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『アナザーラウンド』感想(ネタバレ)…試されるマッツ・ミケルセン(酒)

アナザーラウンド

試されるマッツ・ミケルセン(酒)…映画『アナザーラウンド』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Druk(Another Round)
製作国:デンマーク(2020年)
日本公開日:2021年9月3日
監督:トマス・ヴィンターベア

アナザーラウンド

アナザーラウンド

『アナザーラウンド』あらすじ

冴えない高校教師のマーティンと3人の同僚は人生を退屈していた。そこでふと妙案を思いつく。ノルウェー人の哲学者が提唱した「血中アルコール濃度を一定に保つと仕事の効率が良くなり想像力がみなぎる」という理論を証明するというものだった。自分たちで朝から酒を飲み続け、常に酔った状態を保つとどうなるのか。さっそく試してみると日常はいとも簡単に好転した。しかし、次第に制御がきかなくなり…。

『アナザーラウンド』感想(ネタバレなし)

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デンマークはアルコール大国

皆さんはアルコールを飲みますか? 私は一切飲まない人間なのですが、飲む人は飲むでしょう。

2019年のEUの調査によれば、8.4%は「毎日飲む」、28.8%は「毎週飲む」、一方で26.2%は「飲まない」と回答したそうです。アルコールとの付き合い方は本当に人それぞれですね。

そんなEUの中でアルコールを最も飲む国はどこか? 実は意外かもしれませんが「デンマーク」なのです。

デンマークは飲酒文化が根強いアルコール大国。EUの中でもトップクラスです。なんとデンマークには法的な飲酒年齢要件がないそうで、未成年でも飲もうと思えば飲めます。ただし、ビールとワインを購入する年齢制限は、ショップで16歳、バーやレストランで18歳となっているので注意。それでも公共の場でも飲酒はできるのでほとんど制限はありません。

酒好きには天国に思えるそのデンマークですが、10代の飲酒率の高さは社会問題にもなっているそうです。これだけアルコールに触れやすければ若者がアルコールに依存するのも簡単でしょう。また、アルコールを大量に飲む親の子どもは、精神疾患、入院、犯罪行為など、多くの不利な経験のリスクが高くなっていることも研究で明らかになっています。

アルコールとの付き合いは一歩間違えればライフスタイルを破壊する…これもまた事実。

そんなアルコールと最も密接に付き合っていると言っても過言ではないデンマークから、傑作アルコール映画が登場しました。それが本作『アナザーラウンド』

まずやはり主演から語らねばなりません。本作の主人公を演じるのはデンマーク俳優と言えばこの人、“マッツ・ミケルセン”。本作では何をするのかというと、なんと「血中アルコール濃度を一定に保つとなんかいい感じに生活が良くなるらしいよ?」というノリで、自らを被験者にして“やってみちゃった”という、とんでもない教師の男を熱演しています。もう“マッツ・ミケルセン”、飲みまくりですよ。最近は『残された者 北の極地』では極寒だったりと、何かとずっと試されている“マッツ・ミケルセン”ですけど、今回はアルコールなのか…。

『アナザーラウンド』の監督は、これまた“マッツ・ミケルセン”主演作で私も大好きな一本『偽りなき者』(2012年)を手がけたあの“トマス・ヴィンターベア”。なので鉄板のペアですよ。

そして本作は世界を泥酔させ、高評価を連発。2020年の米アカデミー賞ではほぼ間違いないだろうという世間の予測どおり国際長編映画賞を受賞し、さらに監督賞にまでノミネートされるという支持っぷり。

私なりの考えとしてはこれだけコロナ禍で世界的にステイホームだったわけですから、家でアルコールを飲むしかやることがなかった人もいたでしょうし、この『アナザーラウンド』、他人事ではなかったんじゃないかな、と。2020年に最も共感を集めた映画だったのかも。

私も“マッツ・ミケルセン”のファンなので、今か今かと公開を待ちわびていました。アルコールは飲まないけど、アルコールを飲んでいる“マッツ・ミケルセン”は観たいのです。

でもひとつ忠告というか、言っておこうと思うのは、本作は宣伝にあるような「酔って盛り上がる痛快作!」という感じの映画なのかというと、それもちょっと違うと思うのです。詳しくは後半の感想で語りますが、ちゃんと社会風刺があって、グサっと刺さる批評性もある。そこは“トマス・ヴィンターベア”監督作ですからね。エンタメ全開の『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』とは全然違います。

また、すごく「男性性(マスキュリニティ)」を観察していく映画にもなっていると思うので、そういうジェンダー視点でも面白い映画でしょう。

他の俳優陣は、『THE WAVE ザ・ウェイブ』の“トマス・ボー・ラーセン”、『ザ・コミューン』の“マグナス・ミラン”、『偽りなき者』の“ラース・ランゼ”など。

『アナザーラウンド』を鑑賞前にアルコールを飲んでも構わないですけど、劇場内では騒がないでくださいね。

オススメ度のチェック

ひとり4.5:飲む人も飲まない人も
友人3.5:本音で語り合える人と
恋人3.0:ロマンスにはあまり…
キッズ2.5:大人向けの内容です
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『アナザーラウンド』予告動画

9/3(FRI)公開『アナザーラウンド』予告
↓ここからネタバレが含まれます↓

『アナザーラウンド』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):実験しよう!

