愛の多様性を子どもに教えてくれる…アニメシリーズ『スティーブン・ユニバース』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2013年~)
シーズン1:2013年~2015年に各サービスで配信
シーズン2:2015年~2016年に各サービスで配信
シーズン3:2016年に各サービスで配信
シーズン4:2016年~2017年に各サービスで配信
シーズン5:2017年~2019年に各サービスで配信
原案:レベッカ・シュガー
恋愛描写
スティーブン・ユニバース
すてぃーぶんゆにばーす
『スティーブン・ユニバース』あらすじ
海辺の静かな町ビーチシティの古い寺院で暮らすスティーブン。でもひとりではない。ガーネット、アメジスト、パールという3人と一緒に過ごしており、4人は「クリスタル・ジェムズ」を名乗っていた。目的は地球を守ること。しかし、スティーブンは半人前でなかなか活躍することはできない。個性豊かな町の住人に見守られ、今日もクリスタル・ジェムズは元気に活動する。
『スティーブン・ユニバース』感想(ネタバレなし)
子ども向けアニメは次のステージへ
幼い頃に観るアニメというのは影響力が大きいと思います。多感な時期であり、現実とフィクションの区別をつける能力も未熟ですから、アニメの内容を大人が考える以上にストレートに受け取ってしまうこともしばしばです。
だからこそキッズ向けのアニメを作る制作者は細心の注意を払い、子どもに不用心にマイナスな作用を与えないように気を遣っています。『プリキュア』とかを観ると、そういう意識を強く感じますよね。
そんな中、最近の、とくに海外の子ども向けアニメがトレンドにしているのは「ジェンダー」や「セクシュアリティ」でしょう。従来、子ども向けコンテンツはこれらの要素に無頓着で、平然と「男らしさ」「女らしさ」というジェンダーロールを押し付けてきました。その結果、差別意識が無自覚に育ってしまい、当の子どもたち自身も大人になっても苦しむことになりますし、反転して加害者にもなりうることにすらも直結します。
そこで昨今の海外のキッズ向けアニメはジェンダーやセクシュアリティの多様性を肯定する作品を作ろうとし始めており、ただ、いかんせん性が絡む内容なだけに、それをどう伝えるかに苦慮している面もあります。最近だと『シーラとプリンセス戦士』というアニメシリーズが、主人公の同性愛を真正面から描き、業界をザワつかせました。こうやってどんどん踏み込んでいく作品は相乗効果で今後も続出するでしょうね。
そのような潮流において今回紹介する『スティーブン・ユニバース』というアニメシリーズは、ジェンダーやセクシュアリティの描写においてアイディア勝負で相当な新規開拓を成し遂げた一作だと思います。
本作は「カートゥーン ネットワーク」が作るオリジナルアニメであり、アメリカでは2013年から放映されており、なんだかんだでずっと続いている息の長い作品です。日本では現時点(2020年7月時点)で、シーズン1~シーズン4がAmazonプライムビデオで配信されているほか、dTVチャンネルで視聴できる「ブーメラン」というチャンネルの中で、シーズン5までを扱っており、シーズン5は独占配信となっています(以降のシーズンも配信予定のようです)。
子ども向け作品であり、ビジュアルを見てもらえるとわかるようにほのぼのとしています。これのどこが革新的なの?と思うでしょうが、実際に鑑賞し始めても最初はわからないはずです。なぜなら本作は非常に説明の無い作品で、初期のエピソードでは脈絡のない1話完結の物語が繰り返されるだけ。しかし、しだいに世界観が顔を覗かせ、物語の本筋が見えるようになると「なるほど」と納得できます。
ネタバレするとつまらないのでこれ以上は前半の感想では書きませんが、すごく多様な愛を肯定する作品になっており、なんといってもその範囲が極めて広いです。
このような作風を構築できたのも原案にして監督である“レベッカ・シュガー”の功績なのは間違いありません。『アドベンチャー・タイム』で才能を注目され、20代の若さでいきなり企画を手がけた凄い人。そんな“レベッカ・シュガー”は「ノンバイナリー(男性でも女性でもないジェンダー)」であるとカミングアウトしており、ゆえにここまで枠にとらわれない全肯定な愛を描けるのでしょう。とにかくこれは稀有なことです。時代もここまで来たかと思いますね。
