戦時下 女性たちは動いた
ドキュメンタリー映画『戦時下 女性たちは動いた(1914-1918)』『戦時下 女性たちは動いた(1939-1945)』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Elles étaient en guerre(Women at War)
製作国:フランス(2014年)
日本では劇場未公開:2018年にNetflixで配信
監督:Fabien Beziat, Hugues Nancy

戦時下 女性たちは動いた

あらすじ

人類史を揺るがした2つの大戦。それは男たちの世界だと思っていないだろうか。戦争を戦ったのは男だけではない。女たちも苦しみを抱え犠牲を払い戦った。これは今まで語られなかった、ヨーロッパの女性たちが生きた第一次世界大戦と第二次世界大戦の物語。

『戦時下 女性たちは動いた』感想(ネタバレなし)

戦争は男性だけが当事者ではない

映画のジャンルとして大きな存在感を持っている「戦争映画」。本当にたくさんの作品が生み出され続けています。2019年は『1917 命をかけた伝令』が賞レースを席巻したのも記憶に新しいです。やはりいつの時代になっても戦争映画の存在感は大きいですね。


私たちはその戦争映画を観ることで当時の実態や戦争の悲惨さを知ることができます。

しかし、ちょっと待ってください。その私たちが普段見られる戦争映画は偏っていないか、と。そうは言っても特定の国に偏向している…とかいう話ではないです。それを気にしたがる人は多いですが、これは気にする人はあまりいない。そう、ジェンダーの視点です。

世の中に溢れる戦争映画はたいていが男性視点なのです。女性も出てくるは出てくるのですが、それはあくまで男性から見た女性像に過ぎなかったりします。本当に女性視点でリアルな姿を描いた映画は少ないでしょう。

例えば、日本で言えば『この世界の片隅に』とか、ポール・バーホーベン監督の『ブラックブック』とか、ケイト・ショートランド監督の『さよなら、アドルフ』とか、女性と戦争を描く映画も挙げようと思えば挙げられます。逆に考えると、挙げようとしないとダメな時点で、やっぱり大多数の男性戦争映画に埋もれるマイノリティな存在なんですよね。そもそも男性戦争映画を挙げる…なんてことは普通しませんから。

いや、映画だけではない、小説や学術書だって男性視点に寄っていたりします。結局、戦争を取り巻くものは男性中心で支配されています

実際に戦争は男性が活躍していたのだからしょうがない? いいえ、それは違います。

戦争では女性も当事者であり、ときに必死で働き、ときに犠牲となっていました。ただ突っ立っていたわけではないのです。そして、戦時下における女性たちの姿は、プロパガンダで描かれるようなものではありませんでした。

では戦争における女性の実態はどのようなものだったのか。それを映像によって目に焼き付けてくれるのが本作『戦時下 女性たちは動いた』というドキュメンタリーです。

本作は2つの作品があり、『1914-1918』『1939-1945』というタイトルを見ればわかるように、それぞれ第一次世界大戦第二次世界大戦が題材です。フランスの作品ですが、フランスを主軸にしつつも、ヨーロッパ全土における戦時下の女性たちに範囲を広げています。各作が約100分程度なのでボリュームはそこまでありません。なのであの語るべきところが多すぎる大戦を網羅することはさすがにできていませんが、『戦時下 女性たちは動いた』の主眼は「女性」。それだけでも相当に特筆性のある作品です。

本作を観ることで、戦時下の女性たちが何をしていたのか、戦争が女性たちに何をもたらしたのか、その事実が浮き彫りになってきます。また、国民としての女性大衆だけでなく、その中でも突出した活動を行った女性人もピックアップ。女性活動家は男性活動家よりもはるかに語られる機会の少ないものですからこちらも貴重でしょう。

『戦時下 女性たちは動いた』を鑑賞してからさらに気になった出来事や人物を自分で深掘りして調べていくと、歴史をより紐解くことに繋がると思います(後半の感想で多少補足もしていますが)。

