スパイダーマン スパイダーバース
映画『スパイダーマン スパイダーバース』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Spider-Man: Into the Spider-Verse
製作国:アメリカ(2018年)
日本公開日:2019年3月8日
監督:ボブ・ペルシケッティ、ピーター・ラムジー、ロドニー・ロスマン

あらすじ

ニューヨーク・ブルックリンの名門私立校に通う中学生のマイルス・モラレス。実は彼はスパイダーマンでもあるのだが、まだその力をうまくコントロールできずにいた。そんな中、何者かによって時空が歪められる事態が発生。それにより、全く異なる次元で活躍するさまざまなスパイダーマンたちがマイルスの世界に集まる。

ネタバレなし感想

スパイダーマン映画史上最高傑作

「スパイダーマンって、どうやったらなれるのかな…」

そんな呟きをしたとしたら…。それが幼い子どもなら「無邪気で可愛いね」と頭を撫でられるだけで本気で答えてはくれそうにないですし、それが中高生だったら「さっさと勉強して良い大学に行け」と怒られるだろうし、それが社会人なら「何言ってんだ、コイツ」と白い目で見られるでしょうし、それが高齢者なら「ボケているのかな」と思われます。

要するにマトモにとりあってくれない“馬鹿げたこと”…それが世間の反応です。世の中、フィクションで溢れかえっていて、魔法のような世界を冒険する話とか、危機から大切な人を救う話とか、理想の恋を叶える話とか、それらを題材にした映画だって映画館で毎日上映されているのに。そこは「架空」と「現実」できっちり切り分けて考えている。それが常識だと言わんばかりに。

しかし、本作『スパイダーマン スパイダーバース』は違います。“馬鹿げたこと”を馬鹿げているとは思わずに本気で信じてみる。そうすれば「誰でもスパイダーマンになれる」…そう高らかに宣言する映画なのでした。

最初、ソニーがスパイダーマンのアニメーション映画製作の企画を始めているという話を小耳にはさんだときは「ふ~ん」程度にしか思っていなかったものです。アメコミのアニメ作品はどちらかといえばコアなファン向けの傾向が強かったですから。そこまでアメコミ・ファンじゃない自分はまだ冷静。

ところが初めて予告動画が公開されたとき、その映像を見て「あれ、なんか凄くない!?」と、もしかして本作はとんでもないチャレンジをしているんじゃないかと気づき始め…。いざ本国アメリカで公開されるや、絶賛の嵐。「スパイダーマン映画史上最高傑作、いやアメコミ映画史上最高傑作」そんなこれ以上ない賛辞が降り注ぎ、賞を次々と総なめにしていく光景に、「あ、この映画、やっぱり凄いことになっているんだな」と確信しました。ソニーも『ヴェノム』を差し置いて本作を商業的見せ場である12月公開に持ってくるあたり、本作の潜在的可能性をわかっていたのでしょうかね。
『ヴェノム』感想(ネタバレ)…二人あわせて「We are Venom!」
本作は“フィル・ロード&クリストファー・ミラー”が原案・脚本・製作に関わっています。そこも個人的には座視できない部分。なにせこのコンビが監督したアニメーション映画『レゴ ムービー』は私にとっても「傑作」と言い切れる作品であり、心底、この二人のクリエイティビティに驚嘆したのを今でも忘れません。そんな尊敬するクリエイターの手がける映画(しかもまたアニメーション映画)が次も超高評価を叩き出すというのは素直に嬉しいもの(『ハン・ソロ』もね…あ、いや、この話はもうやめておこう)。このコンビは以前にも『レゴバットマン ザ・ムービー』というアニメーション映画で製作に関わり、こちらも称賛を受けているので、これでマーベル・DC両方で画期的な成功をおさめた立役者になりました。
『レゴバットマン ザ・ムービー』感想(ネタバレ)…全ての映画は黒から始まる
アカデミー賞で長編アニメーション映画賞を受賞することは疑いようもなく、実際あっさり受賞したわけですが、私もワクワクしながら日本公開を待っていました。

でも、映画ファンでない限り、決して注目度は高い方ではないと思います。実写のスパイダーマン映画ならまだしも、アニメですし、ファンムービーでしょ?と避ける気持ちを抱く人もいるかもしれません。

そんな人にもご安心をと太鼓判を押したいです。まず、物語自体はシンプル。スパイダーマンどころか、アメコミ映画に詳しくなくても大丈夫。シリーズものでもなく、単品で楽しめます。

またあらゆる年齢・性別・人種にしっかり刺さるストーリーになっているのが、本作の支持を単なるマニアにとどめない理由のひとつにもなっています。オススメできない人間がいるとしたら、アメコミが嫌いで、アメコミ映画を目にするたびに文句しか出てこないような人くらいです(まあ、さすがにそんな人、わざわざ観に行かないと思いますけど)。

