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ドラマ『アメリカン・ボーン・チャイニーズ 僕らの西遊記』感想(ネタバレ)…アジア系の若者にパワーを!

アジア系の若者にパワーを!…「Disney+」ドラマシリーズ『アメリカン・ボーン・チャイニーズ 僕らの西遊記』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:American Born Chinese
製作国:アメリカ(2023年)
シーズン1:2023年にDisney+で配信
原案:ケルヴィン・ユー
イジメ描写 人種差別描写 恋愛描写

アメリカン・ボーン・チャイニーズ 僕らの西遊記

あめりかんぼーんちゃいにーず ぼくらのさいゆうき
アメリカン・ボーン・チャイニーズ 僕らの西遊記

『アメリカン・ボーン・チャイニーズ 僕らの西遊記』あらすじ

アメリカで高校生としてひとめを気にしながら青春を迎えているジン・ワンは、少しお節介な母とあまり感情をださない父に囲まれて暮らしていた。アジア系としての偏見を感じることが多い日々だったが、高校ではイケてるグループの仲間入りをしようとオタク趣味も封印する覚悟でいた。しかし、その心意気は突然現れた転校生によって邪魔されてしまう。しかも、その子はただの中国系の少年ではなかった。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『アメリカン・ボーン・チャイニーズ 僕らの西遊記』の感想です。

『アメリカン・ボーン・チャイニーズ 僕らの西遊記』感想(ネタバレなし)

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次のアジア系の表象はこれだ!

2023年は『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(愛称『エブエブ』)の米アカデミー作品賞、そして主演女優賞と助演男優賞のW獲得という、アジア系のレプリゼンテーションの歴史において華々しい栄光から開幕しました。

もちろんこれで終わりにしてはいけません。アジア系の表象はここから正念場です。

続いて配信されたドラマ『BEEF ビーフ』はアジア系の表象を再び活気づけるエモーショナルでパワフルな作品になりましたが、出演俳優の過去の不祥事ゆえに、若干その盛り上がりに水を差すかたちとなってしまったのが残念。

そんな下がり気味を一気に盛り上げてくれるドラマが「Disney+(ディズニープラス)」から颯爽と登場してくれました。

それが本作『アメリカン・ボーン・チャイニーズ 僕らの西遊記』です。

本作は“ジーン・ルエン・ヤン”という台湾系のアメリカ人が2006年に発表したグラフィックノベル「American Born Chinese」が原作。

内容はご存じあの『西遊記』を独自に翻案したもので、ファンタジー青春学園ドラマを合体した異色作となっています。高校生の中国系移民二世の少年が人種差別を気にしながら白人中心社会に馴染もうとする中で、自分のアイデンティティを見い出す…そんな物語です。

原作はアジア系アメリカ人のミレニアル世代にとって画期的な文学と評されるほどの高評価を獲得したのですが、それがこのたびドラマ化。もちろん時代に合わせてアレンジもされており、しっかりZ世代向けにチューンアップしました。

アジア系の青春学園モノと言えば、最近もスピンオフのドラマ『愛をこめて、キティより』が配信されたばかりの『好きだった君へ』シリーズや、アニメーション映画だと『私ときどきレッサーパンダ』がありました。

『アメリカン・ボーン・チャイニーズ 僕らの西遊記』はよりアジア系のアイデンティティに焦点を絞っており、言い切ってしまうなら『エブエブ』の精神的続編とでもいうべき、魂を継承しています。当然、『アメリカン・ボーン・チャイニーズ 僕らの西遊記』の方はキッズ&ティーン向けなのですけど、『エブエブ』と同様に「Representation Matters!」の叫びが熱く迸ります

ドラマ化の原案は、俳優として活躍もしてきた“ケルヴィン・ユー”。アジア系中心の大作として見事に花火を打ち上げた『シャン・チー テン・リングスの伝説』“デスティン・ダニエル・クレットン”が製作総指揮&エピソード監督を務めています。

