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『バズ・ライトイヤー』感想(ネタバレ)…バズ・ストーリーは無限の彼方へ

バズ・ライトイヤー

バズ・ストーリーは無限の彼方へ…映画『バズ・ライトイヤー』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Lightyear
製作国:アメリカ(2022年)
日本公開日:2022年7月1日
監督:アンガス・マクレーン

バズ・ライトイヤー

ばずらいといやー
バズ・ライトイヤー

『バズ・ライトイヤー』あらすじ

バズ・ライトイヤーは有能なスペース・レンジャーで、1200人の乗組員とともに居住可能な惑星を探していた。あるとき、とある惑星を探索する。しかし、そこは危険な場所だったことが判明し、なんとか逃げようと試みるも、バズの過剰な自信ゆえに大失敗。宇宙船は飛べなくなり、ここで暮らす他なくなる。それでもバズは諦めていなかった。相棒でもある猫型ロボットのソックとともに、全員を母星に帰還させるためのミッションに挑む。

『バズ・ライトイヤー』感想(ネタバレなし)

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今度はバズ・ストーリー!?

まだピクサーが何者でもなく、社会的にも認知されていなかった1980年代後半の話。

ピクサーは『ティン・トイ』という5分の短編CGアニメーションを制作しました。これが高評価を受け、ディズニーが着目。そのディズニーにプレゼンテーションする目的で『A Tin Toy Christmas』という30分程度のアニメーション作品を作ろうとします。

『ティン・トイ』はオモチャが主人公で、そのオモチャは意思を持って動きます。『A Tin Toy Christmas』では主人公のティニーというブリキ製の楽隊人形の目の前に、新しいブリキの人形が登場し、オモチャとしての立場を奪われてしまう…というお話でした。

この『A Tin Toy Christmas』は実現しませんでしたが、これがピクサーの記念すべき長編アニメーション映画の第1弾である『トイ・ストーリー』の雛形となります。主人公のオモチャがいて、新しいオモチャが登場して自分の人気が無くなることを危惧する…そういうジレンマです。

でもブリキの人形ではいささか魅力がない…。そこで製作陣が考え出したのがアクションフィギュア。子どもなら動く人形は好きなはず。そして宇宙飛行士のアクションフィギュアが考案され、それは「バズ・ライトイヤー」というキャラクターの誕生へと繋がります。

『トイ・ストーリー』のバズ・ライトイヤーは大人気キャラへと成長しました。1作目では自分をオモチャではなく本当のスペース・レンジャーだと誤解してしまっている、憎めないマヌケな存在。この時点でかなりメタ的な構造を持つキャラであり、自分とは何者かを考える、子ども向け作品にしてはかなり深い問いを投げかける存在でもあったり…。

その『トイ・ストーリー』シリーズは『トイ・ストーリー4』で終わり。この4作目は主人公のウッディを軸にした話であり、バズはサポートの役回り。シリーズはこれで終わりかと寂しさもありましたが、公開直後はピクサー側はまだシリーズを続けるかも…という微妙な匂わせをコメントしていました。

その答えはこれでした。本作『バズ・ライトイヤー』です。

原題は「Lightyear」。その名のとおり、バズを主人公にした新作スピンオフ映画です。

でも本作、ちょっと立ち位置が複雑というか、パっと説明しづらいものになっています。まずそもそも『トイ・ストーリー』シリーズの本筋であるオモチャの話ではないんですね。今回のバズはオモチャではなく生身の人間。つまり、バズ・ライトイヤーという実際のスペース・レンジャーが存在した…という体裁で世界観が作られており、王道なスペース・アクションムービーになっています。もともと『トイ・ストーリー』では作中世界観で公開されていたとある映画のキャラのオモチャがあのバズだったという設定なので、その映画を本当に映画にしました…みたいな。メタ構造が一周回って王道に帰ってきた感じだな…。

「トイ・ストーリー」ならぬ「バズ・ストーリー」ですね。

物語は先ほども言ったようにシンプルな宇宙冒険活劇なので、子どもでも大人でも楽しめる内容ですし、あのピクサーですから、映像のクオリティもじゅうぶん。

オリジナルの英語でのバズの声を演じるのは今回は“ティム・アレン”に代わって、『キャプテン・アメリカ』でおなじみの“クリス・エヴァンス”になりました。今度のバズは使命感と正義感がより強い性格なのでぴったりですね。

他には、歌手で『ハスラーズ』にも出ていた“キキ・パーマー”、『アーロと少年』を監督した“ピーター・ソーン”、“ジョシュ・ブローリン”の父親である“ジェームズ・ブローリン”、『スティーブン・ユニバース』でも声を担当した“ウゾ・アドゥーバ”、さらには“またお前か”な“タイカ・ワイティティ”

