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『ダンスウィズミー』感想(ネタバレ)…観れば歌い踊りたくなる!?

ダンスウィズミー

観れば歌い踊りたくなる!?…映画『ダンスウィズミー』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

英題:Dance with Me
製作国:日本(2019年)
日本公開日:2019年8月16日
監督:矢口史靖

ダンスウィズミー

だんすうぃずみー
ダンスウィズミー

『ダンスウィズミー』あらすじ

一流商社で働くOLで、幼いころの苦い思い出からミュージカルを毛嫌いする鈴木静香は、ある日、姪っ子と訪れた遊園地で怪しげな催眠術師のショーを見学し、そこで「曲が流れると歌って踊らずにいられない」という催眠術にかかってしまう。その日から、静香はあらゆる音楽に反応するようになり、仕事にも日常にも支障をきたす。術を解いてもらおうと催眠術師の行方を捜すが…。

『ダンスウィズミー』感想(ネタバレなし)

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ミュージカル映画への日本式風刺

いろいろなジャンルの映画がありますが、一見すると普通そうに見えて実はクセが強いのは「ミュージカル映画」です。昨今も『ラ・ラ・ランド』や『グレイテスト・ショーマン』、ディズニー作品などミュージカル要素に重きを置いた映画はとめどなく公開されており、日本でも大ヒットしているものも珍しくないです。ミュージカルはジャンルというか、映画のひとつの演出でもありますからね。インド映画なんてデフォルトでミュージカル要素が平然と存在していますし…。

一方で、じゃあ、ミュージカルはみんな大好き…なのかと思ったらそうでもない人も。結構、映画好きを自称する人の中にも「ミュージカルはちょっと…」という人が案外といます。

もちろんどんなジャンルでもそれを苦手とする人はいるものです。わかりやすい例で言えば、ホラーであれば恐怖演出が嫌だとか、残酷描写は不快だとか、胸糞悪い展開が受け入れられないとか…。理由もしっかりしています。この場合はそういう側面が薄いか皆無なホラーを薦めることもできます。

でもミュージカルはなぜなのか。“ミュージック”は良いのに“ミュージカル”はダメになる理由は? 多くの苦手意識を持つ人が挙げるそのワケは、急に歌いだしたり、踊りだしたりするのが、どうしても納得できないというもの。確かにそこは完全にリアルを度外視したフィクショナルな演出です。理屈はないです。そしてミュージカルの根本的な部分でもあります。だからミュージカル映画が苦手な人に推薦できるミュージカル映画は普通に考えても存在しないんですよね。つまり、かなり明確な忌避の壁があるものです。

私は全然ミュージカル映画もOKな人間なので、NOな人の気持ちを察するしかありませんが、その壁は別に個人の自由なので在ってもなんら構わないと思います。それでもどこまでのミュージカル要素に嫌悪感がでるのだろう?と好奇心はくすぐられるのですが…。

本作『ダンスウィズミー』みたいな変化球な作品だったらどう思うのかな…とか。

『ダンスウィズミー』はミュージカル嫌いな女性が「音楽を耳にすると急に歌いだしたり踊りだしたりする体質になる」という、まさに特定の人にとっては地獄のようなシチュエーションに陥る物語。まあ、別にミュージカル嫌いでなくともかなり困りますけど…。

映画と全然関係ないですけど、幼児期のある一定時期に子どもは「音楽を耳にすると急に歌いだしたり踊りだしたりする体質になる」こと、ありますよね? 親もそんなダンシングマシーンと化した我が子が可愛くて好き勝手に音楽を聞かせて遊んでいるものですが、ある時期になると急に「は? そんな音楽程度でノったりしませんけど?」みたいな冷めた態度に、子どもはなりません? あれ、なんなんだろう…。脳の発育が関係しているのかな…。

『ダンスウィズミー』に話を戻します。

本作の監督は、お爺さんをロボットの中の人にする『ロボジー』(2012年)や、電気が消失した日本社会で暮らす家族を描く『サバイバルファミリー』(2017年)など毎度ユニークネタでオリジナルストーリーを生み出すことに定評のある“矢口史靖”。『ウォーターボーイズ』『スウィングガールズ』『ハッピーフライト』の“矢口史靖”…と紹介されるのが宣伝では定番化していますけど、私は“矢口史靖”監督作品の中では『WOOD JOB! 〜神去なあなあ日常〜』が群を抜いてベストだと思っているので、そっちもピックアップしてほしい…。

