続編も謎がどうでもいいくらいに面白い!…Netflix映画『ナイブズ・アウト グラス・オニオン』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2022年)
日本では劇場未公開:2022年にNetflixで配信
監督:ライアン・ジョンソン
恋愛描写
ナイブズ・アウト グラス・オニオン
ないぶずあうと ぐらすおにおん
『ナイブズ・アウト グラス・オニオン』あらすじ
『ナイブズ・アウト グラス・オニオン』感想(ネタバレなし)
続編もやけに楽しい!
年末も近くなると人が集まりやすい時期が到来します。「嫌だな…」と内心では思っている人もいるでしょう。私も親戚の集まりでも気分がいいものではありません。
なんでしょうね。人が多数集まったとき、たとえ気心の知れた間柄だったとしても、互いの空気を読んで良い雰囲気を作らないといけない…そういう圧が発生するのが私は嫌なんですよね。人が集まれば集まるほど、そういう緊張感はどんなに表面的に見えないように振舞っていても、やはり裏側にはあるものなんですよ。それが人間の消しようがない本質なんじゃないかな。
今回紹介する映画もそんな小綺麗さを装った人間たちの集いをヤケクソ感情で盛大にぶっ壊す、なんとも年末にぴったりな作品です。
それが本作『ナイブズ・アウト グラス・オニオン』。
本作は2019年の『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』の続編となる2作目です。挑戦心に溢れる“ライアン・ジョンソン”監督が生み出したこの「アメリカン・ポアロ」と評されるオリジナルなミステリー映画は、その贅沢な豪華キャストと、軽妙なストーリー展開、皮肉の効いた演出などが相まって批評家や観客からも絶賛され、新しいミステリーシリーズの扉を開きました。
当然続編の製作が始動したのですが、まさかのNetflixへと移行です。アメリカではこの2作目の『ナイブズ・アウト グラス・オニオン』もNetflix作品としては異例の大手シネコンで劇場公開されたそうですが(それでも1週間だけみたいだけど)、絶対に映画館上映が主軸だったら大ヒットしただろうに…。なぜか日本では劇場公開しないし…なんなんだよ、もう…。
でもそんな不満も吹き飛ばすくらい、この2作目の『ナイブズ・アウト グラス・オニオン』もめちゃくちゃ楽しいです。前作以上にぶっ飛んでいる展開でミステリーとしては大味なのですが、私は好きです。マンネリになるのかなと思いきや、とんでもない! むしろ作風を完全に確立し、ノリに乗ってきました。“ライアン・ジョンソン”監督、やりやがったな…。
もちろん今作も“ダニエル・クレイグ”演じる名探偵がズバっと解決…するかどうかはボカしておきますが、ジェームズ・ボンドに続いて本当に良い役をゲットしましたよね…。
『ナイブズ・アウト グラス・オニオン』の見どころとして外せない、今回も俳優陣は豪華絢爛。
『マザーレス・ブルックリン』の“エドワード・ノートン”がイーロン・マスクみたいなウザい虚栄心の塊のような起業大富豪を、ドラマ『ワンダヴィジョン』の“キャスリン・ハーン”が権力に屈する見かけだけの政治家を、『ライフ・ウィズ・ミュージック』の“ケイト・ハドソン”が無自覚にSNSで差別発言しまくる芸能人を、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の“デイヴ・バウティスタ”が男性の権利を主張する動画配信者を、『ハミルトン』の“レスリー・オドム・Jr”が研究資金か倫理かの選択に悩む科学者を、『マトリックス レザレクションズ』の“ジェシカ・ヘンウィック”が有名人の汚名の後始末に疲弊するアシスタントを、ドラマ『アウターバンクス』の“マデリン・クライン”がキャリアのために男に媚びる屈辱に我慢する女性を、それぞれ熱演。
そして『アンテベラム』の“ジャネール・モネイ”。この“ジャネール・モネイ”が本作で最も輝き暴れまくっている俳優です。前作の“アナ・デ・アルマス”枠ですね。今作は“ジャネール・モネイ”のベストアクトなんじゃないかな。ちなみに“ジャネール・モネイ”はノンバイナリーを公表しているので性別の扱いには注意しましょう。
他にも「ええ!?」となるようなサプライズ・ゲストも盛沢山。ほんと、ネタが尽きない映画です。
年末は『ナイブズ・アウト グラス・オニオン』を鑑賞して人間関係のストレスを発散しましょう。
『ナイブズ・アウト グラス・オニオン』を観る前のQ&A
A:Netflixでオリジナル映画として2022年12月23日から配信中です。
オススメ度のチェック
