貴様のベストシーンなんて知ったことか!…映画『ブラッドショット』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2020年)
日本公開日:2020年5月29日
監督:デヴィッド・S・F・ウィルソン
ブラッドショット
ぶらっどしょっと
『ブラッドショット』あらすじ
アメリカ海兵隊員のレイ・ギャリソンは、何者かの襲撃を受けて妻ジーナとともに拉致され、襲撃の首謀者マーティン・アレックスの手によって妻を殺されてしまう。自身も撃たれて死んだはずのレイだったが、とある組織のナノテクノロジーによって蘇生に成功。記憶を失ったものの、圧倒的なパワーと回復能力を持った超人へと生まれ変わり、復讐に動き出す。
『ブラッドショット』感想(ネタバレなし)
ヴァリアント・コミックス、映画に参入
アメコミといえば映画業界でも大成功をおさめている「マーベル」や「DC」を真っ先に連想しますが、もちろんその二強だけが君臨しているわけではありません。他にもあって、例えば最近にまたリブート映画化された『ヘルボーイ』でおなじみの「ダークホースコミックス」とか、映画業界にも進出しているコミック出版社は存在します。
その中でここにきて映画に本格的に乗り込んできたのが「ヴァリアント・コミックス」です。
この会社は1989年にマーベル・コミックの編集者であったジム・シューターが中心になって設立したもので、1990年代にかけてその存在感をマニアの間で広げていきました。親会社は2005年からは「Valiant Entertainment」、2018年からは「DMG Entertainment」に変更になるも、作品は積み重ねています。さすがに日本ではアメコミの熱心なマニアくらいしか認知されていないと思いますが、個性豊かな新しい世界は拡大中。このヴァリアント・コミックスの作品群は全てが同じ世界観の上で成り立っている(いわゆる「シェアド・ユニバース」)ので、作品が増えれば増えるほど楽しくなってくるものですね。
そんなヴァリアント・コミックスの中でも映画化に先陣を切ったのが、本作『ブラッドショット』です。
“ケビン・ヴァンフック”らの手によって生み出されたコミック「ブラッドショット」は、1990年代のヴァリアント・コミックスの大事な初期を引っ張り、代表的な人気作になりました。
物語は、特殊なテクノロジーで死から蘇ってハイテク超人と化した元兵士が、スーパーソルジャーとして立ちはだかる敵を倒していくという、スーパーヒーローもの。ベタながらきっと楽しいだろうなと素直に期待できそうな世界観ですね。
この「ブラッドショット」の映画化を第1陣に、ソニー・ピクチャーズは映画でもユニバース展開させる前提で映画を続々投入する予定です。
いや、予定でした…。というのもこの映画『ブラッドショット』、本国アメリカでの興行収入があまりよろしくなかったせいか、ソニー・ピクチャーズは以降の企画を放棄。他のヴァリアント・コミックス作品の映画化権も他会社に売却してしまっため、壮大なユニバース構想は頓挫し、今後もどうなるかは不透明です。
やっぱりハリウッドはアメコミ映画勢が強いとはいえ、それはあの二強に限った話なんだなぁ…。もちろん『ブラッドショット』のアメリカ公開日は3月13日で、若干コロナ禍の影響を受けてしまった運の悪さもあるかもしれませんけど…。
でも主役を演じたのはあの“ヴィン・ディーゼル”だったのですけどね。『ワイルド・スピード』シリーズを文句なしの大成功に導き、今や車の常識を超えたカーアクション映画へと進化させてしまったあの“ヴィン・ディーゼル”。彼はコミックやゲームが大好きで、『ラスト・ウィッチ・ハンター』など自分を主演に小・中規模の映画もときどき作っていますが、今回の『ブラッドショット』もおそらくそのノリで、ちょっとずつギアチェンジしてスピードを上げていくつもりだったのでしょう。でも初っ端からエンスト…。『ラスト・ウィッチ・ハンター』のときも続編を作る勢いはあったものの、あえなく1作目で失速だったのですよね。そうそう『ワイルド・スピード』シリーズみたいに上手くいくわけもないか…そうだよね…。
他の出演陣は、『ベイビー・ドライバー』で脇役ながらセクシーな存在感で魅了した“エイザ・ゴンザレス”、『メメント』『英国王のスピーチ』など結構多彩な作品に顔を出す“ガイ・ピアース”、『イエスタデイ』の“ラモーネ・モリス”などです。
監督はこれがデビュー作となる“デヴィッド・S・F・ウィルソン”。特殊効果を仕事にしていた人だそうで、本作もVFXにはかなり気合が入っており、それが物語上の大きな仕掛けにも…。
なお、もともと当初は『ジョン・ウィック』で成功をおさめたチャド・スタエルスキとデヴィッド・リーチが監督をする予定だったみたいです。
脚本は、『キック・アス ジャスティス・フォーエバー』や『トゥルース・オア・デア 〜殺人ゲーム〜』で監督もつとめた“ジェフ・ワドロウ”と、『メッセージ』や『バード・ボックス』のライターである“エリック・ハイセラー”の2人が手がけています。
