3作目はマッツと契りたい…映画『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2022年)
日本公開日:2022年4月8日
監督:デヴィッド・イェーツ
恋愛描写
ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密
ふぁんたすてぃっくびーすととだんぶるどあのひみつ
『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』あらすじ
『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』感想(ネタバレなし)
好きな作品の作者が闇に堕ちたときの対処法
「ハリー・ポッター」のスピンオフである「ファンタスティック・ビースト」シリーズの3作目にして、「魔法ワールド(Wizarding World)」フランチャイズでは11作目となる『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』の感想です!…とさっそく言いたいところですが、その前にこの話を一応ケジメとしてやっておきましょう。
それは自分が好きな作品のクリエイターが闇に堕ちたときにどう対処するべきかという話。要するに何か非倫理的もしくは不正な問題を起こしてしまったとか、そういうことです。
世界中を魔法で魅了した「ハリー・ポッター」の原作者である“J・K・ローリング”は、まさにそんな渦中の人物となりました。トランスジェンダーに関する発言が「差別である」と問題視されるようになり、それは確かに典型的なトランスフォビアの主張でした。1度きりで反省して以降は言葉を慎むのかなと思ったら、全く反省の色はなく、それどころか年々過激化していくかのような勢いを見せ、もはや“J・K・ローリング”はトランスジェンダー差別主義者の代表的人物と世間で認識されるほどに…。“J・K・ローリング”を支持する人も現れて盛んにネット上で活動し、トランスジェンダー嫌悪を拡散しており、状況は悪くなるばかりです。多くのトランスジェンダー当事者は誹謗中傷に晒され、暴力や殺人の被害に遭っています。
これに「ハリー・ポッター」の映画で主役を務めた“ダニエル・ラドクリフ”や“エマ・ワトソン”、「ファンタスティック・ビースト」の主人公を演じた“エディ・レッドメイン”は相次いで“J・K・ローリング”を非難する立場をとり、多くの人権団体もその発言を批判しています。
この事態に心を痛めているのは「ハリー・ポッター」ファンも同じで、トランスジェンダー当事者の愛読者だっていますし、そうでなくとも作者の人柄を信頼していた子どもたちにはショックな出来事です。
そんな中で浮上するのは「では作品とどう向き合えばいいのか」という問題。“J・K・ローリング”は差別主義者だからその作品を見るべきではないのか…。これは難問です。でも創作の歴史ではよくあることで、著名な創作者が実は差別主義者だった!…という事例は案外と多いです。
結局のところ、それは個人の自由に委ねられることになります。別に作品を見たから楽しんだからといってその作者の差別的主張を肯定したことにはならないでしょう。逆に作品を見ないからといって作者の差別的主張を否定したというわけでもない。やはり作者の主張に異議があるなら直接的な態度で示すのが一番です。『アウルハウス』みたいに「ハリー・ポッター」を創作の源点にしつつ、クィアを応援する作品に一新するクリエイターもいますからね。クリエイティブな才能がない人は、作者に遠くから呪いの魔法をかけ続けるとかでもいいですよ。
なのでこの“J・K・ローリング”が原案・製作・脚本に深く関わっている『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』も鑑賞するしないは個人の好きにしていいと思います。「どうして観るんだ。そんなの矛盾だ」と言葉をぶつけるのは揚げ足取りにしかならないでしょうから。
ただ、この「ファンタスティック・ビースト」シリーズ。“J・K・ローリング”以外にも闇堕ち状態の関係者が続出し、結構シリーズの存続が危ぶまれる事態になっています。
まず本作の悪役であるグリンデルバルドを演じる“ジョニー・デップ”がかなり過激なDVをしていたことが報じられ、それに関する名誉棄損裁判で負けてしまい、映画の役柄を降板。今作『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』では急遽“マッツ・ミケルセン”が代役で登板し、なんとか撮影を終えました。
ところがこれで終わりではなかった。なんと公開直前にこれまた重要な役で出演していた“エズラ・ミラー”が暴力事件を引き起こすという…。とりあえず今回の映画はこのまま公開されますが、大丈夫か、この「ファンタスティック・ビースト」シリーズ…。全然ファンタスティックじゃないぞ…。
