だいたい物件が悪い…Netflix映画『デリヴァランス -悪霊の家-』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2024年)
日本では劇場未公開:2024年にNetflixで配信
監督:リー・ダニエルズ
児童虐待描写
でりばらんす あくりょうのいえ
『デリヴァランス 悪霊の家』物語 簡単紹介
『デリヴァランス 悪霊の家』感想(ネタバレなし)
アンドラ・デイ、次はホラー俳優?
アフリカ系(黒人)の人たちへの警察公権力による暴力に抗議する「ブラック・ライヴズ・マター(Black Lives Matter)」の運動。この2013年から現在に至るまで続く人種差別に声をあげる活動にて、その象徴となった曲がありました。
それが「Rise Up」という2015年にリリースされた楽曲です。
このパワフルなエネルギーを歌い上げた「Rise Up」は、アメリカのシンガーソングライターである「アンドラ・デイ」によるものでした。
”アンドラ・デイ”は1984年生まれの黒人女性で、幼い頃から教会で歌っていたそうです。“スティーヴィー・ワンダー”の紹介でレコード会社と繋がりができ、2013年あたりからプロの音楽を本格化。その見事な歌唱力でたちまち頭角を現し、大舞台の仕事が連発します。
とくにあの「Rise Up」は”アンドラ・デイ”の代表曲となり、ちょうど彼女のキャリアがブラック・ライヴズ・マターの沸き上がりと重なったため、本人のアーティスト・イメージが構築されていきました。
2024年もスーパーボウルで黒人国歌と謳われる歴史ある名曲「Lift Every Voice and Sing」を熱唱し(こちらもブラック・ライヴズ・マターの定番曲)、”アンドラ・デイ”ならではの存在感でした。
その”アンドラ・デイ”は俳優活動も始め、2021年に本格的な出演を果たしたのが『ザ・ユナイテッド・ステイツvsビリー・ホリデイ』。こちらは1940年代に人種差別迫害を受けたことで知られる黒人女性ジャズシンガーであった「ビリー・ホリデイ」の半生を描いたもので、”アンドラ・デイ”が堂々の主演。”アンドラ・デイ”だからこそ「この人しかいない!」とぴったりハマって演じられる映画でした。
映画初主演でアカデミー賞の主演女優賞にノミネートも納得の運命的な一作だった…。
その『ザ・ユナイテッド・ステイツvsビリー・ホリデイ』を監督した“リー・ダニエルズ”とまたもタッグを組んで俳優の姿を見せてくれました。
それが本作『デリヴァランス 悪霊の家』です。
ただ、今回は全然歌いませんし、雰囲気がまるで違います。なにせホラー映画です。”アンドラ・デイ”の次の作品がこのジャンルになるとは思わなかった…。
『デリヴァランス 悪霊の家』の主人公はひとりのシングルマザー。ある家に子どもたちと一緒に引っ越してくるのですが、それはヤバイ家だった…!? そんな超ベタな導入で始まっていきます。邦題の副題で書いちゃってるし、これ以上言うこともない…。
でも“リー・ダニエルズ”監督作ということで、あまりジャンル的なエンターテインメントには走らずに、家族を主軸にした社会問題を背景にフォーマルなヒューマンドラマとしてほとんど専念している感じです。
結果、”アンドラ・デイ”の俳優の演技力を別方向でもっと堪能できるのでいいんですけど…。
”アンドラ・デイ”と共演して横に並ぶのは、『フォー・グッド・デイズ』や『天才作家の妻 40年目の真実』の“グレン・クローズ”。意外な大物が鎮座してきましたね。今作でもなかなか癖のあるキャラクターを演じていて、“グレン・クローズ”の名演が平常運転で眺められます。
また、『ドリームプラン』で高く評価された“アーンジャニュー・エリス”も重要なキャラクターを演じていますし、“リー・ダニエルズ”監督の『プレシャス』で素晴らしい演技を披露して注目を集めた“モニーク”も出演。こうやって整理すると、結構アカデミー賞のステージに立ったことのある俳優が揃ってますね。
他には、ドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』でおなじみの“ケイレブ・マクラフリン”、『ドリームプラン』の”デミ・シングルトン”など。
『デリヴァランス 悪霊の家』は「Netflix」で独占配信中。ぜひ安全な家で鑑賞してください。どんな理由にせよ危険な家ならそっちの対処を優先してね…。
