レディ・オア・ノット
映画『レディ・オア・ノット』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Ready or Not
製作国:アメリカ(2019年)
日本では劇場未公開:2020年にDVDスルー
監督:マット・ベティネッリ=オルピン、タイラー・ジレット

レディ・オア・ノット

あらすじ

大富豪一族に嫁ぐことになり、幸せの絶頂にいたグレース。だが、結婚式の日の夜、彼女はファミリーとして認めてもらうための伝統儀式に参加することになる。それは一族総出で行われるゲームだった。何をするかはそのときに決めるらしく、詳細もわからず今夜実施するゲームのカードをひくグレース。そこに書かれていたのは「かくれんぼ」。こうして血塗られた殺戮が始まる…。

『レディ・オア・ノット』感想(ネタバレなし)

ベスト・ウェディング映画

人生にイライラしたとき、そのストレスを解消する方法を人間はひとつやふたつ持っていないとやってけないですよね。たいていの人は「睡眠」「会話」「食事」が定番のストレス解消方法でしょう。私は言わずもがな「映画鑑賞」です。だいたい映画で8割くらいのストレスに対抗しているので、私は映画が無くなるとほぼ確実に病みます、ええ。

今回紹介する映画もとても鬱憤を吹き飛ばすのに丁度いい作品です。とくに結婚や家族に関する問題で心が荒れている方にはぴったりな一作でしょう。

それが本作『レディ・オア・ノット』

どういう映画なのか。まず主人公の女性が資産家の一家に嫁いでくることから始まります。「おカネ目当てに思われないかな?」「大丈夫だよ」なんて新婚夫婦で初々しい会話をしながら、名家の屋敷で式をあげ、夫の家族に迎え入れられます。ところが「ゲーム」をするのが一族の伝統であると言われ(その家はボードゲームで財を築いた)、なんか子どもっぽいけどまあ相手の家族の手前ここは妻として丁寧に振る舞おうとそのゲームに参加。この「ゲーム」をしないと家族の一員になれないらしく、拒否することもできません。しかし、ランダムに選ばれるゲームで自分が引き当てたのは「かくれんぼ」。大の大人がすることなのか…と思いつつ、しぶしぶ従って隠れる主人公。けれどもその裏では集まった夫の家族たちが粛々と銃やら斧やら武器の準備を始め…。そう、この結婚先の家族にはとんでもない狂気のしきたりがあったのです!

…という、これだけの短い導入部分を聞いてワクワクしたあなたはすぐにこの映画を「観る」のリストに加えてください。

要するにジャンルはマンハントな殺戮スリラーです。原題の「Ready or Not」はかくれんぼでよく使う「もういいかい?ま~だだよ」というフレーズの英語の一部ですね。

内容は非常に凄惨で、ハッキリ言ってグログロなスプラッター・ムービーです。残酷描写も容赦なくてんこ盛りで、倫理とか一切無視です。

でもどうですか、これがまた最高の爽快感が鑑賞後には残ります。個人的にはベスト・ウェディング映画にランクインする大満足度。もうぜひ結婚式を控える女性に観てほしい一作であり、なんならいっそのこと結婚式会場で上映してもいいくらいですよ。

批評家評価も高く、ただのジャンル映画と侮れません。単に悪趣味なだけでなく、映画としてもシナリオ・演出含めてよくできています。

こんな予想外の快作を生み出した監督が、“マット・ベティネッリ=オルピン”“タイラー・ジレット”のコンビ。『サウスバウンド』(2016年)などもっぱらホラージャンルを手がけてきた二人ですが、ここにきて『レディ・オア・ノット』で才能が開花しましたね。脚本の“ガイ・ビューシック”“R・クリストファー・マーフィー”の功績も大きいのかもしれません。

