スタートレック ピカード
ドラマシリーズ『スター・トレック ピカード』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Star Trek: Picard
製作国:アメリカ(2020年)
シーズン1:2020年にAmazon Primeで配信
製作総指揮:パトリック・スチュワート、マイケル・シェイボン、アキヴァ・ゴールズマン ほか

スタートレック ピカード

あらすじ

惑星連邦宇宙艦隊提督にして数多の功績を残したエンタープライズの艦長だったジャン=リュック・ピカード。今は引退してフランスのシャトー・ピカードで静かに暮らしていた。しかし、ある女性が目の前に現れて、平穏な状況は一変する。その女性からは何か懐かしいものを感じていた。そして、ピカードは運命に導かれるように、またも宇宙へと出発する。最も信頼する友を想い…。

『スタートレック ピカード』感想(ネタバレなし)

ピカードが帰ってきた

フランチャイズ映画(キャラクターや世界観に基づきどんどん作品が広がっていくシリーズ群)は世の中に銀河系のように拡大していますが、初心者には探検しづらい未開の空間です。「どれから観ればいいの?」という質問は不可避で頻出しますし、面倒なことにその疑問を詳しい人に投げかけるとマニア同士で勝手に喧嘩が起きたりするんですよね。もう単純に答えが欲しかった初心者はポカンとするしかないです。

だから「スター・ウォーズ」や「MCU」には手を出しずらい…と思っている皆さん。いやいや、世界にはもっととんでもないフランチャイズ作品がありますよ。

それが「スタートレック」です。

知っているでしょうか。この「スタートレック」の作品数の多さを。

「スタートレック」フランチャイズを映画もドラマも全部鑑賞するとしたらトータルでどれくらい時間がかかるのか。ネットで調べたら計算している人がいましたが、それによればぶっ続けで「約23日」映像を鑑賞すればコンプリートできるみたいです。だからもしあなたが23日程度なら全てを「スタートレック」に捧げられると思うのならチャレンジしてみてください。一睡もせず、食事中もトイレ中も「スタートレック」漬け。これはクリンゴン人を100人相手にするよりも難易度が高い…。なお、私は一切の健康上のリスクに対する責任を負いません。

「スタートレック」の始まりは1966年のドラマシリーズの放映です。そのときの邦題は『宇宙大作戦』でした。それから『新スタートレック』(1987~1994年)、『スタートレック:ディープ・スペース・ナイン』(1993~1999年)、『スタートレック:ヴォイジャー』(1995~2001年)、『スタートレック:エンタープライズ』(2001~2005年)と続きます。それ以外にも映画も定期的に製作され、2016年の『スター・トレック BEYOND』に至るまで13作品が誕生。

最近は『スタートレック:ディスカバリー』(2017年)という新しいドラマシリーズも作られたり、なんだかんだで勢いが停止する気配もありません。SFの人気を先導してきたパイオニアは衰えませんね。

かくいう私も「トレッキー」(スタートレックのファン)を名乗れるかはわかりませんが、『スタートレック』が大好きで、とくに『新スタートレック』のジャン=リュック・ピカード艦長と仲間たちが一番のお気に入りなのでした。もう私が一番尊敬している師はピカードだと言えるくらいに。人生の恩師なのです。

そんな中でのこの『スタートレック ピカード』という新ドラマシリーズの出現ですよ。もう…何も言うことはない…(感無量)。

ということで本作『スタートレック ピカード』なのですが、そのタイトルに冠されているとおり、『新スタートレック』で指揮をとっていたジャン=リュック・ピカード艦長が引退から復活し、またも宇宙へ飛び出すという、ファンの心を揺さぶるのも当然なストーリー。新キャラも出てきますが、当然あの懐かしいキャラたちも登場して…。胸が熱くなるじゃないですか…。

ただ私みたいなエモーション・チップをフル稼働させた感動状態なファンはさておき、スタトレ初心者はどうなのだろう。ここで「『スタートレック ピカード』を観る前に予習したいのですがどれから観ればいいですか?」と質問されても困る…。なにせ『新スタートレック』だけでもシーズン7の計176話もありますからね。普通に考えて厳しいでしょう。

