MCU次世代若者ヒーローが光り輝く…「Disney+」ドラマシリーズ『ミズ・マーベル』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2022年)
シーズン1:2022年にDisney+で配信
原案:ビシャ・K・アリ
人種差別描写 恋愛描写
ミズ・マーベル
みずまーべる
『ミズ・マーベル』あらすじ
『ミズ・マーベル』感想(ネタバレなし)
MCUの次世代若者ヒーローの本命
「マーベル・シネマティック・ユニバース」、通称「MCU」…その初期ヒーローのチームである「アベンジャーズ」は多彩な顔触れに見えたかもしれませんが、実体はとても偏っていました。
まずほぼ全員オッサンでした。トニー・スターク(アイアンマン)、スティーブ・ロジャース(キャプテン・アメリカ)、ブルース・バナー(ハルク)、ソー、ナターシャ・ロマノフ(ブラック・ウィドウ)、クリント・バートン(ホークアイ)の6人のうち、5人は中年(まあ、年齢数が桁違いの奴も混ざってるけど)。
そして男性ばかりで、みんな白人でもありました。どうするんですかね、敵が白人男性だけを死滅させるウイルスとかばらまいてきたりしたら…チームとして脆弱すぎる…。
何よりも若者の参戦が急務。ということで蜘蛛に噛まれた男性高校生「ピーター・パーカー(スパイダーマン)」が参加し、若者ヒーローの代表となりました。10代ティーンのヒーローはやはり新鮮です。
フェーズ4に突入したMCUは若いヒーローの加入に積極的です。2021年のドラマ『ホークアイ』では女性の若者ヒーローへのバトンタッチが描かれました。
『ドクター・ストレンジ マルチバース・オブ・マッドネス』ではアメリカ・チャベスが初登場し、こちらも次世代ヒーローとして成長することが期待されます。
そして2022年、ついにマーベル・コミックにおける現代の若者ヒーローの象徴として話題だったあのキャラクターが主役で実写映像化される時が来ました。
それが本作『ミズ・マーベル』です。
日本での知名度は全くないですけど、この原作コミックはアメリカでは当時は話題騒然でした。そもそも「ミズ・マーベル」というのは、キャロル・ダンバースこと「キャプテン・マーベル」の別名。MCUではキャプテン・マーベルは女性でしたが、本来のコミックの原点では男性で、2006年にリブートされて女性となり、その女性版が映画にも反映されています。そしてこのミズ・マーベルはさらにリブートされ、4人目のミズ・マーベルとなったのが「カマラ・カーン」という16歳のパキスタン系アメリカ人の女子高校生でした。
このカマラ・カーンを描いた新生「ミズ・マーベル」はヒューゴー賞を受賞するなど作品としての純粋な評価も高かったのですが、コミックブックの単独主人公となった初のムスリム・キャラクターということで、社会現象的なニュースとなり、当時のムスリムへの偏見など問題を議論する火付けともなりました。編集者の“サナ・アマナット”がホワイトハウスに呼ばれて、バラク・オバマ大統領がこのミズ・マーベルを褒め称えて言及したこともありましたし、カマラ・カーンはムスリムへのヘイト、そしてムスリム内の保守性と闘う、まさしくアイコンとなってあちこちで掲げられました。
そんな経緯のあるコミックなので、それがドラマシリーズ化となった『ミズ・マーベル』の注目度も当然高いです。実際、近年のMCU作品の中でも若い世代の視聴者層が最も高くなったそうで、やはりZ世代との親和性の高さが窺えます。
今作『ミズ・マーベル』の主演に大抜擢されたのは、2002年生まれのパキスタン系の“イマン・ヴェラーニ”。デビュー作としてとんでもないビッグ・チャンスを獲得した幸運の持ち主ですね。私はハリウッドは既存のスターばかりを持て囃すのではなく、まっさらな若者に夢を与えてほしいと思っているので、こういうデビューは見ていて幸せです。
ドラマ『ミズ・マーベル』の原案は、『ロキ』でも参加していたパキスタン系イギリス人の“ビシャ・K・アリ”。エピソード監督は、『バッドボーイズ フォー・ライフ』の“アディル・エル・アルビ“&“ビラル・ファラー”のコンビ、『Equity』『Farah Goes Bang』の“ミーラ・メノン”、『ソング・オブ・ラホール』の“シャルミーン・オベイド=チノイ”。
間違いなく今後のMCUに新しい風を巻き起こす初々しいヒーローの誕生を目撃してください。『ミズ・マーベル』は「Disney+(ディズニープラス)」で独占配信中。全6話です。
『ミズ・マーベル』を観る前のQ&A
A:今作で初登場のキャラクターです。なので知らなくても良し!
