SANJU サンジュ
映画『SANJU サンジュ』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Sanju 
製作国:インド(2018年)
日本公開日:2019年6月15日
監督:ラージクマール・ヒラーニ

SANJU サンジュ

あらすじ

父は名監督、母は大女優というインド映画界の寵児として生まれたサンジャイ・ダットは、若くして主演デビューを飾ると大ヒットを連発し、瞬く間にトップスターへとのぼり詰めていく。しかし、その裏ではドラッグに溺れ、さらには母親の死や恋人との別れ、銃の不法所持による逮捕、果てはテロ関与の冤罪など、次々と悲劇や試練に見舞われる。

ネタバレなし感想

インド映画業界の裏側に迫る

いろいろな国の「歴代映画興行収入ランキングTOP10」を見ていくと、その国の特色がハッキリ現れていて面白いものです。

例えば、日本はこんな感じ(現時点)。
1位:『千と千尋の神隠し』(日本、2001年、308.0億円)
2位:『タイタニック』(アメリカ、1998年、262.0億円)
3位:『アナと雪の女王』(アメリカ、2014年、255.0億円)
4位:『君の名は。』(日本、2016年、250.3億円)
5位:『ハリー・ポッターと賢者の石』(アメリカ、2001年、203.0億円)
6位:『ハウルの動く城』(日本、2004年、196.0億円)
7位:『もののけ姫』(日本、1997年、193.0億円)
8位:『踊る大捜査線 THE MOVIE 2』(日本、2003年、173.5億円)
9位:『ハリー・ポッターと秘密の部屋』(アメリカ、2002年、173.0億円)
10位:『アバター』(アメリカ、2010年、156.0億円)
いかにも日本らしいですよね(アニメが強いあたりとか)。

ではここで本題のインドの「歴代映画興行収入ランキングTOP10」をご覧ください。
1位:『Baahubali 2: The Conclusion』(インド、2017年、₹1429.83 crore)
2位:『2.0』(インド、2018年、₹565 crore)
3位:『Dangal』(インド、2016年、₹562.52 crore)
4位:『Baahubali: The Beginning』(インド、2015年、₹516 crore)
5位:『Avengers: Endgame 』(アメリカ、2019年、₹454.28 crore)
6位:『Bajrangi Bhaijaan』(インド、2015年、₹444.92 crore)
7位:『Tiger Zinda Hai』(インド、2017年、₹434.82 crore)
8位:『Sanju』(インド、2018年、₹430.84 crore)
9位:『Sultan』(インド、2016年、₹421.25 crore)
10位:『Padmaavat』(インド、2018年、₹387.31 crore)
もう日本との違いは一目瞭然(というか違いすぎる)。まず特筆すべきは自国映画の強さ。ほぼインド映画が占めています(『アベンジャーズ エンドゲーム』の健闘が逆に際立ちますが)。そして、最近の公開映画が多いのがおわかりいただけるでしょうか。2018年なんて3作もランクインしています。つまり、インド映画市場は桁外れの勢いがあるという証左です。日本に例えるなら『君の名は。』級の特大ヒット作が1年に3本も現れているようなものですからね。ほんと、言葉を失うほど凄まじいです。

今回、紹介する『SANJU サンジュ』というインド映画は現時点でインドの「歴代映画興行収入ランキングTOP10」で8位に記録されている作品ですが、実はそれ以上に今のインド映画業界の発展を見つめるうえでも、歴史的・批評的にとても価値のある映画でもあります。

まず『SANJU サンジュ』の監督なのですが、“ラージクマール・ヒラーニ”という人物です。この人がインド映画の興隆に欠かせない役割を果たしたんですね。2003年に『Munna Bhai M.B.B.S.』という映画で監督デビューを果たすのですが、以降、作り続ける作品は大ヒット連発。2009年の『きっと、うまくいく』は日本でも映画ファンの間で話題になり、インド映画の認知を広めるきっかけになりました。続く2014年の『PK』も世界中の観客の心を掴みました。
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“ラージクマール・ヒラーニ”監督作の特徴というか、ひとつの発明は“欠点はあれど純真な主人公が物語を引っ張る”という主軸を元に、インドに蔓延る社会問題をエンタメ的な軽やかさで語るというバランス感覚です。『Munna Bhai M.B.B.S.』は医療、『きっと、うまくいく』は教育、『PK』は宗教…こんな風に一筋縄ではいかない重いテーマを裏では内包しています。今やインド映画ではこの“ラージクマール・ヒラーニ”監督流のアプローチを意識した映画がいっぱい作られるようになりました。

で、その“ラージクマール・ヒラーニ”監督の最新作『SANJU サンジュ』では、これまでとはかなり異なる題材をチョイスしました。それが「サンジャイ・ダット」というインドでは超有名な俳優。彼はインド映画に貢献したキャリアもありながら、その一方でさまざまなスキャンダルも話題で、社会的な評価がグレーになっている問題俳優でした。実は“ラージクマール・ヒラーニ”監督は自身のデビュー作『Munna Bhai M.B.B.S.』でサンジャイ・ダットを主演に起用しており、深い付き合いがあります。要するにかなり私的な想いのこもった伝記映画なんですね。