でもこの『スタートレック ピカード』、明らかに過去作を知っている前提で用語やらキャラやらが説明なしでポンポン登場するんですよね。

あえて言うなら映画『スタートレック ファーストコンタクト』(1996年)と『ネメシス/S.T.X』(2002年)はチェックしておくと物語の理解の助けになる…かもしれないです。

まず『スタートレック ファーストコンタクト』では、ピカードと「ボーグ」という機械生命体との関係が描かれ、それはこの『スタートレック ピカード』でも重要なキーワードになってきます。

続いて『ネメシス/S.T.X』ですが、こちらは『新スタートレック』のキャラたちが織りなす物語の最終章として製作され、ピカードにとって最良の友であったアンドロイド「データ」との決別が描かれる重要作。データは『スタートレック ピカード』でもとても深く物語に関与してきます。そもそもこのフィナーレになるはずであった『ネメシス/S.T.X』が何とも言えない…あの、言葉を選びますが、中途半端というか「え、これで終わり?」なラスト作だったという事情があり、おそらく『スタートレック ピカード』はそのモヤモヤを晴らすために作られた…という理由が本当は大きいのだろうなと思います。

スタトレ愛が深いほど歓喜と感動が思考回路を駆け巡る『スタートレック ピカード』。でもここから「スタートレック」の入り口に立つのも悪くはないのかもしれません。過去にさかのぼるように物語を追うという体験も案外と良いのかも。

宇宙、それは人類に残された最後のフロンティア。そして「スタートレック」も開拓のしがいのある果てしない世界。出発の準備はできましたか?

オススメ度のチェック
ひとり◎(スタトレ愛が溢れ出る!)
友人◎(ファン同士で熱く語り合おう)
恋人◯(SF好きなら楽しめる)
キッズ◯(SFファンになりましょう)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『スタートレック ピカード』感想(ネタバレあり)

宇宙に残した後悔を見つけるために

ファンは知っているとおり、今の「スタートレック」には2つの世界線が存在しており、オリジナルと言える「プライム・タイムライン」と、2009年の映画から描かれるようになった「ケルヴィン・タイムライン」があります。この『スタートレック ピカード』は「プライム・タイムライン」の軸上で展開される物語で、最新の年代です。

2399年。ジャン=リュック・ピカードは夢を見ていました。かつて宇宙を共に探索したデータというアンドロイドとトランプのゲームをしています。「クセを出さないのが君のクセだ」と長い付き合いだからこその読みをするピカードに、「なぜ引き延ばすんですか」と聞くデータ。ピカードは答えます。「ゲームを終わらせたくないんだ」…。

目覚めるとピカードは落ち着いた部屋にいました。窓から外を見ると、そこはフランス、シャトー・ピカードです。彼はある事情で引退してからというもの、この穏やかな地でロミュラン人のラリスとジャバン、そして愛犬「ナンバーワン」と共に暮らしていたのでした。

そんな隠居状態のピカードでしたが身を潜めてから初めて公のインタビューに応じることにします。真っ先に話題になったのは2385年の「ロミュランの超新星爆発」の件でした。人工生命による火星壊滅がきっかけで超新星爆発に見舞われて全滅の危機に遭ったロミュラン人。ピカードいわく「ダンケルク」だと言うそのロミュラン人を救助する使命について、宇宙艦隊は突如として中止してしまったのでした。「人工生命はなぜ暴走したのですか?」という問いに「わからない」と答えつつも「人工生命そのものを禁止したのは間違いだと思う」と断言するピカード。しだいに感情的になり、「なぜ艦隊をやめたのですか?」の問いに「もはや宇宙艦隊とは言えなかったからだ! 義務から逃げだした、歴史を顧みようとしない」と激昂してしまいます。

一方、別の場所。ボストン。ザヒア人のボーイフレンドと部屋でリラックスして喋っていた女性ダージは、突如出現した謎の黒づくめに捕まり、「もう一方はどこにいる!」と意味不明な尋問をされます。するとダージは自分でもわからないほどに急に戦闘能力が上がり襲撃者を圧倒しました。そしてある人のフラッシュバックを見ます。それは有名なあのピカードでした。

