ユーロビジョン歌合戦
Netflix映画『ユーロビジョン歌合戦 ファイア・サーガ物語』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Eurovision Song Contest: The Story of Fire Saga
製作国:アメリカ(2020年)
日本では劇場未公開:2020年にNetflixで配信
監督:デヴィッド・ドブキン

ユーロビジョン歌合戦 ファイア・サーガ物語

あらすじ

アイスランドの娯楽に乏しい田舎町で暮らす幼馴染のラーズとシグリットは世界に羽ばたくことを夢見るミュージシャン。そんな2人に世界最大級の音楽コンテストに出場する一世一代のチャンスが舞い込む。無謀とも思える野望を成し遂げるため、全身全霊で張り切りまくるが、そこには圧倒的パフォーマンスを発揮する各国の強力なライバルが存在していた。

『ユーロビジョン歌合戦 ファイア・サーガ物語』感想(ネタバレなし)

歌った気分でウイルスも撃退しよう!

「歌う」ということは、ストレス解消にもなるほかに、健康促進になって認知症予防にもなって、なんとまあ、良いこと尽くめです。ただ、最近はちょっと飛沫感染の防止の観点から人前で歌うことができない風潮がありますし、かといって家でひとりで歌うにしてもオンライン歌会みたいな感じで友達と歌い合うにしても近所迷惑になりかねないのでこれも難しい…(防音設備があるなら良いのですが)。まさかパンデミックが私たちから「歌う」ことをこうもあっさり奪うなんて思いもよりませんでしたね。これは業界の雇用のピンチなだけではない、人間のヘルスケアの危機です。

こうなったらもう歌っている気分になれる、アドレナリン全開で脳内コンサートに浸れる、そんな映画を観るしかないでしょう。いや、映画じゃなくてもいいのですけど、ここは映画感想ブログなのでね。無理やりにでも映画にこじつけていきますよ。

そんなこのご時世にぴったりな映画が本作『ユーロビジョン歌合戦 ファイア・サーガ物語』です。なんか紅白歌合戦みたいなタイトルですけど、あながち間違っていません。そんなものです(それでいいのか?)。

物語は「ユーロビジョン・ソング・コンテスト」を舞台にしています。これは日本では馴染みありませんが、実在するコンテストであり、欧州放送連合(EBU)加盟放送局によって毎年開催され、各国代表の選りすぐりのアーティストが出場し、楽曲パフォーマンスを盛大に披露し、最終的に投票で優勝を決めます。1956年に第1回大会が開かれており、もうご長寿番組なんですね。セリーヌ・ディオンはこの大会の優勝者であり、その後に大ブレイクしました。

イベント名に「ユーロ」とありますが、ヨーロッパだけではなく、欧州放送連合の正規加盟放送局であればいいだけなので、イスラエルやモロッコ、ロシアなんかも参加しています(残念ながら日本の参加は一度もなし)。実質、音楽のオリンピックみたいなものです。

Netflix配信である本作『ユーロビジョン歌合戦 ファイア・サーガ物語』もグローバルでお祭り気分な映画になっており、もしかしたら順調にいけば2020年7月に開催予定だった東京オリンピックに合わせようとしたかったのかも…と思わなくもないと考えたけど、当初は2020年5月リリース予定で実際のユーロビジョン開催期間に合わせようとしていたみたいです(コロナでダメになった)。

アイスランド代表に選出されてしまった田舎者男女が国際的な舞台で頑張る!というシンプルな話ですが、セットがやたらと豪華でユーロビジョン・ソング・コンテストに恥じないスケールになっているので、見ごたえも抜群。音楽パフォーマンスもやたらと気合入っているので普通に盛り上がってしまうはず。

そして何よりも本作の魅力は役者でしょう。主役は“ウィル・フェレル”“レイチェル・マクアダムス”なのです。もうこの二人があれやこれやしている姿を拝む映画と言ってもいい。“ウィル・フェレル”は毎度おなじみの平常運転ですが、“レイチェル・マクアダムス”は『ロニートとエスティ 彼女たちの選択』でシリアスな役柄をやったと思ったら、本作みたいにコメディではっちゃけているし、極端なふり幅のあるお茶目な人ですね。