ピクサー映画は、『ソウルフル・ワールド』『あの夏のルカ』『私ときどきレッサーパンダ』と、このところコロナ禍のせいで3度連続の劇場公開断念(「Disney+(ディズニープラス)」配信)という憂き目にあっていましから、久しぶりに映画館に帰ってきたピクサーの勇姿。『バズ・ライトイヤー』に相応しい大役ではないでしょうか。

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『バズ・ライトイヤー』を観る前のQ&A

Q:『バズ・ライトイヤー』を観る前に観たほうがいい作品は?
A:とくにありません。『トイ・ストーリー』シリーズを1作も観たことがなくても平気です。

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:宇宙活劇が好きな人に
友人 3.5:キャラが好きな人同士で
恋人 3.5:ロマンス要素はあまりない
キッズ 4.0:子どもも安心なエンタメ
↓ここからネタバレが含まれます↓

『バズ・ライトイヤー』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):バズは果てしなく挑戦する

球体の宇宙船がとある星に着陸。降りてきたのはスペース・レンジャーのバズ・ライトイヤーです。彼は大勢のコールド・スリープにある者たちのために、居住可能な惑星を探し求めており、この星がいいのではと調査することにしたのでした。

地面は不安定…と、ひとりで恒星日誌として声を記録していくバズ。隣には仲間のアリーシャ・ホーソーンがおり、談笑しながら道を切り開いていきます。もうひとり新入メンバーのフェ…なんとかもいますが、名前を発音できません。

すると謎のツルのようなものが襲ってきて、虫のような群れも襲来。後ろを見ると宇宙船は傾いており、危機的な状況です。この惑星は危険でした。

急いで戻る一同。連携技で原住生物を倒していき、新入りが置いていかれているも、それも助けることに成功。アリーシャの援護もあってつるの包囲から脱出し、新入りを抱えてシップに滑り込みます。

まだ安心ではありません。発進準備。エンジン点火。操縦するバズは崖にぶつかりそうになるのでなんとか上昇。しかし、その自信は砕けます。船は真っ逆さまに墜落。

幸いにも無事でしたが、この星から出る術を失いました。バズは落ち込みます。

1年後、コロニーが建設され、相変わらずツルは不意に襲ってきますが、なんとか生活できるようになっていました。

バズも新たな目標に向かっています。それはハイパースペースの新しいエネルギーをテストするパイロットという大仕事。これが上手くいけばこの星を脱出できます。

今日はその打ち上げテスト。バズはひとりで宇宙船に乗り、宇宙空間へ。一定の軌道を飛んで戻ってくるという実験です。速度をどんどんあげ、ハイパースピードへ到達。途中でコントロールを失うも、脱出を指示するコンピューターを無視して、自分でその場で計算し、修正。強引な荒業でなんとかクリア。地上に戻ってきます。

激動の数分間でした。でも降りたはいいものの、なにかおかしいです。なんと4分のフライトの間にこの星では4年経っていたのです。アリーシャはキコと結婚していました。

部屋に戻ると、箱に猫型のコンパニオン・ロボットのソックスがおり、急に喋りかけてきます。

ここで投げ出すわけにはいかない。バズは自分の人生の時間を犠牲にすることも躊躇うつもりはありませんでした。ハイパースペース実験飛行を続けることにします。

また飛べばまた4年経過。アリーシャは妊娠しています。また飛べばまた4年経過。アリーシャは子どもを育てています。何度も何度も繰り返すと、帰るたびにアリーシャはどんどん老いた姿で出迎えてくれます。

そして何度目かの飛行実験の帰還後、アリーシャは迎えに来ません。部屋に行くと亡くなっていました。メッセージを残して…。

新しい司令官のバーンサイドは、コロニー施設にレーザーシールドを備えるので安心だと言い、もう飛行実験はしないつもりのようです。

これでは今までの自分の努力は何だったのか…。

バズは意を決して最後のフライトに独断で向かいますが…。

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予想以上に孤独な物語

『バズ・ライトイヤー』は鑑賞前には予想していなかった、極めて孤独な映画でした。

今作は序盤がすごく心に残りました。あのハイパースペース飛行実験のパートですね。

飛行実験をして帰ってくると、相対性理論に基づく時間の流れのズレが生じ、いわゆる「ウラシマ効果」によって、パイロットだけが時間から取り残されたような状態になってしまう。