そんな『SANJU サンジュ』ではインド映画業界の“綺麗事ではない”裏側が見えてくるという、アンダーグラウンドな作品になっています。なので『きっと、うまくいく』や『PK』のようなとにかく明るい痛快なエンタメを期待すると面食らうと思います。

ただ伝記映画といっても結構フィクションを混ざているので、これで真実がわかるわけでもないです。だから評価が難しいですよね。加えてインドの人たちは“あのサンジャイ・ダットの伝記か!”と有名人題材にテンションMAXでしょうけど、私たち日本人の大半は“誰?”状態ですから。この点においても気持ちの高まりに明白な差があります。

それでも先ほどから書いているように、今のインド映画の礎を作った監督と俳優の巨大な二人が関係するともなれば、見る価値はじゅうぶん。そろそろ歌って踊るだけという表面的な理解ではない、インド映画の裏も知ってみたくはありませんか?

オススメ度のチェック
ひとり◯(インド映画ファンは必見)
友人◯(インド映画好き同士で)
恋人◯(恋愛要素はメインではないけど)
キッズ△(薬物など大人向けの要素が多め)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

インドでも薬物問題は深刻

『SANJU サンジュ』というタイトルは俳優「サンジャイ・ダット」のあだ名ですが、その名のとおり、彼の伝記が語られていきます。ちなみにどうでもいい小話ですが、「Sanju」とGoogle翻訳で和訳すると「三重県」と表示されるのですけど…まあ、わかるけれども、どうなんだ、Googleさん…。

話を戻して、物語は、中年のサンジャイが“ある罪”で裁判所の評決を待っている時代から始まります。サンジャイは妻マーニヤターとともに自分の伝記を書いてもらうことに決め、伝記作家のウィニー・ディアズという女性に話を持っていきます。このウィニーというキャラが本作における観客と同じ立場にいる“客観視する存在”です(演じているのは『PK』でヒロインを演じた“アヌシュカ・シャルマ”)。

つまり、本作は伝記を書こうとするウィニーがサンジャイの過去を探っていくという構成で進む“伝記映画”なので、ものすご~くメタ的です(二重の伝記がある)。結果、伝記を紡ぎ出すという作業がダブルで折り重なるので、信憑性が普通の伝記映画よりもグッと下がる作りなんですね。でも、こうすることで堂々と架空の人物を登場させたりして、大胆なこともしているので、これは監督の確信犯的な演出なのでしょう。

そして物語は大きく分けて「プロローグ、前半、後半、エピローグ」と4つの構成になっており、非常にわかりやすいです。

ウィニーが伝記を書くと決めるまでがプロローグで、そこからサンジャイの若かりしキャリア初期の頃が描かれていきます。この前半パートのメインは、酒、女、ドラッグと落ちぶれていくサンジャイがどう立ち直るかという部分。とくに薬物問題ですね。

最近も『ビューティフル・ボーイ』や『ベン・イズ・バック』などドラッグに苦しむ人の更生の辛さをシリアスに描いた映画をいくつも観たばかりですが、まさかインド映画でそれを見ることになるとは。さすがのインド映画でも薬物の怖さをおちゃらけた感じには扱えないのか、作中でもインド映画らしからぬ痛々しいリアルさが目立っていました。サンジャイも可哀想ですが、彼の恋人のルビーの境遇も本当に虚しいですよね(演じているのは『パッドマン 5億人の女性を救った男』の“ソーナム・カプール”で、ガラッと変わって男に不幸にされる役回りなので、余計に)。
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あと、このパートでは、インド映画なのに舞台の多くがアメリカになっているのが新鮮でした。

テロ事件の補足解説

後半パートでは、薬物依存を克服したのも束の間、俳優キャリアも順調の中でサンジャイに降りかかったテロ事件の疑惑がメインになります。

まずこのムンバイ連続爆弾テロ事件について補足が必要だと思います。日本人には認知度が低いですし、私もあれこれ調べました(本作の日本の公式サイトがないのが残念)。ムンバイではこれまでもいくつもテロ事件が起きているのですが、『SANJU サンジュ』に出てくるのが1993年3月12日に起きた事件。市内13ヵ所で連続爆弾テロが発生するという大規模なもので、証券取引所、大企業ビル、高級ホテル、パスポートオフィス、政党事務所などあらゆる重要施設が突然に次々と爆破されたため、大パニック。これにより257人の命が奪われ、713人が負傷するというかつてない大惨事となり、インド中に衝撃を与えました。