原作のアメコミを知らなくても全くOK。とりあえず“ヴィン・ディーゼル”が大暴れする映画だと思ってもらえばだいたい合ってますから。
オススメ度のチェック
ひとり | ◯(俳優ファンは必見) |
友人 | ◯(適度なエンタメを観るなら) |
恋人 | ◯(アクション好き同士で) |
キッズ | ◯(そこまでの直接的な残酷さはない) |
『ブラッドショット』感想(ネタバレあり)
あの男を殺さなければ…
ケニアのモンバサ。観光地にもなっている場所ですが、今、ひとりのアメリカ海兵隊員が潜入しているのはスラム街のような貧しい場所。ある民家の扉の前につき、横にスタンバイしながらドアをノック。すると扉の内側から銃撃され、中から敵意剥き出しなのがわかります。
フラッシュバンとともに突入。慣れた動きで殲滅していく海兵隊の男。人質を発見、銃を突きつけられている状態です。「後ろに下がれ」と言われ、それでも落ち着いて話す海兵隊の男は、一瞬の隙を見て相手を撃ち抜くのでした。救出対象を無事に保護。ミッションは完了です。
任務を終え、レイ・ギャリソンは愛する妻ジーナのもとに帰ってきました。イタリアのアマルフィの美しい海岸で、妻と水入らずの時間を過ごします。それは何物にも代えがたい幸せな空間。いつまでもキラキラと輝く、二人だけのプライベートな世界です。
ところがそこの平穏が崩れます。ホテルで休んでいると、突如、夜中に敵の襲来を受けます。レイは持ち前のスキルで咄嗟に敵に応戦し、なんとか倒すのですが、背後からクスリを打ち込まれて、意識を昏倒。
目覚めると食肉冷凍庫で縛られていました。そこに陽気に踊りながら男が前に歩み寄ってきます。その男はマーティン・アックスと名乗り、モンバサの人質奪還作戦について詳細を聞いてきますが、口を割ることはできません。しかし、目の前に妻のジーナを連れてこられ、あげくに無残にも殺されてしまったことで、レイは茫然。怒りに震えるが動けません。必ず殺してやると殺意を向けるレイ。それでも自分にも銃を向けられ、銃声が響き…。
死んだはず。でもなぜか目覚めました。そこは謎の機器の中。つながれています。何は何だかわからないまま困惑していると、エミール・ハーティング博士と助手のKTの二人がやってきて説明をしてくれました。
「君は殺されたんだ」と衝撃的なことを告げられますが、名前すらも思い出せないほどに自分に記憶がありません。米軍から提供されたらしく、「死から蘇らせたのは君が最初だ」「セカンドチャンスだ」と言われます。
ここはかなり立派な施設で、兵士の強化を研究しているらしいようです。試しにと手を傷つけられますがみるみるうちに傷口が修復。体中の血液が生物工学ロボットの「ナナイト」に置き換わったことで、こんな常人ではあり得ない自己修復治癒ができるとのこと。
リハビリ施設を案内されると、そこには視力や両足を無くした人たちがテクノロジーで見違えるように復活している姿がありました。自分もサンドバックを殴ってみると、パンチが貫通。固い柱にもパンチしても平気で、柱にヒビさえ入ります。どんなダンベルでも片手でラクラク持ち上げられ、自分が回復だけではない絶大なパワーをゲットしたことを実感。
しかし、フラッシュバックが襲い、ジーナが殺されたときのことを思い出します。マーティン・アックス…復讐すべき相手の名が記憶に蘇り、レイはじっとすることはできませんでした。
独断行動で車で出ていったレイ。犯罪データベースを脳内検索し、操縦方法をその場で学習した飛行機を操り、ハンガリーのブタペストへ。大金をかけたプロトタイプの勝手な行動に博士は大慌てですが気にしません。
トンネルでレイは圧倒的な能力でマーティンの一味を追い詰め、憎きマーティンを射殺しました。あっけなく。
KTが迎えに来ます。復讐は達成されたが何も変わらないし、妻も戻ってこない…その虚しさに浸るレイ。
再びレイは目覚めます。記憶はない。自分は超人化している。そして愛する妻が殺されたことを思い出し、その相手に復讐をするために動き出します。何も知らずに…。
映画みたいな人生もツラい
『ブラッドショット』はよくあるリベンジ系かなと前半は思わせます。愛する者を殺されて、復讐の機会を得た男が、その力で憎き相手に制裁を与える。これだけならお話は非常に単純。王道も王道です。
しかし、中盤から物語に隠された仕掛けが判明。実はレイはハーティング博士の組織に利用されており、都合よく記憶を毎度書き換えて、ターゲットを殺させていたのでした。冒頭の人質奪還作戦も妻との楽しい思い出も全部が作り物。パソコン上でまるでVFXのように作りだされた疑似的な映像記憶であり、毎回修正されています。本当の妻は5年も前に別れたっきりで、会ってすらいませんでした。
このトリック自体は「なるほどね」と鑑賞中は真相が判明していくたびにワクワクしてくるものですし、これからどうするのだろうと展開が気になってきます。
映画化したことで映画という作り物であることがメタ的に効いてくるので、これはこれで上手い構成だとも思います。あの冒頭にわかりやすいほどにベタベタなラブシーンも、ちゃんと反転させて皮肉を与えているわけですから。ちょっと『スパイダーマン ファー・フロム・ホーム』みたい。あとあの映画とかこの映画とかにも似ているなと思いつくけど、書くと他作品のネタバレになってしまうだけなのでこれ以上は書けない…。