そしてここが重要。映画館での鑑賞が最高に素晴らしいと強調したくなる映像体験が用意されています。本作はアニメーション映画の歴史においても例のない斬新な映像表現が魅力なので、これを映画館で鑑賞したことは後世の自慢になるでしょう(どう斬新なのかは予告動画を観ればわかる!)。本作は、家でDVDとかをレンタルして観ても、面白さは映画館の半分くらいなものです。なるべく大きいスクリーンサイズで鑑賞してください。

はい、もう言うことないです。まだ本作を観ていないのにこのブログを読んでいる人は、こんなつまらないブログは閉じて、映画館へダッシュですよ。

オススメ度のチェック
ひとり◎(最高の体験)
友人◎(みんなで盛り上がれる)
恋人◎(男女なんて関係ない!)
キッズ◎(年齢なんて関係ない!)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

なんだこの映像(言語化不可)

映画館で映画を鑑賞していると映像を目から脳みそに勢いよく流しこまれる感覚になることがたびたびありますが、今回はまさにそれ。情報量・熱量ともにギュウギュウに詰まった本作。どこから語ればいいのか、二の句が継げない上映終了後の頭の中。

まあ、ともあれ、まずは映像。いや、本作はこの映像の素晴らしさがあまりにも突出しすぎているのでした。

本作は今では主流のCGを用いたアニメーションとなっていますが、ディズニーやピクサーのようなフォトリアル(現実と同じリアリティ描写)を目指すものにはなっていません。むしろ真逆も真逆。1ページ1ページに絵が描かれているあのアメコミそのままに、それを動かすというアニメーションのコンセプトになっています。

でも漫画的な映像や演出を取り入れるというのは、別にCGアニメ映画でも全くなかったわけではないですし、もともとコミックとアニメは親戚みたいなものですから、互いに影響し合っていて当然。クリエイティブのアイディアやテクニックはそれぞれでキャッチボールを繰り返していました。

しかし、『スパイダーマン スパイダーバース』の場合は、その完成度が次元が違います。ここまで徹底して究極的に“コミックを動かす”ことに特化した作品は前例がないです。

なんで前例がないのかと言えば、そりゃあ大変だからに決まっています。フォトリアルなCGであれば物理演算など既存ツールである程度映像製作は、自動化とまではいかなくても、作る方向性は定めやすいです。一方で、“コミックを動かす”というのは私たちの知っている物理も常識も通用しない世界ですから、なんでもあり。全てをゼロベースで作ることになり、自分たちが何を作るべきかの目標もそう簡単に定まりません。

実際、本作の製作は困難を極めたようです。大量のアニメーターを動員して、まるでナメクジが歩く速度のように1秒1秒トライ&エラーで映像を作る日々。本作は監督が3人もいるのですが(『リトルプリンス 星の王子さまと私』の脚本をつとめた“ボブ・ペルシケッティ”、『ガーディアンズ 伝説の勇者たち』で監督デビューしたアフリカ系の“ピーター・ラムジー”、『22ジャンプストリート』の“ロドニー・ロスマン”)、確かにこのめちゃくちゃな作品をマネジメントするには監督が3人いるのも納得。全てをレゴ風に表現した『レゴ ムービー』もそうでしたが、“フィル・ロード&クリストファー・ミラー”の映像へのこだわりはなんなのでしょうかね。

結果、そのかいあって映画史・アニメ史に残る映像表現が完成したのでした。

アニメ映画の新しい時代の到来

具体的に映像について言及していくと、“コミックを動かす”というコンセプトを私のような素人が考えたとき、真っ先に思いつくのは「吹き出し」「オノマトペ」です。それも効果的に使われます。でもその程度で終わりません。

驚いたのは印刷技術が今ほど優れていなかった時期のアメコミに見られた、印刷がかすれたり、二重のようになるミステイク・プリントをそっくりそのまま演出に使っている点。一見すると見苦しくなりそうですが、ちゃんとそれをキャラの動きのダイナミックさや感情表現に流用してみせているんですね。

そしてなによりも凄いのはCGと手描きのミックス

冒頭、ピーター・パーカーが扮するスパイダーマンの活躍がハイテンポで語られる導入。次から次へとシーンが切り替わるさまを、コマ割りで表現し、CGなのか手描きなのかよくわからなくなる映像の連続。本作のスタイルをこれ以上なくハッキリ見せられます。

CGと手描きが複雑に組み合わさった本作の表現ですが、作業工程では、CGアニメーターが動きを作り、それを一度、平面的に直して、さらに手描きを加えて完成させるといったような、CGと手描きの垣根を超える製作手法が採用されています。

