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アニメ『アーケイン Arcane』感想(ネタバレ)…世界観とキャラクターと映像、すべてが良質

アーケイン

世界観とキャラクターと映像、すべてが良質!…アニメシリーズ『アーケイン』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Arcane(Arcane: League of Legends)
製作国:アメリカ(2021年~2024年)
シーズン1:2021年にNetflixで配信
シーズン2:2024年にNetflixで配信
原案:クリスチャン・リンキー、アレックス・イー ほか
自死・自傷描写 性描写 恋愛描写
アーケイン

あーけいん
アーケイン

『アーケイン』物語 簡単紹介

繁栄を遂げる豊かな都市であるピルトーヴァーと、その下に広がる闇と欲が徘徊する地下都市であるゾウン。2つの世界はかろうじて均衡を保っていたが、今このバランスは崩壊する。そこで運命を共にしてきた姉妹が袂を分かち、巨大な陰謀が渦巻く中で過酷な戦いに身を投じる。科学、魔法、そしてぶつかり合う信念。世界は世紀の大発明によって発展したが、そこに生きる者たちの苦悩は消えることはない。

『アーケイン』感想(ネタバレなし)

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ゲームを知らない人も

俗に「洋ゲー」とも呼ばれる、日本以外の海外のメーカーが開発したコンピュータゲーム(テレビゲーム)。日本では任天堂とソニーという世界的ゲームハードメーカーが国内に存在していることもあって、だいたい一般にはゲームとして知名度があるのは日本のゲーム(和ゲー)ばかりです。逆に洋ゲーを知っている人、プレイしている人は、かなりのマニア…という認識かもしれません。

でも最近は映画やドラマなどで映像化する洋ゲーが増えてきて、あまりその世界に関心がなかった人にも触れる機会が増えてきたのではないでしょうか。実のところ、日本では全然有名ではないけど、世界的にはとんでもなく人気な洋ゲーはいくつもあります。最近だと映画になった『モータルコンバット』とか…。

今回紹介する作品は、とある世界的人気作の洋ゲーがアニメ化されたものですが、これがアニメーション業界の歴史的にも大きな一作になりそうです。

それが本作『アーケイン』という「Netflix」独占配信のアニメシリーズ。

本作の原作となったゲーム、それが「リーグ・オブ・レジェンド(League of Legends)」です。「Riot Games(ライアットゲームズ)」という企業が開発し、1作目は2009年にリリースされました。以降、世界的に人気となり、ゲームの世界大会(eスポーツ)が開催されて盛況となっています。

ゲームのジャンルとしては「マルチプレイヤーオンラインバトルアリーナ(MOBA)」と呼ばれるもので、リアルタイムストラテジー(RTS)のサブジャンルです。2つのチームに分かれて各キャラクターを操作しながら相手の本拠地を破壊すれば勝ち。戦略がものを言うマニアックなゲームなのですが、「リーグ・オブ・レジェンド」はその敷居を下げ、もう少しカジュアルにプレイしやすくしたということもあってプレイヤーを拡大させました。

個性的な戦闘能力を持った「チャンピオン」と呼ばれるキャラクターを操作するのですが、そのキャラクターもファンの間では人気で、コスプレなんかも流行っています。

その「リーグ・オブ・レジェンド」がアニメシリーズになったのですが、ゲームを知らない人でも大丈夫。なぜならこの『アーケイン』はゲーム自体と世界観は同じながら歴史的には前日譚を描く物語になっているからです。ファン的には「ゲームに登場したあのキャラにこんな過去が…」という世界観の深掘りで楽しめますし、間口の広い作品になってます。

それでもまだ興味がない? では別の面白さの紹介を…。この『アーケイン』は映像面でもとても評価が高く、海外アニメーションのある種の到達点というか、現在の方向性としての極みを堪能できます。どうも「海外アニメ=CG」だと思っている人も多いですが、最近の海外アニメは2Dと3Dを混ぜあわせてその中間的な表現で攻めていくスタイルがトレンドで、例えば『スパイダーマン スパイダーバース』がそうでしたし、MCUの『ホワット・イフ…?』もそのタイプでした。