何かに導かれるようにダージはピカードのもとを訪れます。「あなたといれば安全だと全身でわかっているから」「なぜかあなたを体の奥底で知っている」…意味深な言葉を残し、翌日、ダージは消えました。

興味をひかれたピカードは宇宙艦隊記録保管所へ赴き、データによって描かれた油彩画を調べます。それは2枚のみ存在し、その題名は「娘」

もう一度ダージに会ったピカード。ダージに君はアンドロイドだと告げますが、そこへまたもや襲撃者。それはロミュラン人のようで、ダージは驚異的な能力で撃退するも爆発に巻き込まれ死んでしまいました。

沖縄のデイストローム研究所に行き、データの製作者であるスン博士に師事したブルース・マドックスが2人のアンドロイドを生み出したことを知るピカード。そしてもう一人はどこかで命を狙われている可能性を理解します。

その頃、ダージと瓜二つの顔を持つ者がボーグ・キューブ内のロミュラン再生施設に勤務していました。そのソージのもとにナレクというロミュラン人がやってきて親交を深めていきます。

ピカードは再び宇宙へ旅立つことを決めました。元宇宙艦隊情報部の士官だったラファエラ(ラフィ)・ムジカー。小型宇宙艦ラ・シレーナを所有するフリーランスのパイロットであるクリストバル・リオス。人工生命研究の専門家であるアグネス・ジュラティ。道中では戦士修道女組織クワト・ミラットに預けた難民孤児だったエルノアも合流。

余命わずかと知りながらもピカードは「発進しろ」とかつてのように指示を出します。後悔を置き去りにしたあの宇宙に向かって…。

「スタートレック」の用語をおさらい

『スタートレック ピカード』はシリーズの脈々と蓄積された歴史の頂点に成り立っている作品ということもあって、正直、初心者向きではなく、スタトレ知識を相当に求められます。

一応、大きく関わってくる世界観特有の用語を簡単に以下に解説します。

まず「スタートレック」といえば様々な種族が入り乱れることで有名ですが、本作はそこまで複雑ではありません。地球人以外に物語に深く関与するのは「ロミュラン人」だけです。

ロミュラン星間帝国(首都星はロミュラス)を支配するロミュラン人は「スタートレック」世界の中でもかなり影響力のある繁栄を遂げた種族。かつてはヴァルカン人と同一でしたが、その教えに反発して、独立。独自の文化を形成しました。

最高評議会と「タル・シアー」と呼ばれる諜報機関(艦隊を持つのでほぼ軍隊)で統治されており、そのタル・シアーの中には人工生命絶滅を謀る秘密組織「ジャット・ヴァッシュ」が古来から存在。本作に登場するナレクはタル・シアーでその姉ナリッサはジャット・ヴァッシュの一員です。宇宙艦隊保安部のトップでナリッサの上司であるオウもジャット・ヴァッシュでした。

そしてロミュラン人と合わせて大きく関わってくるのが「人工生命」「シンス」です。これについては非常に謎が多く、本作で全貌が明らかになったわけでもありません。そもそも「スタートレック」世界ではあらゆる種族を超越した生命体、いや生命すらも凌駕した高次元生命体とかが登場するのですが、この人工生命もゆくゆくはそういうものに繋がっている予感がします。

データのようなアンドロイドはかつて惑星連邦も活用していたのですが、火星での反乱(これは『スタートレック ショートトレック』でも描かれる)の一件で銀河条約で禁止に。ちなみに作中でも触れられる「B-4」というのはスン博士によって生み出されたアンドロイドで、いわばデータの兄弟みたいなもの(『ネメシス/S.T.X』で描かれました)。

また、データのような人工生命とは少し違いますが、機械生命体として「ボーグ」という存在がいます。ボーグは「同化」と呼ばれる手段で他者の文化を取り込むという変わった侵略をします。そして他者をどんどん取り込み、群れを作るという、ちょっとアリっぽい生態があります。ピカードもかつては取り込まれ、「ロキュータス」という存在になったことがありました(『スタートレック ファーストコンタクト』でも描かれる)。ボーグの宇宙船は立方体型のものは「ボーグ・キューブ」と呼ばれ、本作にも登場。