俳優陣ですが、主人公の子は今作で堂々の主演を果たした“ベン・ワン”。大人勢は、『イロイロ ぬくもりの記憶』”ヤオ・ヤンヤン”『モータルコンバット』“チン・ハン”『香港国際警察 NEW POLICE STORY』“ダニエル・ウー”、ドラマ『戦慄の絆』“ポピー・リウ”など。

さらに『エブエブ』からは“ミシェル・ヨー”、“キー・ホイ・クァン”、“ジェームズ・ホン”、“ステファニー・スー”も勢揃い。とくに“キー・ホイ・クァン”がめちゃくちゃ良いです。“キー・ホイ・クァン”だけで100点満点中300点くらい叩き出すし、このドラマの深みをグっと底上げしてくれます。私も思わず目頭が熱くなってしまった…。また賞をあげたい…。

ちなみに『エブエブ』の大成功あってこのキャスティングになったわけではなく、『エブエブ』が劇場公開されて話題となった頃にはもう本作の撮影は終わっていたそうです。

『アメリカン・ボーン・チャイニーズ 僕らの西遊記』は「Disney+(ディズニープラス)」で独占配信中で、このサービスの中では必見のドラマとなりましたね。全8話で1話あたり約30~40分です。

アジア系のレプリゼンテーションの変革の瞬間をぜひその目で。

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『アメリカン・ボーン・チャイニーズ 僕らの西遊記』を観る前のQ&A

✔『アメリカン・ボーン・チャイニーズ 僕らの西遊記』の見どころ
★アジア系のレプリゼンテーションの節目となる物語。
★とくにキー・ホイ・クァンの覚悟と名演。
✔『アメリカン・ボーン・チャイニーズ 僕らの西遊記』の欠点
☆ファンタジー要素もあるので苦手な人はいるかも。
☆アジア系へのマイクロアグレッションな差別描写はあり。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:表象に意義を感じる人に
友人 3.5:青春学園モノ好きなら
恋人 3.5:異性ロマンスあり
キッズ 4.0:アジア系の子に
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『アメリカン・ボーン・チャイニーズ 僕らの西遊記』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『アメリカン・ボーン・チャイニーズ 僕らの西遊記』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):第4の経典とは…

幾千年もの間、玉皇大帝の統治により平和を享受してきた天界。赤い森を身軽に駆けるひとりの若者がいました。変身する動物に追いかけられており、追跡者は猿の王「孫悟空」として正体を現し、「それを返せ」と息子に迫ります。“それ”とは伝説の如意棒です。しかし、逃げる息子は如意棒をがむしゃらに振りかざし、吹き飛んでしまいます。辿り着いたのは眼下に雲の穴がある場所。そして意を決して飛び降り…。

ところかわってアメリカ。ジン・ワンは母クリスティーンが服を選ぶのを店で居心地悪そうに見ていました。新学期間近です。更衣室の前でひとりの女子に恥ずかしいところを見られて落ち込みます。

ジンはクールな高校生になりたいと考えていました。アヌジという昔なじみのオタク友人がいますが、高校では新しいスタートを切りたいのです。自分の部屋にはポケモン、ドラゴンボール、ナルト、アメコミのグッズ…その他もろもろ。ここから生まれ変われるでしょうか。

ふとスマホでSNSを眺めると、昔のドラマのアジア系のキャラいかにもアジア系のわざとらしいギャグで笑いをとっている動画が流行っていました。母クリスティーンと父サイモンの口喧嘩の音をヘッドホンでブロックします。

翌日、学校へ。アヌジを見かけて声をかけるも、ジンは以前に距離をとったこともあって無視されてしまいます。次に思い切って白人中心のサッカーの男子たちのトークに混ざり、サッカーの選抜テストに来いと誘われます。