なんでこれが流行りなのかというと、『ホワット・イフ…?』のメイキング・ドキュメンタリーで制作者が語っていたのですが、この手法であれば映画的な技法がアニメに導入できるからなんだそうです。つまり、今のハリウッド含む海外はエンタメ映画で培った演出や表現をアニメと融合させる術を手にし、ますますアニメのクオリティを映画寄りに発展させているんですね。

日本でもアニメに3Dモデルを導入してセルアニメと馴染ませる方式の作品が散見されますが、あれは手書きの労力の削減と、Vtuberでも見られるモデリングの汎用性という点での採用が大きいと思います。なので日本とはビジョンというか、目的自体が同じ手法でも違うわけで…。今後の海外アニメの進化を決定づけていく一作として『アーケイン』は重要でしょう。

『アーケイン』のアニメーション制作は「Fortiche Production」というフランスの企業が担っています。

本作のキャラクターの声を担当するのは、主人公役でドラマ『ホークアイ』でも話題の“ヘイリー・スタインフェルド”、主人公の妹役で『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』“エラ・パーネル”、他にも『ハリー・ポッター』シリーズでチョウ・チャン役で注目を集めた“ケイティ・ルング”、ドラマ『LUCIFER/ルシファー』“ケヴィン・アレハンドロ”など。

ちなみに、おそらくレズビアンであろうと思われる(少なくともサフィックな指向であると推測される)キャラクターがメインで登場しており、レプリゼンテーションを欲している人にとっても見逃せないと思います。

『アーケイン』はシーズン1とシーズン2はそれぞれ全9話(1話あたり約40分)。ここからファンになってみませんか?

日本語吹き替え あり
小林ゆう(ヴァイ)/ 玉野るな(パウダー)/ 上坂すみれ(ジンクス)/ 佐藤せつじ(シルコ)/ 甲斐田裕子(ケイトリン)/ 村瀬歩(マイロ)/ 武蔵真之介(クラガー)/ 藤井隼(ヴァンダー)/ 宮崎遊(ジェイス)/ 八代拓(デッカード)/ 桜岡あつこ(グレイソン)/ 中村源太(マーカス)/ 小林達也(ベンゾー)/ 青山穣(シンジド)/ 花江夏樹(ハイマーディンガー)/ 松井暁波(メル)/ 畠中祐(エコー) ほか
参照:本編クレジット

鑑賞の案内チェック

基本
キッズ 3.0:アニメ絵ではあるが暴力的な描写がやや多い。性行為の描写も少しあります。
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『アーケイン』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『アーケイン』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤)

業火の中、歩く2人の子ども。ひとりは年上で赤い髪。もうひとりは年下で青い髪。姉妹の2人は手を握り立ち尽くします。目の前に大男がおり、そのそばで倒れている人を目にして泣き崩れる大きい方の子。大男は子どもたちを抱えて去ります。反乱の炎が幼い子たちの人生を台無しにしたことを後悔しながら…。

それから数年後。富裕層が暮らすピルトーヴァーの街並みの中、その建物の屋根を赤髪のヴァイが颯爽と駆けていきます。後ろには青髪のパウダーもついていき、姉に認められようと必死。鍵開けが得意なマイロと、力自慢のクラガーも一緒です。「こんなことをしているとバレたらヴァンダーに殺される」と心配する仲間ですが、ヴァイは気にしません。

4人はある建物の中へ。部屋を物色します。パウダーは青く光る石のようなものを見つけましたが、人が来たので逃げる際、その1つを落としてしまいました。4人が建物を出た瞬間、大爆発。

想定以上に大ごとになってしまい、下水道へ逃げる4人。するとデッカードたちが絡んできて、乱闘に。3人は撃退するも、盗んだ品の入ったバッグを持ったパウダーは追い詰められ、荷物を水に捨てて退散してしまいました。

4人は地下都市のゾウンに移動。儲けなしで失望する4人をこの地下都市を仕切るヴァンダーが出迎えます。しっかり行動はお見通しのようで「ノースサイドには近づくな、ピルトーヴァーに手を出すな」と叱ってきます。「いつから日陰で満足するようになったんだ!」とヴァイは反論しますが、「リーダーは自分本位で動いちゃダメだ。拳じゃ問題を解決できない」と言われます。

