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ドラマ『チェスナットマン』感想(ネタバレ)…マロン味の北欧ミステリーはいかが?

チェスナットマン

マロン味のデンマーク・ミステリーはいかが?…ドラマシリーズ『チェスナットマン』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:The Chestnut Man
製作国:デンマーク(2021年)
シーズン1:2021年にNetflixで配信
監督:カスパー・バーフォード ほか
児童虐待描写

チェスナットマン

ちぇすなっとまん
チェスナットマン

『チェスナットマン』あらすじ

惨殺死体が発見される。その傍には栗で作られた小さな人形「チェスナットマン」が置かれていた。事件を担当することになったトゥーリンは新しい同僚のヘスと一緒にこの不可解な謎を解いていくことになる。それは今も国内を騒がせている大臣の娘の誘拐事件となぜか接点が浮かび上がり、さらに栗の人形が関係する殺人事件は続発。捜査は後手に回っていく中で、点と点が繋がり、衝撃の真相が明らかになる。

『チェスナットマン』感想(ネタバレなし)

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栗人形は殺人鬼の小道具

秋になるとグルメの業界ではパンプキン味やマロン味が勢力を強めてきます。

この「マロン」という慣れ親しんでいる言葉ですが、何を指しているのか知っていますか?「え? 栗じゃないの?」という声が聞こえてきそうですが、確かにです。でも私たちが連想する栗とはちょっと範囲が違うかもしれません。

そもそも「マロン」という言葉はフランス語で、ブナ科クリ属もしくはトチノキ科トチノキ属に分類される木の実のことです。つまり一言で「栗」(英語では「chestnut」)と言っても複数の植物種が含まれているわけで、さらに「マロン」には栗ではなくトチノキも含まれているのですね。例えば、日本では「Castanea crenata」という学名を持つ木が一般的ですが、さらにたくさんの品種が存在します。日本にもトチノキも生育していますが、その実のことは普通は「とちの実」と呼びます。当然、地域が違えば栗の種類も変わります。アメリカにもヨーロッパにもそれぞれの栗が複数種あるのです。

今回紹介するドラマシリーズはそんな栗が印象的なアイテムとして登場する作品です。まあ、印象的と言っても秋の風物詩でもグルメの素材でもなく、殺人の小道具なんですけど…

それが本作『チェスナットマン』

本作はデンマークを舞台にした刑事バディもののミステリーサスペンス。ある日、猟奇的な殺人によるものと思われる遺体が発見されます。その現場には栗とマッチ棒や枝で作った小さな人型の人形が…。子どもが作るような他愛もない栗人形…チェスナットマン。それはこの事件の鍵を握ることに…。

もちろんこの先の展開は何も言えません。ミステリーですから、謎解きこそが最大の面白さです。刑事バディものなので定番のスタイルですし、加えて北欧ということで独特の空気感が漂っています。これらの要素が大好きだという人は『チェスナットマン』にガッツリとハマることができるでしょう。

それにしてもデンマークでは栗人形を作るのは子どもの間ではポピュラーなのかな。作中を観ているかぎり、栗人形の存在自体そんなに珍しいものではないかのような描写だけど。日本でもドングリなどを使って小物を作ったりする遊びはありますし、親近感は湧きますね。本作では殺人の小道具なんですけど…(強調)。

雪だるまが殺人鬼の小道具になっていく『スノーマン 雪闇の殺人鬼』という映画もありましたが、今度は栗人形なのか…。

『チェスナットマン』は2018年に“Soren Sveistrup”によって書かれた小説のドラマ化だそうで、かなり早い映像化となりました。

俳優陣は、『特捜部Q キジ殺し』の“ダニカ・クルチッチ”、『ヒトラーの忘れもの』の“ミケル・ボー・フォルスゴー”、『Thin Ice』の“イーベン・ドールナ”、『Tinka og kongespillet』の“エスベン・ダルガード”、『チェルノブイリ』の“デヴィッド・デンシック”、『アナザーラウンド』の“ラース・ランゼ”など。

『チェスナットマン』はミニシリーズで全6話。各話約50分程度なので観ようと思えば一気に鑑賞できてしまうボリュームだと思います。こういうミステリー系は続きが気になってしまうのでなかなか少しずつ鑑賞していくと心が落ち着かないですからね。観るなら時間がとれるときがいいかもしれません。

題材が題材なだけに、遺体などを含む残酷な描写が多数含まれます。また、誘拐を含む児童虐待の要素(直接的な描写はない)もあるのでそのあたりも視聴時には注意をしてください。さすがにビジュアルで「これは可愛い栗人形が映っているけど子ども向けじゃないな」ということくらいは察せると思いますが…。

