ザ・フォーリナー 復讐者
映画『ザ・フォーリナー 復讐者』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:The Foreigner 
製作国:イギリス・中国・アメリカ(2017年)
日本公開日:2019年5月3日
監督:マーティン・キャンベル

ザ・フォーリナー 復讐者

あらすじ

ロンドンでレストランのオーナーとしてつつましく暮らしていたクァン・ノク・ミン。ある日、高校生の愛娘が政治的な無差別テロに巻き込まれ、命を落としてしまう。静かな怒りに燃えるクァンは、犯人を探すうちに北アイルランドの副首相リーアム・ヘネシーの存在にたどり着くが…。

ネタバレなし感想

シリアスも良いのです

今、世界の映画館ではとてつもない“逆襲劇(アベンジ)”を描くエンターテイメント大作で話題騒然となっていますが、世の中にある“逆襲”はそんなスケールの大きいものばかりとは限りません。というか、そんな見ごたえのある“逆襲”なんてできるわけないじゃないですか、普通は。私がせいぜいやったことのある“逆襲”は、なんだろう…何もないですね…(無能)。“逆襲”脳内シミュレーションはよくしますよ。まだ煙がたっているタバコを歩道にポイ捨てする男を目の前にした時は、そのタバコを拾ってそいつのカバンに投げ入れることを想像するし…(実際はそのタバコの火を消し、ゴミ箱に捨てるくらいしかできない)。あぁ、私はなんてレベルの低い人間なのか…。

でも、ほら、だから“逆襲”を描く映画を観るのが楽しくなるという旨味が増しますからね。良しとしましょう。

本作『ザ・フォーリナー 復讐者』で“逆襲”モードで突っ走るのは、誰であろう、あのみんな大好き“ジャッキー・チェン”です。古今東西どこでもいつでも無敵の“ジャッキー・チェン”に喧嘩を売ろうなんてその時点で負け決定みたいなもので、オチだって決まっているようなものに思えますが、本作は一味違います。

宣伝でも散々強調されているように、本作は昔の主演作から最近の主演作まで“ジャッキー・チェン”といえばコレと誰もが思い浮かぶ定番のコミカルな姿ではなく、リアルな社会で身に起こった悲劇に苦しみ葛藤するシリアスな姿が見られます。

シリアスな“ジャッキー・チェン”というと、過去にも『新ポリス・ストーリー』(1993年)や『ポリス・ストーリー レジェンド』(2013年)などで見られたので、別にこれが初というわけではないのですが、本作『ザ・フォーリナー 復讐者』の“ジャッキー・チェン”はその中でもさらに別格で磨きがかかっています。やはり年をとったのがプラスになっているのでしょうか、渋さがとんでもないです。今作でもアクションは披露しますが、あくまでドラマがメイン。ジャッキーのファンであれば感慨深いほどの深みの増した名演を見れます。また「“ジャッキー・チェン”ってふざけている感じの人でしょ?」みたいな一面的なイメージしかない人にもぜひ見てほしいですね。

最近の“ジャッキー・チェン”は、『ポリス・ストーリー REBORN』もそうですが、とにかくいろいろなジャンルに挑戦しようというチャレンジ精神に燃えているらしく、年齢を重ねてもこの無邪気さは変わっていないのがなんだかほっこりしますね。
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いつ本当に完全引退するかわからないから大傑作といえる有終の美を飾るような映画を生み出してほしいだなんて私も思ってましたが、“ジャッキー・チェン”的には頂点をのぼるとかそんなことには興味はなく、ずっと映画と友達でいたい…そんな感じなのでしょうか。

忘れそうになりますが(宣伝でも影に隠れがちですが)、『ザ・フォーリナー 復讐者』では“ジャッキー・チェン”と対になるかたちで名俳優が登場。それが“ピアース・ブロスナン”。『007 ゴールデンアイ』にジェームズ・ボンド役に抜擢され、一躍トップスターになりますが、以降のキャリアでは決して大成功を続けたとは言えないかもしれません。しかし、彼もまた『ザ・フォーリナー 復讐者』でこちらはアクション完全封印の渋い演技を披露し、きっちり俳優としての底力を見せてくれます。

そして監督はあの“マーティン・キャンベル”。『007 ゴールデンアイ』『007 カジノ・ロワイヤル』と手堅い手腕を見せる実力派の名匠ですが、2011年に『グリーン・ランタン』という悲しすぎる失敗作を手がけ、その後はすっかりどこへ行ったんだろう状態でしたが、ここで復活。やっぱりこういう題材の方が合ってますね(監督過去作で言えば『復讐捜査線』と同じ系譜)。緑で宇宙に行くような奴と付き合ったのがそもそも間違いだったんだ、うん。