1秒何フレームで表現するかはアニメーションの基本ですが、本作はそのフレーム数もシーンによってめまぐるしく変化しているそうで、同じシーンに複数のキャラクターがいる場合、それぞれのキャラごとにフレーム数を変えていることもあり、もはやなにがなんだか。

その本作の映像表現のハチャメチャ度合いを一層増加させる要因になっているのが、別次元世界線からやってきた「スパイダー」たち。ピーター・B・パーカーのスパイダーマンやグウェン・ステイシーのスパイダー・グウェンは、本作の主人公マイルス・モラレスと表現は基本同じ。問題は他のメンバー。スパイダーマン・ノワールは1930年代がベースなのでモノクロ。SP//drというロボットを操るペニー・パーカーはまさかの日本アニメがベース。スパイダー・ハムにいたってはカートゥーン。全然表現スタイルが別物で、どれもキワモノばかり。

とくに日本人的にはペニー・パーカーの演出はびっくりです。私はアニメにそんなに詳しくないですが、日本のアニメ業界では「セルルック(3DCGで手描きの2Dアニメ風に表現する手法)」が一部の作品で実験的に行われています(アニメ映画版『GODZILLA』シリーズがそうでした)。でもまだまだ主流になれるほど技術が成熟している感じではないという意見もあります。一方、本作のペニー・パーカーは普通に手描きにしか見えないです(実際はCGモデルが下地にある)。これは日本のアニメ業界にも衝撃なキャラじゃないでしょうか。本作では技術的に大変だという理由もあるのでしょう、出番は最小限です。でも、もし今後ハリウッドの膨大な製作体制でセルルックを全編使って日本のアニメ的作品を作られたら…もう敵わないんじゃないかな…。

とにかく本作を観て、CGと手描きの二極でアニメーションを語る時代は終わったなと確信しました。

スパイダーマン スパイダーバース

あなたもスパイダーマン

この映像面だけでもじゅうぶんすぎる凄さなのですが、本作がさらに輪をかけて凄いのは、この挑戦的なビジュアルからなる映像表現と、本作の物語的なテーマが、ぴったり合致しているという点です。

本作のテーマは単純明快、「誰でもスパイダーマンになれる」ということ。

本作の主人公、ブルックリンに住む高校生のマイルス・モラレスは、プエルトルコ系とアフリカ系の両親から生まれた少年。いわゆる二世世代の人間であり、進学校のような世間一般で言う“良い”人生コースを進んでいるのですが、本人はアイデンティティに悩んでいます。このあたりは実にアメリカ的。

そんな揺れ動く「思春期(本人もそう言っている)」に、突如としてやってきた自分がスパイダーマンになるという試練。でも全く自信が持てない中、彼の前に現れたのは別次元の「スパイダー」たち。そしてみんなが自分とは違う独自のアイデンティティを持ちながら、「スパイダー」としてヒーローをしている。

女性だって、中年男だって、ロボットだって、なれる。"ニコラス・ケイジ”(スパイダーマン・ノワールの声を担当)だって、なれる。年齢も性別も人種も関係ない(そういえばペニー・パーカーの声を担当している"キミコ・グレン”は母親が日本人なんですね)。

その事実に後押しされ、自分を信じる勇気が覚醒し、スパイダーマンになったマイルス・モラレス。

ものすごく王道な物語ですが、多様性の意義をここまで視覚的にアニメーションで体現した映画はありませんでした。差別や社会問題を描かなくても多様性は描けるんですね。そこが『ブラックパンサー』とは違う踏み込みです。

本作のこの多様性に対するワンステップ進んだ答えは、おそらく今後のアメコミ映画の道標にもなるでしょう。マイルス・モラレスを創作した原作者はブライアン・マイケル・ベンディスとサラ・ピシェリという人物なのですが、とくにブライアン・マイケル・ベンディスはアメコミ業界を牽引する重要なクリエイターです。例えば、トニー・スタークのアイアンマンの後継者として黒人の女の子(アイアンハート)を描いたり、先進的な創造が光っています。

アメコミヒーローはポリコレのために生み出されるものではない。"なりたい”と思う人がいるから生み出される。その精神を描き切った映画でした。

『スパイダーマン スパイダーバース』はアニメ映画史にもアメコミ映画史に名を刻む作品になったでしょうし、その重大な事件を目撃てきて、映画ファンとして嬉しいかぎりです。

大いなる力には、大いなる責任が伴う。でもマスクをかぶるだけでいい。

さあ、次はあなたもレオパルドンと共演だ!

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 97% Audience 94%
IMDb
8.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 9/10 ★★★★★★★★★

関連作品紹介

おすすめ PiCKUP!
↑『レゴ ムービー』…“フィル・ロード&クリストファー・ミラー”監督作。こちらも傑作。
作品ポスター・画像 (C)Sony Pictures