シー・ユー・イエスタデイ
Netflix映画『シー・ユー・イエスタデイ』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:See You Yesterday
製作国:アメリカ(2019年)
日本では劇場未公開:2019年にNetflixで配信
監督:ステフォン・ブリストル

シー・ユー・イエスタデイ

あらすじ

科学が大好きでいつも実験に夢中の2人のティーンエイジャー。今はタイムトラベルの実現を目指して奮闘中。パソコン修理で小金を稼ぎ、ガレージであれこれと開発に勤しんでいる。しかし、警官に大切な人が射殺されてしまい、タイムマシーンで時間をさかのぼって救うことを考える。ところが、悲劇はそう簡単になかったことにはできない...。

ネタバレなし感想

よし、困ったときはタイムトラベルだ

日常で凄く嫌なことがあったとき、あなたならどうしますか? 例えば、映画を観ようと思っていたのに別件の用事が急に決まって観れなかったとか、映画館での上映中にやたらとマナーの悪い観客がいたとか、自分の好きな映画に対する愛のない批判を目にしてしまったとか…。あれ、全部映画絡みだな…。

私はそういうときはとりあえず…好きな映画を観ますね。うん、結局、全てが映画に終始してしまっているなぁ。でもしょうがない、そういう人間だもの。

でもそんなことではカバーできないほど取り返しのつかない事態に対してはどうするでしょうか。

そういうとき、フィクションの映画なら奥の手で必ず出てくる切り札があります。

そう、それは「タイムトラベル」

え、あ、別にあれですよ、何のネタバレもしてないですよ(謎の焦り)。ここでは他作品のネタバレとかはしないですから。某大作は関係ないです。偶然です。いや、ほんと、偶然だなぁ(目をそらす)。はい、アッセンブル解散。

でも真面目な話、タイムトラベルはSF映画では定番の解決手段(事態が余計に複雑になることが往々ににしてお約束ですが)。古今東西あらゆるタイムトラベル映画が量産されています。あなたの好きなタイムトラベル映画を語り合うだけでも映画ファンなら何時間でも話が弾みますよね。『ターミネーター』かな、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』かな。私は…なんだろう、『ビルとテッドの大冒険』かな。たぶんこの勢いはタイムトラベルがリアルで技術確立して実現しない限り、ずっと続くでしょうね。実現する日は来るのか…。

そんなタイムトラベル映画の群れの中に新しい仲間が加わりました。それが本作『シー・ユー・イエスタデイ』です。シー・ユー・トゥモローじゃなくて、“See You Yesterday”…“昨日会いましょう”ってことですね。

『シー・ユー・イエスタデイ』はタイムトラベル映画としては非常にシンプルで、そこまで捻った意外性を用意しているわけではないので、トリッキーなストーリーとかに期待はするべきではないタイプの映画なのですが、特筆すべきは製作が“スパイク・リー”だということ。

“スパイク・リー”といえば映画ファンの皆さんはご存知のとおり、劣悪な人種差別に対して常に声をあげてきた、映画界のブラック・パワーの先駆者です。監督作『ブラック・クランズマン』が繰り出す強烈な社会や映画界への皮肉と警鐘は、今も記憶に新しいところ。『ブラック・クランズマン』が久々に高い評価を得たことで、また若い映画ファンにも認知が広がったようで、個人的には嬉しいかぎり。
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その“スパイク・リー”が製作しているくらいですから、当然、人種問題も含んでいる内容なのかなと推察するのは難しくないでしょう。じゃあ、なぜ作中でタイムトラベルするのかも…わかりますね。話のトーンは明るさ半分、暗さ半分みたいな感じです。

『シー・ユー・イエスタデイ』の監督は“ステフォン・ブリストル”という人でおそらく本作は長編監督デビュー作。この映画自体、“ステフォン・ブリストル”が2017年に制作した同名の短編作品を長編映画化したものです。長編映画化といっても本編は80分ちょっとしかないので気軽に見られると思います。

Netflixオリジナルで独占配信中。タイムトラベルにもう飽き飽きしているのでないならば、空いている時間に鑑賞してみてください。

オススメ度のチェック
ひとり◯(SF好きなら)
友人◯(SF好き同士で気軽に)
恋人△(恋愛要素はほぼ無し)
キッズ◯(社会問題を考えさせる)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

わからんが、次にいこう!

