ストレンジ・フィーリング
映画『ストレンジ・フィーリング アリスのエッチな青春白書』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Yes, God, Yes
製作国:アメリカ(2019年)
日本公開日:2020年7月24日
監督:カレン・メイン

ストレンジ・フィーリング アリスのエッチな青春白書

あらすじ

2000年代始めのアメリカ中西部。田舎町の敬虔なカトリック系学校に通う16歳のアリスは、性に興味を抱きはじめる。しかし、それはいけないことであると教えられていたので、自らを抑圧するだけ。そんな中、教会の合宿に参加するが、イケメンとの出会いや男女がイチャイチャしている様子を見てしまい、体は反応するばかり。彼女の欲求はどこへいくのか。

『ストレンジ・フィーリング アリスのエッチな青春白書』感想(ネタバレなし)

女の子の“悶々”青春コメディ

「性欲の目覚めは誰もが通過する共通の道のり!」なんていう無邪気な言葉は私のようなセクシュアリティの人間が一番傷つく発言例なのですが(詳しくは以下の記事参照)、まあ、だからといって性欲の気づきに悪戦苦闘する葛藤の物語まで全否定するつもりはありません。


むしろこういう物語を描くことはとても大切だと思っています。とくに女性の物語は。

なぜなら世間での「青春時代の性欲との付き合い」に関する取り上げ方を見ると、もっぱら男子のものばかりだからです。それは映画でも同じ。例えば、邦画だったら『14の夜』とか、“性欲と男子”という組み合わせを「男子らしい微笑ましさや情けなさ」として見なす風潮は色濃く、「性欲は男性だけにしかない本能だから、男の悩み!」と言い切る姿勢すら感じ取れます。

この状態は決して社会にとってプラスになっていないと思います。よく女性が性被害に困っている話をすると、男性がしゃしゃり出てきて「いや~、男ってのは性欲があるからさ、でもその性欲をコントロールできるのが、“デキる”男のマナーってやつだよね!」と悪気もなく口にする風景は珍しくありません。これら主張の背景には、おそらく性教育不足や偏った創作物からのイメージの定着による「性欲=男のモノ」という認識が固定化されているからでしょう。

しかし、当然ながら女性にも本質的には男性と何ら変わりない性欲があるわけです。でも女性の性欲というものは社会的に認知されていないか、暗黙の封殺を受けているため、全然語られもしません。

そんな中、女性の性欲、とくに思春期に突入した女子の性欲との向き合い方をテーマにした作品も、これまでの穴を埋めるように最近は登場しています。2011年のノルウェー映画『15歳、アルマの恋愛妄想』は直球でその題材を描いていますし、ドラマ『セックス・エデュケーション』も実に多彩に描き切っていました。


そして今回紹介する映画もその「女の子 with 性欲」モノ作品群の仲間入りを果たす良作と言えるのではないでしょうか。それが本作『ストレンジ・フィーリング アリスのエッチな青春白書』です。

なんともポルノというかアダルトチックな邦題になっていますけど、原題は「Yes, God, Yes」ですからね。あの、何を意味するかはあえて書きませんけれど、まあ、そういうことです。

タイトルのせいもあって、下ネタありのドタバタ青春学園コメディだと思うかもしれませんが、そういうエンタメ系とは少し毛色が違います。ましてやお色気サービス!みたいな露骨なものもないです(性的なシーンはもちろんありますよ)。もっと小規模で、ひとりの主人公の悶々とした日常を描く、シュールなコメディです。「悶々」って言葉がこれほど相応しい映画もないですよ。

とても赤裸々に、そして変にはやし立てることもなく、性欲に対する素朴な悩みと葛藤する女子の有様を淡々と描いており、なんだかホッコリします。“性欲と女子”という組み合わせだってじゅうぶん微笑ましいし、情けないよね…という共感を与えてくれる一作です。

監督は“カレン・メイン”という人で、もともと彼女が2014年に手がけた短編を長編映画化したもので、これが長編映画デビュー作となります。

そして『ストレンジ・フィーリング アリスのエッチな青春白書』に主演しているのは、大ヒット作となったドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』でナンシーという主要キャラを演じて一躍話題になった“ナタリア・ダイアー”です。もしかしてだから本作の邦題に「ストレンジ」が入っているのか…。

“ナタリア・ダイアー”は『ストレンジャー・シングス 未知の世界』ばかりで語られがちですが、2014年の『I Believe in Unicorns』というインディーズ映画でも主役を務めており、そこでもとても魅力的な演技を披露していました。全然単独で作品を背負えるだけの才能がある女優です。『ストレンジ・フィーリング アリスのエッチな青春白書』でも地味ながらそれはもう見事に熱演しており、“ナタリア・ダイアー”の魅力全開です。

他の出演陣は、ドラマ『13の理由』の“アリーシャ・ボー”、『ザ・ハッスル』の“ティモシー・シモンズ”など。

『ストレンジ・フィーリング アリスのエッチな青春白書』は本当に小規模作であり、映画時間はたったの約78分しかないのですが、それでもたっぷり中身は詰まっています。

エッチな映画目当てでは見ないでくださいね。これはそんなあなたを見透かす映画ですから。

オススメ度のチェック
ひとり◯(俳優ファンも見逃せない)
友人△(お一人様でこっそりと)
恋人△(お一人様でこっそりと)
キッズ◯(ティーンになったら…)

『ストレンジ・フィーリング アリスのエッチな青春白書』予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『ストレンジ・フィーリング アリスのエッチな青春白書』感想(ネタバレあり)

性欲は罪ですか?

tossed salad

A salad made of greens, often with added vegetables, tossed in a dressing.

salad tossing

A sex act involving the mouth and the buttocks.

