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映画『シラノ Cyrano』感想(ネタバレ)…ピーター・ディンクレイジのシラノ

シラノ

ピーター・ディンクレイジのシラノです…映画『シラノ(2021)』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Cyrano
製作国:イギリス・アメリカ(2021年)
日本公開日:2022年2月25日
監督:ジョー・ライト
恋愛描写

シラノ

しらの
シラノ

『シラノ』あらすじ

17世紀のフランス。剣の腕前と詩を書く才能を合わせ持つフランス軍きっての騎士シラノは、自身の外見に自信が持てず、想いを寄せるロクサーヌにその気持ちを告げることができずにいた。そんな彼の秘めた愛を知らないロクサーヌは、シラノと同じ隊の純真なクリスチャンに惹かれ、シラノは2人の恋の仲立ちをすることになる。シラノはクリスチャンに代わって自身の気持ちを込めたラブレターをロクサーヌに書くが…。

『シラノ』感想(ネタバレなし)

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W夫婦映画です

映画を夫婦で製作している人がいます。例えば、有名なのは『バイオハザード』『モンスターハンター』でおなじみの“ポール・W・S・アンダーソン”&“ミラ・ジョボビッチ”、他にも『サンダーフォース 正義のスーパーヒロインズ』など多数のコメディ映画を量産する“メリッサ・マッカーシー”&“ベン・ファルコーン”とか、いろんなペアが活躍しています。

やっぱり夫婦で映画作りできるだけあって関係は良好なんでしょうね(プライベートのみならず仕事でも一緒という選択をしているのですから)。

そんな中、今回紹介する映画はちょっと特殊。なんとW夫婦映画ですよ。2組の夫婦が映画製作の中心で関与している作品なのです。それが本作『シラノ』

本作は、1868年に生まれて活躍したフランスの韻文の劇作家である“エドモン・ロスタン”の著名な戯曲「シラノ・ド・ベルジュラック」を映画化したものです。とても有名な作品なので、もう数えきれないほどに映像化されており、1950年の『シラノ・ド・ベルジュラック』はアカデミー主演男優賞を受賞しているのでとくに記録に残っています。

今回の『シラノ』は2018年のミュージカル舞台劇を映画化したものです。なのでもうすでに舞台劇の方で完成されたものを、あらためて映画に置き換えている感じです。

映画版はその元になった舞台劇と脚本と主演男優は同じ。その脚本を手がけたのは“エリカ・シュミット”という劇作家。そして主演男優がドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』を始め『孤独なふりした世界で』『パーフェクト・ケア』など多彩な作品で活躍する“ピーター・ディンクレイジ”。この2人は夫婦です。

さらに、今回の映画版では主演女優も舞台から継続し、『Swallow スワロウ』の“ヘイリー・ベネット”が起用されているのですが、本作の監督は『プライドと偏見』『つぐない』『アンナ・カレーニナ』など芸術文学系の作品に精通している“ジョー・ライト”。こちらの2人も2018年から夫婦です。

“エリカ・シュミット”&“ピーター・ディンクレイジ”、“ヘイリー・ベネット”&“ジョー・ライト”…この2組の夫婦でお贈りするのが今回の『シラノ』なのです。

なんだかいかにも夫婦円満効果がありそうな座組の映画ですが、「シラノ・ド・ベルジュラック」なので元の戯曲を知っている人ならおわかりのとおり、切ない悲劇のロマンスが展開されます。

物語は、シラノという名のひとりの剣豪作家が主人公。この男は容姿のせいで自分に自信がなく、恋焦がれているロクサーヌに想いを伝えられません。そうこうしているうちにロクサーヌはクリスチャンという男性に夢中になり、クリスチャンもロクサーヌに惚れていました。しかし、クリスチャンには文才がなく、思うようにロクサーヌに気持ちを表現できません。そこでシラノがクリスチャンの代わりに恋文を書いてあげる…というストーリーです。

すでにこの序盤のあらすじだけで良い未来が待っていそうにない三角関係の匂いがプンプンしていると思いますが、でも映画の中身はとてもゴージャスでロマンチックに彩られています。

一応書いておくと私は“ピーター・ディンクレイジ”の大ファンなので贔屓目で観ていますが、2021年の数多くのミュージカル映画(『ディア・エヴァン・ハンセン』『tick, tick…BOOM! チック、チック…ブーン!』『イン・ザ・ハイツ』『ウェスト・サイド・ストーリー』など)の中でも、この『シラノ』がダントツで私は好きですね。