高校教師のマーティンは退屈していました。一時的な“つまらなさ”ではありません。日常的な生きがいというものを見失っていたのです。授業をしても覇気は無し。椅子に座り、ボソボソと抑揚もなく喋るだけの授業は生徒からも不評で、ダメ出しすらされてしまいます。

家でも同じでした。妻に溜息をつかれるほどに今のマーティンは人生の意義を消失し、家族との会話もぎこちないまま。かといって自分では何もできず、距離感すらもわからず、改善の努力をしようというエネルギーもない。ただ意味のない時間だけが過ぎていくだけ。

マーティンの友人である他の3人の教師、トミー、ピーター、ニコライも似たような状態でした。愛犬と二人暮らしのトミーは過去を引きずり、独り身のピーターは愛を求めて空回りし、妻との喧嘩が絶えないニコライは幼い子どもの世話にも疲弊。

そんな4人でディナーに集まった席。ふとこんな話になります。

ノルウェーの学者のフィンなんとかが、「血中アルコール濃度を一定に保つと仕事の効率が良くなる」という理論を提唱しているらしい。その血中アルコール濃度は「0.05%」が良いとか…。

血中アルコール濃度(BAC)は「0.02~0.04:爽快期」「0.05~0.10:ほろ酔い期」「0.11~0.15:酩酊初期」「0.16~0.30:酩酊極期」「0.31~0.40:泥酔期」「0.41~:昏睡期」というのが一般的な目安と言われています。作中では「%」ではなく「‰(パーミル)」で表記されているので注意。

その場でもマーティンはとくに辛そうで、同僚が気遣います。静かな店の中でしたが、しだいに酔いが回ってはしゃぐ4人。帰りの夜道も子どもに返ったようにふざけあい、じゃれつきます。

こうして久々に楽しい時間を過ごしましたが、また翌日に職場に戻れば表情は暗いマーティン。しかし、今回は違います。やると決めました。マーティンはトイレの個室にこもり、こっそり持ち込んだアルコール飲料を口にします

そのまま授業へ。生徒を静かにさせ、いつもよりハキハキと語っていき、表情もどことなく柔らか。

同僚にアルコールを飲んだことを打ち明け、運転してもらうマーティン。確信に変わりました。やってみよう。4人でまた揃って例の研究をテストしてみることを提案。常に血中アルコール濃度を「0.05%」に保つのです。

すると普段の授業は生徒のウケもいい最高の時間に様変わり。これに調子を良くしてアルコールの量を増やしていきます。授業はさらにノリにノっていき、大歓声。その絶好調ぶりを目撃した他の同僚たちも勇気づけられ、アルコールに頼っていきます。校内でアルコールのボトルが見つかる騒ぎになっても止める気にはなりませんでした。むしろもっと血中アルコール濃度を増やせばさらに最高になるのではという好奇心に押されます。

あれよあれよという間に血中アルコール濃度は「1.8‰(0.18%)」まで到達。4人はかつてないほどに勢いづき、夜に集まってべろんべろんに大はしゃぎ。最高潮です。

しかし、その代償は計り知れないほどに大きいものでした…。

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男らしさに酔って依存して…

『アナザーラウンド』はアルコールを素材にしているのですが、その意味するところ、つまり「男性性(マスキュリニティ)」というテーマが根底にあると思います。

冒頭のマーティンは単に退屈というレベルではなく、明らかに鬱状態になっています。間違いなく治療を必要とする心身であり、本来であればカウンセリングなどで少しずつ改善を目指していくケースです。

ところがマーティンは他の同僚、“男たち”にそそのかされてアルコールというものに一縷の望みを託すようになってしまいます。ここで注目なのが、一応あの男たちの名目上は理論の実証実験をするということになっているということ。論文を書こう!なんて話までしている。でもこれは要するに単にアルコールを飲んでいるだけでは「現実逃避で飲みふけっている惨めさ」が前面に出てしまい、“男らしくない”と考えているからでしょう。それを払拭するために「科学的な考証に臨んでいる」という体裁を保つことで自身の“男らしさ”に傷がつかないようにしているわけです。

