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『ザ・ファイブ・ブラッズ』感想(ネタバレ)…Netflix;Black Lives Matterは世界の問題

ザ・ファイブ・ブラッズ

Black Lives Matterは世界の問題…Netflix映画『ザ・ファイブ・ブラッズ』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Da 5 Bloods
製作国:アメリカ(2020年)
日本では劇場未公開:2020年にNetflixで配信
監督:スパイク・リー
人種差別描写 ゴア描写

ザ・ファイブ・ブラッズ

ざふぁいぶぶらっず
ザ・ファイブ・ブラッズ

『ザ・ファイブ・ブラッズ』あらすじ

ベトナム戦争を戦った4人のアフリカ系退役軍人たちが、戦死したひとりの仲間の亡骸と埋蔵金を探すために再びベトナムを訪れる。そこは昔とは様変わりしていたが、あの時代の傷跡が今を生きる人たちにも残っていた。かつて銃を持って進んだあのジャングルへ立ち入っていく4人。消えることのない戦争体験と人種差別への怒りが4人に襲いかかり、またも試練が立ちはだかる…。

『ザ・ファイブ・ブラッズ』感想(ネタバレなし)

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今の時代にこの監督は何を描く?

2020年5月25日、ミネソタ州ミネアポリスでジョージ・フロイドというひとりの黒人男性が白人警官に取り押さえられました。警官はフロイドを地面に伏せさせ、彼の首を自分の膝で約9分押さえつけます。「息ができない」とフロイドが訴えるも警察は過剰な拘束を続行。フロイドはそのまま死亡してしまいました。

フロイドの悲劇は全米の怒りに火をつけ、「Black Lives Matter」を掲げる抗議デモが一気に拡大。一部で暴徒化したものの、大半は平和的に活動し、人種差別の解消を主張しました。

この「Black Lives Matter」は何もフロイドの一件で始まったわけではありません。警察による黒人への暴力はずっと続いており、元をたどれば根本的には奴隷制度に紐づきます(そのあたりは『13th 憲法修正第13条』がとても参考になる)。

奴隷制度廃止後も黒人への警察による敵視・偏見・暴力はカタチを変えて継続しており、それへの抗議運動も常に行われてきました。ただ「Black Lives Matter」がハッシュタグ・アクティビズムとして目立ったのが2013年のトレイボン・マーティン射殺事件であり、ここからこの「Black Lives Matter」活動の様相は変わります。若者への支持が広がり、さらにはアフリカ系アメリカ人だけでない、白人やそのほかの人種のアメリカ人、そして世界中が賛同し、一緒に声を上げるようになったのです。今回のフロイド事件における「Black Lives Matter」が史上最大規模で多様な参加者のもと展開されたのも、こうした経緯があるためであり、つまりもはや「Black Lives Matter」は全世界の人の問題になったと言っていいでしょう。知ろうとしないor興味ない…なんていうのは無自覚な差別主義者に他ならず、言い訳もできません。

その激動をあの監督が黙って見ているわけはありません。そう、“スパイク・リー”監督です。

この監督について私が語るのもおこがましいですが、黒人差別の問題を映画という手段で第一線で訴えてきた人物であり、私もたくさん学ばせてもらってきました。初期の代表作『ドゥ・ザ・ライト・シング』(1989年)はまさに今の「Black Lives Matter」の渦中にいる世間を射抜く鋭さを依然として持っていますし、最近の監督作にしてアカデミー賞で脚色賞を受賞した『ブラック・クランズマン』(2018年)でもそれは変わらず。あの『ブラック・クランズマン』の強烈なエンディングは今ならさらに説得力を持ってぶっ刺さるものですよね…。

いつ何時も差別を描く手を緩めない“スパイク・リー”監督も今回の「Black Lives Matter」を誰よりも感慨深く見ていたと思いますが、その彼がこのトランプ時代にどんな新作を生み出すのか。注目しないわけないですが、ついにその新作が公開されました。それも時代が揺れている真っ只中、2020年6月12日にNetflix配信です。偶然でしょうけど、このタイミング。これも“スパイク・リー”監督のなせる運命力なのか…。

