特攻野郎SWチームと暴れよう!…「Disney+」アニメシリーズ『スター・ウォーズ バッド・バッチ』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2021年)
シーズン1:2021年にDisney+で配信
原案:デイブ・フィローニ
自然災害描写(津波)
すたーうぉーず ばっどばっち
『スター・ウォーズ バッド・バッチ』あらすじ
『スター・ウォーズ バッド・バッチ』感想(ネタバレなし)
デイブ・フィローニに任せよう
2021年、『スター・ウォーズ』を生み出すスタジオ「ルーカスフィルム」のトップであるエクゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターという役職に“デイブ・フィローニ”が就きました。スタジオのプレジデントは相変わらず“キャスリーン・ケネディ”ですが、作品創造の最重要なポジションは“デイブ・フィローニ”が指揮をとることになります。
“デイブ・フィローニ”が創造神である“ジョージ・ルーカス”に雇われた頃はまだまだ一介のアニメーション・ディレクターであり、2008年の『スター・ウォーズ クローン・ウォーズ』というアニメ映画で監督を務め、未開拓な宇宙へと船出したわけです。おそらくその当時は“ジョージ・ルーカス”はアニメーションなんて全然よくわかってなかったのだと思います。というのもそれよりも十数年前、ルーカスフィルムには後のピクサーの主要メンバーとなるクリエイターが所属していてこっそりCGアニメ映画を作るという野望を胸に抱いていたのですが、当の“ジョージ・ルーカス”はアニメに全く興味なし。スタジオ再編成時にアニメに熱意を捧げるクリエイターを捨ててしまいます。今さらアニメーションの価値に気づいた“ジョージ・ルーカス”の遅れて弟子となったパダワン、それが“デイブ・フィローニ”。こうやって振り返るとそんなに期待されまくっていた感じでもない…。
しかし、この正真正銘のオタクである“デイブ・フィローニ”は『スター・ウォーズ クローン・ウォーズ』を確かな才能で成功させ、ファンの支持を獲得。アニメシリーズを複数展開させてみせます。
そして映画の続3部作が何とも言えないフィナーレを迎えて炎上し、スピンオフ映画も中途半端に不発してしまい、ファンの界隈に暗黒面の空気が漂う中、“デイブ・フィローニ”が引っ張ってきたのは実写ドラマ『マンダロリアン』。
これが見事に大成功。あ、最初からこの人に任せれば良かったんだ…と誰もが思った瞬間です。
あとはもう“デイブ・フィローニ”閣下の陣頭指揮にお任せ。今後も続々と実写ドラマシリーズを投入する企画が動いています。“ジョージ・ルーカス”が全然興味なかったアニメーションのクリエイターが結果的に「スター・ウォーズ」を救っているのも不思議な因果です。
そんな中、アニメシリーズも忘れてはいないようで、新作として登場したのがこの『スター・ウォーズ バッド・バッチ』です。
物語としては『スター・ウォーズ クローン・ウォーズ』最終シーズンの直後から始まるものになっており、実質続編です。1話は『クローン・ウォーズ』と同じナレーションで始まる気の利いたサービスも。
主役は『クローン・ウォーズ』にもちょこっと登場した「クローン・フォース99」というクローントルーパーの部隊。トルーパーが主人公なの?と思うかもしれないですが、これがなんともクセのある面白い奴らです。
雰囲気としては「スター・ウォーズ」版『スーサイド・スクワッド』、というよりは『特攻野郎Aチーム』ですね。案外とこういうテイストの「スター・ウォーズ」作品はこれまでなかったので新鮮です。
実写映画は見たけど、アニメはなぁ…と思っている人にこそオススメ。「スター・ウォーズ」の新しい世界が広がり、既存の印象も変わるでしょう。
『スター・ウォーズ バッド・バッチ』は「Disney+(ディズニープラス)」で独占配信中です。
『スター・ウォーズ バッド・バッチ』を観る前のQ&A
A:最低限『スター・ウォーズ エピソード3 シスの復讐』の物語は理解しておきたいところ。まさにその映画のラストに重なって『バッド・バッチ』は始まります。できれば『スター・ウォーズ クローン・ウォーズ』も観ておきたいですが、シーズンが長いので…。
