触らぬ神に笑いなし…映画『マイティ・ソー バトルロイヤル』(マイティ・ソー3)の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:アメリカ(2017年)
日本公開日:2017年11月3日
監督:タイカ・ワイティティ
まいてぃそー ばとるろいやる
『マイティ・ソー バトルロイヤル』物語 簡単紹介
『マイティ・ソー バトルロイヤル』感想(ネタバレなし)
マーベルの問題児がやってくれました!
「飛ぶ鳥を落とす勢い」とはまさにこのこと。ハリウッド映画界における「マーベル・シネマティック・ユニバース」シリーズは、作品を出せば出したらで、軒並み、興行的にも批評的にも大成功をおさめ続けています。某他社のユニバースはあれなのに…。
こうも完璧な優等生っぷりだとひがみたくなりますが、でも、そんな「マーベル・シネマティック・ユニバース」シリーズも初期の頃はそこまでの勢いはありませんでした。とくに「2」「3」とシリーズを続けていくのは苦労しており…。例えばマーベル映画の初期を支えたのは「アイアンマン」「キャプテン・アメリカ」「マイティ・ソー」「ハルク」の4つです。このうち「アイアンマン」はその圧倒的キャラ人気もあって安定した続編展開を見せましたし、「キャプテン・アメリカ」は2作目から意外なほど社会批評的なテーマに踏み込み、批評家を驚かせました。おそらく今の「マーベル・シネマティック・ユニバース」シリーズの方向性を決定づけたのはこの2作でしょうね。
ところがです。残り2つはというと…。
「マイティ・ソー」は最初はまずまずだったのですが、2作目の評価は他と比べてあまり芳しくなく。映画批評サイト「RottenTomatoes」によれば批評家からの肯定的評価は2011年の『マイティ・ソー』は77%、2013年の『マイティ・ソー ダーク・ワールド』は66%、まあ、落ち込んでます。
さらに困ったのは「ハルク」で、2008年の『インクレディブル・ハルク』以降は単独続編は作られなかったわけです。
私なりに思うのは、たぶんこの2つに共通するのは主役が「人外」すぎてリアルとファンタジーのバランスが難しいのかなと…。ひとりは神様、もうひとりは制御不能の巨人ですからね。
そんなマーベル映画界の問題児二人が共演する新作がついに公開されました。それが本作『マイティ・ソー バトルロイヤル』。タイトルに「マイティ・ソー」とありますが、事実上「ハルク」の新作でもあるといっても過言ではありません。
その心配要素たっぷりな『マイティ・ソー バトルロイヤル』ですが、いざ公開されてみれば予想外の評価は上々。「RottenTomatoes」では93%の超高評価です。これは歴代マーベル映画の中でもかなりの高さ。
なぜここまで評価が爆上げしたのかは後半に語るとして、とにかく単純明快でわかりやすい映画ですので、アメコミ全然わかんない!という人が見ても素直に楽しみやすいはず。
あと個人的にうれしいのは日本も含めて世界同時公開されることですね。続く『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』にいたっては日本先行公開らしいですし、マーベルありがとう…。他社も見習ってほしいな…。
『マイティ・ソー バトルロイヤル』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):生きてました
熱気あふれる陰気臭い広大な洞窟。ソーは天井の檻の中にいました。地球(ミッドガルド)ではヒーローとして何度か世界を救いましたが、それからはインフィニティ・ストーン探しのために宇宙を飛び回り、でも結局は見つからず…。そうこうしているうちにこうなって…。
そのソーを拘束したのはスルトでした。ソーの父オーディンに50万年前に倒されたのですが、ソーの故郷であるアスガルドを滅ぼすまで眠れないのだとか。ソーも世界の終末(ラグナロク)の悪夢を見ていました。「我が王冠が永久なる炎で復活する」とスルトは宣言します。そしてスルトは気になることを言います。「オーディンはアスガルドにはいない」と…。
ソーは軽口を言いながら余裕そうに武器であるハンマー「ムジョルニア」を呼び寄せ、スルトを圧倒。王冠を奪ってアスガルドにいる門番のヘイムダルにゲートを開くように指示します。しかし、門番をしていたのはスカージでした。
こうして故郷のアスガルドに戻ってきたソー。王宮では父のオーディンが呑気に劇を鑑賞していましたが、ソーはスルトの発言から怪しいと睨み、正体を暴きます。父のオーディンになりすましていたのは弟のロキでした。ロキは死んだと思っていましたが、しっかり生きていました。
では父はどこへ消えたのか? ロキは地球に案内します。ケアホームに置いてきたらしいですが、もう取り壊されてしまっていました。
そのとき、ロキが魔法の円陣のようなもので瞬時に消えてしまい、住所が書かれた紙が残されていました。そこにソーが向かうと、その建物に住んでいた魔術師のドクター・ストレンジが出迎えます。
単刀直入にドクター・ストレンジはソーに訊ねます。「なぜロキを連れてきた?」
父オーディンの居場所を知っているそうで、何でも父はノルウェーにいるらしく、魔法で送ってくれます。ロキも一緒です。
大海原を一望できる崖でオーディンは佇んでいました。「ラグナロクがやってくるぞ。私の命が尽きればあの女がやってくる」…それは死の女神ヘラ…ソーの姉です。遥か彼方に追放していましたが、舞い戻ってくるというのです。「この場所を忘れるな。故郷だ」…そう言ってオーディンは消えました。
取り残された兄弟。しかし、そこにただならぬ気配が…。現れたのはヘラです。不気味な態度で自分を女王だと宣言し、ムジョルニアさえも手で受け止め、いとも簡単に破壊してしまいます。
ゲートで故郷に逃げようとしますが、そのワープの最中でもヘラは追跡してきて兄弟は戦闘。ソーもロキも放り出されてしまいます。
ソーが流れ着いたのは謎の星…。
葛藤も女もない!あるのは筋肉!