カトリック系の学校。廊下では教師が次々とすれ違いざまに生徒の服装をチェックし、厳しく指導しています。それを少し離れた位置から見ているのはアリスという女子、16歳。品行方正で真面目ということで評判は良いです。

授業では、性に関する講義が行われています。そこでオナニーは神の計画に反すると堂々と説明され、ウェイドという男子高校生もいかにも優等生な態度で発言。神はいつでも見ている、オナニーは罪…そんな授業をアリスも周りに交じって黙って大人しく聞いていました。しかし、ウェイドに目がチラチラといってしまいます。

アリスは家に帰宅すると犬のガスに餌をやり、自分はパソコンの前に陣取ります。そしてチャットルームでどこの誰ともわからない相手とテキスト会話をします。すると「HairyChest1956」というユーザー名からいきなり淫らな写真が送られてきて思わず凝視。さらに年齢・性別・住所を聞かれ、「22歳・女・アイオワ」とテキトーに嘘を交えて回答。「写真ある?」と聞かれ。自分ではない写真を勝手に送ります。

まだ終わりません。その「HairyChest1956」はサイバー・セックスをしようと持ち掛けてきます。よくわからないままアリスも対応しますが、向こうはどんどん卑猥な文章を送ってきます。「自分のを触ってるの?」と聞かれ、新たに送られてきた写真には女性が自分の下着の中に手をつっこんで股間を触っているらしい姿が…。これをやればいいのか…? 全く理解が追い付いていないですが、おそるおそる自分でも手を自分の服の中、股間へと近づけようとした瞬間…「アリス!夕ご飯よ!」…ここで強制終了となりました。

ある日、友人のローラからウェイドとアリスが関係を持っているような噂が立っていることを聞かされ、困惑します。一方でウェイドはヘザーという女子と付き合っているようで、アリスはややショックを受けます。

マーフィー神父との一対一での罪の告白では、犬に餌を上げなかったりなどの懺悔はするものの、あの件(チャットルーム)については言わないことにするアリス。

そして教会のもと、お泊り会が開かれることになり、アリスもローラと一緒に参加します。ここでは仲間と信仰を深め合うのです。

さっそくバスで建物に到着し、降りるとそこでアリスたち高校生をサポートしてくれる先輩たちがやってきます。そのひとちクリスという男の腕の体毛に見惚れるアリス。しかし、自分を案内したのはニーナという女性でした。ところが、グループ分けが始まり、なんとあのクリスと一緒に。アリスの中で何かが湧きたちます。

フィーリング・チェックリストとして直感で気になる単語に〇をつけることをやっていると、アリスは「turned-on」に丸をします。ただこれは「著しい性欲を感じるさま」を意味する言葉でもあります。アリスはやっぱり消そうとしますが鉛筆の消しゴムが使えないので塗りつぶすという雑なことをし、ここでタイムアップとなりました。

1日目の夜、アリスはこっそり持ちこんでいた黄色い携帯でゲームをしていましたが、携帯の振動が鳴り、それが股間にたまたまあたり、何かに気づきます。

そんなこんなでアリスの性欲が本人も気づかぬままに刺激されていくばかり。私は何か変なのだろうか、これは天罰が下るのだろうか。アリスの悶々としたこの気持ちは神様も覗いているのか?

ストレンジ・フィーリング

メリッサウイルスには気を付けて

『ストレンジ・フィーリング アリスのエッチな青春白書』は舞台がまずいいですね。2000年代初期のカトリック系の影響力が強い学校。おそらくこの時期と場所が両方揃っていないと成り立たないシチュエーションなのだと思います。

まず宗教的な抑圧によっていわば「禁欲」的な状況に置かれている。それでいて、もしさすがに2020年にもなればカトリック系の学校であろうとインターネットやスマホで簡単に性の情報が入ってきてしまうので意味もないでしょうが、この2000年代初期だと絶妙にまだ情報不足感があります。

作中に出てきたAOLのチャットとか、あのテクノロジーレベルが懐かしいですもんね。いや~、今の若者には全然わからないでしょうけど、昔のパソコンはセキュリティとか全然なかったから、アダルトなコンテンツが平気で乱入してきましたよね。勝手にパソコン画面の下にアダルトなバナーが出続けたりとかね…。

