老老詐欺の結末…映画『グッドライアー 偽りのゲーム』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:アメリカ(2019年)
日本公開日:2020年2月7日
監督:ビル・コンドン
グッドライアー 偽りのゲーム
ぐっどらいあー いつわりのげーむ
『グッドライアー 偽りのゲーム』あらすじ
出会い系サイトを通じて知り合った老紳士のロイと未亡人のベティ。実はベテラン詐欺師であったロイは、夫を亡くしてまもない資産家ベティから全財産を騙し取ろうと策略をめぐらせていた。温和そうな老人の顔を被って警戒心を一切抱かせずに親密になっていき、いよいよ最後の魔の手を伸ばそうとしたとき、思わぬ展開に困惑する。
『グッドライアー 偽りのゲーム』感想(ネタバレなし)
高齢者を騙すのは、高齢者
皆さん、詐欺に遭っていませんか? インターネット上での詐欺も相変わらず横行していますし、この感想ブログだっていつ乗っ取られて、よくわからん商品を売りつけるようになるかもしれないですよ(まあ、そうなったら私が真っ先にこのブログを閉鎖して回復させますけど…)。
ネット外のリアル社会で蔓延している詐欺は「オレオレ詐欺」でおなじみの特殊詐欺です。もうその言葉が生まれてから結構経っている気がしますが、全然衰えません。被害額は減っているみたいですが、深刻な状況は同じ。
そしてその特殊詐欺のターゲットにされているのは「高齢者」です。なんでも日本での被害者の8割以上が65歳以上の高齢者だとか。こう聞くとお年寄りはボケているから騙されやすいんだと思われがちですが、悪意ある人たちは基本どんな相手でも騙す手口を練ってくるもので別に高齢者しか狙えないわけではないでしょう。結局、少子高齢化で、若者は低所得者が多いとなれば、当然カモになるのは高齢者…ということなのかな。
でもこのまま少子高齢化が極まっていけばいずれは高齢者が高齢者を騙す世界になっていくのだろうか。すでにそうなり始めた気配もチラホラするし…。
そんなことを考えていたらそのまんまな内容の映画が登場しました。それが本作『グッドライアー 偽りのゲーム』です。
インターネットのオンラインデートサービスで知り合った高齢者の男女。実はその片方は詐欺師で、資産を騙しとろうと画策していた…というストーリー。え、高齢者も出会い系ですか…と別方向で感慨深いのですが、このお話のその設定は、原作者の親戚の年配者の実体験が基になっているそうです。ということは、全然あり得るんですね。まあ、ネットだろうがリアルだろうが詐欺師は巧妙に近づいてくるものですしね。
ひとつ忠告しておきたいのは、本作はコンゲーム的な騙し合いで二転三転する軽妙なサスペンスを満喫す作品ではありません。邦題に「偽りのゲーム」とあるせいでそのイメージが誘発されてしまいますが、そうではないのです。邦画にもありがちな“ライアーゲーム”風だと思わない方がいいでしょう。
じゃあ、どういう映画なのかというと…それは、その、言いづらい…。ネタバレになってしまう…。
ヒントは、ヨーロッパが舞台です…ということかな(アメリカ映画なのですけど)。あまりエンタメ性を期待はしないでください。
観終わって振り返ると、原題の「The Good Liar」はまさに的を射たタイトルでしたね。
監督はディズニー実写版『美女と野獣』で大ヒットを叩き出したベテランの“ビル・コンドン”。彼は『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』という作品でも高齢者を主人公した描写が大変上手く、『グッドライアー 偽りのゲーム』のような題材もお手の物ですね。
主演となるのは、『キャッツ』でも老猫をしっかり演じていた“イアン・マッケラン”と、『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』でも印象的な演技を見せていた“ヘレン・ミレン”。大物も大物の名俳優ですが、これが初共演らしく、初めての対面でこの関係性ですからなんか凄まじい…。これだけでもとても貴重なものが観られるので価値があるというものです。“イアン・マッケラン”は80歳、“ヘレン・ミレン”は74歳、まだ元気そうで何より。
他の出演陣は、『ダウントン・アビー』でおなじみの“ジム・カーター”、映画・ドラマ・劇と多方面で活躍する“ラッセル・トーヴィー”など。コンパクトな作品なのであくまで主演二人を脇から支える文字どおりの脇役ですが。
脚本は『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』でも“ビル・コンドン”監督とタッグを組んだ“ジェフリー・ハッチャー”、音楽は『スリー・ビルボード』で高く評価されたばかりの“カーター・バーウェル”です。
『グッドライアー 偽りのゲーム』を観ながら、自分も騙されていないか、そして騙していないかを考えてみるのもいいかもしれません。もし“騙し”に気づいたら、どうするのかはあなたしだい。
オススメ度のチェック
ひとり | ◯(俳優&監督目当てでも) |
友人 | ◯(映画ファン同士で) |
恋人 | ◯(カップルは若干気まずいかも) |
キッズ | △(露骨な犯罪描写あり) |
『グッドライアー 偽りのゲーム』感想(ネタバレあり)
その出会いは仕組まれている?