ハーティング博士を演じた“ガイ・ピアース”の主演作『メメント』もまさに断片的な記憶をめぐって真実が徐々に浮き上がってくる系のストーリーでしたね。
当然ツッコミもあります。あんな技術が実現可能かどうかはさておき、任意のターゲットを殺したいなら、わざわざこんな回りくどいことをしなくてもいいのに…とか、根本的な疑問はないわけではないです。物語全体がこのトリックありきで構成されているので不自然な強引さは否めません。あれだけのスーパーパワーがあるなら記憶操作も必要なく、いろいろできるでしょう。
また、これだけの技術があれば、後半の展開として、実はハーティング博士すらも仮想で作られた敵だった…など、いくらでもどんでん返しを用意できそうなものですが、そこも無しで、後半はかなりあっさり。そこもシンプルでいいのですが、もったいないなとも思ったり。
あとオープンソースコードを使っているから脆弱性になってシステムを逆に欺かれてしまうという後半の展開は、わからなくもないですけどもう少しなんとかならなかったものか…。そんなオープンソースコードで実現するテクノロジーではないだろうし、セキュリティはどうしたんだ…。個人的には敵のIT系の人物がただアホでした…という弱点で主人公が活躍するのはあまりアツくないと思うんですよね。それよりも激しいITの出し抜きバトルが展開されまくる方が燃えるのに…。
やっぱり映画みたいな人生も良い
お話のトリックはこのへんにして『ブラッドショット』の最終的な見どころはやっぱりアクションになってきます。今回は意外にも乗り物アクションは控えめで、肉弾戦メイン。しかし、ここにハイテクなサポートが追加されて、かなり本作独自の味になっています。
最初の見どころは、妻に会って失意の中にいるレイが強化兵の襲来を受けるパート。走って逃げるレイを、敵もテクノロジーを駆使して追跡。目まぐるしいハイスピード追いかけっこが展開されます。このシーンで、「あ、ブラッドショットのオリジナルな面白さはここか!」とわかる感じです。
原作の漫画は1990年代なので描かれる技術は映画では現代に合わせてアップデートしているのでしょうけど、ちょうど程よいテクノロジーのバランス。ドローンでの上空追跡にプラスして、義足強化兵の驚異の運動神経による華麗な追尾。あのテンポ感は良かったです。
続いてはコントロールを脱してレイが覚醒したパート。博士の施設を脱出する場面では、エレベーターを駆使した一大アクロバティックなアクションバトルが勃発。敵も強化アーマーに加えてアームで攻撃力と機動力をアップしており、以前の追跡劇とはまるで違う上下方向のアクション軸がたっぷり堪能できます。
そこから博士との対峙シーンでの、レイの完全なブラッドショットとしての降臨。ここまで来るとアクションを通り越して、オバケみたいなものですけど、とりあえずカッコいいので良しとしよう。
「サンキュー、ウィガンズ」という決めゼリフ(?)も用意されているし、“ヴィン・ディーゼル”も大満足の「オレ、カッコいいだろ」映画になったのではないでしょうか。“ヴィン・ディーゼル”って中二病の鏡みたいな人だよね…。それで自分の映画を作れてしまうのだもん、恵まれていますよ…。
また、少ないながらアクションを見せるKTの存在感もカッコよかったです。“エイザ・ゴンザレス”のビジュアルのカッコよさも相まって、常に絵になります。『アリータ バトル・エンジェル』や『ワイルド・スピード スーパーコンボ』などアクション系のジャンル作品によく最近は出ているので、そういうジャンル映画と相性がいいのでしょうかね。
ラストは本物の(だよね?)美しい夕日とともエンディング。メタなセリフで幕を閉じるのもお茶目で、全体的な総論としてはまごうことなき“ヴィン・ディーゼル”映画でした。
個人的には続編も見たいし、世界観も広がってほしいけど、無理なのかな…。
それにしても死亡しても生き返るなんてね。
ん? 死んだはずの男が蘇る…? あれ…ワイルド・スピード…ハン…う、頭が…。まさか、あの作品の裏には『ブラッドショット』みたいなことが…(ないとも言い切れないから怖い)。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 30% Audience 78%
IMDb
5.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★
作品ポスター・画像 (C)2020 Columbia Pictures Industries, Inc., Bona Film Investment Company (Pacific Rim, USA) and Cross Creek Bloodshot Holdings, LLC. All Rights Reserved.
以上、『ブラッドショット』の感想でした。
Bloodshot (2020) [Japanese Review] 『ブラッドショット』考察・評価レビュー