俳優陣は、血みどろヒロインを演じるのが“サマラ・ウィーヴィング”。出演作『ザ・ベビーシッター』などといい、なんか血しぶきと相性がいい女優なのだろうか。


他にもドラマ『The O.C.』でブレイクした“アダム・ブロディ”や『ANON アノン』の“マーク・オブライエン”、さらに“ヘンリー・ツェーニー”、“アンディ・マクダウェル”、“ニッキー・グァダーニ”、“メラニー・スクロファーノ”など。日本ではあまり知名度の高い人は揃っていませんが、そんなの気にならない強烈なインパクトをみんな残してくれます。

残念ながら日本では劇場未公開で、ウォルト・ディズニー・ジャパン(20世紀フォックスホームエンターテイメント)よりDVD&配信スルーで見られます。

吹き替えも用意されていますが、オススメは字幕で英語音声を堪能することです。もうとにかく名言(迷言)のオンパレードで耳が爆笑しますから。

オススメ度のチェック
ひとり◯(好きな人はドハマりする)
友人◎(話のネタにうってつけ)
恋人◎(結婚生活を再考したい)
キッズ△(もう少し成長したらね)

『レディ・オア・ノット』予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『レディ・オア・ノット』感想(ネタバレあり)

命懸けすぎる“かくれんぼ”

夜、照明で照らされた屋敷の中を走る二人の子ども。遊んでいるようには見えず、そのうちのひとりのダニエルはもうひとりを隠れさせます。するとわき腹から血を流す男が話しかけてきて、そのまま無残に矢で撃たれました。女性も別の者たちに連れ去られ、「ヘレン」の名を呼ぶも、自分もどこかへ引きずられてしまい…。

30年後。ひとりの女性が誓いの言葉を鏡の前でぶつぶつ呟いて練習しています。花嫁姿の白い衣装。でもときおり汚い言葉を混ぜ、タバコを吸う彼女は落ち着きがありません。そんなグレースル・ドマス家という名家の御曹司、アレックスと結婚することになっており、今日がその式の日。屋敷の窓から見える庭では式の準備で白い椅子が並べられています。

アレックスが入ってきて、グレースは「お義父様に嫌われている、お金目当てだと」と素直に不安をこぼしますが、夫は優しく受け止めてくれます。アレックスも家族を離れており、久々に戻ってきたようです。そこにアレックスの兄であるダニエルが入ってきてル・ドマス家の一員になることを歓迎してくれました。

外にて家族と来訪者が集まり、式が始まります。家主であるトニー、その妻でアレックスの母であるベッキー、トニーの姉のヘレン、ダニエルの妻のチャリティ。全員がどこか自分を値踏みしているようで、若干バツが悪いものの、グレースも夫の家族の手前、なるべくお上品に。「タバコは吸うの?」と聞かれても「吸いません」と嘘をつきます。

ひととおりの式を終え、グレースはアレックスと部屋のベッドで二人っきりになってイチャイチャしていると、ヘレンおばさんが不気味に立って見ているのに気づき、心臓が止まるくらいにびっくり。なんでも使用人用の通路が部屋中にあるらしいです。

そんな中、アレックスから深夜0時にゲームをするという、新しい家族を迎える時の恒例の通過儀式について聞かされます。この家はボードゲームで財を築いたそうで、確かに屋敷にはゲームが飾ってありました。これで正式な家族の一員になれると言われ、もちろんそれを望むグレースは納得。

屋敷にはトニーの娘であるエミリーとその夫のフィッチが遅れてやってきて、いよいよ一同が揃いました。

11時55分。なんか変な空気が漂う中、ある部屋にみんなで行きます。その部屋には銃がたくさんあり、狩猟で仕留めたであろう獲物のトロフィーも多数。

全員が席につくとトニーはこの家系の歴史を語り始めます。曾祖父はル・ベイルという人に出会い(名前からして人間ではなく悪魔なのでしょうね)、意気投合。そこでの謎を解けば融資すると言われ、その箱に無地のカードを入れ、ゲームが指示される仕組みになっているのだとか。