“ピーター・ディンクレイジ”の魅力がこんなにぎゅうぎゅうに詰まっているのですから、もう感謝しかない…。もちろん他の俳優陣も魅力的ですが…。

他の共演としては、『ルース・エドガー』『WAVES/ウェイブス』の“ケルヴィン・ハリソン・Jr”、『キャプテン・マーベル』の“ベン・メンデルソーン”などが出演。

なお、『シラノ』はミュージカルということで音楽にも注目なのですが、その音楽を手がけるのは“アーロン・デスナー”&“ブライス・デスナー”というミュージシャンで、ちょっとその現代音楽を意識しつつもクラシカルなかっこよさを強調した楽曲の数々も最高です。私、サントラを即購入しましたよ。

ということで“ピーター・ディンクレイジ”のファンの人は至福の時間を満喫できますし、ミュージカル好きの人も満足できるでしょうし、「シラノ・ド・ベルジュラック」初心者の人にもオススメできる、観やすい一作だと思います。

これからプロポーズしようと考えている人は、“ピーター・ディンクレイジ”の美しい言葉のセンスから学べばいいんじゃないですか(無責任)。

オススメ度のチェック

ひとり 4.5:必見のミュージカル映画
友人 4.0:俳優ファン同士で
恋人 4.0:切ないロマンスだけど
キッズ 3.5:ミュージカル好きなら
↓ここからネタバレが含まれます↓

『シラノ』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):Dear Roxanne

上流階級として優雅な暮らしを送るロクサーヌは、忙しく部屋をかきまわり、身支度の真っ最中です。今日はこれから演劇があるのでした。召使にはそろそろ良家と結婚を…と縁談の話もあがりますが、本人は興味ありません。

劇場に着くとロクサーヌは特等席に座り、群衆でいっぱいの会場を見渡します。するとひとりの青年と目が合い、ひとめ惚れしてしまいました。彼の名前はクリスチャン。最近やってきた新兵のようです。

そうこうしているうちに上演を求める大合唱は鳴り響き、いよいよ開演。観衆は大熱狂。

するとどこからともなく不遜な声があがります。その正体はみんな知っていました。「シラノ?」

群衆の後ろから降りてきたのは小柄な男。名前はシラノ・ド・ベルジュラック。腕のたつ剣士であり、界隈では有名です。シラノは得意げにステージの役者をバカにし、平然とステージにあがってきます。観衆はシラノの言葉に大ウケ。上流階級の人はシラノの容姿に恐れおののいて過剰に飛びあがります。ロクサーヌは除いて…。実はシラノにとってロクサーヌは従姉妹。シラノのことを「兄」として慕っています。

シラノは堂々と剣を抜くと役者は後ろに飛びのいて消えてしまいました。ロクサーヌも観客と一緒に拍手。こうして芝居は台無しに。

そこにひとりの貴族の男がやってきて、「お前は醜い、怪物め」と罵ってきます。こうして2人はこの場で決闘をすることになります。

ステージで対峙。貴族はシラノの顔を叩き、剣を抜き、互いに剣技で勝負です。シラノは戦いながら詩を口ずさみ、相手を華麗に翻弄。相手のカツラを吹っ飛ばし、完全に相手を圧倒しました。勝ったと思い、観客の歓声に答えたとき、相手は後ろを向いた瞬間に襲ってきました。シラノは振り向きざまに剣を突き立てます。剣は相手を貫通。ゆっくり支えながら息絶えた相手を床に寝かせるシラノ。

そんな剣術も文才もあるシラノでしたが、実はロクサーヌへの愛の気持ちを抱えており、それを言えずにいました。自分にどうしても自信がない…。

ロクサーヌへの手紙を書こうとするも筆は進めどそれを渡す勇気が湧きません。そうしているとふとロクサーヌがそばに立っているのに気づき、びっくり。そしてロクサーヌから恋の相手がクリスチャンであることを知らされます。すっかりメロメロで夢心地です。自分ではないことに失望するも、どうしようもありません。

シラノの部隊の新兵だったクリスチャン。彼と出会い、ロクサーヌはクリスチャンを愛していると告げると、クリスチャンは大喜び。でも口下手だし、文才もないので、どうすれば…。

そこでシラノは思いつきました。「私が言葉を考えよう」

「なぜ助けてくれるのか?」とクリスチャンは聞きますが、シラノにとってロクサーヌが笑顔になるならそれで良いのでした。

こうしてシラノが書いた手紙をクリスチャンは自分のものとしてロクサーヌに送り、何も知らないロクサーヌはそれを受け取り、舞い上がります。

こうして文通は続くのですが…。

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自己嫌悪と向き合う物語

もともとの“エドモン・ロスタン”の戯曲「シラノ・ド・ベルジュラック」では、シラノは大きな鼻ゆえに醜いとされる男でした。これまでの舞台化や映画化でもたいていはシラノを演じる役者は大きい付け鼻を装着したり、メイクによって、醜いという物語の根幹となるキャラクター設定を表現していました。

