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『ジーサンズ はじめての強盗』感想(ネタバレ)…お年寄りは大切にしましょう

ジーサンズ はじめての強盗

お年寄りは大切にしましょう…映画『ジーサンズ はじめての強盗』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Going in Style
製作国:アメリカ(2017年)
日本公開日:2017年6月24日
監督:ザック・ブラフ
ジーサンズ はじめての強盗

じーさんず はじめてのごうとう
ジーサンズ はじめての強盗

『ジーサンズ はじめての強盗』物語 簡単紹介

ウィリー、ジョー、アルの3人は平穏な老後生活を送っていたが、40年以上勤めていた会社の合併による突然の年金打ち切りで会社から見放され、期待していた銀行からも冷たくあしらわれてしまう。こんな扱いはあまりにも理不尽だった。自分たちをバカにしているとしか思えない。そこで彼らは、今までの生活を取り戻し、家族と普通に幸せに暮らすため、まさかの銀行強盗という命がけの大勝負を決意する。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『ジーサンズ はじめての強盗』の感想です。

『ジーサンズ はじめての強盗』感想(ネタバレなし)

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後期高齢者強盗計画

将来、年金をもらえるかどうか心配だ…。そんなあなたにぴったり?な映画、それが本作『ジーサンズ はじめての強盗』です。

年金をもらえなくなった老人3人の男が銀行強盗を企てます。絶対にマネしないでね!

そんな爺さん3人組を演じるのは、“モーガン・フリーマン”“マイケル・ケイン”“アラン・アーキン”という“超”がつきまくるほどの実力派俳優。それぞれ、80歳、84歳、83歳ですが、全員オスカー俳優です。

“モーガン・フリーマン”といえば『インビクタス 負けざる者たち』が個人的には印象に強いですが、『ミリオンダラー・ベイビー』でのアカデミー助演男優賞が最大の評価でした。『ハンナとその姉妹』『サイダーハウス・ルール』の2作でアカデミー助演男優賞を受賞している“マイケル・ケイン”は、最近だと『キングスマン』が有名でしょうか。“アラン・アーキン”は『リトル・ミス・サンシャイン』でアカデミー助演男優賞に輝きました。

もうこれだけの酸いも甘いも噛み分けた人生の達人なら、銀行強盗くらい楽勝な気がする…。

共演は、『死霊館』『インデペンデンス・デイ: リサージェンス』の“ジョーイ・キング”、『ドラッグストア・カウボーイ』の“マット・ディロン”、『バイ・バイ・バーディー』『愛の狩人』の“アン=マーグレット”、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』でおなじみの“クリストファー・ロイド”、『最高の人生のはじめ方』の“キーナン・トンプソン”など。

監督は『WISH I WAS HERE 僕らのいる場所』の“ザック・ブラフ”であり、脚本は『ヴィンセントが教えてくれたこと』『ドリーム(Hidden Figures)』の“セオドア・メルフィ”です。

本作が面白いのは高齢者が主人公ながら悲しい展開が全然ないこと。最近だと『LOGAN ローガン』が老いをテーマにした切ない作品でしたが、この手の主人公だと死別みたいな展開はよくありがち。ところが本作は悲しい要素一切なしのシルバー世代全応援型映画となっています。

気楽に観られるコメディですので、ぜひどうぞ。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『ジーサンズ はじめての強盗』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):年寄りを敬うのは社会の義務

ウィリアムズバーグ銀行にスーツ姿のひとりの老人がやってきます。「担当者が空きしだい順にお呼びします」と受付の男性は対応してくれますが、その老人は呼び出すブザーがよくわかっていない様子。光って振動するものだと説明を受け、椅子に深々と座った瞬間に、ブザーが鳴ります。

ジョー・ハーディングは差し押さえ通知を見せ、返済額が増えた理由を聞きます。相手はお年寄り相手ということで大声でゆっくり説明しますが、ジョーは落ち着きながら「融資したのはあんただろう?」と告げます。「金利が上がることはまずない」と当初は説得しただろうと追求しますが、銀行員のチャックは淡々としています。

そこに覆面で武装した銀行強盗がやってきて、騒然とします。その強盗犯の首に入れ墨があるのを目撃するジョー。強盗犯はカネを奪って立ち去ってしまいました。

ジョーは警察でタトゥーについて証言しますが、警察は年寄り相手ということで真面目に聞いてくれません。アーレン・ヘイマー捜査官はマスコミの前で淡々と捜査状況を説明します。

ジョーはそんな体験談を同じ高齢者仲間のウィリー・デイビスアルバート・ガーナーに話します。3人の強盗が160万ドルを奪って逃走という大事件は手がかりなしと新聞で報道されていました。このまま自分たちはこんな年寄りの溜まり場で、年金をもらいながら朽ちていくのか…。

一方、働いていた鉄鋼工場はベトナムに移転することになり、作業員は突然の解雇に非難轟々となります。結果、年金は消滅するというのです。これでは30年間の働きは水の泡になってしまう。年金なしでは家賃も払えない。

ダイナーで3人は途方に暮れます。金欠でデザートも食べれません。

ジョーの家に赤い封筒で債務不履行通知が届き、いよいよ後がないことを痛感。銀行は情け容赦もありません。娘のレイチェルと孫娘のブルックリンと暮らしている家をこのままでは失ってしまう…。