2019年6月27日。裏の路上で、ハッキングされた監視カメラに向かって二人のティーンエイジャーの男女がレポートしています。

「これは時空転送装置の実験です」

二人が背負っているリュックみたいな装置は「Temporal Relocation Pack」…「TRP」と呼ぶらしく、どうやら二人のお手製のようです。時空の測定盤を仕上げ、プロトン溶液をキャニスターに入れ、回転子回路を経由してプロトンを光速に変換、量子フォームが発生してワームホールが開き、それでプロトンが私たちの分子構造を分解し、通過が可能になり、時間を超えたら分子構造が再構築されて、望んだ日時に移動できるのです…と科学的な自論の説明がノンストップで続きます。

なるほどね、まあ、私は8割くらいは理解できましたよ(虚勢)。あれでしょう、う~んと、あれ、あの…とにかく凄いよね(思考放棄)。

ともかく誰に向かって話しているのかもわからないけどとても自信満々で楽しそうな二人のティーンエイジャーのひとり「CJ」は、改良したマーク1のTRPをさっそく始動。1日前の6月26日に戻ることを試みます。もうひとりの「セバスチャン」もスタートレック風に転送気分でワクワク。

しかし、装置は火花を散らしてそのまま炎上。

口汚く文句を言うCJのセリフを遮るようにキレの良いオープニングタイトル。

科学オタクはどこにでもいる

『シー・ユー・イエスタデイ』の舞台はブルックリンのイースト・フラットブッシュ。

本作はやはり「アフリカ系アメリカ人を主役に科学オタクを描く」ということにフレッシュさがあります。もちろん卓越した科学知識を持つアフリカ系アメリカ人(しかもティーン女子)という点では、『ブラックパンサー』という巨大なパイオニアの成功者がいますが…。
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『シー・ユー・イエスタデイ』の場合はどこか架空の異国でもなく、アメリカのごく普通のブラック・コミュニティで暮らす少女と少年ですから。そういう意味では一歩二歩とさらに身近さが増していっています。

CJはブロンクス科学高校に通う、ガチガチの科学熱中少女であり、作中でも「ホーキング、宇宙を語る(A Brief History of Time)」を読んでいるなど、もはや科学が聖書みたいなもの。

別に科学が好きなアフリカ系アメリカ人だって当たり前に存在するでしょうから、本作みたいな映画が普通に作られるのは良いことだと思いますし、むしろなぜ今までもっと当たり前になかったのかという話です。

一方で、本作は決して黒人だけの世界ではなく、作中でもエドアルドという同級生(おそらくプエルトリコ系)がある出来事を理由にCJのタイムトラベル作戦の仲間に加わって活躍します。このように最近のブラック・ムービーは黒人の団結だけでなく、そこにどうやって他人種とも付き合っていくかという要素が入ってくることも目立つような気がします。それはきっとアフリカ系アメリカ人側でも多様性を理解して受け入れることは大事だろうというメッセージなのでしょうか。

若干、話が逸れましたが、科学は肌の色も超えて人を繋ぐというのは良いものですね。

シー・ユー・イエスタデイ

イマドキらしいタイムトラベルの理由

そして肝心のタイムトラベル。

フランシス・ピエールという黒人青年が警察に射殺されてしまう事件が起き、地域全体のブラック・コミュニティが怒りに沸いてデモをしている中、CJの兄であるカルヴィンまでもが危険な行動をとったと勘違いされて安易に射殺されてしまい、CJはタイムトラベルで兄を救う計画を立てます。

『ヘイト・ユー・ギブ』でも生々しく描かれていた「警察による黒人への過剰攻撃」という問題。
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そこにSFとしてタイムトラベルという要素を混ぜる。今の時代ならそうなるだろうなというアイディアですし、これ自体は観客として“どうなるのだろう”と好奇心をくすぐられる面白さがあります。