『デリヴァランス 悪霊の家』を観る前のQ&A
A:Netflixでオリジナル映画として2024年8月30日から配信中です。
オススメ度のチェック
ひとり | :ジャンルに興味あれば |
友人 | :興味ある者同士で |
恋人 | :恋愛要素は無し |
キッズ | :児童への暴力描写あり |
『デリヴァランス 悪霊の家』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(前半)
2011年、ペンシルベニア州のピッツバーグ。少年のアンドレが下で作業する母のエボニー・ジャクソンを呼びます。アンドレは部屋の壁一面に自由に絵を描いていました。
シングルマザーで引っ越してきたばかりアンドレ。アンドレは末の息子で、他に長男のネイト、娘のシャンテがいます。黒人一家ではありましたが、エボニーの母アルバータは白人で、熱心に教会に通っていました。
アルバータは、娘であるエボニーに目を配るために一時的に家族と同居しています。実はエボニーは夫と別居となったばかりなのですが、アルコール依存症の過去があり、子どもに対しても虐待的な態度をとってしまったこともありました。一方でアルバータは化学療法を受けており、そこまで気楽でもいられません。
揃って夕食をとります。アルバータは料理の味に軽口で不満を言い、エボニーは露骨に不満そうになります。そのとき、軽率な言動をしたアンドレにエボニーはカっとなってつい手がでてしまいます。雰囲気は険悪です。
子どもたち3人が部屋に戻った夜、エボニーは地下室の扉から来るらしいハエが気になります。この家はまだ慣れていないのでよくわかりませんが、これからの家計の心配もあり、家の整頓などに集中はできません。
夜中、ふらっと起きてきたアンドレは冷蔵庫を開けて牛乳を直に飲み干すという奇行をとりますが、それは誰も知りません。
翌朝、子どもたちは登校し、家に残るエボニーは作業をしているとクローゼットでアルコールを見つけます。子どもに気を遣われていることに苛立ち、さらに自分の子どもを揶揄った街の子に文句を言いに行き、一発食らわします。もう感情が頭を支配すると止まりません。
アンドレは庭でボロボロの小さなブランコに座り、何やらブツブツと呟いているだけでした。最近は妙な行動が多いですが、あまり深刻に考えていられないエボニー。
また夜、エボニーは地下室の扉が勝手に開いているのに気づきます。業者に見てもらうと地下室で猫の死骸が発見されました。
ある日、ネイトと喧嘩してしまい、そこでもビンタをかましてしまいますが、ネイトもこちらを突き飛ばし、エボニーは自分を抑えます。
そんなエボニーの家にソーシャルワーカーのシンシアが来ます。家を見て回り、エボニーは「なんとかやっていけている」と虚勢を張るのですが、熟練のシンシアはすでにエボニーがいっぱいいっぱいになっていることを見抜いていました。子どもたちに危険が及んでいないか、その兆候に着目し、慎重に対応しています。
別の日、シャンテの誕生日パーティーが開かれ、家に知り合いら大勢が集います。
その夜、アルバータは帰ってくると、子ども3人が部屋の隅っこで怯えていました。何でもエボニーが暴力を振るったそうで、確かにエボニーの手には鈍器が握られ、壁の絵が壊れていました。パーティーで酒が入ったゆえの行動にしても、さすがにこれは看過できません。
しかし、状況はどんどん悪化していき…。
児童福祉局はそれも担当するのか…
ここから『デリヴァランス 悪霊の家』のネタバレありの感想本文です。
『デリヴァランス 悪霊の家』は作中でも言及されるとおり、実話に基づいています。
基になったのは、2011年にインディアナ州でラトーヤ・アモンズと8歳から12歳までの3人の子どもたち、そしてラトーヤの母親のローザ・キャンベルが経験したとされる出来事(Today)。アモンズ家は2011年11月にインディアナ州ゲーリーの賃貸住宅に引っ越したそうですが、その翌年の4月に児童福祉局によってラトーヤの3人の子どもたちは保護されます。
その後、児童福祉局はにわかに信じられないことを報告書に記述しました。具体的には、「誰にも触れられずに持ち上げられ、壁に投げつけられた」「攻撃的になり、床を歩いているかのように壁をよじ登った」など…。
