本当にデカい…映画『でっかくなっちゃった赤い子犬 僕はクリフォード』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2021年)
日本公開日:2022年1月21日
監督:ウォルト・ベッカー
でっかくなっちゃった赤い子犬 僕はクリフォード
でっかくなっちゃったあかいこいぬ ぼくはくりふぉーど
『でっかくなっちゃった赤い子犬 僕はクリフォード』あらすじ
『でっかくなっちゃった赤い子犬 僕はクリフォード』感想(ネタバレなし)
この犬は飼えない!
2020年初めから世界で猛威を振るっている新型コロナウイルスのパンデミックは2022年を迎えてもなおも続行中です。おおむね行動制限は緩和されていますが、心理的な不安から落ち着かない気持ちになっている人も多いと思います。
そんな他者との繋がりが断ち切れてしまうことも頻出するコロナ禍。その孤独を埋め合わせて、心身の健康を保つことに効果的とされているのがペットの存在です。最近の研究によれば、犬を飼育している人は、飼育していない人よりも、鬱などのマイナスの心理的影響を和らげる効果を受けていることが示唆されています。こうした研究結果の後押しがなくても、今はペットを飼う人の数はどんどん増えています。人間とは異なるパートナーが欲しいと思う人は今後も増加するでしょう。
そこで心配になるのが安易なペットの飼育。単に心の寂しさを埋めたいから・可愛いからという理由でペットを入手するだけではいずれ問題が起きます。犬にせよ、飼育するのは大変ですし、責任がともないます。
ペットを飼う前に考えないといけません。自分の今住んでいる家でペットをじゅうぶんに健康的に飼えるだろうか。周囲の理解は得られているだろうか。もし自分に何かあったときにサポートはあるだろうか。金銭的なことだけ考えていればいいわけではありません。人間と異なる生き物と一緒に生きるからこそ、普段とは違う視点で考えないといけないことがいっぱいあります。
ということで今回紹介する映画もペット、とくに犬の飼育について考えることになる作品です。それが本作『でっかくなっちゃった赤い子犬 僕はクリフォード』。
本作はニューヨークで暮らす少女が小さな子犬を飼うことになるところから始まります。子犬は小っちゃくて可愛いですけど、しつけをゼロからしないといけないので手がかかります。大変です。しかも、この子犬、全身が真っ赤なのです。まあ、体色が赤いから面倒が増えることはあまりないかもしれません。目立つので見つけやすくていいかも。ところがそれだけではなかった。なんとこの赤い子犬、一夜にしてゾウよりも巨大なサイズに成長。体はデカくなりましたが、中身は子犬のまま。その巨大さでやんちゃな子犬の行動をとられたら…それはもう想像するのは難しくない。飼育難易度は激増ですよ。たぶんあらゆる犬の中でも最も飼育が困難なワンちゃんですね…。
『でっかくなっちゃった赤い子犬 僕はクリフォード』はそんな赤くてやたらデカい子犬が巻き起こす騒動を描く、アットホームなコメディテイストのファミリー映画です。
原作があって、アメリカの児童文学作家である“ノーマン・ブリッドウェル”が1963年から発表した児童文学作品「おおきいあかい クリフォード」です。アメリカではとても有名な作品で、日本でも邦訳されて刊行されたので知っている人もいるはず。
この「おおきいあかい クリフォード」はすでに映像化されており、2000年にテレビアニメシリーズがスタート。2004年には劇場アニメ版もありました。2019年にはこのアニメシリーズのリブートも配信されており、今も愛されています。
実は1986年に『Clifford’s Sing Along Adventure』という実写とアニメを組み合わせたビデオが販売されているのですが、これはNHKの教育テレビのような子ども向け番組スタイルなので、あまり映画っぽい感じではありません。