ゲームを決めるカードを引くのはグレースの役目だそうで、指示どおり引くと「かくれんぼ(Hide-and-Seek)」と書かれていました。普通の子どもがよくやる遊びです。しかし、周囲の一同の顔が固まります。ルールを守らねば…そう言って「隠れるのは新入りの君だ」と告げられ、屋敷内のどこに隠れてもいいので100秒後に見つけること、屋敷の監視カメラは切ってあること、夜明けまでに見つからなければいいということを教わります。きっとそこまで本気のかくれんぼではないだろうと内心は信じていませんでしたが、グレースは時間を知らせるレコードの曲が流れる中、隠れ場所を探します。

その頃、見つける側の一同は銃や斧、弓矢、ボウガンが配られ、“準備”をしていました。

食事を運ぶ昇降機に身を潜めたグレースは何も知りません。さすがにここでじっとしているのもバカらしいので出ると、合流したアレックスに隠れるように指示されます。そこで見てしまったのは頭を撃ち抜かれたメイドの亡骸(まだ生きている)。あ、これ…かくれんぼじゃない…。

そして聞かされたのは一族の伝統。君を殺さないと一族に災厄があると思っている…。花嫁狩りの幕開けです。

レディ・オア・ノット

殺しがヘタクソすぎる…

『レディ・オア・ノット』はアイディア自体はそこまで珍しいものではないです。オカルトじみた伝統行事の一環に巻き込まれ、マンハント状態になるのは定番中の定番。最近だと『ミッドサマー』だって広い意味ではそういう類の映画でした。

本作の場合はその“狩り”のテンポ感やバランスが何とも言えないほどよさで、なんだか味があります。

まずこのル・ドマス家。狂気の伝統を受け継ぐとんでもない一家だったわけですが、別に毎年やっているわけでもないですし、家族メンバーは基本は普通の人なので、ゲームに対して絶妙に慣れていないのがいいですね。

最初に家族一番のドジっ子傾向があるエミリーが盛大に誤射してメイドのクララを撃ち抜いてしまい、一同、どうしよう状態。フィッチはボウガンの使い方がわからずネット動画で調べ出すし、そのボウガンをまたも失敗娘のエミリーが誤射して別のメイドを殺してしまうし、酷いありさまです。

なぜか一番の高齢で女性であるヘレンにというパワーウェポンを持たせているのも謎ですが…(たぶん持ち武器なんだろうな…)。

結局、グレースを仕留められないことに焦り、監視カメラを利用しようという話に。この一家はそもそも伝統を死守するからこんなことをしているのですが、ここで伝統に対する一族の雑なスタンスが露呈し、ますます“この家族、大丈夫なのか”というダメダメ感が…。終盤でもこの家族がイマイチ確信を持たずに伝統に盲目的に従っているだけなのもわかりますし…。

執事のスティーヴンスも妙に張り切っているわりにはヘマをやらかします。あの音楽オチが毎度入るのがシュールです。なんとなくあの執事はこういう殺戮が好きでこの家族に仕える人生を選んだ、わりとサイコパスなんだろうな…と想像がつきますよね。

このグダグダさ。要するにこの家族、マンハントがヘタクソすぎるんですね。ゲームで資産を築いたくせにゲームがど下手というのも笑ってしまいますけど…。

こうして悪役となる家族が揃いも揃って隙がある感じが、従来の最凶の殺人鬼が襲ってくるようなスリラーとは一線を画すところであり、倫理的にもクソ人間の集まりなのになんだか愛着を感じてきてしまいます。本作は殺しがヘタクソなマンハント・スリラー映画なのです。史上まれに見る不器用さですよ。

そんな家族もあげくに謎の悪魔儀式を始め、毒のせいで盛大に吐き芸を披露した後、気持ちよく爆散するという、これ以上ない清々しい退場をします。だいたい悪役が派手に血しぶきをまき散らして爆死する映画は名作です(個人の感想)。