A:ありません。事前に鑑賞しないと物語が理解できないような作品は一切なく、いきなり本作から鑑賞てもOKです。MCU初心者も気楽にどうぞ。あえて挙げるなら『キャプテン・マーベル』を観ておくとよいです。
オススメ度のチェック
ひとり | :MCU初心者でも大丈夫 |
友人 | :青春ドラマ好き同士でも |
恋人 | :異性愛ロマンスあり |
キッズ | :子どもでも親しみやすい |
『ミズ・マーベル』感想(ネタバレあり)
あらすじ(序盤):私もヒーローになれる!?
アメリカ・ニュージャージー州のジャージーシティで暮らす16歳のカマラ・カーンにとって、目下の関心事はアベンジャーズです。今日も自身の投稿するチャンネルを更新し、アベンジャーズ愛を炸裂させていました。
でも両親である父ユスフと母ムニーバはそんな娘に呆れ顔。とくには母は小うるさいです。兄のアーミルが結婚式間近ということで、カマラにも大人になれと言ってきます。そんなカマラは車の免許試験にも盛大に失敗するなど、かなりずぼらな性格でした。
いつものように学校へ行き、親友でありオタク仲間であるブルーノと一番の最重要事項である「アベンジャー・コン」を議論し合います。手先が器用なブルーノはコスチューム作りをしてくれており、カマラはとくに大好きなキャプテン・マーベルのコスプレで参加するつもりでした。ただし、親は許可してくれるだろうか…。
帰宅するとパキスタンのカラチに住んでいる祖母のサナから荷物が届いていました。中に謎の腕輪みたいなものがありましたが、母はゴミだと取り上げて、アーミルに屋根裏へ運ばせます。
カマラは両親にアベンジャー・コンに行きたいと思い切って告げます。案の定、コスプレの衣装なんてぴちぴちのスーツだなどと文句を言われ、「普通の10代の子と同じことがしたいのに」とカマラは部屋に籠っていじけます。
ブルーノと屋上で失望を共有しつつ、「私みたいな茶色い肌の子に世界を救えるわけない」と悲観するカマラでしたが、ブルーノは「君なら救えるよ」と手作りの光るフォトングローブをプレゼントしてくれました。
カマラは密かにアベンジャー・コンに参加する策にでます。こっそり家を出て、すぐに戻ってくればいい。ブルーノにパキスタンっぽさが少しあればいいのではとアドバイスされ、あの祖母の腕輪を持っていくことにします。
なんとかバスに乗れ、会場のリーハイ基地へ到着。盛り上がる会場内には、以前は友達で最近は会話が減っていたゾーイも参加しているのを発見。カマラはトイレで着替え、コスプレ・ステージ前で腕にバングルを取り付けます。
すると変な感覚に襲われます。ステージに立つとフラッシュが眩しい…。思わず腕を突き出すと謎のエフェクトが突如として出現し、会場の人はそれも演出だと思いこみ、大盛り上がり。しかし、その衝撃で会場内のアントマンの頭部がゴロゴロ転がり、ゾーイが落ちそうになり、カマラは助けようと動くと今度は手のエフェクトが伸びてゾーイをキャッチしました。
なんだこの光は…。
急いで会場を出るカマラとブルーノ。とりあえず今日は帰ります。部屋に窓から戻ったカマラでしたが、母が部屋で待ち構えており、「空想にとりつかれないで」と失望していました。
でもカマラの心はそれどころではありません。ベッドに倒れ込むと手が光るのを目にし、もしかして自分もスーパーパワーに目覚めたのではとワクワクが抑えられず…。
イマドキなファンガール、そしてその悩み
『ミズ・マーベル』は完全な新キャラが主人公の物語なので、MCU過去作を全部観るマラソンが必要ないですし、MCU初心者の入門作品なのですが、一方で意外とハイコンテクストな作品でもあります。
例えば、主人公のカマラ・カーンは作中では実在するアベンジャーズのド直球なオタクです。それこそ考察動画をあげているくらいであり(結構当たってる)、このあたりのオタク描写はいかにもイマドキなファンガールという感じでいいですね。
当然、カマラとブルーノの間で繰り広げられるあれやこれやのオタク・トークはMCU鑑賞者こそ気づける小ネタの宝庫なのですが、そもそもMCUにハマっていないとこのカマラのテンションとはシンクロしづらいです。オタクではない人はカマラの気持ちも理解できないかもしれません。
つまり、カマラは熱意では誰にも負けないオタクだけど、自身のアイデンティティ(女性でムスリムで有色人種)ゆえのマイノリティ性がそのオタク活動への引け目になっている。オタクだから世間に気持ち悪いと思われるとか、そういう劣等感ありきの視線だけではない、根本的なアイデンティティ付随の障害を抱えているということです。こんな自分がオタクをやってもいいのだろうか、と。
それでもカマラは勇気を振り絞って、親にさえも反抗して、アベンジャー・コンの記念すべき第1回に参加します(微妙なイベント規模なのがやけにリアル)。そのときのコスチュームは白人女性であるキャプテン・マーベルを意識したものであり、カマラはこのヒーローをいわば間借りするような感じでエンパワーメントをもらっているんですね。