ということでこの『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』。何のために観るかはあなたに任せます。なお、相当にファン・ムービーなスタイルになってきましたので、「ハリー・ポッター」世界観が好きな人じゃないと置いていかれると思います。ちなみに私はほぼ“マッツ・ミケルセン”目当てです(正直な告白)。
『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』を観る前のQ&A
A:シリーズの1作目『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』と2作目『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』は観ておかないと物語についていけない部分が多々あると思います。
オススメ度のチェック
ひとり | :シリーズ好きは要注目 |
友人 | :ハリポタのファンと一緒に |
恋人 | :魔法ワールドを共有体験 |
キッズ | :やや暗めの展開もあるけど |
『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』感想(ネタバレあり)
魔法動物を簡単に紹介
ナンバリングで言えば「ファンタスティック・ビースト3(ファンタビ3)」となる本作『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』。そもそもタイトルにあるとおり、魔法動物が主軸となるシリーズであり、今回も魔法動物がたくさんでてきます。
全部ではないですが、ここで簡単に紹介しておきましょう。
主人公のニュート・スキャマンダーのポケットにいつも収まっているのは、1作目から登場していてもはやニュートのベストフレンドである「ボウトラックル」です。緑の小枝みたいな外見ですが、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のグルートみたいに成長するのかなとも思ったのですけど、全然サイズは変わらないんですね。
スーツケースからよくでてきてアイテムを集めたがるモグラみたいなのが「ニフラー」。こちらも1作目から登場し、もはやギャグ担当の要員です。
次に今作の序盤でニュートを空高く運んでいくのが「ワイバーン」。風船のように膨らんで上空で巨大な翼を広げるというかなり独特な描写になっていて印象的でした。
また、本作で最もシュールなシーンを提供してくれるのがニュートが投獄されたテセウスを救いに行くシーン。洞窟のような場所にうじゃうじゃいたヘンテコなサソリみたいな群れ。あれは「マンティコア」の幼体だそうで、同じポーズをして切り抜けるというアホな兄弟の絵面が拝めました。
そして本作の物語の鍵になる魔法動物が「麒麟(きりん)」です。中国神話の生物で、『シャン・チー テン・リングスの伝説』にもチラっと登場していましたが、この『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』は見た目がほぼバンビでしたね。この可愛いバンビ麒麟を平然と殺める“マッツ・ミケルセン”グリンデルバルド、これは子どもが泣く…。
ダンブルドアの秘密とは?
『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』のタイトルにある「ダンブルドアの秘密」。それが本作の要になってきます。というか完全にアルバス・ダンブルドアの物語であり、ニュートは脇役状態です。いいのか、これで…。
この秘密とは何なのか。英題は「The Secrets」なので秘密が複数あることが想定できましたが、実際にそうでした。
まず前作となる2作目のラストで明らかになったように出自不明だったクリーデンス・ベアボーンの正体はアウレリウス・ダンブルドアであることが判明。そして今作ではクリーデンスはアルバス・ダンブルドアの弟であるアバーフォース・ダンブルドアとの関係性があることが明らかになりました。今作のラストで再会を果たし、決着がついた感じでしたけど、今後はどうなるのかな…(演者である“エズラ・ミラー”の進退も含めてだけど)。
また、以前から“J・K・ローリング”が言及していたように、アルバス・ダンブルドアとグリンデルバルドは若いときは恋仲だったことが今作で触れられました。鑑賞前は「2人は同性愛者だったのです!(ジャジャーン)」と大々的に誇示されたらどうしようと不安に思っていましたけど、そんな迂闊なことはせず、それでいてしっかりセリフで言及していたので良いバランスだとは思いましたが。