他にも“ピアース・ブロスナン”がサラッと出てきて老いた姿でも普通にカッコいいし、ちょっと前まで野獣だった“ダン・スティーヴンス”が野獣の歌を引っ提げて誘惑してくるし、注目ポイントは無駄にたくさんある映画です。

監督は“デヴィッド・ドブキン”で、前作は『ジャッジ 裁かれる判事』(2014年)というシリアスな法廷ドラマ映画を手がけていたのですが、その前の監督作は『ウェディング・クラッシャーズ』(2005年)、『ブラザーサンタ』(2007年)、『チェンジ・アップ オレはどっちで、アイツもどっち!?』(2011年)などもっぱらコメディ畑の人です。ちなみに『ウェディング・クラッシャーズ』には“レイチェル・マクアダムス”が出演していたので今作もその縁なのかもしれないですね。

“デヴィッド・ドブキン”監督はキャリア初期はミュージックビデオに多数関わっていたそうなので、この『ユーロビジョン歌合戦 ファイア・サーガ物語』もそのときの経験がいかんなく発揮されまくっているのでしょう。

憂鬱な空気は本作で爆散させましょう。『ユーロビジョン歌合戦 ファイア・サーガ物語』はNetflixオリジナル作品として2020年6月26日から配信中です。

オススメ度のチェック
ひとり◯(俳優ファンは大満足)
友人◯(お気軽エンタメをどうぞ)
恋人◯(音楽と笑いで気分も上々)
キッズ◯(子どもでも楽しめる)

『ユーロビジョン歌合戦 ファイア・サーガ物語』予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『ユーロビジョン歌合戦 ファイア・サーガ物語』感想(ネタバレあり)

エルフ、やりすぎです

1974年4月6日、アイスランドのフーサヴィークという寂れた田舎町。ここにある家でひっそりと悲しみに暮れる家族がいました。最愛の母ミラを偲ぶ集まり。息子のラーズは酷く沈んでおり、リビングで揃う他の人たちに交じりません。

しかし、テレビにユーロビジョン・ソング・コンテストの模様が映り、ABBAが歌う姿が流れると、落ち込んでいたラーズはテレビの前で踊りだしました。それを見た口がきけない同年代の少女シグリットもノリノリで踊り、みんなで大笑い。悲しい雰囲気が和みます。けれども、ラーズは本気。「きっといつか優勝してやる」と意気込むのでした。それを父エリックは苦々しく呆れて見つめます。

ちなみにここでABBAが流れるのは本当にこの年のユーロビジョンでスウェーデン代表のABBAが「Waterloo」を歌って優勝したからです。主演している“ウィル・フェレル”の妻ヴィヴィカ・ポーリンはスウェーデン人で、“ウィル・フェレル”もその付き合いでユーロビジョンを知り、虜になったのだとか。なお、ここでエリックを演じるのが“ピアース・ブロスナン”ですが、彼はABBAの曲をフィーチャーしたミュージカル映画『マンマ・ミーア!』に出演しており、おそらく今作のキャスティングはそれありきのギャグでしょうね。

映画の物語に話を戻し、それから年月が経過。すっかり青年を通り越して中年になったラーズとシグリットは脳内妄想でMVを構築し、家の納屋で作曲に夢中。二人は今年のユーロビジョンのアイスランド代表予備選に参加する気満々です。二人は「ファイア・サーガ」というバンドを結成し、地元の小さいバーで歌っていました。

一方の父エリックは漁師の仕事もたいして儲からずに家を売ることにしていました。そして、自立しろと、いい年をして妻も子どももいない息子に嫌みをぶつけます。

ところかわって、アイスランド公共テレビでの会議。社長のニルス・ブロンガスは今年のアイスランド代表はカティアナというミュージシャンで決まりだとアイスランド初優勝を期待します。中央銀行総裁のヴィクトール・カールスソンは「優勝しても次の開催地としてのインフラがなくて破産する」と懸念を口にしますが、会議参加者はユーロビジョンにウキウキでした。でも予選には12組必要でしたが11組しか決まっていなかったので、ニルスはテキトーにCDの山から選ばせます。どうせ予選で勝つのはカティアナだろうし…。