ナレーションは『悪の華』や『わたしはロランス』でおなじみのフランス女優の“ナタリー・バイ”が担当しています。

『彼らは生きていた(ゼイ・シャル・ノット・グロウ・オールド)』と同じ、アーカイブ系のドキュメンタリーなので、淡々と映像ととも当時の戦争に揺れる社会を映し出すのがメインです(カラー化しています)。地味かもしれませんが、やはりこちらも映像の説得力が物語るものがあります。


『戦時下 女性たちは動いた』は2020年3月時点では日本ではNetflixで配信中(以前はNHKのBSで放送されていたりしました)。ただし、オリジナル作品ではないので、いつ配信が終了するかはわかりません。視聴可能なときになるべくサクッと観てしまうのが良いと強く推奨します。結構あっさり配信終了しますからね。

本作を観れば、これからは何気なく戦争映画を観たときでも、いろいろな印象が変わってくるかもしれませんよ。

オススメ度のチェック
ひとり◎(戦争を知る欠かせない資料)
友人◯(戦争と女性の理解を深める)
恋人◯(互いに語り合う意味はある)
キッズ◎(歴史を学びたい子どもに)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『戦時下 女性たちは動いた』感想(ネタバレあり)

第一次世界大戦での女性の“戦い”

『戦時下 女性たちは動いた(1914-1918)』で映し出されるのは第一次世界大戦での女性たち。

まずその大戦が勃発する前の社会における女性の状況について説明されていきます。ここを踏まえておかないと戦時中の変化と比較できないですからね。

フランス社会における女性の役割は「夫を守る」こと。つまり、男社会を支えることでした。徹底してそのためだけの存在です。ただ、階級で女性の在り方は全く異なり、労働者階級の女性たちは毎日川で夫や子どもの服を洗い、家事に徹していますが、かたや上流階級の女性たちは毎晩舞踏会に参加し、華やかです。ただ、どちらとも男性のためなのは変わりませんが。

この当時の女性の状況を記録し、後世に残す役割を果たしたのも女性です。本作で真っ先に紹介されるアメリカの小説家「イーディス・ウォートン」。後にピューリッツァー賞を受賞するイーディス・ウォートンの風刺は社会の歪みを捉えていました。

しかし、女性たちもただ黙って男社会に従っていたわけではありません。女性の時給は男性の半分以下で、参政権はなし。そんな状況に不満は高まり、イギリスでの「エメリン・パンクハースト」を始めとする婦人参政権運動に刺激され、フランスでも参政権運動が活発化。「マルグリット・デュラン」らはフェミニスト新聞「ラ・フロンド」を創刊し、女性だけで作る初の日刊紙が登場。第一波フェミニズムの到達点とも言える、投票を求める女性の声は高まり、1914年は婦人参政権元年になるはず…でした。

ところが大戦が勃発する気配が…。左派も右派も戦争を支持し始め、ヨーロッパは戦場になります。

男性は兵士となり、街から消えました。すると労働者がいなくなったので、当然のように工場は休業、生産性が落ちます。これでは社会が成り立ちませんから、男に代わって女が働けと政府から命令が。

結果的に戦争以前よりも女性は社会の前面に出ることに。女性軍需工場はフル稼働し、また白衣の天使として兵士の治療にあたります。女性車掌や女性運転手も登場し、郵便サービスでも活躍。レントゲンの普及に一役買った「マリー・キュリー」のように技術革新も支えます。「アンナ・コールマン・ラッド」は精巧な仮面を作り、顔が負傷した元兵士に与える人道支援を行います。

また慰問も重要な役割となり、女優たちが歌い、舞う姿を見て、戦場で疲弊した男たちは現実を忘れます。官能的な絵ハガキが売れ、売春が流行。梅毒を防ぐために医師公認の売春宿もできました。

さらにスパイの世界でも女性は活躍。「ルイーズ・テュリエ」、「マリー・ド・クロイ」、「エディス・キャベル」、「ガブリエル・プティ」、「ルイーズ・ド・ベティニ」…人知れず活動した女性たちはたくさんいました。