このテロ事件の首謀者として捜査線にあがったのがあるムスリム系のギャング組織で、そのままパキスタンとの関連性も疑われていきます。

そもそもなぜこんな事件が起こったのかというと、事の発端は前年の1992年。モスクが一部のヒンドゥー教徒の暴走によって破壊されるという出来事が発生。インドにおけるヒンドゥー教とイスラム教の対立は『バジュランギおじさんと、小さな迷子』でも描かれているとおり、国の成り立ちにも関係する根深いものです。
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このモスク破壊騒動が引き金となり、ヒンドゥー教徒とムスリム間の緊張は一気に高まり、インド各地で暴動が頻発するようになったのでした。そしてこの暴動の被害者の多くがムスリムだったそうです。

つまり、1993年のムンバイ連続爆弾テロ事件は完全な報復の連鎖の結果なんですね。

じゃあ、なぜサンジャイが逮捕されたのか。作中でも説明はありましたが、もう一度解説も加えながら整理すると、要するにこういうこと。

サンジャイの父スニールはヒンドゥー教徒なのですが、政治家として一連の暴動で被害に遭っていたムスリムを助ける活動をしていました(ちなみに母ナルギスはムスリム)。そのせいで一部の反ムスリム勢力の反感を買い、脅迫を受けるように。そこで不安を感じたのでサンジャイは例のムスリム系のギャング組織から銃を手に入れていて…で、テロとの関連を疑われたと。

普通であれば日本でいう銃刀法違反で懲役5年くらいでよいのですが(でも自衛にしてもAK56アサルトライフルはオーバーですよね…)、テロ対策法の適用で非常に重い刑に。結果、仮釈放・再収監を繰り返し、ラストでは銃の不法所持の罪だけで結局は収監された後、模範囚として出所。やっと解放されるという、宗教対立に巻き込まれたとんでもなく不運な人生なのでした。

やはりインドでは俳優といえど、社会的な紛争とは切っても切り離せないのでしょうね。

SANJU サンジュ

伝記映画はやっぱり面白い

このようにこれまでのインド映画大作ではありえない裏世界を見せてくれる『SANJU サンジュ』であり、それだけでもじゅうぶんに評価に値するとは思うのですが、欠点もあります。

それは二重伝記によってサンジャイの実人生をあまりに単純化しすぎだということ。

とくにそれを象徴するのが二人の架空の人物…カムレーシュズービンです。

カムレーシュはサンジャイの大切な親友として登場しますが、前半パートでは『ピノキオ』でいうところの「ジミニー(良心)」の役割を果たし、薬物など負の沼にハマる彼を救いだそうと努力します。そして後半パートでは、テロに関与した疑惑をかけられたサンジャイを疑う立場という、サンジャイを信頼しきれない側の気持ちを代弁する役となります。

一方、ズービンは麻薬の売人であり、伝記を作ることも妨害したりと、端的に言えばヴィランです。

この二人の設定は確かに物語をわかりやすくするのですが、それでいいのかという疑問も。例えば、前半のドラッグ問題も最終的には“売人が悪い”という悪を懲らしめて一件落着的なオチに傾きすぎです。昨今は複雑で善悪では片づけられないドラッグ問題に深く切り込む映画があるわけで、さすがにそれらと比較すると『SANJU サンジュ』のこれは安直すぎるかなと。
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後半パートでも、サンジャイを疑う側の人たちの立場をカムレーシュに集約させて、“疑うのはもうやめよう”と物語の流れで仲直りさせるくだりは、ちょっと押しつけがましいと思う人もいるでしょうね。全体的にどうしてもひたすらサンジャイに都合がいいです。

もちろんこれは“ラージクマール・ヒラーニ”監督にとっての旧友への想いの強さなのでしょうが、プライベートな気持ちが出すぎたかな。

でもだからこそ面白くなっている部分もあります。例えば、作中で映画業界裏話が見られるところとか。前半パート始めにサンジャイの実際のデビュー作『Rocky』のワンシーンが撮影メイキング的に再現されているのも、ファンにはたまらないサービスでしょう。また“ラージクマール・ヒラーニ”監督とサンジャイの出会いの場である『Munna Bhai M.B.B.S.』の脚本が最初サンジャイにけなされているのも最高の自虐。他にも映画関係で働く両親のもとで育ったからこそのサンジャイの私生活も興味深いものでした(両親が海外の映画ネタを持ち出すのも“らしい”です)。

こうやって見ると、伝記映画って面白いなと痛感。サンジャイ・ダットという俳優を知れただけでも大収穫でした。

日本映画界も芸能人の伝記映画をいっぱい作ればいいのに。SMAPの伝記映画とか、作ったら絶対に大ヒットしますよ。せっかくある金鉱脈を見て見ぬふりをしている日本映画界、遠慮を捨ててこれに手を出せば、日本の「歴代映画興行収入ランキングTOP10」も激変するかもしれないのになぁ。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 38% Audience 79%
IMDb
7.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

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作品ポスター・画像 (C)RH Films LLP, 2018