基本的に1話あたり10分ちょっとの時間で、テンポよく鑑賞できます。物語が進めば広大に拡充される奥深い世界観にいつのまにかハマっているでしょう。子どもだけでなく、大人のファンもコミュニティとして存在しているのは、それだけ面白い証拠です。
シーズン5で一旦区切りがついて大団円を迎えるため、シーズン5では怒涛のように真実が明らかになります。なのでそこをネタバレするのもあれかなと思うので、以下の後半の感想ではシーズン4までのネタバレにとどめています。
気になる方はぜひ気軽に視聴してみてください。
オススメ度のチェック
ひとり | ◯(大人でも楽しめます) |
友人 | ◯(どんどん布教しよう) |
恋人 | ◯(せっせと布教しよう) |
キッズ | ◎(子どもに見せたい一作) |
『スティーブン・ユニバース』予告動画
↓第1話の無料配信(公式)です。
『スティーブン・ユニバース』感想(ネタバレあり)
We Are the Crystal Gems !
ビーチシティという海辺にある小さな町。住人全員が顔見知りくらいの人口の町で、ひとりの少年が暮らしていました。彼の名前は「スティーブン・ユニバース」。マイペースで優しい性格で、少し危なっかしいですが、でも誰にでもフレンドリーな少年です。
「The Big Donut」というドーナツショップ(ラーズとセイディの2人が店番していることが多い)に行ったり、フライマンが営む「Beach Citywalk Fries」というフライドポテト店(フライマンの息子ピーディーが店番していることも。ピーディーの兄ロナルドは超常現象オタク)で「はじっこポテト」という裏メニューを好んだり、なにかと食欲旺盛です。
父親のグレッグの影響でウクレレなど楽器ができ、即興で歌を歌うこともあります。町のイケてる三人組(サワークリーム、バック、ジェニー)やほとんどしゃべらない少年オニオンなど、いろいろな他の人とも友達になり、みんなの前で音楽を披露することもあります。ハロルドの経営する遊園地とゲームセンターくらいしか大衆娯楽がないので、イベントごとは大事です。
そんなスティーブンの世話をしているのが、ガーネット、アメジスト、パールの3人。彼女たちは人間ではありません。遠い星からやってきた「ジェム」という宝石型生命体です。もともとこの3人のリーダーはローズ・クォーツという存在であり、スティーブンの母親です。つまり、スティーブンもまたジェムでもあり、彼のお腹には宝石がついています。ローズが亡くなった後、スティーブンの面倒を見ることになり、ガーネットをリーダーに「クリスタル・ジェムズ」としてチームを結成し、活動しています。その活動とは、町周辺に現れる傷ついてモンスター化したジェムを無害化し、バブルに封じ込めること。
けれどもスティーブンはジェムとしての能力に覚醒できずにいました。なんとか盾を出せるようになり、癒しの力を発揮できるようになったりと、ちょっとずつ成長を見せます。
その努力の中で、ある事実を知ります。ローズ含むクリスタル・ジェムズは反逆者であり、本来のジェムは地球を侵略しに来ていたのです。今から5000年以上前のこと。ローズはそのジェムから地球を守ることに決め、その意思を受け継いで今に残るのはガーネット、アメジスト、パールの3人だけ。そのことを知り、最初は動揺したスティーブンでしたが、母の愛を知り、自分を受け入れていきます。
一方、ジェムは地球を諦めていませんでした。クリスタルジェムズの故郷ホームワールドを統治する複数のダイヤモンドたちは、配下のジェムを密かに地球に送り、暗躍をさせます。
スティーブンはジェムが通常は「幼稚園」と呼ばれる場所で製造されることを知ります。そしてガーネット、アメジスト、パールにもそれぞれの人生があったことがわかります。さらに母であるローズにはもっと大きな秘密があることも…。
再び大きな波乱の予感が漂いつつ、スティーブンはどんな未来を選択するのか…。
少年物語のバージョンアップ
『スティーブン・ユニバース』は主人公のスティーブンを主軸にした「少年物語」です。しかし、それはいわゆる既存の少年物語とは大きく外れるもので、良い意味で少年っぽくありません。