『ダンスウィズミー』も“矢口史靖”節が炸裂しており、コミカル度合いはまたもアップしました。

主演を演じているのは元アイドルの“三吉彩花”。ダンスを得意とし、高身長で映像映えするスタイルを持つ“三吉彩花”を最大限に活かした作品でもあると言え、まさに彼女を華にするための映画です。これを超えるフィットを見せる主演作はそうそう来ないんじゃないかと思うくらい。相変わらずぴったりなキャスティングをするのが上手いですね、“矢口史靖”監督。

基本は“三吉彩花”を輝かせるための作品でありながら、その脇に立つ俳優陣は雑草ではない、主役を食うくらいの存在感を放っているのも注目ポイント。とくに誰もが言及するであろう、お笑いタレント“やしろ優”は本当に上手いです。詳細は後半感想に書くとして、とにかく絶対にこれからも役者としてキャリアを伸ばすべき才能があります。

他にも、なんか無味乾燥な憧れ男性像だけをまとっている“三浦貴大”や、面白演技をしていないと割と普通に見える“ムロツヨシ”など、本作特有の役者陣のちょっとズレた配置も面白いです。

『ダンスウィズミー』を鑑賞するとミュージカル好きになれます!とは断言できませんが、ミュージカル映画をこんな風におちょくることもできるという皮肉さは、ちょっと心が躍るのではないでしょうか。

「踊る阿呆に見る阿呆同じ阿呆なら踊りゃなそんそん」ってどこかの誰かも言ってたし…。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(元気がないときに)
友人 ◯(気分の盛り上げに)
恋人 ◯(人生のリズムを合わせて)
キッズ ◯(子どもでも見られる)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ダンスウィズミー』感想(ネタバレあり)

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催眠術に人生を踊らされて…

1991年にリリースされた山下久美子の曲「Tonight 星の降る夜に」でいきなり始まるオープニング。どうやらそれをテレビ番組。催眠術ができると豪語する「マーチン上田」という男が、檀上にいる他の芸能人らしき人たちに「あなたは指揮者です」と催眠を次々かけ、みんな狂ったように指揮をし始め…。そんな珍妙な光景を映すテレビ画面がフェードアウトしていきます。

ところかわって場所はごくごく普通の企業のオフィス。そこで働く鈴木静香はこれまたごくごく普通のOL。一流企業に就職できたものの、どことなくやりがいを見いだせていない鈴木静香は、今日も村上涼介という同じ職場のモテ・エリートサラリーマンの話題で盛り上がるOL仲間を尻目にボーっとしていました。

相変わらず漂うに女子仲間と会社から出ようとしていたとき、何かの遊園地らしきチケットがハイヒールにくっついて離れなくなりモタモタ。「フォーチュンランド」とかいう場所のようです。そうこうしているうちに部長に話しかけられてしまい、急ぎで資料を作ってほしいと言われる始末。最悪な気分になっていると、偶然隣にいた村上からもお願いされ、流れのまま連絡先を交換できてしまいました。これはラッキー。

一人暮らしをする家に帰ると、今度は親からのうるさい電話にうんざり。しかも実家で同居している姉から娘の奈々を預かってほしいと言われ、拒否する暇もなし。

翌日、奈々を家に起きながらも部屋で大量の資料作成に追われて忙殺。暇そうにしている奈々を見かねてフォーチュンランドのチケットを思いだし、行ってみることに。行きのバスの車内で、鈴木静香と同じ学校に通う奈々は学芸会でミュージカルをやることになっていると知り、不安を抱えていることを知ります。それがきっかけで思わずミュージカルを嫌う自分の本音をぶつまけてしまう鈴木静香。

フォーチュンランドに到着すると、そこはちんけな遊園地で値段だけがバカ高いだけでした。さっそくテンションだだ下がりの中、思わず入ったのは催眠術師のいる建物。室内で待っているとマーチン上田という男は今まさに催眠をかけているところでした。「たまねぎが甘い!」と生のたまねぎをムシャムシャ食べられるようになった女性にややドン引きの鈴木静香。