環境としては『裸足の季節』にも近い、宗教的抑圧下で生きる女子が描く物語。“カレン・メイン”監督もインタビューで『裸足の季節』がお気に入りだと語っていましたが、一方で『ストレンジ・フィーリング アリスのエッチな青春白書』はそこからシリアス成分はだいぶ抜けて、じんわりとシュールさが漂うコメディになっていました。“カレン・メイン”監督も同じような境遇の青春時代を送っていたそうで、かなり実体験を反映した物語なようです。


性の情報として得られるのがチャットと『タイタニック』というのが何とも時代感があって今の時代に振り返ってみるとそこだけで面白おかしいところがあります。まあ、『タイタニック』のエロティックなシーンは基本的にシュールなコメディだと私も思うけど…。

ちなみに昔の話みたいに語ってしまいましたけど、本作の舞台になっているであろうアイオワ州というのは、現在のアメリカでも有数の中絶に厳しい対応をとっている地域です。プロライフ(中絶反対派)の活動も激しく、アイオワ州に行けばあちこちに中絶反対を掲げる看板が見えるとか。だから学校で行われている性教育の実態も、本作で描かれているものと今もそう変わっていないかもしれませんね。

ナタリア・ダイアーのスケベ演技の愉快さ

そんな世界で当たり前に暮らしている主人公のアリス。このアリスのキャラクター性がまた面白いです。

なんていうか、天然ではないのですけど、表面上は真面目そうに振る舞っているけど、裏では結構平然と感情おもむくままに行動しているんですね。周囲に合わせて溶け込むスキルだけは上手いというべきか。その行動のひとつひとつがまた笑いを生みます。

例えば、基本はアリスは性欲ムラムラなんですよ。でも平穏にしている。なぜならそれが正しいことだから。そう習ったから。この教えられたことを素直に疑いもせずに実行する従順さ

一方で、チャットルームの件であったりと、結構平気で嘘をつく度胸もあり、それがまたアリスの表面上の顔には出さないポーカーフェイスっぷりで上手くカモフラージュできちゃっているのが滑稽で。

あのみんなで悩みを語り合うシーンで、あまりにも自分の前の人がシリアスなことを重々しく語っていたものだから、自分も「私の犬が数週間前に亡くなりました」と大嘘をつくとか。この女、よくも!…ていう態度が見ているぶんには楽しい。

“ナタリア・ダイアー”の演技もまた愉快で、携帯電話がバレたのでバツとして掃除を命じられ、半ばふてぶてしそうに掃除をする姿とか、外でフェラする男女を目撃して思わずモップの柄を自分の股間に挟めて…というところで人が来たので誤魔化す動作とか、“ナタリア・ダイアー”のチャーミングさも相まって可笑しさ倍増です。顔芸みたいになっていくあたりもいいですね、

“ナタリア・ダイアー”って、俗に言うむっつりスケベ的なキャラクターをやらせるとこうもハマるのか…。

神様を手玉にとり、快楽を手にした女

その主人公アリスが巻き起こす(といっても周囲は全然気づいてないのだけど)珍事の中、明らかになっていくのは、みんなもなんだかんだで性欲ありありじゃないか…ということ。

あれだけ「ありません」と宗教的な御託を並べていたクセに、優等生先輩なニーナはがっつり男子のアレを咥えているし、宗教イケメンなクリスもキスされたら勃起しちゃうし、あの神父もポルノ動画を昼間からお楽しみだし…。

だったらいっそのこと素直になった方がいいのでは?  それがイエス様が本当に望んでいることなんじゃないの? そんなアリスのありのままを見たものとしての主張は至極まともで真っすぐ。

本作の性に対する率直な肯定感は気持ちがいいです。性を変に自己勝手に悪用するのはいけないことですが、でもタブー視するのもいけない。あるがままに知ろうとする姿勢。皮肉にもあのアリスは性教育の基本理念を体得したわけです。

ただそこはアリス。最後は神父を脅し…いや、手玉にとって「それでも神様は許してくれるでしょうか?」と神すらも利用する策士っぷりを披露。やっぱり、この女、よくも!…という憎たらしさも健在なのが最高に愉快すぎます。神様を手玉にとり、快楽を手にした女…というポジションが見事に聖書へのカウンターになっているのも痛快。

最後はビデオを再生しての自分の股間に手を…でエンドクレジットになり、なかなかにストレートな歌詞の曲がかかる。このラストの切れ味、本作の「女の子 with 性欲」モノとして100点じゃないでしょうか。

世の中には性的関心があるのに「ない」という枠に押し込められて困っている人もいれば、性的関心などないのに「ある」と決めつけられて困っている人もいる。正反対に見えますが、本質的には性を自分の意思ではなく他人に決められるという点で共通しています。

あなたの性欲はあなたのもの、神様のものじゃないですよね。

『ストレンジ・フィーリング アリスのエッチな青春白書』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 94% Audience 78%
IMDb
5.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

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↑『タイタニック』…作中でも何度も取り上げられた名作。エロ映画です(違う)。
作品ポスター・画像 (C)2020 by Vibe Productions LLC. All Rights Reserved ストレンジフィーリング アリスのHな青春白書

以上、『ストレンジ・フィーリング アリスのエッチな青春白書』の感想でした。