第二次世界大戦での女性の“戦い”

『戦時下 女性たちは動いた(1939-1945)』で映し出されるのは第二次世界大戦での女性たち。

第一次世界大戦から年月が経過したものの、相変わらず男社会の二流で生きるしかない女性の社会的立場。避妊も禁止ですし、フランスではまだ女性参政権は認められず。

そして人類は懲りずにまたも大戦勃発。しかし、第一次世界大戦のときとは違います。あの時は女性たちは街で男を待って社会を支えるという“戦い”がありましたが、今度の大戦では戦争の発展にともない、直接的に街が攻撃され、空襲の被害者となります。疎開しなくてはならなくなり、戦場に行った夫だけでなく、子どもと別れることになる女性も続出。

しかも、それだけでは終わらない。内部の敵を潰しにかかるという戦争も起きます。具体的には共産党員(コミュニスト)、ユダヤ人など。当然その標的に女性も含まれます。

ナチスが行った民族浄化にともなう強制収容所の大虐殺について、本作よりも他の資料で語られるものの方が情報量が圧倒的に多いので、そちらを参考にする方がいいでしょう。

第一次世界大戦のときと同じく諜報機関は女性工作員を送り込んでサボタージュにあたらせます。中でもアメリカ人スパイの「ヴァージニア・ホール」の活動は凄いものです。ドイツ秘密国家警察が「連合国のスパイの中で最も危険なスパイ」と評価するくらいですから、お世辞抜きで優秀だったのだろうか。ちなみにデイジー・リドリー主演で彼女の映画化企画が進んでいるとか(実現するかは不明)。

敵の占領が拡大するとレジスタンスが活発化。人類学者の「ジェルメーヌ・ティヨン」は人類博物館グループとして占領地域でレジスタンス活動を展開。フランス第18代大統領シャルル・ド・ゴールの姪である「ジュヌヴィエーヴ・ド=ゴール」も対独レジスタンスに身を費やし…。

フランス、イギリス、ドイツ…。それぞれの国で戦争に従事する女性たちの雄姿、いや雌姿がありました。

戦時下 女性たちは動いた

戦争は女性の社会進出に繋がった?

『戦時下 女性たちは動いた』を観て、一番に印象に残ったこと。そしてこれは絶対に主張しないといけないんだなと思ったこと。それは「戦争は女性の社会進出にはならなかった」ということだと思います。

世の人の中には(往々にして戦争を暗に肯定する人ですが)、「戦争は確かに悲惨なものだけど、それで社会は進展したプラスの側面もあったから!」と言い放つ人も、まあ、いるものです。女性の社会進出においても言及は及びます。男がいなくなったことで、その穴を埋めるべく働く女性が増えて、労働の機会が向上したこと。はたまたパイロット、狙撃兵、機関銃兵などで、唯一女性を実戦配備したソ連を挙げて、戦う女性をヒーローとして持ち上げること(男性が好きな奴ですね)。こういうことがその「戦争=女性の社会進出に寄与」の根拠になりがちです。

でもそれはとても表面上しか見ていない薄っぺらい認識でしかないことがこの『戦時下 女性たちは動いた』を観ているとわかります。確かに「1945年に表彰された女性は1036人中たった6人だった」と説明されるように戦績での女性評価は不当に低いです。でも「女性も戦争万歳!」と言いたいドキュメンタリーではありません。

第一次世界大戦では働く女性が増える一方で、新聞記者「マルセル・カピ」は工場を取材し、その危険な労働環境と休む暇もなしで、女性工員は恵まれておらず使い捨てだということも報告。健康も害します。

それだけでなく政府はこういう働くことになった女性をプロパガンダに利用するようになった…というのが無視できませんよね。プロパガンダでは女性は笑顔で働いていることになっているけど、実際は笑顔なんてなかった…というリアルが恐ろしいです。

さらには団結し連帯する女性の象徴だった女性参政権運動は戦争高揚運動へすり替えられてしまっていました。シスターフッドは戦争の魔の手でいとも簡単に権力者に悪用されていく…というのはゾッとします。