従来の少年物語はそれこそ日本ならば「週刊少年ジャンプ」などが得意とするような王道がありました。その王道の要素とは、仲間を集めて、力を誇示し、敵に打ち勝つこと。その過程で理想的な女性(ヒロイン)をゲットすることも恒例です。
けれどもそれらは下手をすればマスキュリニティの悪い側面とも言え、そこをさも“男ならば目指すべき正しい姿”として安易に子どもに提示するのはいかがなものか…というのは懸念されるところでした。私も『ワンピース』の映画で同じような感想を書いた気がします。
それに対して本作『スティーブン・ユニバース』は、そういう“男らしさ”から降りる物語であり、まさに「少年物語」を現代的にアップデートしてみせる一作ではないでしょうか。
スティーブンは暴力を好みません。“強い奴がすべて”という価値観もなく、力を誇示してリーダーになることもありません。それはスティーブンの能力が「守り」と「癒し」の力であることからも窺えます。
さらに作中で出会うコニーという女の子との関係も印象的です。ガールフレンド的な立ち位置ではありますが、スティーブンが彼女を所有したり、従属させることは当然なく、コニーもまたスティーブンに依存したり、頼り切ることもないです。極めてフラットな関係で、男女の固定観念を気持ちよく壊してくれます。コニーの方が「剣」という攻撃武器を持つことになるのも製作陣の明確な意図なのでしょう。
また、親との関係も特徴的。既存の男らしさ重視の少年物語であれば、父親の存在は主人公となる少年にとっていわくつきの相手になりがち。でもスティーブンにとってのグレッグはそういう要素は全くなく、まるで最も昔馴染みの友人のように静かに支えてくれる間柄。グレッグは何かしらの男らしさで誘導することもなく、あるがままのスティーブンを受け入れて後押ししてくれます。従来でいう母みたいなポジションです。
一方で母となるローズの存在はスティーブンにとって複雑な関係性をもたらし、物語が進むにつれて、ちょっと真意すらもわからなくなってきます。父と母のステレオタイプも覆しているという意味でも特異な作品です。
その“男らしさ”を放棄したスティーブンという新しい少年を最も体現しているのが、作中で仲間になるライオンでしょう。たてがみがあるのでオスだと思いますが、それがピンク色。ジェンダーをミックスしたような存在感です。
このスティーブンの男らしさの脱却の要素は、他のキャラ(とくにラーズ)に波及していくことにもなります。
多様な愛を巧みに正々堂々と見せる
そのスティーブンが“男らしさ”から降りる手助けをし、新しい存在としてリニューアルさせる直接的な影響を与えているのが、ノンバイナリーであるジェムたちだというのが何と言っても象徴的ではないですか。
一応、あのジェムたちは全員が女性型をしています。わかりにくいですが、ちんちくりんなラピス・ラズリもあるエピソードではスカートをはいていたりするので女性型なのでしょう。しかし、実際はノンバイナリーとして設定されており、ほとんど性別としての概念はないです(あくまでジェンダー・エクスプレッションが女性)。
そしてジェムの特殊能力のひとつが「合体(fusion)」。2体以上のジェムがひとつに合わさることができ、そのためには両者の心からの合意が必要になります(ダンスのシンクロで視覚化される)。絵的には魔法少女的な変身要素のエンターテインメントであり、作中ではいろいろなジェムが次々と要所要所で合体して活躍するので、とても楽しいポイントです。
ただ、元も子もない直球な言い方をしてしまえば、この合体要素はセックスとほぼ同義なわけです。まあ、少なくとも愛のかたちではありますよね。
例えば、ガーネットは実はルビーとサファイアという2つの小さなジェムがすでに合体した姿だとわかりますが、それはルビーとサファイアの相思相愛っぷりを見ればわかるように同性愛としての描写に他なりません。
また、ローズとパールの関係もそうです。パールは他にも複数いて召使つかい的な汎用性のあるジェムなのですが、あのクリスタル・ジェムズのパールはローズへの特別な愛を自覚し、与えられた役割を逸脱してローズとの関係性を構築しました。なのでグレッグへの敵意が最初はあり、言うなればかなりドロドロした三角関係なんですよね。