先に説明したとおり、批評的には高い評価を得た『マイティ・ソー バトルロイヤル』。
その理由は私が思うに、これまで「マーベル・シネマティック・ユニバース」シリーズが積み上げてきたものとは真逆のことをしっかりしたバランスをとりながら堂々とやってのけたことにあるのではないでしょうか。
従来のアメコミでは物語の推進力は「葛藤」でした。「ヒーローとは何か」とか「この力を正しく使うにはどうすればいいのか」とか、そういう自問自答を繰り返すのがアメコミ主人公の定番です。ただ、どうしてもここまでアメコミ映画が続くと「またかよ」感が否応にも増していき、マンネリ化しがち。最近はシリアス路線を捨てて明るいテンポで葛藤を描くのが主流になりつつあります。
ところが、本作の主人公である「マイティ・ソー」&「ハルク」は、葛藤は全くない…とは言えませんが、他作品と比べてかなり弱めです。それもそのはず、例えば、ソーはヒーローである以前に王族であり、自国民を守るのは当然の務めなので、目的は自明なんですね。ハルクも力を制御できない以上、もうあとは強敵相手にぶつかるしかないわけで。
もちろん葛藤に焦点を当てることもできたはずです。ソーだったら家族のこととか。でも、それをあえてしない。この開き直りっぷり。
しかも、今回は今までソーにもハルクにもあった女絡みの色恋沙汰もないわけですから。葛藤もねぇ! 女もねぇ!の結果的にとんでもないパワーを持っちゃっている筋肉男たちなのです。
グダグダ悩むのは他の奴らがやればいい、俺たちは暴れようぜ! こんな清々しいほどの「The 脳筋」なアメコミ映画はあったでしょうか。
アメコミ映画には葛藤が欲しいという人には点数の下がる映画だと思いますが、アメコミ映画史の中では稀有な存在感を放つ作品になっていたといえるでしょう。それと同時に、迷走してきた「マイティ・ソー」と「ハルク」のシリーズがやっと理想形を見出した感じもします。
フラッシュ・ゴードンの現代版?
『マイティ・ソー バトルロイヤル』はそのポップな明るいノリとスペースオペラ感から『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』と類似しているという声も聞かれる作品ですが、個人的にはそれよりも、1980年のカルト的アメコミ映画『フラッシュ・ゴードン』を現代の映像技術で再生した作品に思えました。『フラッシュ・ゴードン』も脳筋主人公でしたね。
一方で映画全体を漂う「“はみ出しもの”的な異文化感」は本作独自の特色でした。ソーやハルクはもちろん、ロキも、ヴァルキリーの生き残りも、エイリアンたちも、全員が社会の枠からこぼれた者ばかり。そして、彼らが行きつくあのサカールという惑星はまさに異文化のはき捨て場というべきごちゃごちゃなルックでした。
これぞ監督を務めた“タイカ・ワイティティ”の持ち味です。この監督の作品は全部“はみ出しもの”が主役なんですね。『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』は吸血鬼だし、『ハント・フォー・ザ・ワイルダーピープル』は不良少年だし。そして、共通するのはそんな彼らがなんだかんだで楽しく生きる姿を描くこと。“はみ出しもの”を常に温かく笑いで迎えてくれる作品を作っているのです。当の“タイカ・ワイティティ”本人は本作にも出演し、あの何とも言えない雰囲気を醸し出す石のエイリアン「コーグ」になってましたけど。
ちなみに本作は“タイカ・ワイティティ”過去作のオマージュも見ていた人ならわかる形で挿入されてました。コーグがハルクにオススメする「吸血鬼にしか効果がないね」と言う“3本に分かれた木の槍”は『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』だし、サカールから宇宙船で逃げるソーたちを執拗に追い詰めるグランドマスターの右腕のおばさんは『ハント・フォー・ザ・ワイルダーピープル』でも同じように追いかけてくるキャラを演じた女優でしたね。
本作にはこれまでのアメコミ映画にあるような社会風刺は露骨にはありませんが、でもあえてクソ真面目に汲み取るなら「移民」ですかね。なんていったってソーと生き残った国民たちはまさしく移民として最後は地球を目指すわけですから。レッド・ツェッペリンの「移民の歌」に合わせた勇ましく戦う姿や、「人こそがアスガルド」という言葉のとおり、移民の原点を見せてくれる映画でもありました。
皆のいじられキャラ
そんなこんなでいろいろ書きましたが、やっぱり『マイティ・ソー バトルロイヤル』も昨今のアメコミ映画と同様に御多分に漏れず「キャラ映画」です。だから過去作を知ってキャラに愛着を持っていれば2倍3倍と楽しさが倍増していきます。
とくにロキ。もうすっかりマーベル映画界イチの「いじめたくなるキャラ」になりましたね。今回も相当いじめられまくりでした。闘技場でソーがハルクに“びたん!びたん!”される姿をロキが見たときの「俺の痛みがわかったか!」の喜びっぷりが可愛いし(よく理解できない人は『アベンジャーズ』を参照)、“サプライズ”な縛られている姿も似合う。
私も石を投げつけたい…。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 93% Audience 87%
IMDb
7.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★
関連作品紹介
MCU作品の感想記事です。
・『ソー ラブ&サンダー』
・『ロキ』
(C)Marvel Studios 2017 All rights reserved. マイティソーバトルロイヤル
以上、『マイティ・ソー バトルロイヤル』の感想でした。
Thor: Ragnarok (2017) [Japanese Review] 『マイティ・ソー バトルロイヤル』考察・評価レビュー
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