自分たちの番になり、催眠の説明を受けます。奈々は「自己変革」の催眠を選択し、「ミュージカルが上手くなりたい」と素直にお願い。マーチン上田は無垢な少女に「あなたは明日からミュージカルスターになった気分です」「音楽が聞こえると歌わず踊らずにはいられない」と意味ありげに言葉をかけます。それを横でたいした集中もなく効いていた鈴木静香。終わり間際に村上から電話がかかってきて、「会議を一緒に出席してもらえないかな」と言われ、有頂天。

翌日。全然ダメだと怒る奈々ですが、鈴木静香はバカ高いだけで指から外れない指輪を例のマーチン上田から買わされたことも気に留めず、出社。

ポータブルプレイヤーのイヤホンから流れる音楽に体は弾み、いつも以上にアクティブにノリノリになっていき…。ふと気が付くとバスの前。何かがオカシイ。そんな違和感を抱きつつ、指輪も一向に外れないことにも混乱しつつ、大事な会議へ。

しかし、隣にいた村上が使用する音楽をパソコンから流し始めた瞬間。鈴木静香は歌い踊りだし、オフィスは一変。これはまさしくミュージカル。鈴木静香は例の催眠術に思いっきりかかってしまっていたのでした。

診療所に相談すると「かけた本人に解いてもらわないと」と言われてしまい、例の遊園地に向かうももぬけの殻でマーチン上田はおらず、あの時に玉ねぎを食べていた女性だけ。どうやらそれすらもヤラセだったらしく…。

鈴木静香はこのまま催眠術師に人生を文字どおり踊らされてしまうのか…。

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負のオーラが良い味を出す女二人

『ダンスウィズミー』の最大の着眼点にしてオリジナリティと言えば、「ミュージカル嫌いな女性が音楽を耳にすると急に歌いだしたり踊りだしたりする体質になる」…という、ミュージカルをあえてネタにするというシニカルな視点です。

“矢口史靖”監督自身も突然歌い出すミュージカルに抵抗感があったそうで、そこからの着想だったみたいですが、非常に監督らしいですよね。しかも、その強制ミュージカルがいかにも嘘くさい催眠術師のせい…というしょうもなさの毒っ気もまたいい意味でくだらなく。なんか三谷幸喜っぽさがある…。

そして俳優陣、とくにメインとなる女性二人、“三吉彩花”と“やしろ優”が輝いている、輝いている。

“三吉彩花”のミュージカル映えする見た目とは裏腹の、隠しきれていない負のオーラがなんともたまらないです。これで快活な正のオーラを放つ女優を選んでいたら、単に歌って踊ってハッピー!な感じで何もギャップがないですからね。

対する斎藤千絵を演じる“やしろ優”の、なんというか“陽”の属性を持っているはずなのに“陰”になってしまっている理不尽さを体現する上手さ。ゴミ収集車に全力疾走して飛び乗るシーンとか、あんなにさまになる俳優、いないですよ。極めつけはあの後半の失態をした後の、孤独の中で地面にインスタント麺をぶつまけてしまい、それをあげくに箸でつまんで食べようとする惨めな感じ。私の中では助演女優賞ノミネートですよ。

この欠落がデカイ女二人が組み合わさった時のコンビ感も素晴らしいです。この二人を揃えただけで本作のキャスティングは大成功でしょう。

二人を魅力的に輝かせる衣装の仕事も素晴らしかったですね。

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不自然さを指摘したら不自然になった

とまあ、こんな感じで「アイディア100点、俳優100点」といずれも満点を叩き出してはいるのですが、私の個人の感想としては『ダンスウィズミー』にノれない大きな部分もチラホラあって…。

まず結構いろんな人も「あれ?」と思ったと思うのですが、本作の要となる「音楽を耳にすると急に歌いだしたり踊りだしたりする体質になる」という設定の中途半端さです。

当然、催眠術をかけられたのは鈴木静香だけ。実際に最初のミュージカルシーンでは鈴木静香のみが踊っています(掃除の人は近くでも無影響)。しかし、以降のオフィスやレストランなどのシーンでは明らかに周囲の人間もノリノリでミュージカルしているんですね。私はこのシーンを予告で見た時は、てっきり周りに催眠効果が伝染していくという仕掛けでもあるのかなと思っていたのですが、そうではないらしく。かといって全部鈴木静香の幻覚なのかなと思うのですが、明らかに彼女ひとりでどうこうできるレベルを超えたパフォーマンスをしています。