こんな感じで今作は壮大な世界観のわりには終始「ダンブルドア家の秘密(裏の家庭事情?)」が表になるだけで案外とパーソナルなこじんまりした展開しかありません。それこそファンが喜ぶ裏設定を明かすイベントみたいなものであり、これが本作をなおさらファン以外の人はお断りの雰囲気にさせていましたね。
だから本作を酷評する人がいるのも当然ですよ。ファンじゃない人は眼中にないんですから。
ただ、ファン目線でみてももう少し今作独自のサプライズがあっても良かったのでは…とも思いますが…。
たぶんもうダンブルドア家の秘密は出し切ったかな。次回作は他のキャラクターを掘り下げるのだろうか。そろそろニュートを主人公にしてあげないと…。
歴史SFとして見ると…
この「ファンタスティック・ビースト」シリーズは「歴史SF」のジャンルでもあり、第二次世界大戦の史実をなぞるつもりなのだろうと前作の感想でも書きましたが、今作を見るとそうなっていました。
そういうジャンルの背景もあり、今作も前作に続いて暗いです。ワクワクドキドキの魔法ワールドというポジティブ全開ではありません。
1930年代に突入した今作の前半では、ドイツの不穏な社会変化(これはもちろんナチスの勢力増大を示している)、そして魔法界の国連のような組織がグリンデルバルドに乗っ取られていく最悪の未来が見えてきます(第二次世界大戦の勃発を防げなかった国際連盟の過ちを彷彿とさせる)。
まさか不正選挙の話へと発展していくとは思いませんでしたけどね。これは現代政治情勢の反映なのか。でもあの魔法界の選挙の仕組み、かなりいい加減すぎなくないですか…。魔法動物頼みじゃないか…。
個人的に歴史SFとして不満というか、「あれ?」と思うのは、今作は麒麟が重要な存在ながら中国神話の生き物であるのに中国は舞台になりません。ブータンのヒマラヤがラストの大舞台になります。
なんでだろうと考えたのですが、もしかしたらこの当時の中国は日中戦争や満州事変など非常にややこしい利害関係の複雑さが絡んでくる状態にあり、そのセンシティブな描写を避けたかったのかな、と。対する当時のブータンは歴史的にイギリスの影響力が及んでおり、「ハリー・ポッター」というイギリスの物語として好都合だったのかもしれません。
もしそうだとしたらかなり日和った歴史SFの踏み込み方だなとは思います。結局は連合国側の視点に立っているのですから。せっかくファンタジーなのだから「連合国vs枢軸国」という人間界の構図とは異なる、魔法界独自の視座で切り込んでいくのでもいいのに。もし今後日本を舞台にする展開があったとしても、やや不安になってきますね…。日本は「ハリー・ポッター」のファンも多いからポジティブに描くね!みたいな媚びもいらないけど、かといって薄いだけの描写もいらないし…。ただでさえ今作のアジア描写は薄味だった…。
アジアと言えば、前作にでてきたナギニはどこへ消えたのか。あれで終わりなの?
本作のラストは前作が暗すぎると批判されて焦ったのか、なんか妙にハッピーエンドな空気を醸し出していましたが、とってつけたような感じもしないでもない。私はここまできたら時代を汲み取って徹底的に絶望の戦いを強いられ続ける面々の姿を見ていてもいいなと思ってますよ。
ジェイコブとクイニーがラブラブに戻り、やっと登場したティナを前にいつもの挙動不審で応じたニュートの定番の振る舞いも見られて、キャラクターのファンは安心かもですが、シリーズ全体の先行きは見えづらい…。
私の予想だと4作目は2作目・3作目とは雰囲気は変わるのかなとも思いますけど、全部は創造主である“J・K・ローリング”のみぞ知る…。まあ、シリーズ存続含めて、その未来を左右するのは“J・K・ローリング”です。さらなる過激化で大失態の言動をしまくれば、麒麟もお辞儀しなくなりますよ…。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 47% Audience 83%
IMDb
6.8 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved Wizarding World TM Publishing Rights (C) J.K. Rowling ファンタスティックビースト シークレッツ・オブ・ダンブルドア
以上、『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』の感想でした。
Fantastic Beasts: The Secrets of Dumbledore (2022) [Japanese Review] 『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』考察・評価レビュー