A:ハンター、レッカー、テク、クロスヘアー、エコーの5人編成。本来、クローントルーパーはクローンなので全員が無個性で同一なのですが、この「バッド・バッチ」は特異なDNA操作によって個性を持っています。ハンターはチームを率いる総合スキルが卓越しており、レッカーは馬鹿力に特化、テクは技術者としての知能に優れ、クロスヘアーは狙撃の名手、エコーは全身がほぼサイボーグ。エコーだけ「バッド・バッチ」に後から加入しており、そのエピソードは『スター・ウォーズ クローン・ウォーズ』で描かれています。
オススメ度のチェック
ひとり | :ファンも新規もぜひ |
友人 | :ファン同士で語り合う |
恋人 | :趣味が合うなら |
キッズ | :子どもでも大丈夫 |
『スター・ウォーズ バッド・バッチ』感想(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
銀河共和国と分離主義勢力との戦争もいよいよ佳境。惑星カラーではクローン部隊を指揮するジェダイマスターのデパ・ビラバが援軍を待ちながら陣地を守っていました。そこへパダワンのケイレブ少年が援軍を連れてきます。なんでも人数は5人。それで大丈夫なのかと不安になりますが、登場したその少数部隊は烈火の勢いでドローン軍を壊滅させてみせました。
彼らこそ噂の「クローン・フォース99」です。レッカー、ハンター、エコー、テク、クロスヘアーの5人のトルーパーで構成されるその部隊はひとりひとりが強力で、見事な連携でした。
通信傍受によればクローン戦争はもう終わるらしく「反撃しよう」ということになり、息巻く「クローン・フォース99」は前進。ケイレブも一緒についていきます。
ところがそこに「オーダー66を実行せよ」という指令が。するとそれまで従っていたその他のトルーパーたちがジェダイマスターを包囲して発砲。ケイレブが駆け付けようとするも「逃げて」と言い残して息絶えるのみ。パニックになったケイレブは「クローン・フォース99」からも逃げます。
「何があったんだ?」と状況が掴めない5人。ハンターとクロスヘアーでケイレブを追いかけることになります。クロスヘアーは容赦なくケイレブを撃とうとし、「優秀な兵士は命令に従う」と呟きますが、ハンターは「撃つな」と制止。結果、ハンターはケイレブを見逃すことにしました。
自分たちの作られた場所である惑星カミーノに帰る「クローン・フォース99」。到着すると異様な空気に様変わりしていました。「戦争は終わった」とのことで、ジェダイの遺体を運ぶトルーパーもいます。
とりあえず久々に自室に戻る5人。ジェダイを逃したとクロスヘアーはしつこくハンターを問い詰めます。
全員強制の集会に参加すると、銀河共和国のトップだったパルパティーンは語りだします。「共和国は解体・再編され銀河帝国が誕生する!」…歓声に湧くトルーパーたちと、取り残される「クローン・フォース99」の面々。
これから自分たちは何をすればいいのか。今度は銀河帝国に従って任務をこなせばいいのか。
ターキン提督はクローントルーパーの利用価値を疑っていました。クローン製造を担当するカミーノの科学者であるナラ・セは、医療助手だというオメガという少女とともに、クローンに特別な思いがあるようです。
実力を示すために「クローン・フォース99」が送り込まれたのはオンダロンという惑星。そこで排除対象として遭遇した反乱分子はソウ・ゲリラ率いる元共和国の人間たち。
かつての味方に銃を向けるのか。悩むハンター。
そこにさらなる対立と意外な仲間が現れ…。
シーズン1:野郎ばかりだからこその物語
『スター・ウォーズ バッド・バッチ』、観る前はてっきり大暴れな単純明快・痛快作なのかなと思ったら、案外と違う雰囲気を醸し出す、面白い作品でした。
まず本作はメインの「バッド・バッチ」が観てのとおり、オッサン・オンリーなんですね。こんな野郎だけしか出てこない『スター・ウォーズ』、なかなかないですよ。でもホモ・ソーシャル感はゼロ。ここが大事だと思います。
なぜ不愉快な男らしさが溢れ出ないのかと考えてみると、そもそもこの「バッド・バッチ」勢は戦闘要員になるべく人為的に作られたクローンなので、性欲と恋愛感情とかないんでしょうね。だから女を見下したり、消費したりするような会話も無し。それでいて権力欲も無いに等しいので、ステータスをめぐって争い合うこともありません。言ってしまえば、極めて無害化された男集団、だから異端なのです。ゆえに戦場において利用価値があったのですが…。