その“スパイク・リー”監督最新作が本作『ザ・ファイブ・ブラッズ』です。

主人公はベトナム戦争を経験したベトナム帰還兵の4人のアフリカ系アメリカ人。そんな彼らが今になってベトナムを訪れ、当時の戦場の記憶を蘇らせつつ、ある目的を果たそうとするが…という、戦争ドラマとチームミッション系のサスペンスの複合ジャンル。でもそこは“スパイク・リー”監督。根底には人種差別をしっかり忘れず、目を逸らしがちなこの問題を既存ジャンルに問いかけています。『ブラック・クランズマン』のときは「黒人vs白人」という二項対立をあえてセッティングしていましたが、今回の『ザ・ファイブ・ブラッズ』は毛色が違ってよりグローバルに攻めています

俳優陣は、まず『マルコムX』の“デルロイ・リンドー”。彼が本当に素晴らしい演技を披露しており、主演男優賞級なのでぜひともなにかしらの賞をとってほしい…。

“デルロイ・リンドー”と並ぶ他の3人には、『ハリエット』の“クラーク・ピータース”、ブロードウェイで大活躍している“ノーム・ルイス”、“スパイク・リー”監督作の常連である“イザイア・ウィットロック・Jr”

さらに『ブラックパンサー』でおなじみの“チャドウィック・ボーズマン”、『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』の“ジョナサン・メジャース”といった新時代を進む若手アフリカ系俳優も揃っています。

加えて“ジャン・レノ”“メラニー・ティエリー”など意外な人選もあったり。なお『ブラック・クランズマン』に続いて今回も“ポール・ウォルター・ハウザー”が出演。“スパイク・リー”監督に気に入られたのかな…。

映画時間は約2時間半と長尺ですが、間違いなく今見るべき一作であり、2020年を象徴する映画であると断言できます。ぜひとも当事者意識を持って鑑賞して見てください。

オススメ度のチェック

ひとり ◎(監督ファン&映画好きは必見)
友人 ◎(見ごたえ語りがいがある)
恋人 ◯(映画好き同士で見たい)
キッズ △(残酷シーンがややあり)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ザ・ファイブ・ブラッズ』感想(ネタバレあり)

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お帰りなさい

ベトナムは1955年から1975年にかけて南北に分断する戦争が起き、アメリカの介入によってその戦火は激しさを増しました。兵士・民間人、それぞれにおびただしい死者をだして…。

そして現在。ベトナムのホーチミンにある観光ホテルに4人の男が集合し、久しぶりの再会に喜びを分かち合っていました。メルヴィン、エディ、オーティス、ポールのアフリカ系アメリカ人の4人。彼らの共通点はかつてこの地で起きたベトナム戦争でアメリカ軍兵士として参加していたということ。彼らは互いをブラッズと呼び、今なお意気投合しています。

そんな4人がなぜこの地に戻ってきたのか。その秘密は1枚の写真にあります。そこにはノーマンという黒人兵士が写っていました。

ノーマンは「ストーミン」と呼ばれ、4人と一緒にベトナムで戦った仲。4人にとって道標になるようなリーダーでした。しかし、敵に囲まれ窮地に陥った時、ノーマンは残念にも戦死してしまいました。今回、ここに戻ってきたのも戦場に残してきたノーマンの遺骨を回収するためです。

そしてもうひとつの目的がありました。それは金塊の回収。実は5人は墜落したCIA輸送機の荷物を回収する任務をベトナム戦争時代に命令され、現場に向かいましたが、その輸送機の厳重にロックされた箱の中にあったのは凄い数の金塊。そこでノーマンは提案します。これは今はこの地に隠して、いつの日か自分たちで回収してアメリカの黒人たちのために使おうと…。

月日がたち地滑りなどの環境変化でその場所がわからなくなっていたのですが、最近の衛星写真で輸送機の形跡が発見され、4人はこうして集ったのです。

現地のガイドのヴィンがやってきてそれぞれ挨拶をしますが、4人はジャングルは詳しいからガイドはいらないと拒否します。もちろん本当は金塊のことを知られないようにするためです。

オーティスはベトナム戦争時に関係を持ったティエンという女性に会いに行きます。彼女のコネでデローシュという大物と対面し、手数料を払う契約のもと、金塊の現金化などの諸々をバックアップしてもらう算段でした。

4人のうちポールは排外的で、ティエンもデローシュのことも信用しておらず、現地のベトナム人ともぶつかりがち。そんな中、ポールの息子、デヴィッドがやってきます。どうやら金塊探しの件はバレバレらしく、仲間に加えてほしいと頼みます。ポールは「お前は生まれた時からお荷物だった」と厳しい言葉を投げかけるも、知られた以上はついてくることに渋々同意。

デヴィッドは現地にてひとりの女性と会っていました。彼女はヘディという名で、サイモンセッポという仲間とともに「LAMB」という組織にて地雷処理をしているとのことでした。

