感想は2000作品以上! 検索はメニューからどうぞ。

ドラマ『クラウデッド・ルーム』感想(ネタバレ)…同情が視聴者の心を守る

クラウデッド・ルーム

でもそれでいいのだろうか…「Apple TV+」ドラマシリーズ『クラウデッド・ルーム』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:The Crowded Room
製作国:アメリカ(2023年)
シーズン1:2023年にApple TV+で配信
原案:アキヴァ・ゴールズマン
性暴力描写 自死・自傷描写 DV-家庭内暴力-描写 児童虐待描写 人種差別描写 性描写 恋愛描写

クラウデッド・ルーム

くらうでっどるーむ
クラウデッド・ルーム

『クラウデッド・ルーム』あらすじ

1979年、ニューヨークの都会のど真ん中で白昼堂々と拳銃を連続で撃つという事件が起き、現場にいたダニー・サリバンという若い男性が逮捕される。警察はこの拘束したダニーの語るこれまでの自分の人生があまりにも脈絡なく怪しいので、ライア・グッドウィンという女性に面談してもらい、もっと情報を得ることにする。こうしてダニーはライアの前で過去を語りだすが、それは想像を超える複雑さを抱えていた。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『クラウデッド・ルーム』の感想です。

『クラウデッド・ルーム』感想(ネタバレなし)

スポンサーリンク

トム・ホランドが何より大変だった

みんな親戚のように見守っている「トムホ」こと“トム・ホランド”を今回も温かく囲む時間がやってきました。

と言っても、“トム・ホランド”ももう2023年で27歳なのですけどね。見守ってあげる年齢ではないけど、それでも過保護なファンなのです。

その“トム・ホランド”ですが、アメリカの大作映画への出演が目立つせいか、忘れてしまいそうになりますが、イギリス人です。ロンドンのキングストン・アポン・テムズ区生まれで、生粋の英国人。

当然、もともとイギリス英語訛りで喋るのですが、ハリウッド進出の際はすごく頑張ってアメリカ英語訛りを会得したそうです。なので演技面では“トム・ホランド”は2つの顔を使い分けていることになります。

10代から演技の器用な才能を披露していましたが、こういう言語ひとつとっても本人には大変だったりします。

その“トム・ホランド”がたぶんキャリアの中で最も過酷な演技を要求されたのではないかなと思われる作品が2023年に公開されました。

それが本作『クラウデッド・ルーム』です。

原題は「The Crowded Room」で、「混み合った部屋」という意味ですが、どういうことなのかは観ればわかります。本作、ネタバレはしてはいけないタイプのやつなので言葉を慎重に選ばないといけませんね。

実は着想元になった原作があるのですが、そのタイトルを言ってしまうともろに核心的なネタバレを踏むので書けないという、ネタバレ無しで紹介するには困ったドラマなのです。でも、その原作名は本作のオープニング・クレジットで普通に表示されるんですけどね…。

とにかくまず特徴として言えるのは、“トム・ホランド”主演作のドラマシリーズとして珍しい中、さらに“トム・ホランド”が非常に多彩で繊細な演技を次々と披露しているということです。『スパイダーマン』シリーズから少し離れた最近の“トム・ホランド”は、『悪魔はいつもそこに』『チェリー』などヒーロー的なイメージからガラっと変わった役柄に積極的に挑戦している感じですが、今回の『クラウデッド・ルーム』が一番大変そうです。

実際、本作配信後、“トム・ホランド”はメンタル的に負担が重かったので一時的に俳優業を小休憩すると発表しているくらいですから、本当に大変だったのだと思われます。『クラウデッド・ルーム』を観れば「これは休みたくもなるよな…」と納得ですが…。

『クラウデッド・ルーム』はひとりの青年が犯罪を起こし、逮捕されて、その人生について語り始めるところから始まります。犯罪ドラマでありつつ、心理サスペンスであり、ケアのドラマにもなっている…そんな受け取り方でいいのかな、と。