『チェスナットマン』はNetflixでオリジナル作品として独占配信中です。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:刑事ミステリー好きなら
友人 3.5:北欧好きならばなお良し
恋人 3.5:バイオレンスだけど
キッズ 3.0:残酷&暴力描写が多数
↓ここからネタバレが含まれます↓

『チェスナットマン』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):みんなで作ろう

1987年、メン島。平凡な場所です。マリウスの警察車両が一軒の民家に到着します。ここに暮らしているウロムの牛が逃げているとの通報があったためです。声をかけるも返事なし。家の周辺を散策すると、1頭のブタが死んでいるのを発見。不自然な状態であり、何やら嫌な予感がします。警察車両の中の犬がその異変を察知するかのように吠えます。

家の中へ慎重に踏み入ると、ひとりの人が机に突っ伏して亡くなっていました。ここの住人です。銃を取り出し、警戒を一層強めながら他にも遺体があるのを確認。バスルームにて意識がある少年を発見し、応援を頼みます。さらに地下へ進んでいきます。その部屋は何に使われていたのかはわかりませんが、ボロボロで不衛生な環境です。棚には大量の栗人形(チェスナットマン)が置かれており、ひとりの子がうずくまっているのを発見。その瞬間、背後に気配を感じ、何者かに襲われ…。

なお、作中ではヨーロッパグリ(セイヨウグリ)の他に、セイヨウトチノキも栗人形の素材として挙げられています。

現在。コペンハーゲンは10月を迎えました。秋、樹木が枯れ、実ができる季節です。

ナイア・トゥーリンは娘のリーを学校に送ります。娘は母がセバスチャンという男と家で寝てることを知っており、母の心情はバレています。

娘と別れ、トゥーリンは職場へ。そこは警察です。今、ここはピリピリしていました。社会大臣のローザ・ハルトゥンクの12歳の娘クリスティンの誘拐殺人事件があったばかりだからです。そのローザは久々に政治に復帰することになっており、メディアの注目はまたあの事件に注がれています。犯人のリヌス・ベッカーは逮捕されており、事件は収束しているものの、犠牲者を出してしまったことは後悔として残ります。

一方でトゥーリンは自分のことを考えていました。サイバー犯罪部門(NC3)への異動願を出したいと上司に伝えますが、反応は微妙。フースムで女の遺体が見つかったのでヘスと現場に行くように命じられます。

そんな中、ローザは家で感情を抑えていました。まだ喪失感は消えていません。でもじっとしているわけにはいきません。夫のスティン、息子のゴスタウもいます。ローザには脅迫メールも来ており、不安は拡大します。

トゥーリンと同行することになったヘスはユーロポールの厄介者らしく各所を転々としているとのこと。トゥーリンにしてみれば役に立たないからそうなのだろうと察し、信用していません。

現場に到着。被害者はラウラ・ケア、37歳。就寝中に襲われたようで、被害者の息子は何も言いません。すでに現場には法医学研究所長のシモン・ゲンツが来ており、森の中に遺体を調べていました。手首は固定され、片方は切断。異常な姿です。

トゥーリンはそばにポツンとチェスナットマンが1体置かれているのを発見し、念のため証拠品として保存。トゥーリンは被害者の交際相手のハウゲに話を聞き、怪しいと睨みます。

施設で分析にあたるゲンツは、被害者の手は見つからないものの、チェスナットマンから指紋が検出されたと告げます。少し躊躇いながらその指紋の持ち主を口にします。それはクリスティン・ハルトゥンク…あのローザの娘で殺された子のものでした。

上司は偶然だろうと言いますが、気になるトゥーリンはハルトゥンク家へ。クリスティンは栗人形を売っていたらしいことが判明。本当に偶然なのだろうか…。

思い立って夜中に行動し、トゥーリンは被害者の子であるマグヌスに話を聞きます。あのチェスナットマンは最近までなかったそうで、つまり犯行時に置かれた可能性が高くなります。ハルトゥンクの事件を再捜査すべきだとヘスは主張しますが…。

さらに衝撃の疑惑。クリスティンはまだ生きているかもしれない…。

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あの俳優が好きになりました

『チェスナットマン』はミステリーとしてはシンプルなのでわかりやすいです。

謎は大きく分けて2つ。ひとつは、ラウラ・ケアやジェシー・クヴィウムを含む連続殺人事件の犯人は誰なのか。2つ目は、ローザの娘であるクリスティンの誘拐事件の真相は何なのか