ウィリーは腎臓移植が必要だと病院で言われますが、ドナーが要ります。孫たちとビデオ通話しますが、自分の健康なんて伝えられません。

アルバートは演奏の下手な子どもに楽器を教えますが、そのへたくそな演奏よりも自分の人生の方が先が見えません。

3人は共同食堂で食事をとりつつ、他愛もない話をします。ジョーは周囲を見渡し、他の高齢者の姿を目に入れます。みんなかなり老いてしまって自分が何をしているのかもわかっていなさそうです。こうなってしまっては本当に終わりだ…。

「銀行を襲おうかな…」

ジョーの何気ない一言に、ウィリーとアルバートは冗談だと受け取ります。でもジョーは本気でした。家の差し押さえは猶予30日。銀行が庶民の生活や夢を奪っているなら、こちらから奪う。最悪捕まっても3食と寝床つきだし、マシな医療も受けられる。やらないよりはやるほうがいい。

若いからできることなんじゃないかとウィリーは苦言を呈しますが、ジョーの覚悟を理解し、気持ちが揺れます。

普通の暮らし、家族に会いたい、もっとパイも食べたい…そんな願いを叶えようとするくらいいいのでは…。失うものは何も無い。年金分だけ奪おう。

3人は決めました。銀行強盗をしよう。

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私たちは元気です

主演の3人、元気だなぁ…。とりあえず真っ先にそう思います。

強盗までして、今回はセックスネタまでありますから、体力的な意味でも性的な意味でもバリバリ元気な姿を惜しげもなく披露。いかんせんお年寄りですから、こういうクライム系映画によくあるアクション展開には全く発展しないのですけど、そこはベテランの演技力で上手くカバーしてます。

お爺ちゃんっぽい姿を演技で表現しているベテランの彼らですが、どこまで演技でどこまでが素なのかわからなくなりますね。このまま元気な姿をずっと見ていたいです。

個人的には主演の3人もいいのですが、その横でもっと年老いて意味不明な言動をとっている“クリストファー・ロイド”が良かった(こっちはなおさら演技なのか不明なくらいの見てくれだし)。俳優本人としては3人と年齢はそう変わらないのですけどね。

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お年寄りが本当に必要としていること

本作『ジーサンズ はじめての強盗』はお年寄りコメディとして楽しい気分で観られる作品であることは間違いなく、全面的に肯定したいところですが、個人的には言いたいこともあって。

その前に語るべきこととして、そもそも実は本作は『お達者コメディ シルバー・ギャング』という1979年の映画のリメイクなんですね。このオリジナルとリメイクの本作『ジーサンズ はじめての強盗』との決定的な違いは物語の結末。今回のリメイク版では基本はハッピーエンドでしたが、オリジナルではふたりは死に、ひとりは牢獄行きとなるという割ともの悲しい終わり方なのです。

この改変には当然、今の時代性が反映されているのでしょう。監督いわく主人公3人は正義の側として描いたそうです。確かに今のアメリカは銀行に対するヘイトは溜まりに溜まっていますし、銀行強盗してスカッとしたいという気持ちもわかります。でも、それをただただ良きこととして描くのは、映画として踏み込みが足りない気もします。

例えば、本作で描かれる高齢者による強盗はアメリカでは「ありえないこと」のつもりかもしれませんが、私たち日本では「ありえないこと」扱いで簡単にネタにできるものじゃないです。日本では銀行強盗はないにせよ、高齢者の犯罪・窃盗・万引きが増加しており、社会問題化しているわけですから。その原因の中でも高齢者特有のものに「孤独」があります。

オリジナルの映画では、この「孤独」がテーマになっています。強盗して大金を手に入れてもどんどん周りの仲間が死んでいき、独りになるのは変わらない。それでもオリジナルのストーリーでは、孤独と向き合って、原題の「Going in Style」にあるように“自分らしく堂々と生きよう”とする姿を提示するんですね。1979年に作られたアメリカ映画が今の日本の高齢化社会に突き刺さる内容になっているのも不思議なものです。

本作では原作のこの要素をごっそり削り、楽しいだけのコメディにして良かったのか。また、終盤の女の子が見逃すシーンのように、「高齢者に甘くする=高齢者に優しい社会」みたいな構図になってましたが、ちょっとこれには首をかしげたくなるかな。

私は、高齢者に優しい社会というのは孤独にさせない社会だと思います。本作『ジーサンズ はじめての強盗』も、現代だからこそ、そのテーマに再度向き合う価値はあったのじゃないでしょうか。『最後の追跡』のような特定の世代への批評的視点があっても良かったでしょう。

きっとアメリカももっと高齢化が進んだら「高齢者の孤独」をリアルに感じるようになるのだろうな…。

『ジーサンズ はじめての強盗』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 48% Audience 57%
IMDb
6.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 4/10 ★★★★
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関連作品紹介

高齢者が主役になっている映画の感想記事です。

・『クライ・マッチョ』

・『ファーザー』

・『グッドライアー 偽りのゲーム』

作品ポスター・画像 (C)2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

以上、『ジーサンズ はじめての強盗』の感想でした。

Going in Style (2017) [Japanese Review] 『ジーサンズ はじめての強盗』考察・評価レビュー