ちなみに黒人の社会問題とタイムトラベルを組み合わせた作品は、『シー・ユー・イエスタデイ』が初ではもちろんなくて、結構、昔にすでにあります。それが本作でも序盤にCJのクラスの先生が読んでいる本で登場していたのですが、オクティヴィア・E・バトラーというアフリカ系アメリカ人の女性作家が1979年に書いた「キンドレッド 絆の召喚(Kindred)」です。これは奴隷制度のあった時代にタイムトラベルしてしまった主人公の話で、興味のある方はぜひ読んでみてください。

あとタイムトラベル映画にはつきものの時間移動による矛盾など整合性の問題は、私は基本は考えないようにしているので良し。ある程度の辻褄を合わせようとする努力を作り手側がしているなら、それでいいです。真面目に考えると映画の話をどんどん脱線して本編がどうでもよくなってくるので(まあ、でもそれをあーだこーだと語り合うのもタイムトラベル映画の醍醐味ですけどね)。過去のタイムトラベルした自分を上書きできるというかなり都合のいい設定が本作にはあるので、あんまり困ったことにはならないかもですが。

昨日で待っている人のために

そんな感じでアイディアはユニークなのですが、前述したとおり、話運びといい、展開といい、とってもシンプル。既視感の強い内容なのは否めません。

タイムトラベルしても上手くいかず、過去をむやみに変えてしまい、あげくに兄を救った一方で過去のセバスチャンを強盗に射殺させてしまい、現在のセバスチャンが消えるという因果応報な流れ。タイムトラベルものならば定番中の定番。CJはタイムトラベル作品、観ていないのか。ろくなことにならないのはわかるだろうに…。

そこからのセバスチャンを救うタイムトラベル。そこでの兄の決意とドッグタグという意志の継承。またもや死亡してしまった兄。それを救うためにまたタイムトラベルするCJ。今度こそは救えると信じて…。END。

え、これで終わり!?と、そんな声が聞こえてきそうなエンディング。でもまあ、わかる。わかりますよ。現在進行形で起こっている問題に対して安易にSF的なマジックで“解決できました、めでたしめでたし”で終わるのはどうなんだという製作陣の考えも。

ただ、短編作品ならまだしも長編作品ならもう少し踏み込んだ一歩先を見てみたいところなのも正直な気持ち。本作の“冒険のしなさ”具合は一部の期待をしていた観客にはガッカリかもしれません。

『シー・ユー・イエスタデイ』のテーマ的には、序盤で先生がCJに言った言葉がそのままなのではないでしょうか。タイムトラベル技術については認めるにしても「そんな力を手に入れて何を変える?」と問いかける先生に言葉を返せないCJ。

今のアメリカでは昔よりも可能性に手を伸ばしやすくなったアフリカ系アメリカ人の若者がでてきました。そんな子たちに“大事なのは力や自由を手にすることではなく、それで何をするのか”だと語りかける本作は、過去に取り残された同士の残響みたいなものなのか。

昨今のティーン向けブラック・ムービーはこういうものが本当に多いです。今を生きる子どもたちに社会で起きている問題に目を向けさせ、自分たちの人種の課題は消えておらず、“考えよ、行動せよ”を背中を押す作品。それに答えて実際に声を上げていく若者たち。こういうのを見ていると、アメリカの民衆の原動力の強さを痛感しますし、日本もこういう映画を作らないとダメだなぁと。若者が政治に関心がないのはその意識を芽生えさせることのできない大人の責任ですね。

昨日で待っている人のために、未来に向けて生きていきましょう。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 96% Audience 39%
IMDb
4.8 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

関連作品紹介

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↑『バック・トゥ・ザ・フューチャー』…みんな知っているタイムトラベル映画の代表作。『シー・ユー・イエスタデイ』でも主人公の装備などオマージュがいくつかありました。どことなくタイムトラベル・シーンの雰囲気も似せている感じ。
作品ポスター・画像 (C)40 Acres & A Mule Filmworks