アイ・アム・マザー
Netflix映画『アイ・アム・マザー』(アイアムマザー)の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:I Am Mother
製作国:オーストラリア・アメリカ(2019年)
日本では劇場未公開:2019年にNetflixで配信
監督:グラント・スピュートリ

アイ・アム・マザー

あらすじ

人類の大量絶滅後、再増殖施設内でドロイドの母親に育てられているたった一人の少女。そこは設備の整った環境で、ドロイドの手厚い世話によって不自由なくスクスクと成長する。しかし、彼女の前で信じられない出来事が起こり、ずっと信じてきた世界が揺らぎ始める。

ネタバレなし感想

日本の未来の姿かな?

先日、厚生労働省が人口動態統計を発表し、2018年に日本で生まれた子どもの数(いわゆる「出生数」)が91万8397人で過去最低を更新したという、全く嬉しくない事実が明らかになりました。過去30年の出生数をグラフにしても綺麗な“右肩下がり”を示しており、着々と日本人は絶滅に向かって突き進んでいます。皮肉なことに核戦争とかなくともこのまま日本人は死に絶えるかもしれません。でも出生数が低いのは多くの人も納得のはず。なにせ子育てのしづらい国です。ベビーカーを電車に持ち込んだだけで厳しい目で見られ、公園では子どもが声をあげて遊ぶことは禁止され、保育士の給料は低く、ジェンダーへの差別や偏見も平然とまかり通っているわけですから。

そんな日本社会の未来の姿を予見するような映画…と言ったらさすがに言い過ぎですが、思わず重ねたくなる世界観設定のある作品が本作『アイ・アム・マザー』です。

舞台はどうやら人類はほぼ絶滅してしまったらしい地球。謎の閉鎖的施設でロボット(ドロイド)に育てられるひとりの人間の少女の物語。以上です。うん、これ以上は言えない。

はい、お察しととおり、ネタバレ厳禁なタイプのストーリーです。困るんだよなぁ、こういうの。ネタバレなしで感想とか語れないですよ…。

世界観や物語的には、『10 クローバーフィールド・レーン』と『エクス・マキナ』を掛け合わせたような作品だと言えば、イメージがつきやすいでしょうか(もちろんオチは同じではないですよ)。
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要するに「ここはどこ?」「あなたは信頼できるの?」系のサスペンス・スリラーが見どころです。

映画ではないですが、「Portal」というゲームと非常に通じるものがあり、作中でもオマージュ的な遊びもあったり、明らかに制作陣が意図していることを匂わせています。具体的にどこが「Portal」に似ているかを語りだすとガッツリとネタバレになるので言えないですが…。でも「Portal」を世界観にどっぷり浸かってプレイしたことのある人は“ああ、これね!”とわかってくれると思います。

まあ、タイトルが『アイ・アム・マザー』ですから、母や子育てがキーワードになるのは想像がつくと思いますが…。

とにかく予測不可能なストーリーにハラハラしますし、“これはきっとあの作品に近い流れになるのかな”と思わせて全然別の方向に物語が進んだり、“こいつは味方か敵か”と最後までわからなくしたり、良い意味で観客の期待を裏切ります

本作は、優れた脚本を選出する「ブラックリスト」に選ばれたひとつとのことで、ユニークなシナリオであることはじゅうぶん保証しましょう。

監督は“グラント・スピュートリ”という人で、これが長編映画デビュー作みたいですね。サンダンス映画祭で上映され、批評家評価も上々。今後に期待したい才能の登場でしょうか。ちなみに脚本は“マイケル・ロイド・グリーン”という人で、こちらも映画界での活躍はこれが目新しいです。

日本ではNetflixオリジナルで配信中。気軽に観れる映画なのでぜひどうぞ。

オススメ度のチェック
ひとり◎(SF好きは必見)
友人◎(物語の予想や考察で盛り上がる)
恋人◯(暇つぶし感覚で鑑賞可)
キッズ◯(やや難解かも)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