科学の授業ではアメリアという女子に「実験のペアになる?」と誘われて、これは幸先いいかもしれないと思った瞬間…。

校長に呼ばれます。名前を間違われますが、これはいつものこと。ついていくと、急に中国語で話しかけてくるひとりの生徒が現れました。ウェイチェンは転校生だそうで、「似た者同士だから助けてあげて」と校長に言われます。

とんだ邪魔者の出現で、あのサッカー男子たちと仲を深める機会も失いました。たどたどしい英語で食堂で話しかけてくるウェイチェンが妙に鬱陶しいです。

しかし、彼の持っていた水筒のキャラに興味を持ち、ウェイチェンもこのキャラのフィギュアを取り出してきます。「クーゴレン」です。でもジンも知らないキャラです。厳しい父からもらったらしいです。

次の日、学校でアメリアに勇気をもって誘ってみると、「友達としてなら」と言われてしまいます。やや出鼻を挫かれて気まずい思いをしていると、さらにウェイチェンがよりによってジンと同じ格好でやってきて、さすがに腹が立ってウェイチェンと喧嘩してしまいます。その結果、盛大に廊下でヘマをしてしまい、最悪な気分です。

そのまま怒り収まらずジンは選抜テストで勢いを出し過ぎて他の人に激突。「他の部活を探せ」と追い出されます。

一方、ウェイチェンは父と対峙していました。話題にでるのは第4の経典。そこに観音菩薩が現れて…。

この『アメリカン・ボーン・チャイニーズ 僕らの西遊記』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2024/01/07に更新されています。
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まさかの日本のドラマのオマージュ

ここから『アメリカン・ボーン・チャイニーズ 僕らの西遊記』のネタバレありの感想本文です。

『アメリカン・ボーン・チャイニーズ 僕らの西遊記』は、大きく分けて、ウェイチェンの孫悟空ファンタジーなエピソードと、ジン・ワンの青春学園ドラマ・エピソードの、2つのパートが並行して進みながら互いに影響し合っていくという構成です。

ウェイチェンのパートの方はかなりわかりやすい「父・息子」の軋轢と継承のドラマです。息子に厳しく突き放してしまうシングルの父親と、力の使い方に慣れていない息子。この構図は『シャン・チー テン・リングスの伝説』でも見たものですね。滞空演出が際立つ武侠、大技と小技を組み合わせた武術、トリッキーな酔拳まで、アクションも中華圏のものを結集した感じで充実しており、こちらも類似しています。

なお、第4話で孫悟空の過去の天界での物語が映像で語られ始めるのですが、そのパートは明らかに他と演出が違っています。これは1978年の日本テレビ・国際放映制作のテレビドラマ『西遊記』をオマージュしたものになっていて、実はこのドラマは日本の作品で日本の俳優がでているものですが、案外と海外の英語圏で大人気で、一部でカルト的に支持されました。この日本ドラマはベースは普通に「西遊記」そのままですが、三蔵法師を“夏目雅子”が演じていて、女優の男役としてキャスティングするなど、結構思い切ったことをしている作品でもありました。

意外なところで日本ともリンクさせるという、アジア圏を総結集させるようなお遊びですね。芸の細かいドラマです。

牛魔王とは友人だったものの、竜王から大聖の後継者に選ばれたのは孫悟空で、そこから続く確執。孫悟空が父親として、またはひとりの男性として、自己を見つめ直す。同時に息子のウェイチェンは新しい世代の孫悟空として羽ばたいていく(観音菩薩が補佐するというのも大事)。

こちらのパートでは主にマスキュリニティを中心としたアイデンティティをめぐるストーリーとして役割を果たしていました。

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私たちはネタじゃない

『アメリカン・ボーン・チャイニーズ 僕らの西遊記』のもうひとつのパート、ジン・ワンのエピソードは、そのものズバリなアメリカにおけるアジア系としてのアイデンティティ・クライシスの物語です。