2009年のイギリス、ロンドン。
ある人物がインターネットの出会い系サイトを閲覧しています。自分が出会いたい人のプロフィールを選んでいき、「未亡人」にチェックを入れ、サジェストされた対象の中からひとりを選択。さっそく「会えないか」とディナーに誘うテキストを送ることに。
しかし、それは純粋な愛を求めているわけでも、退屈な時間を賑やかに変える友情を欲しているわけでもありません。私利私欲の狙いがあるのでした。
この出会い系サイトで見知らぬ相手にコンタクトの約束をとった男。その姿は若者でも中年でもなく、老人です。彼、ロイ・コートネイは経験豊富な「詐欺師」でした。相手の信頼を巧みに勝ち取り、資産を騙し取るベテランです。今回も手慣れた手つきでカモを物色し、ベティ・マクリーシュという未亡人の資産家にターゲットを定めたのでした。ちなみにこういうタイプの詐欺師って英語で「con artist」って言うんですね(アーティストという言葉は何でも使えるなぁ)。
ロイはベティと店でディナーをとります。初対面の印象はとても大事。愛想よくコミュニケーションをとりながら、和やかな食事の時間を過ごします。傍から見れば仲良さそうな男女老人のほのぼの風景です。もちろんロイの頭には200ポンド以上の彼女の財産しか見えていません。
映画館デートなどを重ね、すっかり距離を縮めるロイ。ベティの家に招かれ、自宅で食事もごちそうになり、家まで送ってもらいつつ、ここぞとばかりに「老体で階段を登るのも大変だよ~(意訳)」と白々しくアピール。結局、ベティの家に泊めてもらえることに。
年寄りを騙すなどチョロいもんだと言いたげな楽勝ムードを漂わす年寄りです。
しかし、ベティの見ていないロイの本当の顔は恐ろしいものです。詐欺師と言いましたけど、実質は裏業界に顔が利く大物みたいな存在で、仲間たちと常に誰かしらを翻弄し、ハメて、利益をぶんどっています。そのためであれば暴力さも辞さないです。詐欺師というかヤクザの組長ですね。
ロイの信用しているビジネスパートナーはヴィンセントという男。彼と一緒に詐欺を働き、今回のベティの一件にも関わってもらいます。
ヴィンセントという第3者の存在の仲介によって警戒心を解きつつ、そのまま資産をくすぶらせるのはもったいないとオフショア投資をさりげなく勧めます。
一方で、ある日、ベティは苦しそうに倒れ込み、体の調子が悪そうです。まあ、ロイにとっては好都合。さっさと詐欺のチェックメイトを決める時間です。
休暇旅行を提案し、一緒の帽子や傘を買ったりと、気分を底上げさせていい気分にさせます。
ところがそんな二人に不信感を持っている人物がいました。それがベティの孫のスティーブン。彼はあまりにも急速に親密になり、私生活にまで踏み込んでくるロイを警戒していました。
そして密かにロイの身元を調査します。そのままロイに真実を教えてほしいと詰め寄ります。
ロイは話しだします。自分の過去を。「ロイ・コートネイ」と名乗る前の話。まだ大戦の爪痕が残る1948年。私、ハンスは親しかったロイの身分を盗み、生きることにしたのだ、と。ロイのドイツ語通訳者であった自分はそうやって新しいアイデンティティを手に入れ、今に至る、と。
その重たい昔のエピソードを黙って聞いていたベティ。気さくな老人の裏側に隠れていた深刻な過去を知り、同年代として同情する気持ちになったのか。
いいえ。実はベティにも彼女の狙いがあるのでした。彼女の頭の中には“アレ”しかありません。ぐらぐらと沸き立つ静かな復讐の感情…。ついにそれが表沙汰になるときまであと少し…。
見た目は最高にクールだけど
『グッドライアー 偽りのゲーム』の前半は“騙している側”の立場のシメシメ感を楽しむテイストになっています。観客は状態を把握している(つもり)のでますます客観的にこの詐欺の全容を眺めていられます。
ロイというキャラクターがまたいいですね。当然のように“イアン・マッケラン”の演技が上手すぎる。
作中前半では「騙しているとき」と「素の本性を表しているとき」の場面が交互に展開されるのですが、それが非常に極端な対比描写になっており、観客の笑いを誘います。
冒頭のロイとベティのごく一般的な外食風景…からの、全裸お姉ちゃんがポールでクネクネ踊っているクラブをズカズカと歩くロイ。いや、こういう風俗店の奥が悪い奴らの溜まり場なのはわかるけれども…。
足が悪いフリをしてヨロヨロ歩いたかと思えば、部屋でひとりになった瞬間に杖をベッドに投げ捨て、ヤレヤレと演技を解除。あげくに鞄を肩にかけてスタスタと颯爽と歩いていきます。私でもこんなかっこよく歩けない…。まあ、さすがにあんな露骨に変化していたら色々な方面からバレるんじゃないかと思うのですが…。