ドラマ化における原案は、『ビューティフル・マインド』の脚本家で、『ニューヨーク 冬物語』で監督デビューした“アキヴァ・ゴールズマン”です。

『シークレット・オブ・モンスター』『ポップスター』“ブラディ・コーベット”などがエピソード監督を務めています。

“トム・ホランド”と共演するのは、ドラマ『ドロップアウト シリコンバレーを騙した女』“アマンダ・サイフリッド”『アメリカン・ハニー』“サッシャ・レイン”、ドラマ『シェイムレス 俺たちに恥はない』“エミー・ロッサム”、ドラマ『The Sinner -隠された理由-』“クリストファー・アボット”『対峙』“ジェイソン・アイザックス”など。

『クラウデッド・ルーム』は「Apple TV+」で独占配信中。全10話(1話あたり約40~56分)でボリュームがあるので、時間があるときじっくり観ていくのがいいと思います。物語自体はとてもスローペースで、核心がわかるのは後半になってからです。

ただ、本作は児童に対する性的虐待を扱った作品でもあります。直接的描写はありませんが、登場人物が苦しんでいる辛いシーンが比較的多いので、そのあたりはじゅうぶんに留意してください。

スポンサーリンク

『クラウデッド・ルーム』を観る前のQ&A

✔『クラウデッド・ルーム』の見どころ
★俳優陣の名演。
✔『クラウデッド・ルーム』の欠点
☆題材に対してややジャンル的すぎる部分も否めない。

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:話が気に入りそうなら
友人 3.5:俳優ファン同士で
恋人 3.5:ロマンス要素は少しある
キッズ 2.0:児童虐待の描写あり
スポンサーリンク

『クラウデッド・ルーム』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『クラウデッド・ルーム』感想(ネタバレあり)

スポンサーリンク

あらすじ(序盤):周囲のあの人たちはどこへ?

ニューヨークの地下鉄。ダニー・サリバンという青年は小さな紙袋を抱えて、ひとりの女性と一緒に電車を降ります。「あなたはやる必要はない」と言われても、覚悟を決めたような神妙な面持ちで摩天楼に立つダニー。そして、ある人物を見かけて追跡を開始。鋭く睨みながら後ろを追い、途中で二手に分かれます。

ついに人混みのある通りの中、意を決して「止まれ」と声をかけたダニーは紙袋から拳銃を取り出して、それを相手に向けます。しかし、顔を向き合ってその追跡していた相手を見つめたダニーは固まってしまいます

そこにあの同行者の女性が銃を取り上げて代わりに撃ちます。銃弾は追跡していた相手をかすめただけです。ダニーはその銃を再度手にして、我に返ります。

駆け付けた警官から必死に逃げ、ある建物へ。そこにいたイツァクという大柄の男から「アリアナはどうした?」と激しく問い詰められ、「彼女にやらされたんだ」とダニーは弁明します。

パスポートを渡され、「これで父親を探しに行け」と言われますが、すでに建物は警察に包囲され、ダニーはゆっくりと玄関から手を上げて歩み出ることに…。

ところかわって、警察署。ライア・グッドウィンという女性は刑事たちと例の事件について語り合っていました。誰かを脅そうとしたらしいものの、詳細は黙秘。とりあえず逮捕者に会ってみることにします。

ライアはダニーという青年を目の前にして対面で座っていました。

「アリアナの居場所は?」と聞くと「知らない」と返事。「大家のイツァクの場所は?」と聞くと「知らない」と同じ返答。「なぜ彼らと暮らすことになったの?」「下宿していた」「2人と出会ったのはいつ?」「高校3年のとき。1977年の春」

ダニーは昔を語りだします。

エルム・リッジで暮らす10代のダニーは両親のいる家では居心地が悪く、とくに継父マーリンは甘やかしすぎだと母キャンディに文句をぶつけ、「俺を敬え」とダニーを脅していました。これが家庭の日常です。