冒頭からの違和感

冒頭。テロップが表示されます。
場所は「再増殖施設(UNU-HWK-Repopulation Facility)」なるところ。
絶滅からの日数「1」。
施設内ヒト胎児「63000」。
ヒト居住者数「0」。
一体の人型二足歩行ドロイドが起動し、いくつもの保存された「胚」の中からメスのヒトの胚を取り上げ、人工子宮のような特殊な機械の中に入れ、まるで電子レンジで食べ物を温めるのを待つかのように、待機。しばらくすると胎児が成長。無事、産声をあげて産まれ、その赤ん坊を優しく抱くのでした。そこから少しずつ成長する少女と親であるドロイドの心温まるやりとりが、『ダンボ』の挿入歌「Baby mine」とともに、しっとり描かれます。「いつか大家族になる」…そう言葉をかけるドロイド。

そしてまたテロップ。
絶滅からの日数「13867」。
ヒト居住者数「1」。
ティーンの少女がベッドから目覚めます。先ほどの続きのように少し大人に成長した少女とドロイドの交流がまた描かれるわけですが、細かく観ている方はもうこの時点で「あれ?」と違和感に気づくはずです

絶滅からの日数が13867日…これは約38年です。冒頭で赤ん坊が産まれたときは、絶滅からの日数が1日と表示されていました。つまり、38年近くは経過しているはず。でも今、画面に映っているのは明らかにティーンの年齢に見える少女。どういうこと?

この謎は映画のラストのラストで明かされるわけですが、結構この序盤10分以内でいろいろな核心に迫る伏線のセリフ(「母も学習が必要よ」など)があり、このSF映画、侮れません。

母と女、どっちを信じる

とりあえずそれは置いておいて、平穏な日常を施設内で過ごす少女とドロイド。二人はそれぞれ「娘(Daughter)」「母(Mother)」と呼ばれており、固有の名前がないようです(まあ、二人しかいないので困らないのでしょうけど)。

その日常がある訪問者によって揺らいでいきます。エアロック周辺でネズミを発見し、気になった少女が夜中に施設外へとつながるエアロックに近づくと物音と声。外は汚染されて人などいないはず。でも明らかに「助けて」と言っている。そして扉を開けると大人の女性がひとり入ってきて、怪我をしているので治療させてくれと求めてくる。

ここから少女は“ドロイド”か“大人の女”か…どちらを信用すべきかで葛藤することになります。“ドロイド”は警戒しながらも来訪してきた“大人の女”を治療し、他に外に人がいるなら保護すべきと主張。一方の“大人の女”は自分は外にいるドロイドに攻撃されたと言い、あの少女が母と慕うドロイドも信用できないと頑なに拒否。

少女も観客も“どっちが本当のことを言っているんだ”と大混乱です。本作はこのスリルの見せ方が上手いですね。

そして、ドロイドは「(“大人の女”から摘出された)あの弾は彼女が持ってきて撃った銃の弾と一致した。つまりドロイドではなく人間に撃たれたものだ」と推測を告げ、少女は“大人の女”への不信感をMAXに。ところが“大人の女”は「自分の目で確かめたの?」とまたもや不安を煽る。

しょうがないので少女はひとり夜中にこっそり2つの弾丸を比較すると、弾は異なる形で…。しかも追い打ちをかけるようなショッキングな事実が。ドロイドの腕パーツを利用して胚保存場所のロックを解除して確認すると他の胎児も使われた痕跡があり、「APX02:失敗」とのデータも発見。自分は「APX03」と番号付けされていることを思いだし、最悪の事態を頭によぎらせながら、焼却灰を探ると中から人の骨が…。困惑、恐怖、絶望。パニックになる少女。

私が生まれる以前にもヒトを育てていたのか。そして死んでいるのか。

整理のつかないまま、今、生まれようとしている“弟”を守るべく、“大人の女”に助けを求める少女。緊迫した状況になり、ドロイドの攻撃的な対応から逃げるようにひとまず施設から脱出する少女と大人の女。