そしてデヴィッドを加え5人になった一同はいよいよジャングルへ。そこには金塊と遺骨だけではない、この地に置き去りにしてしまった遺恨が眠っており、それを掘りだしてしまうことになるとは夢にも思わず…。

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白人にはない黒人の苦悩

『ザ・ファイブ・ブラッズ』はまず冒頭でドキュメンタリーチックな映像演出によってベトナム戦争が起きた時期はどんな時代だったのか、それがざっくりと示されます。ここでどんな要素をセレクトし、どういう順番で見せていくか、この構成に“スパイク・リー”監督らしさが全開ですよね。決して時系列どおりには見せていません。ということは意図があります。

最初に1978年のモハメド・アリの「飢えで苦しむ人々を撃つのは良心が許さない」「彼らは俺を侮辱したり犬をけしかけたりしてないし国籍を奪ったわけでもない」という言葉を見せ、そこからアポロ計画メキシコシティーオリンピックという華々しい祝い事の裏で声を上げる人々を提示。続いてケント州立大乱射事件(1970年)、ジャクソン州立大乱射事件(1970年)、T・Q・ドック焼身自殺(1963年)、H・D・バン焼身自殺(1963年)と、暴力と犠牲というものを直球で見せます。さらにジョンソン大統領やニクソン大統領といった権力者の顔とともに間に挟まれるのは、サイゴンでの処刑の残忍な映像という名もなき市民の死。そこへベトナム戦争でたくさんの黒人が従事したと訴えるB・シールの姿もクロスオーバーし、サイゴンの陥落へ…。

この一連の映像だけで“スパイク・リー”監督が本作で何を伝えたいのか、それはハッキリすると思います。つまりどんな時代の裏にも人知れず犠牲になっている者がいるということ。

本作は企画初期ではもともと白人を主役にした物語だったそうですが、それを“スパイク・リー”監督は黒人に変えました。そしてベトナム戦争に従事した黒人の苦悩を主軸にしています。もちろん白人兵士も苦悩したでしょう。『地獄の黙示録』『プラトーン』『フルメタル・ジャケット』『ディア・ハンター』…それらを描く映画はこれまでも多数作られてきました(『ランボー』は作中でちょっと小馬鹿にされていましたね)。

しかし、黒人の苦悩は白人のそれとはまた違うもの。それは作中でも描かれているとおり、キング牧師の殺害など明らかに最悪の人種差別をしているアメリカは本当に祖国と言えるのか?というモヤモヤ。ハノイ・ハンナ(実在の人物です)のプロパガンダ放送で呼び掛けられる「白人の米国に忠誠を尽くすの?」という投げかけが的を射ているのは否定できない、その悔しさ。
その黒人たちの苦悩は現在になっても全く解消してすらいない。PTSDに加えてその難題が元兵士たちにはショックを残し続けているのでした。

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黒でも白でもない別の色の苦悩

一方で『ザ・ファイブ・ブラッズ』は黒人の被害者性だけに目を向ける作品ではありません。ここにベトナムの現地の人たちというレイヤーを追加することで、これまでの“スパイク・リー”監督の「黒」と「白」の2つではない、新しい「色」をプラスしています。一応書いておきますけど、“スパイク・リー”監督は『ドゥ・ザ・ライト・シング』でもアジア系を出したりして、もともと多様な視点を持っている映画人でした。でも今回の『ザ・ファイブ・ブラッズ』は完全にベトナム人を対等に並べており、かつてない配置ではないでしょうか。

現在のベトナムは観光産業が盛んであり、かつての戦乱を表向きは全く感じさせません。作中の4人も普通に観光客として歓迎されますし、ヴィンのようにそれで商売している人もいたり、クラブで酒をおごってくれた元ベトコンのように「過去は過去」として片づけたうえで友好を示してくれる人もいます。

しかし、そうじゃない人も確実に存在しているわけです。地雷で片足を失ったのであろう少年、親を戦争で殺されて「murder !」と叫ぶ鶏売りの男、今も武装して復讐を狙う集団。

このベトナムではアフリカ系アメリカ人は明確に加害者であり、立場が逆転してしまいます。そして4人は自分たちの加害性には無頓着でした。

皮肉なのは、オーティスがティエンとの間にできた娘ミションは肌が黒いゆえに現地では人種差別を受けていたこと。有色人種差別(ここには女性差別も含まれると思いますが)の複雑な構造がゾッと浮き彫りになる場面です。