ここからはかなり原作コミックとは異なる、MCUドラマのオリジナル展開となっていくのですが、本作ではカマラが別人のコスプレではない、自身のアイデンティティを象徴するオリジナリティを獲得する物語が全6話を通してたっぷり丁寧に描かれていきます。
そういう観点で見れば、本作『ミズ・マーベル』は、若いんだ!青春だ!恋愛だ!と浮かれてばかりではない、オタクネタありきでマニアックに遊んでいるばかりでもない、わりと真面目な自己探求のヒーロー譚を貫いているんじゃないでしょうか。
また、これはファンダムに属するオタクが今度は自分がクリエイターになってオタクを生み出す側になるとか、そういう従属から主体性への転換(それにともなう葛藤)という、オタク人生にありうる出来事としても重ねられるでしょう。
ヒーローは需要と文化が作り上げる
ドラマ『ミズ・マーベル』は、カマラの祖母がその祖母の母アイシャから受け継いだというバングルをめぐって、自身のルーツをめぐる旅へと出発します。文字どおりカラチへと旅行するだけでなく、まさかのタイムスリップまでして当時を体験することに。
そこではインドとパキスタンの対立を招いたイギリスによる植民地支配の分割統治という、加害の歴史も明確に描かれ、きっちり白人至上主義的な横暴に正義を突きつけています。ヒーローを主題にしておいてここをスルーしたら偽善もいいところですからね。このへんの歴史は作中で詳細に解説はされませんが、別にフィクションではない史実ですから、しっかり歴史の勉強はしましょうねという話です。
こうしたグローバルな国家スケールの要素だけでなく、アメリカでのムスリムの人たちへの敵対的な偏見、モスクの理事に立候補するナキアが取り組むムスリム社会での女性蔑視など、多くの人種や性別に関するテーマが入り乱れ、これまでのMCU作品の中でも最もインターセクショナリティな詰め合わせになっています。このあたりも本作がハイコンテクストになっている理由ですね。
ドラマ『絶叫パンクス レディパーツ!』といい、ムスリムの若い女性が主役の作品がもっと増えるといいな…。
ともあれ、ルーツ探求の旅でカマラはカリームなどで構成されるレッド・ダガーという組織に出会います。その過程で明らかになるカマラの秘密、というかカマラの曾祖母アイシャの秘密。その正体は別の次元「ヌール・ディメンジョン」からやってきた「クランデスティン」という一族で、地球のこの世界ではジンとして知られているということ。ヌール(光)の使い手であり、ナジマたちクランデスティンはヴェールを開いて故郷の次元に帰るべくでこちらの次元を飲み込もうとしているようです。
それを防ぎ、ルーツに決着をつけ、家族とも和解したカマラ。最終話でやっとあのコスチュームが完成します。祖母から受け継いだバングル、ブルーのからのアイマスク、母からのメイン衣装、そして父から提案されたミズ・マーベルというヒーロー名…それらがカマラをオリジナルなヒーローへと到達させる。綺麗なオチです。
世の中の一部の無意識な差別感情を持つ人の中には、アメコミにマイノリティなヒーローが登場するのは「ポリコレのせいだ」と言い放つ人もいます。でも『ミズ・マーベル』を観るとそうじゃないことがよくわかります。ヒーローとは需要に答えるものであり、文化を反映するものである。だからマイノリティだろうが何だろうがそのヒーローを求める声があればそこにそのヒーローは生まれるのだということ。
『ミズ・マーベル』はヒーローと社会や文化の深い繋がりをあらためて教えてくれる作品でした。
それにしてもなんだかんだで最終的に原作どおりな絵が拝めましたね。カマラも今回のドラマでは光の固体化で戦うスタイルにアレンジされたと思ったら、最終話ではしっかり原作と同じく身体巨大化で大暴れしてくれるし、ラストのブルーノ(優秀すぎない?)の分析報告から遺伝子突然変異があることが示唆され、インヒューマンズやミュータントを匂わせてきましたし…。
もちろんポストクレジットのシーンで示されたとおり、このミズ・マーベルことカマラの次の出番は『キャプテン・マーベル』の続編である映画『The Marvels』(公開は2023年予定)。
神並みに崇拝している推し対象が目に前に現れたら、オタクとして我を失ってしまわないか心配ですが、きっと大丈夫でしょう。たぶん。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 98% Audience 82%
IMDb
6.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
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・『ムーンナイト』
・『ロキ』
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作品ポスター・画像 (C)Marvel ミズマーベル
以上、『ミズ・マーベル』の感想でした。
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