だいたいこれだけ理解しておけば混乱しない…かな?(あくまでシーズン1までは)

スタートレック ピカード

傷だらけのチームをまとめるには…

『スタートレック ピカード』はピカードを除き、メインキャラはほぼ新キャラクターたち。この新規勢は結構重たいというか、シリアスな設定を引きずっているのが特徴です。

ラフィは理不尽な解雇でキャリアを失い、その後は薬物依存症で、アルコールにも溺れやすい状態。リオスは過去の出来事がトラウマになっており、5体のホログラムが船内で使用されていますが、これは多重人格であることを暗示するものと解釈できます。アグネスは恐怖を植え付けられ、作中で恋人殺しまでしてしまうという、血で汚れた人生を負うことになります。エルノアは難民孤児で自分のアイデンティティを持つのにいまだに苦戦しています。そしてソージは自分はアンドロイドだと知り、動揺を隠せません。

もちろんリーダーのピカードは頭頂葉の重病に罹患しているために命の終わりが見えています。

つまり、スタトレの歴史上、稀に見るズタズタなチームなわけです。チームワーク以前の問題で、個人として不安定すぎるメンバーです。これまでのスペシャリストの勢揃い…とはちょっと違う顔ぶれですね。

それに対して道中で出会う懐かしい旧キャラクターの顔ぶれの盤石さたるや。

自警団フェンリス・レンジャーの一員であるセブン・オブ・ナインは、元ボーグ・ドローンとしていろいろな過酷な人生を辿ってきましたが、それでもしっかり前に進んでいます。

そしてエンタープライズの副長&カウンセラーであったウィリアム・T・ライカーディアナ・トロイ。この二人の、なんというか、言葉にできない安心感。相変わらず的確な行動と助言。「ピザ職人に徹します」なんて言うお茶目なユーモア。ピカードの本当の実家はここにあったんだな…と幸福に包まれるシーズン1第7話です。

このかつての仲間の頼もしさに触れることで、ピカードの心に再びリーダーとしての火が灯る。傷だらけのチームをまとめあげる覚悟が生まれる。シーズン1最終話にて駆け付けたライカーの「いつも私を救ってくれて感謝している」に対する「いい手本がいたから」の返しも最高。

『スタートレック ピカード』は、時代に取り残されたリーダーが、もう一度アップデートしてリーダーとして蘇るストーリーなんだなと思います。

シーズン1は「データ」との決別の物語

『スタートレック ピカード』はロミュラン人vs人工生命という大きな対立構造がありますし、大規模な戦闘が起きかけることにもなりますが、そういう宇宙大戦をメインで描く話ではありません。

それは本題ではなく、実際はとてもミニマムでプライベートな物語が主軸にあります。

少なくともシーズン1はデータとの決別の物語だと言えるでしょう。

前述したとおり『ネメシス/S.T.X』での消化不良なエンディングとデータの別れに対するアンサーでもありました。それはピカードの後悔でもあり、同時に我々観客としての後悔でもあったわけです。そこに対して、きっちり“お別れ”を描いてくれたのが本作。

それはデータのラストとしてもふさわしいものでした。シリーズを通してずっと人間になりたがっていたデータ。そんな存在に対して「君は死にたいんだな」と人間らしい死を与える。人間として老いて亡くなることができたデータは幸せだろうな、と。シーズン1最終話は長くデータを愛してきた私にとっても涙、涙のフィナーレでした。

そして同時にピカードの新生の始まりでもあります。重要なのはピカードは新しい肉体に意識を転写して復活したので、いわゆる人工生命とかボーグ・テクノロジーのエッセンスを持った存在になっているということですね。

これはすごくピカードらしい結末だなと思います。

ピカードを演じる“パトリック・スチュワート”が役者であるかぎり、しばらく続きそうな本作ですが、ベタに“安らかに亡くなりました”というオチにする気はないですよ!という宣言にも思えます。これはさらなる高みへと言ってしまうんじゃないかな…。

「さようなら少佐、さようなら艦長」

別れを経験した私を導いてくれるのはやっぱりこの人。

提督、指示をください。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 88% Audience 62%
IMDb
7.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)CBS Television