感想は2100作品以上! 検索はメニューからどうぞ。

『タイラー・レイク 命の奪還』感想(ネタバレ)…Netflix;ハンマーなんていらない!

タイラー・レイク 命の奪還

クリス・ヘムズワースにはもうハンマーなんていらない!…Netflix映画『タイラー・レイク 命の奪還』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Extraction
製作国:アメリカ(2020年)
日本では劇場未公開:2020年にNetflixで配信
監督:サム・ハーグレイブ

タイラー・レイク 命の奪還

たいらーれいく いのちのだっかん
タイラー・レイク 命の奪還

『タイラー・レイク 命の奪還』あらすじ

人知れず危険な仕事を引き受けている裏社会の傭兵であるタイラー・レイクは、インドの麻薬王の息子であるオヴィを救出するように命じられる。それは危ういミッションだったがこのタイラーは簡単にやられる男ではない。救出は大きな支障もなく成功するが、それからが地獄だった。タイラーはあらゆる存在から狙われるようになる。

『タイラー・レイク 命の奪還』感想(ネタバレなし)

スポンサーリンク

アクション映画界に新監督が仲間入り

息をするのも忘れてしまうような惚れ惚れするアクション満載の映画を観たときは、思わずそのアクションをしている俳優に「すご~い!」と拍手したくなります。

でもちょっと待ってください。アクションをしているのは映像に映っている俳優ではないかもしれませんよ。

というのも承知の人は多いと思いますが、映画には「スタント」というお仕事に徹している人もいるのです。スタントパーソンスタントコーディネーターと呼ばれる職業は裏方で、普通は気にもしないので認識している人は少ないと思いますが、ある調査によれば2000年から2016年の間にリリースされた映画の74%にはスタント関係者が1人以上いるとされています。また大作ともなると1作だけで200人を優に超すスタント関係者が参加していたりするのです。想像以上にスタントだらけ。

そんなスタントの人たちは命の危険を抱えながら職務にあたっているのに、業界から称賛を受ける機会は少ないです。アカデミー賞にスタント関係の賞部門を創設してほしいと要望するキャンペーンも行われていますが実現はしていません。

結局、現状ではスタントの人たちが目立てるキャリアアップは「監督になること」…くらいしかないです。

『ジョン・ウィック』シリーズの監督である“チャド・スタエルスキ”“デヴィッド・リーチ”はスタントマンからの躍進で成功をおさめた人物。もはやアクション映画と言えば信頼のこの人!というポジションになっていますね。

そしてまた新しいスタントからの監督デビューが現れ、注目に値するアクション映画を引っ張る人になるかもしれない。その人こそが“サム・ハーグレイブ”であり、その記念すべき初監督作が『タイラー・レイク 命の奪還』です。

“サム・ハーグレイブ”はこれまで『シビルウォー キャプテン・アメリカ』『スーサイド・スクワッド』『アトミック・ブロンド』『戦狼 ウルフ・オブ・ウォー』『デッドプール2』『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー&エンドゲーム』と、「おお!」となるアクション映画にスタントコーディネーターとして関わりまくっている、まさに縁の下の力持ち。この人がいたからあのアクションがあったのですね。

そんな“サム・ハーグレイブ”の監督へのステップアップを後押ししてくれたのが、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)を先頭で引っ張り、世界の興行収入の頂点に立ったとんでもない映画『アベンジャーズ エンドゲーム』を手がけた“ルッソ兄弟”です。この『タイラー・レイク 命の奪還』は“ルッソ兄弟”が製作で、“ジョー・ルッソ”が脚本(というか原作)を担当しており、さらには「AGBO」という“ルッソ兄弟”が2018年に設立した制作会社がプロダクションとなっています。成功をおさめた“ルッソ兄弟”はこうやって仕事仲間をどんどんバックアップする側に回り始め、良い連鎖反応が起きていますね(なんかリアルでアベンジャーズみたい…)。「AGBO」もどんどん新作を待機させており、今後もワクワクさせてくれそうです。

俳優陣は、主演がMCUの『マイティ・ソー』シリーズでおなじみの“クリス・ヘムズワース”。今回は神ではありませんがキレのあるアクションでキャプテン・アメリカ化しています。他にも『パターソン』や『バハールの涙』でおなじみの“ゴルシフテ・ファラハニ”も登場。さらにインド映画界で人気を誇る“ランディープ・フーダー”がハリウッド進出を果たし、“クリス・ヘムズワース”と張り合うアクションを披露してくれます。あと“デヴィッド・ハーバー”もちょこっと出てきます。

当然のように最高のアクションを提供してくれるので、アクション映画好きはテレワークなんて放棄してでも鑑賞してください(責任はとらない)。迫力ある映像が売りなので、なるべく大画面でね。ノンストップなアクションの連続に、アドレナリンMAXで大興奮間違いなしです。

『タイラー・レイク 命の奪還』はNetflixオリジナル作品として2020年4月24日から配信中です。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(アクション好きは絶対に必見)
友人 ◎(アクション満載で盛り上がる)
恋人 ◯(派手なアクションを観るなら)
キッズ ◯(アクションに憧れてしまう!)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『タイラー・レイク 命の奪還』感想(ネタバレあり)

スポンサーリンク

いつもこんなことをしているの?