それを淡々と繰り返してズレが大きくなっていく光景を見せるシーン。ここがすごく効果的で心に染みます。それをアリーシャの人生として映すのがいいですね。アリーシャは女性のパートナーと結婚していき、妊娠して、子どもができて、その子も大人に成長して、やがてアリーシャはこの世を去る。この一連のシーンは、ピクサーのレズビアン表象として以前から話題になっていた部分ですが、それも大事ですが、ちゃんと女性が妊娠・出産・育児を経験してもキャリアアップできているという部分も注目に値するんじゃないでしょうか。

とにかくバズだけ取り残される孤独が浮き彫りになる大切な場面でもあります。キャプテン・アメリカと境遇が似ていますけど、バズの場合は自ら進んでこの状況になっています。

その行動の背景には、そもそもこの星に居つくことになった原因が自分にあるという自責の念、そして使命を果たさねばというプレッシャーがあるのでしょう。

話し相手になる唯一の存在は猫型ロボットというのも哀愁があって…(麻酔吹き矢もでるし、バーナーもでる、超高性能だった)。

これまでバズは『トイ・ストーリー』ではヘンテコなキャラでした。顎がぽいんと丸くでっぱって紫のスヌードをしていてユーモラスな宇宙飛行士。しかし、この『バズ・ライトイヤー』ではびっくりするほどに困難の中で葛藤する男として描いています。これまでオモチャに過ぎなかった、すごくフィクショナルな前提のキャラクターに、ここまで生身のリアリティを与えて再構築できるというのは、さすがピクサーだなと思いました。

本作の監督の“アンガス・マクレーン”は『トイ・ストーリー2』の頃からストーリー・アーティストとして参加しており、ずっとピクサーの歴史を内部で見てきた人物。ピクサーの組織の顔触れも昔とは大幅に変わり、古いメンバーは引退したり、亡くなったりしています。そんな自身の立場とこのバズを重ね合わせているのかもしれませんね。

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まるでピクサーの組織の変化のように

『バズ・ライトイヤー』の中盤以降は、最終的に62年以上が経過し、命令無視で改良版のテストを決行した結果、なんとか成功するも帰ってみれば今度はザーグの支配下になっていた!というオチ。

この顛末は正直予想の範疇というか、『トイ・ストーリー』の頃からある宿敵のザーグの設定を持ってきているだけなので、まあ、普通の展開かなと思います。

ここでバズは新しい仲間と共にこの事態を打破するべくミッションに挑みます。つまり、孤独ではなくなり、バズがチームの中で成長するという方向になります。

これまでの『トイ・ストーリー』ではウッディという腐れ縁となる相棒が登場して、その交流によってバズが変わるわけですが、今回はそういう同じ立場の男友達的な存在ではなく、人種も年齢も異なるバラバラの人間たちに囲まれて自分も見つめ直す。ここも今のピクサーの姿を反映しているのではないでしょうか。

なにせ初期のピクサーはアニメーターや技術者はほぼ男ばかりだったからです。白人の同世代の男たちが寄り集まって作った小さなスタジオ。『トイ・ストーリー』はそんな男の子のオモチャの物語でした。土台からしてマチズモ的な空気があったわけです。

そんなある意味では男性要素の象徴ともいえるバズというキャラクターが多様性の中で新しい組織内での意義を見出していく。これはピクサーの組織哲学を反映してもいるストーリーなのではと解釈することはじゅうぶん可能だと思います。

敵となるザーグの正体がもうひとりのタイムラインの自分自身というのも、そう考えると意味深ですね。なんか男が自分の最悪バージョンと対峙することで己のマイナス面と向き合うというのは、『ドクター・ストレンジ マルチバース・オブ・マッドネス』でも見た風景なのですけど、ひとつの定型になってきていますね。

熟練のベテランである男性が、経験の浅いメンバーをその持ち前のロマンと信念と共に率いていくという構図は、『トップガン マーヴェリック』みたいだし…。

こうやって振り返ってみると、これらのアプローチは新時代の“男らしさ”ストーリーのテンプレとして今後も何度も作られまくるんだろうなと思います。

そういうトライ&エラーを繰り返すことでゴールを目指す。それこそこの『バズ・ライトイヤー』のハイパースペース飛行実験と同じ。ぐだぐだと文句を言うのではなく黙ってひたむきに己を叩き直す作業を続けなさい…というバズからの手本です。

無限の彼方はきっとその先にあります。

『バズ・ライトイヤー』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 75% Audience 85%
IMDb
5.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
6.0
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関連作品紹介

ピクサーの映画の感想記事です。

・『私ときどきレッサーパンダ』

・『あの夏のルカ』

・『ソウルフル・ワールド』

作品ポスター・画像 (C)2022 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

以上、『バズ・ライトイヤー』の感想でした。

Lightyear (2022) [Japanese Review] 『バズ・ライトイヤー』考察・評価レビュー