ラーズは歓喜していました。予選に選ばれたとの通知が来たのです。シグリットは頑なに信じるエルフの家にこっそりお願いしに行きます。ユーロビジョンに行きたい、願わくばラーズと良い関係になりたい…。

バスで出発し、いざレイキャビークに到着。さっそく予選の審査が開始。カティアナが完璧な熱唱を見せる中、ファイア・サーガの出番。しかし、ラーズが宙づり状態からぶざまに落下し、笑い者になってしまいました。終了後の夜、僕のせいだと台無しだと悲しみにくれるラーズをシグリットは慰めてくれます。

みんなは船上パーティーで盛り上がっている…海に見える賑やかそうな船に目を向けると、その船が大爆発! 茫然とする二人の前にカティアナの腕が降ってきます。アイスランド最高のアーティストが全員死んだ…つまり他に人がいない…つまり自分たちが出場できる…。エルフがやりすぎたことに感謝(?)しつつも、大喜びの二人。

アイスランド公共テレビの一同は意気消沈しますが、他に選択肢はありません。ラーズとシグリットをユーロビジョン開催地のスコットランドのエジンバラに送り出しました。

現地で浮かれてはしゃぐ二人。シグリットはラーズへの想いをさりげなく示しますが、ラーズは恋愛はバンドを壊すと考えて躊躇。シグリットも「音楽に集中すべきよね」とその場は納得します。

テクニカルリハーサルの開始です。名演出家のサポートによって、ステージから火が噴き出たり、踊りの要素が追加されたりして、戸惑うシグリット。音楽リハーサルでは、これまた勝手にミックスでアレンジされて、やはり困惑するシグリット。しかし、ラーズは何が何でも優勝したいのでノリノリ。

そんな中、ロシア代表のアレクサンダー・レムトフからパーティーに誘われて参加し、各国の個性派なアーティストと打ち解け合う二人。しかし、二人の関係性には亀裂が入り始めていました。

無事、このアイスランドの問題カップルは歌い上げることができるのか…。

ユーロビジョン歌合戦

ロシア代表じゃなくて野獣代表

最初に言っておきますけど『ユーロビジョン歌合戦 ファイア・サーガ物語』はしょうもないストーリーですよ。脈絡もない低俗なノリで物語が進行するので、真面目な音楽映画を観ようと思ったら(そんな人がこの作品を選ぶのか?)、大いに失望します。

でもそういう映画ですからね、これ。しょうもなさを楽しむ作品です。

音楽パフォーマンスは実にバラエティ豊かでクオリティが高いです。そこは実在のイベントの威信もありますし、作り手も下手なことはできません。全力投球で音楽を盛り上げています。

その一方で真面目に音楽をやりつつも、その中におふざけをぶっこむのが本作のお約束パターン。

例えば、序盤でアイスランド代表本命と言われていたカティアナ。彼女を演じるのは“デミ・ロヴァート”というディズニーチャンネルでのブレイク勢のひとりですが、歌手アイドル活動で大きな人気を得ています。今作はそんな彼女を早々に爆死させるというブラックすぎるギャグをお見舞い。ちなみに“デミ・ロヴァート”の最初のアルバムのタイトルは「Don't Forget」だったのですけど、爆発四散しても忘れないよ…。

また、ロシア代表として物語にも絡んでくるレムトフ。演じる“ダン・スティーヴンス”、思いっきりイギリス人じゃないか!…という初手ツッコミ待ちとなっています。加えて、パーティーを主催して「be my guests」と言ったり、歌う曲が「Lion of Love」という獣要素全開(ロシア要素なし)だったり、明らかに“ダン・スティーヴンス”が主演した『美女と野獣』ネタありきのキャラ設定です。ちなみにレムトフの歌唱を担当しているのは、Erik Mjönesという方みたいですね。