ヴァンダーはベンゾーの店へ行き、ベンゾーは手伝いのエコーを追い出し、話し込みます。ヴァイいわくピルトーヴァーの治安を守る執行官ではなく地下の者まで追いかけてきたというのがヴァンダーには気になるようです。

そこへ執行官のグレイソンマーカスが聞き込みにやってきて、「キラマン家が所有していた工房で襲撃があり、評議会は見せしめを必要としている」とグレイソンは報告。その工房はジェイスというアカデミーの学生が利用していました。犯人の口を割らないヴァンダー。ヴァンダーはこうやって密かにピルトーヴァー側と繋がり、2つの世界の均衡を保ってきました。かつて反乱に失敗した経験を繰り返さないためにも…。

パウダーは実力のない自分の情けなさに劣等感を感じていました。そんな妹をヴァイは励まします。誰だって最初はそうだから…。パウダーはあの工房から盗んでいた青い石を見せます。

「2人だけの秘密にしよう」…そう誓い合って…。

その青い石のせいで、この2人の絆に決定的な亀裂が生まれるとも知らずに…。

その頃、地下で犯罪組織を束ねるシルコシマーという危険な物質をテストしており…。

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シーズン1:作品に攻略される視聴者

『アーケイン』はその世界観自体は特段に珍しかったり、オリジナリティがあるわけではないです。

富裕層と貧困層で完全に2つに分断された上下の世界。片方のピルトーヴァーはユートピアのように発展しており、政治や学問が安定しています。一方のゾウンは治安も悪く、暗い環境です。全体的にスチームパンクな雰囲気も感じさせつつ、人間以外の種族もいるなど、ファンタジーな要素もあります。そして作中でジェイスとビクターはクリスタルを人為的に引き出すことに成功し、魔法を作るという秘儀(アーケイン)に手を出し、世界はヘクステックの時代へと投入。機械と魔法が融合し、技術革命が起こり始めます。

世界観としては「ファイナルファンタジーVII」っぽい感じですね。

そしてこれをアニメシリーズとして物語展開するにあたって難しいのはどう面白さを出すか。以前からずっといろいろなゲームの映像化作品の感想で言及しているのですけど、ゲームならではのインタラクティブな面白さを映像作品で魅せるのは至難の業です。ましてや「リーグ・オブ・レジェンド」はストラテジーなのでプレイヤーが戦略を考えることに醍醐味があります。映像作品で反映のしようがありません。

ではこの『アーケイン』はどうアプローチするかと言うと、やはりキャラクター作品としての愛着で打ち出しているのですが、今作のキャラクターの人生がとにかく壮絶で…。

1話~3話までがプロローグのようになっていますが、その終盤で描かれる取り返しのつかない過ちによるヴァイとパウダーの姉妹の致命的な決裂。アニメーションながらキャラクターの表現の生々しさもあって、本当に視聴者の心を揺さぶってくる迫真のドラマでした。

この徹底的にエモーショナルで痛ましいほどの救いのない世界観で生きるキャラクターを創造するという本作の戦術に観客はまんまと翻弄されることに…。視聴者が攻略されてしまった…。

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シーズン1:ファンダムを育成する

4話からは数年が経過し、パウダーはジンクスと名前を変えてシスコに娘同然に育てられ、すっかり狂気に染まっています。一方でヴァイはマーカスに捕らえられて刑務所暮らし。死んだ扱いになっていましたが、評議会のメンバーであるキラマン家の娘のケイトリンに協力を求められ、解放。妹と運命の対面を果たすことになります。

ここで「ジンクス ⇔ ヴァイ ⇔ ケイトリン」の三角関係のようになるのが本作の物語の牽引力。ヴァイも富裕層のケイトリンにあんなに敵意丸出しだったのに、風俗店での潜入でケイトリンが女性と楽しそうにしているのを横目で見て以来、すっかり「カップケーキ」呼ばわりで距離感を急激に縮めてくるし…。そりゃあ、ジンクスも姉が急に執行官の女とイチャイチャしてたらイラっとくるだろうなとやや同情するけど…。