エンターテイメントというほど派手でもなく、比較的地味で政治劇も繰り広げられるような映画ですが、好みに合う人はこの渋みを贅沢に味わえるのではないでしょうか。

オススメ度のチェック
ひとり◯(ジャッキーファンなら必見)
友人◯(ジャッキーファンなら盛り上がる)
恋人△(ベタな恋愛や感動要素はなし)
キッズ△(シリアスで子どもには不向き?)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

あのジャッキーでもなすすべもなく…

『ザ・フォーリナー 復讐者』を観てあらためて思うのは、“ジャッキー・チェン”って名アクションスターなのはもちろんですが、それ以前にちゃんと名俳優なんだなということ。アクションという下駄を履かせなくとも演技力だけでも称賛ものです。

本作では冒頭、爆弾テロ事件といういきなりの不条理な出来事で愛する娘を失ったクァン・ノク・ミンがひたすらその喪失感に打ちひしがれるというシーンから始まります。

事件シーンもショッキングで、クァンが車から降りた直後に突然の爆発。顔にガラスの破片がいくつも刺さるなか、それでも起き上がり、店に入った娘の心配を本能的に考えたのか、痛々しい姿でよろよろと店に入るクァンの後ろ姿。あの“ジャッキー・チェン”でも爆弾テロにはなすすべもないという、当然と言えば当然なのですけど、その理解をしたくない現実が映像でハッキリ突きつけられる…苦しい場面です。

それにしてもこれは何度も書いていますが、昨今の欧米映画はテロ描写が本当に生々しいです。『ボーダーライン ソルジャーズ・デイ』『7月22日』でも思いましたが、やはりテロが日常的に起こっている時代だからこそ、映画でも中途半端に手を抜くこともできない…まあ、複雑な気分ですが。
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本作の話に戻り、それで娘を一瞬にして失ったクァンは失意のどん底に。ここで娘の部屋に棒立ちするクァンの絶望的な佇まいがまたいたたまれないほど辛そうで。娘の衣類の匂いを嗅ぎ、少しでも存在を感じ取ろうともがくも、ただベッドに座り込むしかなく、生気を失った顔で沈黙。

ここの“ジャッキー・チェン”の静の演技はもう素晴らしいとしか言いようがなく、何度も言いますが、あの“ジャッキー・チェン”がこういう状態になっているからこそ、つまり彼のお決まりのお調子者アクション映画を知っている観客であればなおさら、この『ザ・フォーリナー 復讐者』での“魂の抜けた”活力のない“ジャッキー・チェン”が刺さる。彼のファンとして長く見守ってきた人ほど心をかき乱されるシーンになっています。

その後もずっとこのテンションなので、正直、観ている側としては気が滅入ってくるのですが、この“ジャッキー・チェン”を観られただけでも本作は儲けものだと思います。

ザ・フォーリナー 復讐者

やりすぎないアクション

最愛の娘の喪失感はしだいに復讐心へと変わり、一線を超えた行動に出ていくクァン。

この手の復讐モノのジャンルは、大きく2種類に分けられて、ひとつはシンプルにエンタメ方向に傾倒し、アクション全開でリベンジをカタルシスを持って描いていくパターン。これは定番です。

『ザ・フォーリナー 復讐者』も普通に“ジャッキー・チェン”主演と聞けば、そうはいってもやっぱりエンタメに走るのでは?と考えちゃいますが、そこはしっかり抑えているのが堅実です。

一方で、ちゃんと“ジャッキー・チェン”主演だということも意識している部分も目立ちます。似たような状況に置かれる主人公を描いた『女は二度決断する』という作品も最近はありましたが、あれほどは無力さ溢れるシアリス一辺倒にはなりません。
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それもそのはずこのクァン、実はベトナム戦争時代に活躍した元特殊部隊員だったという過去を持っており、ゆえに常人離れした格闘術、判断力、技術力を兼ね備えたエキスパート。物理的な強さという点では、全然無力じゃない。むしろ強すぎる。