今回の2021年の『でっかくなっちゃった赤い子犬 僕はクリフォード』は本格的な実写映画。もちろん大きい赤い子犬であるクリフォードはCGで再現されており、リアルです。2016年にパラマウントが映画化権利を取得していたみたいですね。当初はユニバーサルとイルミネーションが共同で映画化する話もあったようですが…。
監督は、『アンラッキー、ハッピー』(2002年)、『団塊ボーイズ』(2007年)、『オールド・ドッグ』(2009年)、『アルビン4 それいけ! シマリス大作戦』(2015年)など、多数のコメディ映画を手がけてきた“ウォルト・ベッカー”。製作は、実写映画『スマーフ』シリーズなどを手がけた“ジョーダン・カーナー”です。
主人公の少女を演じるのは、『クリスマス・クロニクル』の“ダービー・キャンプ”。2018年の『ベンジー』にもでていたので犬映画は慣れたものかな。他には、『ジャングル・クルーズ』の“ジャック・ホワイトホール”、『バイオハザードII アポカリプス』の“シエンナ・ギロリー”、「モンティ・パイソン」のメンバーの“ジョン・クリーズ”、『グッド・ボーイズ』の“アイザック・ワン”、『トイ・ストーリー4』でフォォーキーの声を演じた“トニー・ヘイル”、『ストリーマーズ 若き兵士たちの物語』の“デヴィッド・アラン・グリア”など。
とりあえずキュートなデカ子犬を拝みたい人向けの映画です。さすがにあれは現実では飼えませんし、映画の中だけで愛でてください。
オススメ度のチェック
ひとり | :犬好きのための癒し |
友人 | :子ども向けではあるけど |
恋人 | :愛らしい物語を観たいなら |
キッズ | :犬が好きな子も満足 |
『でっかくなっちゃった赤い子犬 僕はクリフォード』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):デカいけど健康です
ニューヨーク。人影のない建物の中で、子犬がいっぱい無邪気に戯れていました。1頭の親犬に見守られてみんな元気そうです。そこに動物管理センターの男たちがやってきて、親犬を連れて行き、子犬をケージにしまい、回収してしまいます。しかし、人間たちは知りませんでした。そこに1匹だけ赤い子犬が取り残されていることに…。寂しく吠える、全身が真っ赤な子犬…。
エミリー・エリザベスはアパートに帰宅。転校したばかりの名門校での生活は最悪です。同級生に揶揄われ、居場所は無いとぼやきます。母のマギーはフォローするも、それでエミリーの心は晴れません。
母はパラリーガルで忙しく、今度シカゴに出張しに行くことに。誰かエミリーの面倒をみる大人が必要ですが、ケイシーおじさんだけは嫌だというのは2人の共通の認識。ケイシーは路上のバンで暮らしており、明らかに変な人です。
エミリーは学校の課題で募金活動のために空き缶集めとして近所を回ります。周りにも変な人ばかりです。
ひととおり集め終わったエミリーが帰宅すると母は残念な顔。嫌な予感。そうです、出張中の面倒係としてケイシーしか見つからなかったのです。颯爽とケイシーが登場。相変わらずだらしなく頼りない姿に、エミリーはうんざり。
ケイシーと2人きりになり、エミリーは近所の公園でやっているアニマル・レスキューテントに向かいます。そのひとつ、ブリッドウェルというおじいさんのテントの中にはヘンテコな動物がいっぱい。その中でも赤い子犬に見惚れるエミリー。すかさずケイシーはダメだと警告。アパートはペット禁止です。しょうがなく名残惜しそうに帰ります。
次の日の学校。集めた空き缶を持っていくとそんな課題を真面目にこなす奴はいないとバカにされます。けれどもオーウェン・ユーという子だけが気さくに話しかけて慰めてくれました。
家に帰って意気消沈のエミリー。ケイシーはぐうたらです。エミリーはネットでブリッドウェルについて調べるも検索ゼロ。そのときカバンがもぞもぞ動いているのに気づきます。恐る恐る近づき、中を調べると赤い子犬が…。いつのまに?