スティーブンとコニーも合体することができ、ステボニーになれるのですが、このステボニーは両性具有な存在で、ときに男性的、ときに女性的にもなり、それこそジェンダーフルイドとも解釈できなくありません。
途中からラピス・ラズリやペリドットが加わり、色が増えるクリスタル・ジェムズ。それぞれが信頼、もっと言えば愛で結ばれ、それはまるで家族というか、ポリアモリー的な関係とも表現できるでしょう。
そもそもクリスタル・ジェムズはローズという中心的存在から独立していくような流れになります。ローズはピンク色のテーマカラーに、豊満な体つきなどいかにも母性溢れる女性的な存在。つまり、ジェムズたちは圧倒的な“女らしさ”から脱却しようとしているとも受け取れますね。
こういうLGBTQの多様な愛をある種のメタファー的に導入している本作。結果、非常に包容力のある作品になっています。でもこれはファミリーアニメ界ではまだまだ異端扱いなのです。本作だってイギリスなどでLGBTQに該当しうるシーンのカットや変更が加えられ、ファンダムが怒りの抗議をしたりしましたから。
「LGBTQは子どもには見せてはいけない」…その偏見はしつこく、本作はそれに挑む作品となりました。
日本アニメを受け継いで進化する
画期的な一作となった『スティーブン・ユニバース』ですが、多くの日本のアニメ作品が参照されており、創作の素材になっていることが、製作陣のインタビューや作中のオマージュからもわかります。
例を挙げると、スティーブンの少年物語は、日本作品で言えば『未来少年コナン』や『天空の城ラピュタ』のような宮崎駿の少年像に通じるところがあります。
また、多様な愛の享受という意味では、『少女革命ウテナ』の影響も強く感じ(“レベッカ・シュガー”もファンだそうです)、私に言わせれば『スティーブン・ユニバース』は『少女革命ウテナ』をファミリーアニメにしたものだとすら思えなくもない。ちなみに、パールが訓練シーンで剣技をぶつけあう演出は明らかに『少女革命ウテナ』オマージュでしたね。
大事なのは本作は日本のアニメ作品の良さを引き継ぎつつ、ジェンダーやセクシュアリティの観点でアップデートし、さらなる飛躍を見せていることです。
逆に今の日本のアニメ作品はジェンダーやセクシュアリティの観点が抜け落ちぎみであり、いまだにジェンダーステレオタイプな描写も目立ちます。
この近年浮き彫りになってきた差については熟慮するべき点だなと私は思います。日本ではポリコレが表現を狭めると大声で言う人も少なくないですが、実際のところ、むしろポリコレを意識する作品の方が表現の幅が増えているのは『スティーブン・ユニバース』を見れば一目瞭然です。
「日本アニメへのリスペクト愛」と「多様性への愛」が両方詰まった『スティーブン・ユニバース』は私たちにそろそろ変革する時間ですよ…と告げてくれているのではないでしょうか。
なお、『スティーブン・ユニバース』はアメリカではシーズン5の後に映画『Steven Universe: The Movie』が公開され、『Steven Universe Future』というシーズン6に相当するリミテッドエピソードが追加放送されています。全部たっぷり味わいたいですね。
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 100% Audience 92%
S2: Tomatometer 100% Audience 94%
S3: Tomatometer 100% Audience 91%
S4: Tomatometer 100% Audience 91%
S5: Tomatometer 100% Audience 91%
IMDb
8.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★★
作品ポスター・画像 (C)Cartoon Network Studios スティーブンユニバース
以上、『スティーブン・ユニバース』の感想でした。
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