しかし、決断の時が迫っていたのでした。

外を出ると、初めての大地の感覚に驚いていると、上空を飛ぶ飛行機のような存在。なんと大規模なコーン畑の生産を展開しているようで、一体何が何やら。

そして“大人の女”は以前に語っていた人が集団で暮らしているという鉱山ではなく、海辺へ導きます。そこで聞かされる残酷な話。

少女は自分の意思で施設に戻ることに決めて、ついに現実に直面するのですが…。

アイ・アム・マザー

結論:母になるのは大変

『アイ・アム・マザー』は2つのオチがあります。

ひとつは実は“母”と呼んでいたドロイドは外にいる他の無数のドロイドとも意識を共有した巨大な存在だったこと。過去に子どもを殺したらしいことをほぼ告白したも同然のドロイドに対し、銃を向ける少女。それに対して熟考した後、何かに納得したように「さようなら、娘」と言って自らの急所に銃口を向けさせ、撃たれるドロイド。

この一つ目のオチを見るだけだと、恐怖のドロイドに支配される世界からの決別のような、人間が真の意味で立ち上がるラストに見えます。

一方でこの後にもうひとつオチが待っています。例の“大人の女”は実は砂浜のコンテナに犬と一緒にひとり寂しく住んでいたわけですが、ラストでそのコンテナにドロイドが来訪。「母を覚えている?」「なぜあなただけが生き延びてきたのか」と意味深な言葉をかけ、ここで役目は終わりだと言わんばかりの幕引き。

このシーンを見ると、前述したテロップの時間の矛盾は説明されます。あの“大人の女”はドロイドに育てられた一番最初の少女なのだと(年齢的にも一致しますし、TV番組にも見覚えがありましたし)。

以上のことを踏まえると、あの“大人の女”来訪からの怒涛のトラブル展開は全てドロイドを操る“大きな存在”の仕組んだことのようにも思えてきます。そもそも序盤に少女は倫理的な判断を問う臓器移植問題(1人を犠牲に5人救うか、5人を犠牲に1人を救うか)の講義を受けていました。そして、終盤でまさに倫理的な判断を迫られるわけです。これは「試験」だったのか。

では何のための試験か。それはもちろん「母になる」ため。

SF映画の面白いところは、極端にフィクショナルな世界観設定や物語を通して、私たちの身の回りに当たり前にある概念などの意味や価値を根源的に問い直して、考えさせてくれるところにあると私は思っています。

『アイ・アム・マザー』でいえば、どうして命は“母になる”という経過が必要なのだろうか…とか。“母になる”ってどうしたら達成できるのか…とか。ドロイドは「母も学習が必要」だと序盤で語っています。世の中には実際にたくさんの母親の方々がいますが、たぶんみんな悪戦苦闘しているはずです。場合によっては失敗することもあります。最悪の場合、ネグレクトなど事件化することだってあります。でもそれもまた“母になる”という無数の学習試験の繰り返しの結果…なのかもしれない。

『アイ・アム・マザー』は“母になる”という意味を非常に際立った視覚化で表現したスリリングでディープな映画でした。

ちなみに本作はオーストラリア映画なのですが、ドロイドの出来が非常に良いですよね。絶妙に感情の切れ端を感じさせるような動きとかもいいですし、あの緊急事態発生時にいきなりそれまでと異なる機敏さでダンダンダンと走るのがまたギョッとします。このドロイド、実物が作られており、撮影ではSFXとして活かされています。このドロイド製作を担当しているのが「Weta Workshop」というSFXでおなじみのニュージーランドの会社。これまで『ブレードランナー2049』や『アリータ バトル・エンジェル』のSFXも手がけている超有名どころです。同じく「Weta Digital」というVFXを手がけるこれまた有名企業もあり、こちらはアメコミ映画などを手がけています。なお社名の「weta」というのはニュージーランド固有のカマドウマみたいな昆虫のことで、社のロゴにもなっています(画像検索する際は虫嫌いの人はやめたほうがいいですよ)。ともあれ、近くに優れた会社があると映画のクオリティも上がるので良いものですね。

日本全国の母親の皆さん。あまり悩みすぎずに母親業をしてくださいね。ドロイドだって悩むみたいですから。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 90% Audience --%
IMDb
6.8 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

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↑『エクス・マキナ』…ある施設で出会った人間にそっくりなアンドロイドとの美しく危険な接触を描くアカデミー賞視覚効果賞受賞作。
作品ポスター・画像 (C)Penguin Empire