しかし、今回の『シラノ』は違います。本作ではシラノは鼻がひときわ大きいわけではありません。言わずもがなですが、今回のシラノを演じるのは“ピーター・ディンクレイジ”。彼は「LP」…いわゆる「小人症」なので、その全身像そのものが今作の“醜さ”として扱われています。

これはストーリーテリングのリアリティとして全く別次元の意味合いがあります。脚本家にして妻でもある“エリカ・シュミット”もインタビューで語っていましたが、従来の付け鼻の役者は演技が終わればそれをとればいいだけです。でも“ピーター・ディンクレイジ”のシラノはそうではない。これは俳優と一体の設定です。そこに生々しさがあります。それこそ作中で「フリーク(freak)」と呼ばれてしまうことへの痛烈さも際立ちます。

そして本作は一種の自己嫌悪とどう向き合うかを描く物語でもあるわけですが、“ピーター・ディンクレイジ”はLPの俳優としてその自己嫌悪を跳ね除けている、いわばロールモデルのような存在です。だから彼が演じるシラノにはとても説得力があり、その葛藤に心うたれます。

作中ではそのエンディングを見ればわかるように悲劇的な最期を遂げるのですが、でも“ピーター・ディンクレイジ”という悲劇の道を辿っていない人間がこの世に実在している(ちゃんと愛するパートナーもいるし)。このキャスティングのパワーは他には代えがたいものがありますね。

『シラノ』は何らかのマイノリティ性を有するうえの自己嫌悪、もしくはマイノリティじゃなくても抱えてしまうような劣等感と向き合わせるストーリーとして、現代にも通じる鋭い一作だったと思います。

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アイ・ラブ・シラノ

そんな真面目に感想も書いてみましたけど、私はずっと“ピーター・ディンクレイジ”に見惚れていたのでね…。なんかもう、シラノ&クリスチャン&ロクサーヌの三角関係のさらに外から実はシラノを好意で見つめていた登場人物になった気分。私も“ピーター・ディンクレイジ”に歌を歌ってもらいたい…。

今作『シラノ』は本当に“ピーター・ディンクレイジ”主演映画としては最高傑作で、彼の魅力を最大限に引き出す方法を熟知した“エリカ・シュミット”のおかげで、全編に渡って“ピーター・ディンクレイジ”のかっこよさが充満しています。

初登場時の詩を口にしながらの剣技の決闘からすでに私も大興奮。今作はアクションも本当に見せ方といい、カッコいいシーンの連続です。夜に強襲を受ける場面での立ち回りもクールで、なんかこの“ピーター・ディンクレイジ”のアクション映画のシリーズを作ってほしい…

“ジョー・ライト”監督の光と影を上手く使った演出も良くて、『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』でもそうでしたけど、今回も演出がバシっと決まっていました。

そんな文武両道で全部最高じゃないかと思ってしまうシラノに対して、クリスチャンのあの恋に恋しているけど全然スキルはともなっていない感じの愛らしさも良かったです。“ケルヴィン・ハリソン・Jr”ってこういう初心な役、上手いんだなぁ…。「I love you」しか言えない姿とか、キスありきで先走る情けなさとか、愛嬌としてはいいんだけど…。絶対にあのままロクサーヌと結婚できても長続きしそうにない…。

一方のロクサーヌは、今作ではより主体性が強めに描かれており、こちらは単なる恋に恋する乙女ではない、しっかり文才という芸術的側面に惹かれ、それを人の魅力として評価したいという姿勢が現れているキャラクターになっていました。

三十年戦争の最中である1640年のアラス包囲戦にてクリスチャンはシラノのロクサーヌへの愛を知って自ら前線に飛び出して死亡。それ以降、久しぶりにロクサーヌがシラノに再会するというラストの一幕。あの手紙を書いたのはシラノだという真実を知り、2人寝そべるあの最後の時間。

あの閉幕には、愛は実らなくても芸術は評価されるという確かな事実があって、悲劇だけど希望もある…そんな後味だったと思います。

ちなみにシラノは実在の人物をモデルにしており、その実在のシラノ・ド・ベルジュラックは梅毒で亡くなったのですが、「月世界旅行記」という今でいうSFに近い作品を執筆しており(没後に公に出版された)、現在のSFの元祖となっています。つまり、私たちが日々鑑賞しているSF映画に繋がる初期のクリエイターというわけで、余計に親近感が湧きますね。

『シラノ』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 86% Audience 86%
IMDb
6.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
8.0
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関連作品紹介

ピーター・ディンクレイジ出演の映画の感想記事です。

・『パーフェクト・ケア』

・『孤独なふりした世界で』

作品ポスター・画像 (C)2021 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All Rights Reserved.

以上、『シラノ』の感想でした。

Cyrano (2021) [Japanese Review] 『シラノ』考察・評価レビュー