兵士のような男が負傷しながら、橋の上で体を引きずって疲労困憊で戦っています。どうやら絶体絶命の状況のようです。なぜこんなことになったのか。始まりは2日前に遡ります。

インドのムンバイ。学校から出てきた少年グループの3人。普通の下校風景に見えますが、その少年たちは黒光りする車で送迎されているようで、そのうちのひとり、オヴィという子がかなりのお金持ちな様子。途中で寄り道して気になる女の子の話で盛り上がったりしますが、ここでも車は待機しています。

高級な家に帰宅すると、周りには警備らしき男たちが巡回しており、オヴィはだだっ広い部屋で寂しく過ごすしかありません。虚しくピアノを弾くのみ。

夜、3人は遊びに出かけ、バーで意中の女の子に声をかける覚悟を持つために、ちょっと外に出てタバコを吸うことに。しかし、警官に見つかってしまい、誤魔化していると「見逃してやる」と言われます。ところが、友人のひとりをなんとその警官は容赦なく撃ち、オヴィは強引に誘拐されてしまいました

ムンバイ中央刑務所。メガネの男がひとりの囚人に会います。「息子から目を逸らすなと言ったはずだ」と怒られ、「救いだせ」を指示を受けます。「軍が要ります」と言うも「なら用意しろ」とそのオヴィの父らしき男は凄みます。家に帰り、対処に困ったそのサジュという男は、表沙汰にはできない案件を扱う屈強な男がいることを利用し、策を考え始めます。

オーストラリアのキンバリー。高所の崖から湖に飛び降りて水中瞑想する男。ビーチのフラッシュバックが頭をよぎります。この男、タイラー・レイクは傭兵的な稼業をしており、汚れ仕事まで何でもやります。

チームの仲間であるニック・カーンがタイラーのもとを訪れ、誘拐された少年の救出の仕事依頼があると説明。タイラーは詳細も聞かず、あっけなく「やるよ」と即答。首謀者のアミール・アシフはダッカで絶大な力を持っていて覚悟もいることを諭しますが、タイラーは気にも留めません。「命がけの仕事を引き受けていればそのうち死ねると思っているの?」という言葉もスルー。

バングラデシュのダッカ市外。タイラー含むチームは招集され、作戦のブリーフィングを受けます。救出対象の子どもの名前はオヴィ・マハジャン。父親はオヴィ・シニアで、現在服役中。身代金を払う気はない。相手はアミール・アシフという麻薬王で、これは裏社会の抗争だ、と。敵は20人前後。タイラーが単独で潜入し、スナイパーの支援を受けながら、ターゲットと一緒に船まで逃げ、脱出する。短時間の即行が求められるミッションです。

さっそくダッカにてタイラーは誘拐グループと接触。少年を確認後、カネが先だと譲らない相手に一切の動揺も見せず、一瞬で圧倒。全ての敵をねじ伏せました。オヴィの拘束を解き、淡々と仕事をこなすタイラー。脱出用の船までもう少し。難なくクリアできる、そう思っていました。

ところが指示を出していたニックは送金がないことからハメられたと気づきます。また誘拐の主導者であるアミール・アシフも権力を駆使して警察を送り込み(ほぼ軍)、町を封鎖。現場援護の仲間も次々と殺されたことで、タイラーとオヴィは孤立してしまいます。しかも、サジュが迫ってきました。

出口のわからない地獄の奪還劇はここから本番です。

スポンサーリンク

職人技の極み!怒涛の連続アクション

『タイラー・レイク 命の奪還』は“サム・ハーグレイブ”監督を始めとする一流のアクション・スタッフで製作されているわけですから、一にも二にも見どころはアクション。とことんアクションに特化しています。

最初に主人公のタイラーが敵のアジトでオヴィを救出するために敵を殲滅するシーン。ここも素晴らしい華麗なアクションの流れ技で凄いです。でもこれ、まだ準備運動に過ぎませんでした

この後の作戦どおりに進まなくなってからのタイラーとオヴィの計画ゼロで危機を脱するべく必死に逃走する一連のシーン。このシークエンスの疑似的なワンカット・アクションがもう言葉を失うほどにハイクオリティ。神業です。

まず使っていた車に戻って発進するもパトカーに進路を塞がれ、後退。ここはシームレスな車内カメラ映像で、観客も一緒に車に乗っている気分。車を降りた後は建物に突入する警察を追尾する映像へと移行し、ひとりの警官が突然現れたタイラーに倒されると、今度はタイラーの映像…からの逃げるオヴィの映像へ。タイラーと合流した後は、屋上で別の建物へ飛び移り、サジュの出現で揉み合いになってサジュともに建物から下の道に落下。続いて市街地の道路で格闘し、ナイフ戦へ。車に轢かれるタイラーでそこは一旦小休止し、サジュが警察に拘束されたオヴィを助けると、今度はサジュがタイラーの運転するトラックに轢かれ、またタイラーとオヴィのドライブ映像に。敵を撹乱するために車から飛び降りた二人と、爆発する車でやっとこのシークエンスの連続映像は明確なカットが挟まれます。