とりあえず名前を付けます。「クリフォード」にしよう…。
その赤い子犬クリフォードはすぐにケイシーに見つかりました。エミリーは懇願。ケイシーは根負けして「一晩だけだ」と許します。
ベッドでクリフォードを前に涙を流すエミリー。「大きくて強くなれれば…」
翌朝、ふと目覚めるとデカい犬が目の前に。尋常じゃない大きさ。クリフォードはなぜこんなに大きくなったのか。これは夢? いいえ、夢ではありません。尻尾をふるだけで部屋は滅茶苦茶。その犬を目にしたケイシーも絶叫。これはどうにかしないとマズいです。ペット禁止なのにこんなに巨大な犬は絶対にダメに決まっている…。しかし、外でバンに乗せようとしている間に通行人に目撃されてしまいました。
その頃、ピーター・ティエランという遺伝子組み換えを研究する企業のCEOが、ニューヨークで話題の巨大な赤い犬の情報を知ります。これは利用できる…。
でっかくなった赤い子犬の運命はいかに…。
原作との違い
『でっかくなっちゃった赤い子犬 僕はクリフォード』は原作と違っている点がいくつかあります。
まずは主役の犬。原作では犬は人間と同等ではないにせよ、語り手のように喋ることがありました。しかし、今回の映画版では全く人語は話しません。完全に動物そのもの。なので当然のようにこれまで一番リアルな造形のクリフォードになりました。めちゃくちゃデカいですけど。
ちなみに映画のクリフォードはCGで描写されていますが、撮影中は犬の大きさと動きが掴めるように、獅子舞みたいな感じで赤い犬の造形物の中に人が入って動き回っています。かなりシュールな光景ですが、CG動物が登場する映画の撮影現場では見慣れた風景。これだけ大きい犬でも手法は同じなんですね。
人間側の主人公であるエミリー・エリザベスは、原作では7~8歳の子でしたが、映画では12歳になり、少し年齢が上に。まあ、このへんはキャスティングの問題もあるので致し方ない変更点です。
大きな変更はケイシーおじさんの追加。これはおそらく大人側にも共感できるキャラクターを据えようという発想なのかな。“ウォルト・ベッカー”監督は過去のフィルモグラフィーでもこういうダメダメな男性大人を描いてきて得意分野なので、今回も採用したのでしょうか。
また、エミリーの友人として、原作ではジャマイカ系の子が出てくるのですが、映画ではオーウェン・ユーという中国系の少年に変更になっています。これは後にクリフォードを中国にある広大な土地に移すという展開へと繋がるための布石でもあり、富裕層の中華資本に頼らないと解決できないと飛びつくあたりは今っぽいアレンジです。でも最終的にはそうならず、ニューヨークという地域全体がこのデカい赤い犬を歓迎するというハッピーエンドを迎え、このあたりは実にアメリカらしいですし、何よりもペット愛が溢れるニューヨークならではのオチですね。
でも敵となるピーター・ティエランは、髪形といい服装といい、思いっきりスティーブ・ジョブズ風でしたけどね。今回のあの企業は遺伝子組み換え動物(しかもかなり奇抜)というかなりギョッとする行為に手を染めているのですけど、それをコメディで押し切るあたりはさすがハリウッドのエンタメだった…。
ペットを飼ううえで大切なこと
『でっかくなっちゃった赤い子犬 僕はクリフォード』は原作と全く変わらないところもあって、それは教養としてのメッセージ。もともと子ども向けの教育的な作品なので、そこは映画でもブレていません。
とくに映画では「ペットを飼う」ということの初歩的な責任やルールを徹底する内容でありました。
例えば、ペット禁止のアパートではペットは飼えないこと。ちゃんと獣医に連れて行くこと。マイクロチップの重要性も。このへんはいかにも最近のトピックですね。
そして周辺住民の理解を得ること。本作ではエミリーの周辺の住民は実に多様です。ボデガを経営するラテン系の人もいれば、口うるさいロシア系のおばさんもいれば、真面目な管理人の黒人の人もいる。人種だけではありません。ハンディキャッパーの人もいるし、年齢もバラバラ。犬に対する受容も全然違います。ここは原作も同じでした。
それでも共通の理解は得られるはずだというのは、ペットの飼育でも大切なことです。
まあ、でも糞尿とか大変そうですけどね、あのクリフォード。おしっこ描写はあったけど、さすがに「No.2」(※うんちのことです)は直接描かれなかったな…。どうやって処理すればいいんだろうな…。
というか餌代とかスゴイことになりますよね。エミリーの母の収入ではカバーしきれないと思うので、やっぱりクリフォードがタレント犬として出演しまくって稼ぐのが無難な策かな…。
個人的にはデカい犬が普通サイズの犬を食う(吐き出したけど)という描写がしっかりあったのでそこだけで満足です(そんなんでいいのか)。
『でっかくなっちゃった赤い子犬 僕はクリフォード』はもう続編製作が決定済みとのこと。これ以上はデカくならないとは思います。たぶん。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 57% Audience 94%
IMDb
6.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
関連作品紹介
犬がメインで登場する映画の感想記事です。
・『トーゴー』
・『エンツォ レーサーになりたかった犬とある家族の物語』
・『僕のワンダフル・ジャーニー』
作品ポスター・画像 (C)2021 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.
以上、『でっかくなっちゃった赤い子犬 僕はクリフォード』の感想でした。
Clifford the Big Red Dog (2021) [Japanese Review] 『でっかくなっちゃった赤い子犬 僕はクリフォード』考察・評価レビュー