この2つを繋げるのは「栗人形(チェスナットマン)」です。連続殺人事件の現場で毎回見つかる栗人形からクリスティンの指紋が検出され、2つの事件は接続していることが疑われていきます。クリスティンが過去に売っていた栗人形を使用したのか、それともクリスティンはまだ生存していてこの栗人形にごく最近になって触れたのか。そもそもなぜ栗人形なのか。明らかにローザを挑発している犯人の動機は何なのか。

もちろん視聴者は第1話の冒頭で「1987年のメン島の事件」が映し出されるので、全てがここに集約されていくのだろうということは推察できるのですが…。

とりあえず事件の背景はさておき、今作の犯人の正体はちょっとズルいですよね。ネタバレしてしまいますけど、真犯人は法医学研究所長のゲンツでした。つまり、科学捜査の肝となってくる人物が犯人なので、この捜査自体がかなり茶番になってきてしまいます。ただ、このゲンツは一応は表向きはちゃんと仕事しており、そこまでデタラメばかりで捜査を攪乱しているわけではありません。まあ、科学分析は別の人でも検証できますし、嘘の分析をしたらすぐにバレますけどね。

それでもゲンツは第1話から登場しているものの、なかなかにしれっと混ざっているので観客は意識しないと怪しまないバランスで描写されています。それよりもヘスの方がどう考えても挙動不審に見えますし…。

このゲンツを演じた“デヴィッド・デンシック”という俳優がまた良い味を出しています。スウェーデンの方なのですが、ドラマ『チェルノブイリ』でミハイル・ゴルバチョフを演じていました。直近だと『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』であの観た人ならわかるなんともうざったい研究者(オブルチェフ)を熱演していた人です

『チェスナットマン』でも正体を露わにしてからの開き直った豹変のしかたといい、ひとたび暴れ始めるとクセがかなりあって、“デヴィッド・デンシック”という俳優をすっかり私は好きになってしまいました。

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福祉先進国の現実の闇が…

デンマークは福祉先進国だと世間一般では言われます。先進的事例の代表としてもよく持ち上げられるものです。確かにそういう側面は大いにあります。児童支援でもそうです。デンマークでは何らかの事情で親元で暮らせなくなった子どもをサポートする仕組みが充実しており、ケアセンターもスタッフの手厚い配備のもとで用意されています。

しかし、全てが完璧とは言えない。まさにこの『チェスナットマン』はそういうデンマークの福祉先進国の現実の闇を見せつけてくる作品でした。

そもそも本作の根本にあるのは社会が児童を救えていない現実です。

ゲンツの犯行の動機の根底にあったのは自分が里親から監禁などの虐待を受けていたという事実であり、そのトラウマから社会大臣への恨みへと連鎖していったのでした。作中ではそれは過去のことではなく、現在進行形で児童虐待が起きている実態が浮き彫りになります。重要参考人であった被害者の子のマグヌスはあまり喋らない子でしたがそれは反抗期だからという理由ではなく、母の交際相手の男から性的虐待を受けていたというショッキングな事実が明らかに。子どもは自分からSOSを発信するとは限りません。

子だけではありません。子を誘拐されたローザ、火事で幼い赤ん坊を失ったヘスのように、心のケアを必要とするのは親側である大人もそうなのですが、その対応は決して万全ではない。どうしても社会の関心は子どもに向かってしまいます。大人たちはプレッシャーの中でじっと耐えているだけ。

そしてトゥーリンという主人公もまた娘のリーとの間で不和を抱えており、仕事にかかりっきりになる親と取り残されてしまう子の溝を埋めるのは簡単ではありません。

どんなに先進国だと褒められようとも、両親がいて痛みもなく何不自由なく暮らせている子どもというのはむしろ珍しいもので、養子かそうでないかを問わず、社会はあらゆる親子家庭へのサポートに従事すべきだけど、それは届いていない

そういうリアルをしっかり描いているからこそこの『チェスナットマン』は真に迫る物語になっているのではないでしょうか。

日本でも児童相談施設や警察が児童虐待の兆候を把握していたにもかかわらず対応をしないままに結果的に児童が殺されてしまう事件が定期的に報道されます。もちろん関係組織の対応体制を改める必要はあると思いますが、社会全体の問題として全員が共有しないといけませんね。

チェスナットマン作りが子どもの笑顔に繋がる世界になるように。

『チェスナットマン』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
8.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0

作品ポスター・画像 (C)Netflix チェスナット・マン チェストナッツマン

以上、『チェスナットマン』の感想でした。

The Chestnut Man (2021) [Japanese Review] 『チェスナットマン』考察・評価レビュー