクニックをこれでもかと見せつけて、観客を興奮させてくれます。
やっぱり韓国や日本にありがちな独特の住宅地構造があって、本来はこういう狭い道路で住宅が複雑に密集している区画はカーチェイスに最も不向きだったりするもの。それを本作はしっかりカーチェイスとして成立させているのが面白いです。
駐車している車にしれっと停車して混ざったりできるのも、あれくらいに密度がある環境だからこそのカモフラージュですし、そろりと運転しながらその場を脱するのもいかにも閑静な住宅地で通用しそうな技。
まあ、走行する電車の前をギリギリで横断するのはやりすぎですけどね。あれ、なんで大事件として報道されないんだろう…。プロ野球選手の不祥事よりも瞬間的な話題性は高そうですよ。
あと、作中で地味に「飲酒運転はダメだぞ」とか「シートベルトは着用しないと危ないぞ」みたいな交通運転ルールのわざとらしい案内があるのがシュールですが、説得力が無い映画のジャンルだからできるギャグでもあります。
韓国映画って最近も『ソウル・バイブス』など、カーアクションを主体にした映画が目立ってきていますが、これは流行りなのかな。どちらにせよカーチェイスのクオリティは非常に高いですね。
今作のカーチェイスは、事前に3Dモデルでシミュレーションして構図を決めたそうで、そのかいあってかシーンがひとつひとつカッコいいです。
『パーフェクト・ドライバー 成功確率100%の女』は予算的に制約もあったのか、前半で観客を掴むためにカーアクションを多彩に盛り込んで、後半はやや失速しているのですが、もう少し終盤に一気にカーアクションの見せ場がドーンとぶっこまれるとより最高だったかもなと思います。
せっかく車がいっぱいあるアスレチックな構造を持つ事務所のホームで敵と戦うのですから、ホーム戦らしい相手を翻弄するド派手なバトルがあっても良かったのではないかな、と。
こういう主人公を待っていた
『パーフェクト・ドライバー 成功確率100%の女』はカーチェイスがエンタメの見どころですが、やっぱり個人的には、何度も繰り返して強調しますけど、ただただ女がカッコよく運転し、ひとりでたくましく生き、恋愛も性的に見られることもない…そこが一番にテンションあがります。
本作の主人公、ウナは脱北者で独り身の20代後半。でも不幸せそうにしているわけではなく、一瞬だけ垣間見える日常はハッピーな空気に包まれています。
女性が主人公の映画は数あれど、そこに男が隣にいて愛があるとか、家族の絆の中で支えられているとか、そういうものがまだまだ多い昨今。今作は徹底してひとりで生きる女ですからね。しかも、恋愛をするようなシーンもないし、性的に消費されるような扱いも無い。
正直、『パーフェクト・ドライバー 成功確率100%の女』のウナのキャラクター性は、個人的には超理想的…「こういうのを観たかったよ!」と手を叩いて喜びたいくらいの表象でした。
“パク・ソダム”が愛猫と戯れるサービス・シーンだけはあるという…そこもわかってる…。
女性ドライバー主人公の表象に関して言えば、これは『ワイルド・スピード』シリーズよりも全然いいですよ。どうしても車映画における女性のイメージは男性視点のものが多かったので…。
ちなみにインタビューによれば“パク・ソダム”は過去に交通事故の経験があったので、少し車の運転が怖いというトラウマを抱えていたらしいです。大変だったな…。フィジカルなシーンが多い映画でしたけど、メンタル面でも役者には試練だったんですね。
逆に『パーフェクト・ドライバー 成功確率100%の女』の不満点を挙げるなら、まず主役とメイン悪役以外のキャラクターの活躍不足。とくにやっぱり韓国映画のお約束でサイコパス殺人鬼と拷問は描かれるのだけど、その殺人悪人の出番は思っている以上にあっけなく、加えて国家情報院との間で駆け引きが起きるのもサスペンスになるのかと思ったらそれも消化不良で終わる感じで…。
国家情報院職員のハン・ミヨンは運転下手という設定があるなら、最後くらいはギョンピルをアクセル全開で轢き殺すくらいの盛大な見せ場があってもよかったかなと思います。
あと、本作のキーキャラクターであるソウォンという子について、母親絡みのあのエピソードはいるのか?とも思うし…。あれだけだとなんだかセックス・ワーカーへのネガティブな印象を深めるだけな気がする…(実際は複雑な心情があったにせよ、描き込みが薄すぎる…)。
ともあれ『パーフェクト・ドライバー 成功確率100%の女』は、カーアクション映画のジャンル史において主人公の存在感の点では突出して進歩的な作品になったのではないでしょうか。『デス・プルーフ in グラインドハウス』『バンブルビー』などに連なる、女性ドライバー映画のトップランナーですね。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience 80%
IMDb
6.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)2022 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & M PICTURES. All Rights Reserved. パーフェクトドライバー
以上、『パーフェクト・ドライバー 成功確率100%の女』の感想でした。
Special Delivery (2022) [Japanese Review] 『パーフェクト・ドライバー 成功確率100%の女』考察・評価レビュー