なので作中で描かれている怪異現象は基本的に「実際にあった(らしい)」ことをそのまま映像化しています。医療施設に保護されたアンドレが壁をペタペタと両手両足で登っていましたが、まあ、『スパイダーマン スパイダーバース』みたいにヒーローにはなれませんよね…。
実話によれば、児童福祉局はラトーヤは適切な住居を見つけるように勧告。一方で、警察と児童福祉局の担当マネージャーでの立ち会いのもと、悪魔祓いも行ったらしいです。
作中では、エボニーが病院から半ば強引にアンドレを連れ出し、独断でバーニス・ジェームズ牧師と共に悪魔祓いを敢行したことになってましたが、これは物語を緊迫させるためのサスペンスのアレンジです。
実話のほうでは、何度か悪魔祓いした後、インディアナ州インディアナポリスに移住して状況は改善。報告書でも「その自宅で悪魔の存在や霊に悩まされることはなかった」と記述されているのだとか。
映画じゃなくて実話の感想ですけども、アメリカでは児童福祉局は心霊現象の対処もしないといけないんですか…。専門外すぎるだろう…。
あと、映画で大きく改変されているのは母であるエボニーのキャラクター性で、作中ではアルコール依存から虐待歴までかなり問題を抱えた人物になっています。短気で荒っぽく、子どもを奪われまいと懸命になりますが、それが状況をややこしくし、ますます信用を失ってしまう…。心霊を他者に信じてもらえずに自分が疑われてしまうのはこのジャンルではお約束ですが…。
実際は基になった人物は「良い母親である」と報告書でも述べられているそうです。
この複雑な袋小路に行き詰っている家庭状況の描写は“リー・ダニエルズ”監督が『プレシャス』などで手をつけているのと同じなので、監督の得意分野で勝負しようということでこの脚本になったのかな。
エクソシスト系のダメな部分
このように『デリヴァランス 悪霊の家』は、『エクソシスト』(1973年)や『悪魔の棲む家』(1979年)のような実話ベース系の家&憑依ホラーでした。
問題はこのジャンルは見慣れすぎてしまっており、いくら「実話です!」を売りにしようともオリジナリティをだすには力不足は否めません。あの本家の続編である『エクソシスト 信じる者』でさえも失敗していましたからね…。
ジャンルがもう限界なわけではないと思うのです。『スリープ』みたいに脚本を練り上げておなじみの素材で最高のものを新たに作りだしてみせた事例もありますし…。
しかも、本作は黒人主体のブラック・ホラーでもありますが、ドラマ『ゼム ザ・スケア』の感想でも書きましたが、現在は群雄割拠なブラックホラーの時代。それらと比べてもインパクトが弱めだったかな、と。
『デリヴァランス 悪霊の家』の意外性で言えば、アルバータを演じた“グレン・クローズ”の存在でしたけども、あまり活かせずに終わったな…。終盤の悪魔祓いでのビジュアル的なショッキングさで持っていく再登場とかではなくて、もっとストーリーに絡めた活かし方が欲しかったです。
ちなみに映画本編から話が逸れるけど、本作のポスター、”アンドラ・デイ”、“グレン・クローズ”、“アーンジャニュー・エリス”、“モニーク”の大人4名が十字架の区切りで枠に掲載されたデザインです。ただ、ポスターの4人の肌の色が同じ感じに調整されているんですよね。白人の“グレン・クローズ”までもですよ。肌の色は光のあてかたなどでいくらでも見た目が変わるとは言え、こうやって露骨に肌の色を変えちゃうのはどうなんだろうか…。
映画に戻ると、ラストの悪魔祓いも、妙に仰々しい演出のわりには観客を置いてけぼりにしすぎているのがマズかったかもしれません。エクソシスト系のダメな部分がもろにでてしまいました。
一応、タイトルの「deliverance」は、宗教的には苦悩からの解放みたいな意味で使われるので、そうやって信仰が人を救うということを表現したいのだろうけども、神様もそんな映画のオチだけ担当してくれと頼まれても困るだろうに…。
ということで、『デリヴァランス 悪霊の家』でイマイチ盛り上がれなかった人は、”アンドラ・デイ”の「Rise Up」のミュージックビデオでも観てください。数倍は感動はできるかもしれません。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
作品ポスター・画像 (C)Netflix
以上、『デリヴァランス 悪霊の家』の感想でした。
The Deliverance (2024) [Japanese Review] 『デリヴァランス 悪霊の家』考察・評価レビュー
#憑依