ドラマ『ウォッチメン』は黒人差別を主題にしながらベトナム戦争も物語の重要構成要素に加えつつ展開していましたが、あちらはややベトナムの現地の人たちへの目線が不足しているという批判的指摘もあり、確かにそのとおりな作品でした。

それと比較するとこの『ザ・ファイブ・ブラッズ』は忘れられがちな「色」にも手を伸ばし、その苦悩さえも拾う、極めて受容力の高い一作ではないでしょうか。“スパイク・リー”監督、さすがだなと感心するしかありません。

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「お前たちにポールは殺せない」

『ザ・ファイブ・ブラッズ』は金塊と遺骨を見つけてハッピーエンド…になるわけもありません。この手のジャンルにありがちな計画外のトラブルが襲います。

後半から現代の黒人が置かれているブラックコミュニティ内での分断というものが強調されます。勘違いされがちですが、今のアメリカは「白人」と「黒人」で2分されているわけではない。「排外主義」と「多様性尊重」という2つがぶつかっているという視点。

作中でそれを象徴するのが何と言ってもポールです。彼は「Make America Great Again(アメリカを再び偉大な国に )」と書かれたドナルド・トランプの赤い帽子をかぶり、実際に彼に投票もしたらしいトランプ支持者(作中でそれをいじる序盤のシーンが面白い;「背景のあれはお前だったのか」)。ベトナム人にも依然として敵意を向けるポールはまさに排外主義思想に染まった黒人の典型例です。ベトナムの武装した人からは「黒いアンクル・サム」と呼ばれていました。

ポールのような黒人はドキュメンタリー『ダリル・デイヴィス KKKと友情を築いた黒人ミュージシャン』でも映し出されていたように実際にいます。

本作の後半はエディが地雷で爆死したことを引き金にポールが暴走。「ボスは俺だ、ここを仕切る」と独断行動に出てヘディたちを拘束し、息子すらも切り捨てます。やがて孤立し、ポールは主に祈りを捧げるくらいしかできなくなり…。

しかし、本作ではポールを一面的に悪役にせず、そこに救いを与えます。ここでポールを救うのがやはりノーマンでした。「あれは事故だ、気にするな、お前を許す」と抱き合うあのシーンは“スパイク・リー”版『ブラックパンサー』です(“チャドウィック・ボーズマン”は闇に堕ちた黒人を救済するのが定番になってきたな…)。

そこにデローシュというトランプもどきのお出ましを終盤にちゃっかり入れるのが“スパイク・リー”監督的お茶目さもあって良いですね。それにしても“ジャン・レノ”のキャスティングが最高ですよね。これまでの映画でもトランプがモデルのキャラがいっぱい見てきたけど、今作の“ジャン・レノ”が一番好きかも…。

そして『ザ・ファイブ・ブラッズ』の場合はその融和が多様性へと拡張されていく。「Black Lives Matter」や「LAMB」といった人種の垣根を越えた未来を作る活動に。オーティスとティエンの娘のような新しい世代に。キング牧師を語った「いずれ私たちの祖国になるアメリカ」の具体像をチラ見せするように…。「5人のブラッズは死なない、増えるだけだ」…このセリフが効いてくる。ここまで物語を広げてくるともうね、“スパイク・リー”監督、さすがだなと(二度目)…。

テクニック面でも言いたいことはいっぱいあります。過去シーンでは画面サイズの横幅が狭くなり、16mmフィルム映像になる映画愛だとか(4人の俳優が過去シーンでもそのままなのは予算の都合上らしいです)。

ともかく“スパイク・リー”監督、またも傑作更新で最近は勢いが止まらないな、と。今の時代はより一層“スパイク・リー”監督を必要としていますね。

さあ、日本もNHKの一件で黒人差別が蔓延していることがあらためて世界に露呈しました。手始めにブラック・ムービーでも観ませんか?

『ザ・ファイブ・ブラッズ』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 91% Audience 70%
IMDb
6.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 9/10 ★★★★★★★★★
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関連作品紹介

黒人差別(Black Lives Matter)を題材にした映画の感想記事の一覧です。

・『ヘイト・ユー・ギブ』

・『黒い司法 0%からの奇跡』

作品ポスター・画像 (C)40 Acres and a Mule Filmworks, Netflix ザファイブブラッズ

以上、『ザ・ファイブ・ブラッズ』の感想でした。

Da 5 Bloods (2020) [Japanese Review] 『ザ・ファイブ・ブラッズ』考察・評価レビュー