“イアン・マッケラン”、なんでこんなにスタイリッシュなんだ…。お爺ちゃん好きにはたまらない映画じゃないか。なんかこう、お年寄りしか出てこないクールなスパイ映画を作ってほしい気分。
ヘレン・ミレンだから意味がある
しかし、『グッドライアー 偽りのゲーム』の終盤になると状況はひっくり返ります。
共同口座にお金を振り込む契約を交わし、互いの納得のもと、めでたく合意に達した後。帰宅後に肝心のキーパッドがないことに気づいたロイは急いでベティの家に戻ると、なぜかそこはもぬけの殻。すっからかんの家のとある一室で、椅子にポツンと座って勝ち誇っているベティ。ここから彼女のターン。
ここからは“ヘレン・ミレン”のクールさに痺れる番です。
ベティ(リリー)は実はロイ(ハンス)に過去にレイプされた事実があり、そうやって人生を滅茶苦茶にされたことへのリベンジを計画していたのでした。全ては仕組まれた罠。デート時に観た映画であったり、スティーブンの追求で過去を問いただしたり、最後の契約時の暗証パスワードを「LILIES」にしたり、少しずつ揺さぶりをかけて気づかせるチャンスを与えたものの、何もかも気にも留めなかったロイ。そんな加害者への鉄槌を下すしかないと決めた彼女は審判を下します。
同意なき性暴力に苦しんだベティが、同意を出し抜いて資産を逆にかっさらうという展開は、なかなかにカウンターとして効いています。
それに“ヘレン・ミレン”というキャスティングも味になってきます。彼女が一躍有名になった1991年のドラマシリーズ『第一容疑者(Prime Suspect)』は、女性差別に対抗しながら奮闘する警部の物語。そのキャリアを知っていると、今回の『グッドライアー 偽りのゲーム』での“ヘレン・ミレン”の輝きが一段と眩しく見えます。まさにラスボスとしてふさわしい存在の登場です。
忘れるんじゃない
スカッとするオチであって気持ちがいいはいいのですが、もちろん『グッドライアー 偽りのゲーム』はこの手のジャンル特有のツッコミどころもあります。
ロイの詐欺師っぷりも、確かにチャリング・クロス駅での電車突き落とし殺害シーンは華麗でしたが、いくらなんでも監視カメラをクイっと上に一台上げただけでは、他の情報証拠から犯行がバレてしまうだろうに…。ただでさえロイがスタイル良すぎて目立つし…。
また、ストーリーの肝となるベティの用意周到な戦略ですが、よく考えなくともさすがにトントンと上手くいきすぎです。そもそも彼女は資産家なのですから、ここまで回りくどいことをしなくても、もっとストレートに復讐できる気がします。ベティが貧乏な家庭だったら、また違った復讐の難しさがあるんですけどね。
あとやっぱり唐突に出てくる過去エピソードの描写は薄味です。物語上とても重要なのになんかこうアッサリしている。重大なレイプシーンも、非常に抽象的な性暴力の典型例ですし、もう少し性被害を背負って生きる者の苦しみが滲み出る話を個人的には期待していたのですが…。いっそのこと過去編は映像化せず、現代パートだけで過去を匂わす演出だけでも想像力が働いて良かったかもです。
女性復讐モノの映画としては、『REVENGE リベンジ』『ライリー・ノース 復讐の女神』など多種多様ですが、『天才作家の妻 40年目の真実』のような心理的策略もやっぱり楽しいもので、『グッドライアー 偽りのゲーム』はちょうど心理戦と暴力的仕返しの中間くらいでしょうか。ゆえに若干中途半端な感じに見えなくもないがやや欠点かもしれません。でも二人の名演のおかげで余裕でカバーできていました。
一番許せない感情が沸き上がるのは「人を騙したこと」よりも「人を騙した事実を忘れること」なのかも。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 64% Audience 85%
IMDb
6.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★
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被害を受けた女性が男性に復讐をする映画の感想記事の一覧です。
・『ライリー・ノース 復讐の女神』
・『天才作家の妻 40年目の真実』
作品ポスター・画像 (C)2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved ザ・グッド・ライアー
以上、『グッドライアー 偽りのゲーム』の感想でした。
The Good Liar (2019) [Japanese Review] 『グッドライアー 偽りのゲーム』考察・評価レビュー