観ているこっちが呼吸するタイミングもない…。

こういう映像を見ると決まって「どうやって撮っているのだろう?」と思うものですし、「何か特殊な機材でも使っているのかな?それともCGかな?」と考えたりしますが、実際はメイキングなんかを見ると丸わかりなのですけど、ガチで肉体ひとつで撮影しているのですよね。つまり、カメラ撮影者も手にカメラを持って戦う役者についていき、車に乗るし、なんなら車のボンネットの上にも乗ったりするし、役者が屋上から屋上へジャンプすれば一緒にジャンプするし、落下すれば同じく落下しています。

これらアクションシーンの場合は撮影体制も特別で、“サム・ハーグレイブ”監督を含むスタントできる人が撮影しているので、こんな破天荒な撮影が実現できます。

モブで関わっている人も含めて相当な大規模アクションになっており、どおりで本作のエンドクレジットが13分くらいあるわけですよ。

正直、このシーンだけでも1800円で劇場上映しても損を一切感じないレベルなのではないか。それほどに職人魂のこもりまくったプロフェッショナル・スキルを見せてくれました。計算され尽くされていますよね。個人的にはタイラーとサジュが道端で戦闘しているときにバイクで一般の人が横切って中断するあたりの芸の細かさが好きです(そこ、通るなよ!というツッコミもできる)。

タイラーを演じた“クリス・ヘムズワース”だけでなく、サジュを演じた“ランディープ・フーダー”も抜群にきまっているし、あの少年チンピラたちとの戦闘も微妙な手加減感を出しつつも容赦ないあたりが独特。やはり『タイラー・レイク 命の奪還』はアクション映画として興奮させてくれれば、もう大合格だと言えるのではないでしょうか。

スポンサーリンク

勝手に感傷に浸らないで…

ただ、アクション以外の諸々に関しては『タイラー・レイク 命の奪還』はかなり大雑把。

何よりも物語の主軸となるコンセプト自体は手垢のついたもので、新規制はゼロです。いわゆる『ランボー』と同じ系統ですから。しかも、白人が異国(たいていは欧米の考える発展途上国)で大暴れして“弱き者”(たいていは白人の考える弱者)を救うという、コテコテのホワイトセイバーです。

そもそもこの救出にタイラーたちが関わるのだって正義心ではなく、あくまでビジネスであり、途中でタイラーには情が芽生えますが、それでも変に首を突っ込んで事態を悪化させた事実は否定できません。あそこまで大暴れしたら、もう国際問題ものですけどね…。

サジュも結構強かったので、彼が選りすぐりの強者を集めて普通にアミール・アシフの軍勢に挑めばよかったのに…

あげくに本作のラストでニックがアミール・アシフを殺っちゃいますからね。え、じゃあ、最初から敵の親玉を倒せばよかったのでは…と思ってしまうのも無理はない、本作の目的すら見失うオチだったような…。

一応、タイラーは6歳でリンパ腫で死んて看取れもしなかった息子の想いを遂げたと見られるラストを迎え、そこに指を切り落としたあの青年の一撃が加わることで天罰が下ったともとれる展開になり、感傷的な結末を迎えます。なので単純なホワイトセイバーではなく、それなりにあのインドやバングラデシュ側の戦う者たちにも花を持たせるようになっています。でもこれもストレートに言ってしまえば極めて身勝手な白人男のナルシズムでしかないようにも見えるし…。

やっぱり理想は、タイラーがバングラデシュでサジュを含む強者チームを結成して、南アジア版アベンジャーズをたたき上げ、後はお前たちに任せたと言いながら自分は宇宙へ旅立つ…がベストだったのではないか、と。あれ、どっかで見たな、それ…。

『ジョン・ウィック』みたいに完全にネタとして吹っ切れてくれると気にしなくなるのですけどね。その点ではあのシリーズは、主役の自虐性もあいまって、上手いバランスで渡り歩いているんだなぁ…。

それにしてもオヴィは何事もなく日常に戻れるものなのかな。もうあの地域、完全に全員敵になっているのではないだろうか…。オヴィは早急に鍛え上げないとイチコロだよ…。

“サム・ハーグレイブ”監督、ぜひ今度はもっとクレイジーな、それこそ宇宙ステーションでのアクションバトル映画とか、海中でのアクションサバイバル映画とか、いろいろやってほしいなと思います。

『タイラー・レイク 命の奪還』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 63% Audience 70%
IMDb
7.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)AGBO タイラーレイク命の奪還

以上、『タイラー・レイク 命の奪還』の感想でした。

Extraction (2020) [Japanese Review] 『タイラー・レイク 命の奪還』考察・評価レビュー