しかし、そんな男集団も社会の変化によって居場所を失ってしまいます。自分たちはどうすればと悩む男たち。これまでの規範どおりでは生きられないとすれば、じゃあ何を…? こういう己への問いかけはまさに現代の男性が直面しやすい問題です。『マンダロリアン』もそうでしたが、この『スター・ウォーズ バッド・バッチ』は対象を男集団へと広げ、男集団内で生じるアイデンティティ・クライシスによるサスペンスを丁寧に描いていました。トルーパーという要はただの労働者を主体にするからこそできる物語です。
そうして抑制チップ関係なしに自分の決断を決めたのがクロスヘアーであり、彼は裏切ったというよりは「生き方を決めた」と表現する方がいいのかもしれません。同時に『スター・ウォーズ』の本質であった「光と闇」というバイナリーな考え方に疑念を持たせるものでもあります。
「弱者男性」というナルシシズムに陥ることなく、悩む男性像を描ける。このあたりも“デイブ・フィローニ”は上手いですね。
シーズン1:世界観を繋げる天才
いや、しかし今回も“デイブ・フィローニ”の世界観構築力が冴えわたっていました。『スター・ウォーズ』の各作品が、点と点が線で結ばれていく。一時はどうなるかと思ったのに…。出たとこ勝負で3部作を作っちゃった某JJさん、感謝しなさいよ…。
例えば、クローン・トルーパーがストーム・トルーパーに置き換わった理由。そして帝国の体制地盤固めの様子。このへんはとても政治的なストーリーであり、「エピソード1~3」と「エピソード4~6」の乖離を埋め合わせています。
また、ヘラとオメガの交友は『スター・ウォーズ 反乱者たち』に繋がり、パイク・シンジケート(ダース・モールが結成した犯罪組織であるシャドウ・コレクティヴと関連)は『ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー』に繋がり(オビ=ワン・ケノービのドラマにも繋がるのかな)、フェネック・シャンドは今度のボバ・フェットのドラマシリーズに繋がり、ケイレブはアソーカ・タノのドラマシリーズにも繋がる。このシェアド・ユニバースな構成も絶妙。
とくに今作で初登場のオメガは重要キャラクター。『マンダロリアン』に登場して話題騒然となったベイビーヨーダと同様に“謎”。オメガの遺伝子には純粋なクローン第1世代のDNAが組み込まれているらしく、つまりジャンゴ・フェットの遺伝子ということなのでしょうけど、これがどう発展するのか…。オメガはベイビーヨーダと合わせて今後の『スター・ウォーズ』の世界観をひっくり返しかねない絶大な切り札になっていきそうです。
オメガがどことなくジェンダーにおいてクィアっぽさを感じさせるのも意図しているのかな。
さらに帝国がナラ・セをまだ重宝しているのは推測するに、パルパティーンのクローンの件でしょうし…。ここであの続3部作の唐突な設定のフォローを入れてくるのか…。もしかしたらもっと壮大な動きに連鎖するのか…。
ともあれ『スター・ウォーズ バッド・バッチ』はこれからの作品への伏線だらけでもあるので、観ていると期待をいいように刺激されてしまいますね。
シーズン2:労使紛争としての“ウォーズ”
『スター・ウォーズ バッド・バッチ』のシーズン2も、かなりジャンルを縦横無尽に駆け回って暴れていっていました。
第3話は「クローンvsドローン」というまるで『スター・ウォーズ クローン・ウォーズ』のカムバックみたいな戦闘を描いてみせ、かと思ったら第5話では超巨大四足歩行ロボの特大ビームがぶっ放されるという「古代には何があったんだよ!」と言いたくなる「スター・ウォーズ」の世界の古代史のトンデモっぷりが垣間見えたりしたし…。
第7話ではこちらも一転して映画風のサスペンスフルな演出で始まり、徴兵法案に対して抵抗するチューチー議員を始めとする今や希少となったわりと善良な政治家の奮闘が…。ここは子ども視点で政治を学ぶみたいな構図となり、かなり大人向けだった『キャシアン・アンドー』のキッズ・バージョンみたいになってましたね。
ストームトルーパーの時代が宣言され、名前の由来も明らかになり、いよいよクローンはお払い箱なのか…。
シーズン2では「退役する側」の虚しさが描かれており、すごく労働問題を描いていたのも印象的。世知辛いけど、これが現実なのよね…。それに対して「個」を持つことの重要性を説く本作は言ってしまえば労使紛争なのかな。