これは洋ゲーの最近の潮流なのですが、クィアのようなカルチャーの取り入れ方が上手いんですよね。単にLGBTQのキャラをだしましたというだけでなく、その文化も作品に巧みに溶け込ませる。この「リーグ・オブ・レジェンド」は「K/DA」という作品独自のK-POPアイドルを登場させたり、もともとハングリー精神があって積極的なのです。プライド月間の支援もしているし…。このあたりは日本のゲームと全然違うなと感じるところ。

『アーケイン』はファンダムの土壌を作るのが上手な作品だなと思います。ファンダムを作れるか?…というポイントはやっぱり大事。「リーグ・オブ・レジェンド」はもうファンダムがあるので後はそこに育成用の肥料を追加できるかってことですね。今作は肥料どころか広大な庭園をぽんと用意してくれたレベル。

「ビクター ⇔ ジェイス ⇔ メル」の三角関係も目が離せません、エコーハイマーディンガーの組み合わせもいいですね。

ラストは、ついにパウダーはジンクスとしての道を選び、シスコさえも乗り越えて、独立の絶叫とともに評議会に向けて攻撃を撃ち込みます。微かに見えた和平は粉々になり、もはや戦争は避けられない状況。ジェムストーン、ヘクスコア…新時代の技術がもたらすのは殺戮。そして、姉妹の分断は修復不可能。

怒涛の『アーケイン』の開幕でした。

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シーズン2:このクオリティで最後まで

※シーズン2に関する以下の感想は2024年11月30日に追記されたものです。

『アーケイン』のシーズン2も、映像・ストーリー・キャラクター・音楽、いずれも変わらずにハイクオリティで最後まで駆け抜けます。平然とこの品質を維持してくるのが凄い…。

前回のジンクスの一撃が全てを変え、シーズン2は出だしから悲壮感と憎悪で感情が剥き出し状態で始まります。でもヴァイとジンクスはまだどこかで対立に躊躇いがある。本作はこの姉妹の絆がずっと心を掴んでくれました。

ジンクスのキャラクターがさらに魅力を増していましたね(私が一番好きなのはジンクスかな)。とくにイーシャという子分兼妹ができて、お姉ちゃん感が滲んだときのヴァイとの重なりがもう…。イーシャの犠牲は辛かった…。そしてジンクスも…いや、あれはジンクスはラストは死んでいないですよね? さりげない生存示唆も無かったわけでもないし、うん、私の中では死んでないことにしよう…。

そしてヴァイとケイトリン。想像以上にしっかりレズビアン・ロマンスをやってくれたことに驚きました。セックスもきっちり描いたし…(「ほら、みんな独房イチャイチャ好きでしょ?」と言わんばかりにファンの期待に最大級に答えてくれる製作陣、好き)。憎まれ役に配置されたマディにも拍手を送ってあげよう…。

今作のケイトリンも最初はノクサス万歳なアンベッサにそそのかされて、軍国主義に染まってしまうものだからハラハラでしたけど(眼帯もカッコいい)、最後はヴァイとの甘々カップルエンドでした。

同性カップルと言えば、ジェイスとビクターも最終話は切なくアツかった…。あれはじゅうぶんゲイなクィア・コーディングを感じ取れましたよ。

終盤はエコーの時間逆転装置などめまぐるしい展開の連続で物語を追うのも大変でしたが、映像の物量に圧倒されっぱなしで、最高の体験ではありました。

『アーケイン』はとりあえずこのシーズン2で終わりらしいですが(あともう1シーズンくらいは観たかった)、この傑作はずっと刻まれることでしょう。違う地域の違うキャラクターの話も観てみたいな…。

『アーケイン』
シネマンドレイクの個人的評価
9.0
LGBTQレプリゼンテーション評価
○(良い)

作品ポスター・画像 (C)Riot Games

以上、『アーケイン』の感想でした。

Arcane (2021) [Japanese Review] 『アーケイン』考察・評価レビュー
#ゲーム原作 #ハイファンタジー #レズビアン