第二次世界大戦におけるナチスのやりかたのように「こちらの権力構造に従えば社会で対等な一員として認めてあげますよ」という理不尽な上から目線。それはドイツだけでなく、ヨーロッパ全土で女性に対して行われたことなのでした。

戦争は女性を分断させる

一方で、大戦勃発後も声を上げ続けた女性はいたわけです。

声を上げる女性は沈黙したのかなと思いきや、平和主義を訴えることがフェミニズムの役割となっていったというのが印象的。

第一次世界大戦時は、ドイツ社会民主党の「ローザ・ルクセンブルク」は戦争回避を主張。また、フランス人でジャーナリスト兼フェミニストの「ルイーズ・ボダン」も戦争に反対。

第二次世界大戦時は、「ゾフィー・ショル」が白バラ抵抗運動の主要メンバーとしてナチスに果敢に抵抗します。

でも、結局そういう女性たちはやっぱり迫害され、最悪、処刑されてしまいます。

本作を観て私が強く実感したのは、戦争は男女間の溝を広げただけでなく、女性を「良い女性」と「悪い女性」に二分してしまっていることです。それは連帯とは全く逆の行為です。女性の分断です。戦争が起きてないときでもその二分はありますが、戦時中は一層酷くなる。

軍需工員でせっせと汗を流す女性労働者は“良い女性”。戦場に出た男たちを心配そうに待ち、帰還を喜ぶ女は“良い女性”。母親業に専念して男を健康で勇ましくした女は“良い女性”(手引書を作ったり、母の日を祝いましょうの映像とか、ほんと、気持ち悪かった…)。

しかし、平和・反戦主義を訴える女は“悪い女性”。とにかく権力者側の思い通りに動かない女は全部“悪い女性”。悪女です。

戦時下において女性が従事したスパイ活動も女性にレッテルを貼ることに繋がったと語られています。「ジャンヌ・ダルク」のような戦争を指揮し、無垢な汚れなき心を持つ女は“良い女性”。「マタ・ハリ」のような裏で何をしているかわからない、男を性的に誘惑して騙す女は“悪い女性”。ドイツ人の愛人だったというだけで吊るしあげられ、丸坊主にされる女性の屈辱的な姿が痛々しい…。

戦争自体が人権を踏みにじるものなので、それで平等な人権が手に入るわけがないのですが、それでもこの現実は…。大戦が終わって男たちが帰ってきたら、また元の家庭という居場所に押し戻された女。戦争は女性を道具としかみなしていなかったということか。

よくよく考えれば、社会をコントロールするときは、多様性なんて邪魔だから1種類の方がラクだし、男女で役割分担させておく方がいい。従わない奴は排除する。その力が働くのが戦争です。戦争が社会のジェンダー平等に貢献するなんて1ミリもないわけですよ。

そしてこのドキュメンタリーを「酷い話だな~」と昔話では語れないもので…。過去の大戦だけでなく、この現象は今だって見られると思うのです。

それこそ権力者が国難だなんだと騒ぐようなシチュエーションが起こったとき、「良い女性」と「悪い女性」の二分が自然と始まるもの。政府なんかは「良い女性」をベースに政策を進めるものです。「良い女性」しか恩恵を受けられなかったり…。

大戦時の苦痛の中で無表情で働く女性たちの映像は、未来を生きる私たちに無言の警告を送っているようでした。そして、緊急事態だと物騒な空気になったときこそ、声を上げる女性たちに耳を傾けるべきなのでしょう。

「女性は社会に参加すれば革命に暴力はともないません」

ジェンダーの平等は平和の実現には絶対に欠かせないものです。それを心に忘れないように。

ROTTEN TOMATOES
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IMDb
8.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★★

関連作品紹介

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・『娘は戦場で生まれた』


・『シティ・オブ・ジョイ 世界を変える真実の声』


作品ポスター・画像 (C) France 3 (FR 3)