ひとり | :痛快にテンションをあげる |
友人 | :俳優好き同士で |
恋人 | :気軽に観られる |
キッズ | :醜い大人たちばかりだけど |
『ナイブズ・アウト グラス・オニオン』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):虚偽の繁栄をぶち壊せ
2020年5月13日。自宅で慌ただしくしている上院議員に立候補しているコネチカット州知事のクレア・デベラ。彼女のもとに荷物が届くも、動画出演にまず臨みます。しかし、その荷物は巨大ハイテク企業のアルファ社の創始者でクレアの金銭的支援者であるマイルズ・ブロンからのものであると夫から教えてもらい、クレアは無視できません。
一方、ライオネル・トゥーサンという科学者は「マイルズにNOを言え」と他の科学者から求められていましたが、「天才は最初は理解されないものだ」と擁護。「有人ロケットに揮発性物質を使えというのはさすがに…」と動画通話先の研究者は懸念を口にしますが、そのライオネルにもマイルズから荷物が…。
別の場所。ファッションデザイナーに転向した元スーパーモデルのバーディー・ジェイはコロナ禍にもかかわらず大勢が密集する室内パーティで退屈していました。以前にTwitterで差別コメントをしてしまって大問題になったのでアシスタントのペグにスマホを没収されています。「最近はみんな意識が高すぎなのよ」とバーディーはボヤく中、そこにマイルズからの荷物が配送され、目を輝かせます。
さらにTwitchで話題となり、今は“男性の権利”活動家としてガールフレンドのウイスキーと一緒に家で動画配信しているデューク・コーディのもとにもマイルズから荷物が届きます。
荷物は角材のように四角。取っ手も継ぎ目もないです。クレアとライオネルとバーディーとデュークは連絡を取りながら、荷物を調べます。
ライオネルはボタンを発見し、表面の一部が開いて小さなチェス盤のようなものがでてきます。一手で終わるので青い玉を動かすと、今度は丸とバツの三目並べ。どんどんパズルを解いていくと、中から招待カードがでてきて、マイルズのプライベートアイランドに招いてくれるようです。「謎が待っている」とメッセージを添えて…。
そんな中、名探偵として世間で有名なブノワ・ブランは暇を持て余していました。危険で挑戦的な難事件が欲しい…。そこに同居人が「箱が届いたぞ」と知らせてくれます。
日付が経過。ブノワ・ブランは波止場で待っていました。クレア、ライオネル、バーディー&ペグ、デューク&ウイスキーも続々現れます。みんなマイルズに招待されたゲストです。
船も到着し、さっそく乗り込もうとすると、遅れてやってきたのはカサンドラ・“アンディ”・ブランド。マイルズの元ビジネスパートナーで、マイルズとは揉めて裁判で負けた人物です。なぜアンディも呼ばれたのかとブノワ以外の招待者は訝しみます。
船が到着した島の砂浜ではマイルズはギターを弾きながら待っていました。にこやかにみんなを迎える中、アンディを見て露骨に表情が固まるマイルズ。
気を取り直してマイルズは語ります。「まずグラス・オニオンを見てもらおうか」
こうして謎めいた集いが始まりを告げ…。
ネタに紛れて謎解きもしっかりやる
『ナイブズ・アウト グラス・オニオン』、肝心のミステリーはとりあえず脇に置くとして、今作も芸能ネタが豊富でした。ある程度アメリカのセレブ・カルチャーに詳しくないとわからないものもたくさんありましたね。
ミニマル・ミュージックで知られる“フィリップ・グラス”の時報なんて、本当にしょうもないギャグだけど、悔しいかな笑ってしまう…(あの時報、前作にも隠れ声出演していた“ジョセフ・ゴードン=レヴィット”のものだとのこと)。
サプライズ・ゲストと言えば、一瞬だけマイルズのアシスタントとして登場した“イーサン・ホーク”にもびっくりしますが、やはり映画ファン的には冒頭でブノワ・ブランが湯船で「Among Us」というゲームをしているとき、一緒に参戦している動画表示の相手の中に、“ナターシャ・リオン”に混じって、“アンジェラ・ランズベリー”と“スティーヴン・ソンドハイム”がいるんですよ。
2人とも残念ながら2021年と2022年に亡くなってしまったのですけど、“アンジェラ・ランズベリー”は『ジェシカおばさんの事件簿』で有名で、明らかにこの「ナイブズ・アウト」シリーズのインスピレーション元になっています。
そして“スティーヴン・ソンドハイム”と言えば、『シーラ号の謎』で、これは「ある有力者が自分の関係者をテリトリーに集めてゲームを仕掛ける」というプロットの定番となった作品。当然、この『ナイブズ・アウト グラス・オニオン』もそれを踏襲しています。