その一方でミュージカルが終了したら周囲はやたら冷めた目線を送り、レストランにいたっては多額の賠償を要求されるし、しかも動画の記録まで残っているわけで。どういうこと?という気持ちが残ります。

また「音楽を耳にすると」という設定部分も違和感が…。最初は明らかに音楽をトリガーにしていましたけど、公園での村上とのシーンなどは最初のイントロ部分の音楽を聴くだけで、あとのミュージカル中は絶対に音楽が聞こえてこない静かな公園でも効果が出ています

そもそも音楽を聴かなければいいなら耳栓すればいいのに(ノイズキャンセリングのイヤホンもあるし)という根本的なツッコミも。

さらに後半のロードムービー的展開になると、歌いながらドライブしたり、ラップバトルしたり、ストリートミュージシャンと路上で歌ったり、結婚式乱入したり、もう全然ミュージカル関係ないです。「音楽を耳にすると急に歌いだしたり踊りだしたりする」という日常ブレイクをしてしまうサスペンスがゼロになります。

要するにミュージカル映画の不自然さを指摘して風刺したはずの『ダンスウィズミー』でしたが、逆に本作自身の不自然さの方が上回ってしまった感じです。これでは既存のミュージカル映画に一杯食わせたどころか、大敗じゃないでしょうか。

ミュージカルではないですが類似した仕掛けを持つ映画として、『ロマンティックじゃない?』があります。こちらは恋愛映画嫌いの女性がひょんなことから自分の世界が恋愛映画風になってしまうという風刺コメディでした。こんな感じで『ダンスウィズミー』もミュージカル映画風になって主人公だけが違和感を持つ立ち位置にすればよかったのに…。少なくとも冷たい目線を送る客観的ポジションは、作中のモブではなく観客に任せていいのになと思います。

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個人的な理想のエンディングは…

他にも『ダンスウィズミー』の個人的残念ポイントは、主人公である鈴木静香の成長要素。

良い会社に勤めたはずなのに働きがいを見いだせない彼女が、自分の意思で進みたい道を選ぶ…普通に真っ当な物語なのですが、妙に綺麗すぎる感じも。

それはあの鈴木静香の勤める会社のリアルの無さも起因しているのかなと。いくらああいう会社で働いていたとしても女性社員が揃ってあんなに男を追うことしか考えていないというのは変ですし、本来であればもっとこの競争の激しい会社内で生き残るために必死になるでしょう(ましてや年功序列以外にジェンダーの壁があるのだし)。

村上涼介だって最終的には主人公は隣り合う道を選びませんが、典型的な女性を“使う”男性労働者なわけですから、もっと反撃を受けた方が意味があります。

鈴木静香が独立した選択をとるのは良いことに思えますが、見方を変えれば単に組織から追い出されただけにも捉えることもできます。

また、ミュージカル嫌いと言いつつ、そもそも鈴木静香は子ども時代の学芸会で観衆の前で吐いてしまったことがトラウマになっています。これは大半のミュージカル嫌いと全然違う“嫌いの理由”です。つまり、突然歌い出すのが嫌だというミュージカル嫌いの人が抱く、そして本当に映画が向き合うべき理由からズレた理由に論点を変えてしまっています。なので妙にお茶を濁された感じがあります。

楽曲チョイスの古さと、会社で働く女性描写から、どうしてもこの『ダンスウィズミー』はオッサン臭が漂うんですよね…。

個人的な理想になりますが、こうなったらいいのにというエンディングはこうです。

鈴木静香は村上の企画を自ら「面白くない」と否定し、自身の企画を出す。それはミュージカルの要素を取り入れた宣伝スタイルで、斎藤千絵のような地道に頑張る女性を主役に据えたもの。旅先で出会った地方の人たちにも参加してもらう。その企画はとおり、鈴木静香は村上を部下にしてチームで働きだす。指から取れた指輪は新入社員の女性に渡す。仕事に行き詰まったら有休をガンガン使って、音楽でも聴きながら旅に行きなさいと先輩風に教えて…。

こんなラストだったらオール満点だった…。

『ダンスウィズミー』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
?.? / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★

作品ポスター・画像 (C)2019「ダンスウィズミー」製作委員会

以上、『ダンスウィズミー』の感想でした。

Dance with Me (2019) [Japanese Review] 『ダンスウィズミー』考察・評価レビュー