一夜で離婚するのも悪くない

一方、そのお騒がせでは済まない相手方の家族に酷い目に遭わされることになる主人公のグレース。

作中ではとにかく踏んだり蹴ったりで、その可哀想な追い込まれ方がそれもまた面白おかしく…。演じた“サマラ・ウィーヴィング”のベストアクトはこれで決まりなんじゃないか。

逃げるだけじゃダメだと、銃を手にして“ランボー”スタイルになるも(ここで鏡で自分を見て“これはないな”と自虐的に呆れるのがいい)、銃は展示用で役ただず。そうこうしているうちに子どものジョージに手のひらを貫通する発砲を不意にぶちかまされ、重体。死体置き場に落っこち、片手で這い上がるも今度は釘にぶっ刺さり、激痛に絶句。柵を通り抜ける際は体にえぐる傷ができて、これもまた痛い。さらには執事に捕まり、車で運ばれる中、車は事故を起こしてドンガラガッシャン。

いや~、結婚1日目でこのハードさはなかなかない…(当たり前です)。

何度か「これは勝ったな!」と思える安堵感もあるのですけど、そのたびに追い打ちがお見舞いされるのがなんとも悪運。あの車の緊急ボタンがクソの役にも立たないシーンは個人的に好き。

そんな中、地味に演出が上手いなと思うのが、あのグレースの着ている花嫁姿の白いドレスが、展開が進むにつれて意外に役立っていく構成。手の傷を応急手当する布になったり、帯が執事の首を絞める凶器になったり…。嫁いだばかりの女が持っている自分の所有物は花嫁衣装だけ…という皮肉な状況を上手く活かしており、このへんにアイディアの勝ちどころがあります。

グレースのキャラも良くて、最初は精一杯に夫の家族の前で“上品さ”を出そうとしているも、ある瞬間に吹っ切れていく感じが最高すぎます。とくに悪態のつき方です。

ともかくこれでもかと「fuck」を連発し、「Fuck your fucking family!」とか本作をワンフレーズで表した名言も言ってくれます。子ども相手でも容赦なくボロクソに暴言を浴びせます。通りすがりの車が助けてくれなかったときの「What the fuck is wrong with you, you fucking asshole piece of shit little tiny dick licker fucking asshole fucking die!(+声にならない絶叫)」は「fuck」という単語の最大活用を見せてくれてもう酷さの閾値を超えてしまっている感じが哀れ…。

何度も言いますがグレースは別に戦闘のプロではないです。これが彼女が実は卓越した戦闘スキルの持ち主だったら別ジャンルの映画になってしまうのですが、そうではない。何もない主人公だからこそ悪態しか言えない。この切実さが映画のユーモアを醸し出す味でもあって…。

本作はありていに言えば、女性が保守的な家庭に絶縁を突きつける話。そういう意味では誤解を恐れずにあえて並べるなら『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』とテーマは同じと言っても過言ではない(そういうことにしよう)。女の幸せはやっぱり結婚じゃない、金持ち家族に嫁ぐことではない、少なくとも私には。そういう映画です。


結局はクソ家庭を捨てられないアレックスに「離婚して」と指輪を返し、燃え上がる屋敷をバックに警察に事情を聞かれて「In-laws」とタバコをふかして呟くグレース。これほど清々しいウェディング映画はあっただろうか。

グレースはなぜ爆死しなかったのかを考えると、私の推察ではおそらくグレースは一族に心の底から同調することはなく、同化しなかったからなんだろうな、と。まあ、あれです、頑張ったね!っていう努力特典です。

一夜で離婚するのも悪くないですよ。

『レディ・オア・ノット』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 88% Audience 78%
IMDb
6.8 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★★

関連作品紹介

酷い目に遭った女性が復讐をしていく映画の感想記事の一覧です。

・『REVENGE リベンジ』


作品ポスター・画像 (C)Disney, Fox Searchlight Pictures レディオアノット

以上、『レディ・オア・ノット』の感想でした。