同級生や教師からマイクロアグレッションをじわじわ受けながら、でも特に目立った嫌な顔を極力表に出さず、ひたすらに白人中心社会に同化して溶け込もうとしているジンの姿は、本当に見ていて心苦しいものがあります。これは人種だけでなくクィアでも同じだと思いますけど、マジョリティな社会に配慮させられて、必死に混ざり込むことでしか生存できないって、すごく辛いですよね。自分で自分を傷つけるような感覚で…。

本作ではそれを、ピカチュウの格好で人前で歌ってバズることに腐心したり、文化部のスージーが不適切動画への正義を求めて抗議運動する傍らで加害者側をかばってみせたり、そういうイマドキな痛々しさで映し出します。

実はジンの父サイモンも同じように社会に溶け込むことにうんざりしており、白人上司とボン・ジョヴィの話で一瞬気が合うあのシーンも切なかったです。

そんな中でとても重要なキャラクターとなるのがジェイミー・ヤオです。

原作では「チンキー」というキャラクターが登場し、これはアジア系へのステレオタイプを極端に誇張した集合体のような存在で、かなりキツイ嫌悪感をあえて与えるものでした。もちろんそれは差別を伝える狙いとして原作者は必要な仕掛けと考えたものなのですが…。

本作では映像化するのでさすがに「チンキー」は厳しいと考えたのか、代わりに用意されたエピソードがこのジェイミーの物語です。俳優のジェイミーはかつて大人気シットコムでフレディ・ウォンという役で注目を集めましたが、それは露骨にアジア系蔑視のキャラでした。そのキャラは今もSNSでミームとして流行っており、俳優を引退したジェイミーの心にしこりを残します。

ジェイミーは同窓会番組に出演した際、「アイコニックなキャラで今もミームになってますね。どんな気分ですか?」と全く気にも留めない質問を受け、そこで言葉を選びながらこう述べます。

「チャンスには感謝してます。でも仕事はその後に回ってこなかった。個人の問題じゃない。業界全体の問題です。オタクの脇役、忍者とかしか。ヒーローになりたかった。ヒーローは勇敢で手助けする人です。信念のために闘う人。これを見てる若者に言いたい。パンチライン(ネタ)にならなくていい。ヒーローになれる

ジェイミーを演じた“キー・ホイ・クァン”の一世一代の名スピーチです。“キー・ホイ・クァン”もこのジェイミーの役がオファーされた時はさすがに躊躇したらしいですけど、彼しか言えない、彼にこそ説得力をもたせられる、素晴らしいメッセージでした

その言葉を動画を通して次世代のアジア系であるジンが受け継ぎ、両親もワンと発音できない校長にひと言放つ。私たちアジア系は「キャラクター」じゃないし、わかった気にならないでくれ…と。リアルな人間としての誇りがあるんだ…と。

最終的にジンは友人と力を合わせて、スーパーパワーではなくオタク知識で、天界と地上を救う。世代、文化、エンターテインメント…いろいろなものがひとつの人種の固定観念を打ち砕く。エモーショナルなラストでした。

最後は、一件落着かと思いきや、家に鉄扇公主が佇んでおり、ジンが「もっとゆっくり中国語を話してもらえますか?」と頼む。これは「ゆっくりじゃないと英語を聞き取れない」というアジア人への固定的なイメージへの意趣返しですが、最後の最後までしっかりオチをつける愛嬌も良かったです。

こういう作品が傍にある今のアジア系の子たち。そんな子が大人になって次にどんな創作をするのか。世代のバトンはまだまだ続きますね。

『アメリカン・ボーン・チャイニーズ 僕らの西遊記』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 96% Audience 84%
IMDb
7.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
8.0

作品ポスター・画像 (C)Disney アメリカンボーンチャイニーズ

以上、『アメリカン・ボーン・チャイニーズ 僕らの西遊記』の感想でした。

American Born Chinese (2023) [Japanese Review] 『アメリカン・ボーン・チャイニーズ 僕らの西遊記』考察・評価レビュー