今回目立って登場したロイス・ヘムロック博士というヴィランはクローン技術にご執心ですが、「スター・ウォーズ」の世界にどんな傷を残すのか。ドクター・ヘムロックの部下のエメリーは、オメガの姉であることを明かしていましたけど、姉妹の物語も追加されるのかな。
落下したテクは生きてそうですが(この世界、簡単にキャラが死なないことに定評がある)、ハンターたちバッド・バッチは単純に引退して終わりって感じにもならなさそうで…。どうなるのか全然想像がつかない…! そこが今の“デイブ・フィローニ”傘下の「スター・ウォーズ」の面白さですけどね。
シーズン3:次世代へのバトンタッチ
『スター・ウォーズ バッド・バッチ』はシーズン3で最終シーズン。物語を総括する意味でも、この作品はどういう立ち位置だったのか、最後なのでまとめようと思います。
本作は、世界観を全く新しく切り開くというよりは、これまでの世界観の広がりきった風呂敷を畳みながら、古い作品概念を新しいものへと塗り替え、旧キャラの物語を綺麗に着地させつつ、次世代の希望を醸し出す…非常に上手い整理整頓&的確な更新でした。やはり“デイブ・フィローニ”、手慣れている。
まず「間違った体制についてしまった者はやり直せるのか」というテーマ。オリジナル3部作からあった主題ですが、今作はクロスヘアーのような軍人やエメリー&ナラ・セのような科学者、アサージ・ヴェントレスのようなフォース使いなど多彩な状況にある者の視点で、そのテーマをより深く掘り下げて描いていました。
そして、児童を主役にすることの倫理的問題に真面目に向きってもいました。正直、帝国はもちろんジェダイ・オーダーだって児童への対応は搾取的でした。それに対して、近年の『スター・ウォーズ』は『マンダロリアン』といい、本作といい、子どもの主体性の尊重という大人の責任の持ち方をきっちり描く傾向にありますね。
さらにそれは大人自身も同じ。今の『スター・ウォーズ』は善か悪か、光か闇か、そんな二元論ではなく、明らかに「自由に人生を選ぶ」という自由主義の帰結でオチを付けることが目立ちます。軍国主義でも、愛国主義でもない。反体制的でありながら、より組織構造への批判視点を研ぎ澄ましている。これはとても大切ですし、今の現代においても響きます。
『スター・ウォーズ バッド・バッチ』の結末は、「バッド・バッチ」の面々とオメガが穏やかにパブーでつかの間の平和を味わうという優しさに包まれていました。ネクロマンサー計画からスターダスト計画(デス・スターの建設)へ移行するなど、他作品の接続も「まあ、そうなるよね」という予定調和です。
でも、何年後かは知りませんが成長したオメガが「反乱軍にはパイロットが必要だ」と老いたハンターに告げて飛び去っていくあのラスト。そこには確実に過去よりも何かが変わった『スター・ウォーズ』があるなという安心感がありました。単純に若いキャラにバトンタッチしました…ではなく、作品の根幹の概念を更新したうえで次へと希望をもたせている。この積み重ねが『スター・ウォーズ』の未来に必要なものなんじゃないかな。
オメガはもしかしたら実写で再登場したりするかもしれませんが、作品の安心な柱となる頼もしいキャラクターを生み出した本作の功績は大きいでしょう。
そして『スター・ウォーズ:テイルズ・オブ・エンパイア』のような小規模シリーズを除き、長期的なアニメシリーズはこれで完結しました。『スター・ウォーズ クローン・ウォーズ』の実質続編だった『スター・ウォーズ バッド・バッチ』が終わってひと段落ですが、何か新しいアニメシリーズを企画しているのか…そこも気になりますね。
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 88% Audience 81%
S2: Tomatometer 90% Audience 85%
S3: Tomatometer 85% Audience 85%
IMDb
8.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)Lucasfilm スターウォーズ バッドバッチ
以上、『スター・ウォーズ バッド・バッチ』の感想でした。
Star Wars: The Bad Batch (2021) [Japanese Review] 『スター・ウォーズ バッド・バッチ』考察・評価レビュー
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