さらにゲーム「Among Us」も本作の物語の仕掛けを暗示する要素です。「Among Us」というのは宇宙船を舞台とした「人狼ゲーム」みたいなルールで、宇宙船クルーを操作しながらみんなで作業する傍ら、その中に裏切り者が混じっていて正体を隠しつつ妨害してきます。
ブランは「Among Us」を上手くプレイできなかったみたいですけど、その雪辱を晴らすかのごとく、ゲームの仕掛けをマネて現実で敢行。アンディの自殺の真相を探りたい双子の姉妹のヘレンをアンディとして島に潜り込ませ、自身も含めて2人の共同体制でアンディ殺しの犯人を調べ始めます。
今作は「whodunit(犯人は誰か)」の視点で、前作以上におちょくるのが上手くなっている感じで、ネタを大量に投入して視聴者にあれやこれやと目移りさせながら、きっちり最後は本筋を通す。鮮やかな手捌きです。
なんだか知らないけど島に滞在しているデロルが完全に放置されているのも、最高に謎解きをバカにしていていいですし…。
燃やしてやろうじゃないか
『ナイブズ・アウト グラス・オニオン』はキャラクターの魅力もたっぷり。
探偵のブランは前作からさらにチャーミングさが増し、前半でこっそりみんなを調査している姿のおかしさもさることながら、気取った振る舞いが盛大なミスリードになっているのも面白いです。
マイルズの用意した殺人ゲーム(ギリアン・フリンに筋を頼んだというのが笑える)をいきなり言い当ててぶち壊すブランからして、素人のモノマネ程度でプロには勝てないことをカッコよく見せつけるのですが、よく考えるとブランも「Among Us」をパクって仕掛けを持ち込んでいるので、わりとそこは同類です(時間稼ぎで意味ありげな推理風のトークをしつつ、しだいにギアが入っていくあの演技はさすが“ダニエル・クレイグ”でしたけど)。
虚栄は虚栄でもそれを自覚する者としない者の違いを描いているとも言えるのかな。
今作でもちゃんとブランのキャラクターは一歩引いており、「何でも解決!」な白人スーパーキャラクターにはしていません。
このシリーズが他のミステリーものと違うのは、探偵が白人男性だったときの特権性を適切に意識していることで、ブランはあくまでメンター役に徹し、主体性をマイノリティな役に回しています。
今作の場合、真の主役にして破壊者はヘレンです。このヘレンがまたキャラとして良すぎで、“ジャネール・モネイ”の魅力が全部盛りでした。
中盤のブランの仕掛けがネタ晴らしされてからのヘレンの実際の島での行動が明かされるシーンでの、慣れないアルコールをぐびぐび飲んでヤケクソで体当たりしていくヘレンがまた何ともシュールですし、そうやって笑っていると、後半はしっかりヘレンの怒りにフォーカスしていくのも誠実です。
今作も前回と同じで特権的な人たちの化けの皮が剝がれる「虐げられた者によるリベンジ」になるのですが、島が舞台でラストの派手さといい、なんか『ザ・メニュー』と被りましたね。
『ナイブズ・アウト グラス・オニオン』は怒りを丁寧に表現しつつ、最後は良心による反省も描いているので(みんな偽証をやめる)、まだ人間を信じているオチでしたが…。
この「ナイブズ・アウト」シリーズ、もう3作目も制作決定済みとのことですが、10作くらいは作ってほしいくらい、安定路線に入った感じはします。
あと、ブランには同居人がいて(演じるのは“ヒュー・グラント”!)、ゲイカップルだと示唆されましたが、こういう大作で主人公がゲイなのは珍しいですね(パートナーがいるゲイという設定になっているので、本編の謎解きで恋愛要素に脇道を逸らすこともなくてスッキリしているのもいい)。今後のシリーズ展開でも毎回ちょこっとブランの私生活が垣間見えるオマケ的なノリで見せてくれると嬉しいな、と。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 94% Audience 93%
IMDb
7.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
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・『エノーラ・ホームズの事件簿2』
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作品ポスター・画像 (C)Netflix ナイブズアウト グラスオニオン
以上、『ナイブズ・アウト グラス・オニオン』の感想でした。
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