この何とも言えない“男らしさ”へのこだわり。彼らはアルコール依存症以前に“男らしさ”依存症なんですね。

実際に彼らがアルコールを飲み始めて調子がよくなり始めると、“男らしさ”どおりの姿に変貌します。自分よりも若い者たちにバカにされずにむしろホモソーシャルなノリで場を賑わせ、体育の授業では攻撃的なプレイスタイルの指導で煽り、家では性的関係に燃えていく…。

結局のところ、アルコールで生活が改善されたのではなく、“男らしさ”への依存がより強化されただけであり、だからこその泥沼化していくことに。男らしくありたいという果てしない欲求は深まっているのですから。それだけが自分を救うと信じて…。

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男らしさに翻弄される周囲

『アナザーラウンド』はマーティンたちアルコールに溺れていく男たちだけでなく、その周囲の人間への影響まで描いており、しっかりアルコールをめぐる社会問題への批評があります。

例えば、マーティンがどんどんとアルコールに沈んでいき、やがては路上で倒れ込んで一夜を明かすほどまでに悪化するのですが、そんな父の姿を悲しそうに見つめる息子の存在。表面ではわからないですが、こうした積み重ねは10代の子の精神に大きな傷を残していきます

妻などのパートナーに与える影響も深刻であり、それはときに暴力的な雰囲気をともなうわけで、身の危険を感じるのも当然。

職場の雰囲気も最悪です。そこまで舞台裏は描かれていませんが、おそらく飲酒の証拠が見つかった時点で相当に広範な迷惑をかけているはずですが…。

当人の飲酒男たちが「これはあくまで自分のためにやっていること」と主張したところで、その行為は周囲に巻き添え的な被害を与えるのは避けられず、マーティンたちはそのことに頭が回っていません。自分の“男らしさ”しか気にしていないのですから…。

また、本作の冒頭では飲酒した若者たちが乱痴気騒ぎを公共の場で起こしていく風景が映し出されます。デンマークでは日常なのかもしれないですが、そこにある目線は「これは若者だけの問題ではない。社会全体がアルコールについて考えるべきでは?」という問いかけなんだと思います。マーティンの姿を続けて観察することで、なぜ社会はアルコールに溺れるのか、その本質が見えてくるようです。

加えて、本作にはいろいろな酔っているであろう政治家の調子に乗った言動の映像集が挿入されます。これにより、これは一国家の問題にとどまらないという論点も投げかける。

本作は「ビターでユーモラスな人生讃歌」とか「お酒はほどほどにね」という軽いメッセージでは片付けにくい映画ですし、まさにそこが評価されるポイントではないでしょうか。

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ラストは解釈で希望にも絶望にも変わる

そして『アナザーラウンド』の最大の見せ場はラスト。“マッツ・ミケルセン”に躍らせるなんてズルいじゃないですか。

ここの場面。どう解釈するかで映画の見方は大きく変わると思います。

トミーの葬儀の終わり、悲しみに沈むマーティンがやっぱりアルコールに頼ってその負の感情を捨て去るという、ポジティブなシーンとしてももちろん受け取れます。観客によっては「ちょっとくらいのアルコールはやはり人生には必要なんだ」という納得をするかもしれません。

一方でとても悲観的な解釈もできます。なぜなら最後はマーティンは海に飛び込んでいるわけです。知っていると思いますが、酔った状態で水場に飛び込むと溺死する危険性が非常に高いです。つまり、あのエンディングの止めカットの後、マーティンはもしかしたら死亡するのかもしれない。そう考えると非常に不穏で虚しい終幕です。

こういうどっちにでも解釈できるラストを投げつけるのは、“トマス・ヴィンターベア”監督は『偽りなき者』でもやっているので得意技ですね。

『アナザーラウンド』を観た後にアルコールを飲みたくなるかはわかりませんが、その前に身近な人に自分の悩みを素直に相談して真正面から向き合うといいと思います。個人的には人生に疲れた男性は「酒」ではなく「タコと泳いだり」するのがオススメですよ。

『アナザーラウンド』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 92% Audience 90%
IMDb
7.8 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
8.0
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関連作品紹介

アルコール依存を描く作品の感想記事です。

・『ザ・ウェイバック』

・『ボージャック・ホースマン』

おすすめ PiCKUP!

↑『偽りなき者』…同じくトマス・ヴィンターベア監督&マッツ・ミケルセン主演作。こちらのラストも凄まじい。

作品ポスター・画像 (C)2020 Zentropa Entertainments3 ApS, Zentropa Sweden AB, Topkapi Films B.V. & Zentropa Netherlands B.V. アナザー・ラウンド

以上、『アナザーラウンド』の感想でした。

Another Round (2020) [Japanese Review]