学校ではジョニーという友人がおり、「アダムが恋しい?」と聞かれ、気まずい表情を浮かべるダニー。また、野外パーティでは気さくな友人マイクが出迎えます。そこで転校生のアナベル・ストーンに話しかけられ、ダニーは少し好意を持ちます。

ジョニーやマイクにそそのかされ、継父から口座番号パスワードを盗んだダニーはそれでハッパを買いに行き、アナベルに気に入られようとします。アナベルはキスしてくれましたが、これきりにしようと言われてしまいます。どうやらアナベルにはもうすでにボーイフレンドがいるようです。

しかし、完全に目を付けられたダニーはその学校の他の男子たちに家の付近で囲まれ、殴られます。

そこに駆け付けたのはイツァクです。ダニーの家の向かいには幽霊屋敷と呼ばれる、ひっそりとした家が建っていました。イツァクはその家に住んでいるらしく、中に入ると、アリアナという若い人もいました。

そんな話を聞きながら、ライアはダニーに質問します。

「あなたの周囲で消えた人は他にもいるわね?」

ダニーの人生にはいろいろな人が現れます。けれどもその多くは今はどこかへ消えてしまっているのでした。その理由はダニー本人にもわからないようですが…。

この『クラウデッド・ルーム』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2024/02/04に更新されています。
スポンサーリンク

オチはどこでわかる?

ここから『クラウデッド・ルーム』のネタバレありの感想本文です。

『クラウデッド・ルーム』の核心部分のネタバレをしていきます。

本作は、いわゆる「多重人格」…医学的には「解離性同一性障害」と呼ばれる診断名を扱ったものです。

原作は“ダニエル・キイス”による「24人のビリー・ミリガン」という1981年のノンフィクション書籍で(厳密にはわりと創作も入っているらしいけど)、これは“ビリー・ミリガン”という実在した「解離性同一性障害」(当時はそういう診断名ではない)の人物を主題にしています。

ただし、この『クラウデッド・ルーム』はそのまま「24人のビリー・ミリガン」をドラマ化しているわけではなく、かなり大幅にアレンジしています

もともとこの「24人のビリー・ミリガン」は過去に何度か映画化の試みがあったらしいですが、頓挫しており、“ビリー・ミリガン”が亡くなってから、このドラマ『クラウデッド・ルーム』は実現しました。

『クラウデッド・ルーム』における主人公のダニーは、少なくとも6人の人格を持っています。高校時代の友人のジョニーマイク、大家で攻撃的なイツァク、謎めいた悲しみを背負うアリアナ、英国紳士風で博識なジャック、そして幼い頃にトラウマを被って消えたアダム…。

このダニーが実は多重人格で、冒頭から傍にいた多くの人物がただの別人格だった…!というオチは、第6話でようやく明確に視聴者に提示されるのですが、これがその題材だと知っていると第1話でも薄々わかってしまうくらいにはベタな作りではありました。

仕掛けが明らかになった後半になってくると、“トム・ホランド”がひとりでいろいろな人格を演じることになるシーンが増えるので、彼の芸達者っぷりが発揮されますが、同時にダニーのこうなってしまった原因も突きつけられるので辛い面もありますね。

継父からの性的虐待。母親からも見放されてしまい、孤立を深めた結果の別人格による痛み分け。「アダムは僕です」と言い切ることで人格の再統合が行われ…。

後半は法廷劇となり、ダニーをいかにして無罪とするかで、ライアスタン・カミサ弁護士がタッグを組み、マンハッタン地区検事補のパトリシア・リチャーズとぶつかっていくことになります。

「解離性同一性障害」を扱った作品としてはリアル寄りに現実社会に根差した物語を着実に展開していったスタイルと言えるのかなと思います。

スポンサーリンク

同情に振り切った改変

そんな『クラウデッド・ルーム』ですが、個人的には不満点も多々あった作品でもありました。

まずリアル寄りなのは確かですし、ドラマ『ムーンナイト』やドラマ『ドゥーム・パトロール』のように「解離性同一性障害」を思いっきりエンタメのジャンルで扱ったものと比べると抑えられています。