爆発物を手際よくセットするのも朝飯前、森にブービートラップを仕掛けて相手をハメるのも楽勝、対人戦になれば相手が何人いようがガンガン倒していく…ナチュラルに最強。

でもここでも“抑え”が効いています。ジャッキー映画を観たことがない人にはわからないかもしれませんが、本気モードの“ジャッキー・チェン”はもっと荒唐無稽に戦いますからね。『ザ・フォーリナー 復讐者』ではあくまで一定のリアリティラインを踏み越えない範囲でジャッキーらしく戦っていくというスタイル。身近なモノ(大型テレビとか)を駆使して戦うのも“できそうな”レベルですし、クァンの泊まる宿に追っ手が突入してくるシーンではクァンは屋根をぶちやぶって逃げますが、そこもそれ以上の暴れ方はしません(いつものジャッキー映画ならずっと屋根で戦っていたでしょうね)。トラップや爆発物で相手を圧倒するシーンも、さすがに『ランボー』ほどの派手さにはしない。

このほどよい手加減(?)が復讐モノのジャンルのベタな2パターンに本作をカテゴライズしづらくしており、オリジナリティになっています。

定番のタイプが見たかった人には逆に肩透かしかもしれませんが、硬派な新基軸を見れたことで喜ぶ人もいたはず。私はシリアスなジャッキー映画では一番バランスが良い作品だなと思いましたし、“マーティン・キャンベル”監督、さすがだなと。

北アイルランド問題を知る

さっきから“ジャッキー・チェン”の話ばっかりしてましたが、“ピアース・ブロスナン”も名演だったと思います。彼の演じるリーアム・ヘネシーという北アイルランド副首相の役は、単純な善悪で片づけられない立場なので、演じるのも難しかったと思うのですが、複雑な心理描写含めて見事に演じ切っていたのではないでしょうか(ちなみに“ピアース・ブロスナン”はアイルランド出身です)。

そもそも『ザ・フォーリナー 復讐者』は「IRA」とは何かについて理解しておくのは基本知識です。作中でも説明はしませんからね。わからなかった人はWikipediaとかで調べてください。

今は2005年にIRA暫定派の軍事協議会が武装闘争の放棄を宣言したことで目立ったテロが起きていないため、あまり関心も知識もない人もいるのは無理ない話ですが、かつてはそれはそれは酷いものでした。とくに本作の原作であるスティーブン・レザーの小説「チャイナマン」が執筆された1992年は暴力的な活動が続発していた時期。おそらく原作はもっと身近な恐怖として読者の心に刺さったはずです。

作中のリーアム・ヘネシーはフィクションの架空人物ですが、映画化の際にモデルにした人はいるようです。そのひとりが「ジェリー・アダムズ」という、IRA暫定派と関係が深いとされる「シン・フェイン党」の政治家。最近になって引退したのですが、この人物をめぐってはいろいろと評価が割れるほど、北アイルランド問題の渦中にいた人間です。

もうひとりが「マーティン・マクギネス」。北アイルランド自治政府の副首席大臣だった人間で、もとはIRAの武闘派の主要リーダーで、がっつりテロにも関わっていました。なので『ザ・フォーリナー 復讐者』を観て“こんなテロリストのメンバーだった人が副首相とかありえないのでは?”と思った人もいるかもですけど、史実では本当にあるのです。なお、マーティン・マクギネスは2017年に亡くなりました。

こんなように本作は北アイルランド問題という少し時代のずれたテーマを扱っているため、時代遅れ感が漂いそうですが、幸か不幸か、今はそれに代わる同質の問題性を抱えた「ヘイトクライム・テロ」が深刻化しているので、作中のクァンやリーアムの苦悩もしっかり現代社会に重なります

そしてテロをしていた側の人間が逆に不気味な敵意を向けられてテロをされる側に、テロで愛する者を奪われた側が逆に復讐心で相手を傷つける側に…この転換をすることでわかる、暴力や報復の無意味さ

ラストカットのクァンが見せる、人の拠り所は復讐ではなく愛にあるということを示すような優しさが身に染みる映画でした。

クァン、リーアム一派、IRA急進派の三つ巴という大ボリュームゆえに詰め込み過ぎた感じもあったし、最後のクァンのリーアムに対する“仕返し”もイマドキと思えばそうですけど、手垢のついたベタすぎる感じで新鮮味はないし、苦言もないわけではないです。でも全体的には楽しめました。

本作で気分が暗くなった人は、愉快で爽快なジャッキー映画の名作をいっぱい見ましょうね。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 64% Audience 72%
IMDb
7.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

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↑『ベルファスト71』…北アイルランド問題を題材にしたサスペンススリラー。こちらは政治劇はありません。
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