作中のユーロビジョン出場者は実際にユーロビジョンに出場した歌手も多く、ゲスト枠のサプライズ登場になっています。イスラエルの“ネッタ・バルジライ”、ノルウェーの“アリャクサンドル・ルィバーク”、フランスの“ジェッシー・マタドール”、エストニアの“エリナ・ネチァエヴァ”、他多数。つまりあのパーティーシーンでのみんな大合唱は本当に貴重なパフォーマンスなんですね。ユーロビジョンのファンの人なんかは感涙ものなんじゃないだろうか。

一応言及しておくと、ギリシャ代表のミタ・クセナキスを演じた“メリサンティ・マフート”はギリシャ系カナダ人の女優です。彼女は「アサシンクリード オデッセイ」というTVゲームの主役の声を担当したりしているみたいですね。

とまあこんな感じで、凄いんだかアホなんだかわからないのが本作のクレイジーさ。ほんと、よくこんな映画を作ろうと思いますよ…。

いくつになっても笑い者になる

そのそうそうたるメンバーの中に混ざっているのが“ウィル・フェレル”と“レイチェル・マクアダムス”。ここが本作の最重要な出オチギャグです。

冒頭の妄想MV「ボルケーノ・マン」からして全力で笑わせてきます。


なお、“レイチェル・マクアダムス”の歌唱は本人の声ではありません。あれはMolly Sandénというスウェーデンの歌手が担当しています。

つまり、作中ではプロフェッショナルなアーティストの歌声が響き渡る中、“ウィル・フェレル”演じるラーズだけが“ウィル・フェレル”の声で歌っているわけで…。このずっこけ感。しかも、“ウィル・フェレル”もそんなにドヘタクソということもなく地味に上手いので、なんか互角に渡り合っているような錯覚になる。このシュールさですよ。

それにしても“ウィル・フェレル”、本当に凄いなと本作を観てあらためて思いました。もういい年だし、キャリアもじゅうぶんですから、第一線を退いてどっしり構えてもいいわけです。実際、本作でも製作にクレジットされているようにプロデューサー業もしています。

なのにいまだに誰よりも率先して体を張ろうとしている。そのコメディアン魂は素晴らしいな、と。どんなにキャリアを積んでも笑い者になり続けようとするって、並みの人にはできないことですからね。

本作でも変な格好をしたり、ハムスター状態になったり、頑張りすぎていました。ド派手な場面だけでなく、“ウィル・フェレル”がそこにいるだけでなんか面白いですからズルいですよね。

ラーズがエルフを信じていないという設定がありましたけど、“ウィル・フェレル”は過去に『エルフ 〜サンタの国からやってきた〜』(2003年)という映画でエルフに育てられた人間を演じているので、そこも踏まえた自虐ですかね。

個人的にはアメリカ人観光客への「壁でも作ってろよ!」の罵倒が楽しかったです。本作はユーロビジョンなのでアメリカは蚊帳の外にあるっていうのがユニークですね。まあ、でも“ウィル・フェレル”はアメリカ人ですけど…。

アイスランドを主役にしているのも滑稽さに味を加えることになっていて、こう言っては悪いですがイマイチ存在感の薄いアイスランドの必死のアピールが健気というか…。「ヤォヤォ・ディンドン」の曲でしか盛り上がらない地元とか、なんか可愛い。

コメディに関してちょっと気になったのは本作は下ネタを封印しているんですよね。結果、ラーズとシグリットの関係性が妙にいわゆるノーマルっぽくないように見えます。かといってLGBTQを意識したわけではないのかなと私は思いましたけど。まあ、たぶん実在のイベントを題材にする以上、そこまで倫理的にアウトなことはできないのでしょう。ああいうパーティーならありそうなドラッグ描写もないし…。それでも面白くできるのは“ウィル・フェレル”の才能です。

アイスランドに行ったときはエルフの機嫌を損ねないようにしたいと思います。

『ユーロビジョン歌合戦 ファイア・サーガ物語』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 57% Audience 82%
IMDb
6.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

関連作品紹介

おすすめ PiCKUP!
↑『エルフ サンタの国からやってきた』…こっちはウィル・フェレルがエルフとして育てられる話。
作品ポスター・画像 (C)Gary Sanchez Productions, Netflix 

以上、『ユーロビジョン歌合戦 ファイア・サーガ物語』の感想でした。