とは言え、この『クラウデッド・ルーム』も納屋での人格が集結するシーンや、切り替え時のいかにもゲームっぽいチェンジなど、明らかにエンタメ的な手触りで映像化している部分は否定できません。これが「解離性同一性障害」の扱い方としてこういうリアル寄りの作品でも許されるのかはやや議論があるところだと思います。

そして一番に「これはどうなのか?」と懸念を抱いたのは、本作は相当に視聴者の同情を煽るように改変されているという点です。

もともとの「24人のビリー・ミリガン」における“ビリー・ミリガン”は、強盗の他にレイプ事件も3件は起こしているくらいの凶悪犯罪者として逮捕されています。それが多重人格の心神喪失として扱われ、精神病院へ入院。その後に病院を脱走するなど、トラブルはなおも続発します。これについてはNetflixで『ビリー・ミリガン: 24の人格を持つ男』というドキュメンタリーが配信されているので、詳しく知りたい人はそちらを参考にしてください。

とにかくこの本来の“ビリー・ミリガン”はかなり論争的になるのも無理ない人物像なのです。それに対して今作のダニーは最初から継父による性的虐待という悲劇性を全面にだし、かなり視聴者に同情しやすい設定にしています。いや、これならほぼ100%同情するでしょう。

つまりここまで同情しやすいキャラに変えられたら、裁判で無罪になりましたという結果も別に珍しくもないようなもので、どこにも意外性もないです。

本作は最近流行りの実録犯罪モノのアプローチをなぞっており、“トム・ホランド”熱演のダニーだってセクシーな描かれ方になっていますし、全てにおいて不快感がないように整えられています。

本来の“ビリー・ミリガン”は自分の起こした性的暴行を、レズビアンの人格がやったこととして説明するなど、ちょっと露骨にホモフォビアな立場だったわけですけど、このドラマでは非常にクィア・フレンドリーだったかのように真逆に解釈変更していたり…。

こうした改変は適切だったのかと言われると、う~ん…となるかな…。

あと、ライアというキャラクターに関しては、精神医学&心理学の専門家としてキャリアを目指す女性の描き方としていささか雑なのでは?と思う面もチラホラ。普通、終身在職権や助成金うんぬんの話と、あのダニーの精神鑑定をする話って、そんなに直結しないと思うのですけど(そんな1件の症例の発見程度でキャリアは安泰になるほど甘くはないよね? 一般的に「ダニーのような症例を発見できたから終身在職権や助成金が手に入る」のではなく「終身在職権や助成金があるから、ダニーのような症例を研究できる」のでは?)、なんか強引にこれを女性研究者のキャリア・ストーリーに絡めようとしている感じがする…。

「支援が必要な人は…」とお決まりの注意文章を毎回エピソード最後に表示してはいましたけど、本編のもろもろが空回りしていたので、そっちが気になってしまったかな…。

『イブの三つの顔』(1957年)や『Sybil』(1976年)など「解離性同一性障害」を扱った初期の作品から、現在の『スプリット』(2017年)などコテコテのジャンル映画まで、歴史的に変移はありつつ、やはり今も「解離性同一性障害」は「怪物」「同情」の両極端でしか扱う術を世間は持っていないのだなと痛感してしまうような、そんな宙に彷徨う虚しさも感じる感想を『クラウデッド・ルーム』を観て思ったのでした。

『クラウデッド・ルーム』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 33% Audience 92%
IMDb
7.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
5.0

作品ポスター・画像 (C)Apple クラウデッドルーム

以上、『クラウデッド・ルーム』の感想でした。

The Crowded Room (2023) [Japanese Review] 『クラウデッド・ルーム』考察・評価レビュー