幸せを分けてほしい。映画より現実の方がロマンチック…映画『光をくれた人』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:イギリス・ニュージーランド・アメリカ(2016年)
日本公開日:2017年5月26日
監督:デレク・シアンフランス
性描写 恋愛描写
ひかりをくれたひと
『光をくれた人』物語 簡単紹介
『光をくれた人』感想(ネタバレなし)
映画の恋が現実の恋に
多くの観賞者の心に恋愛トラウマを巻き起こした、カップルや夫婦で観るには相当な覚悟がいる映画『ブルーバレンタイン』。私もエンディングは「ひぃぃぃ」となりながら椅子に磔にされた気分で観た記憶があります。
そんな『ブルーバレンタイン』を手がけた“デレク・シアンフランス”監督の最新作『光をくれた人』がいよいよ日本でも公開です。公開に至るまでちょっとあれがありましたが、気のせい気のせい。公開されたのだからOKですよ。
本作は2012年に出版されたM・L・ステッドマンの小説「海を照らす光」が原作。
再び恋愛を扱うということで、また“ブルー”が再燃するのかと不安になりますが…安心してください! 少なくとも言えることはカップルで観ても問題ありません! 内容は結構大人しめです。監督の前作『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ 宿命』では激しい緊迫感もありましたが、ガラッと変わりました。これを期待外れととるか、新鮮ととるかは人しだいですが、万人に観やすい作品であることはいえるでしょう。ただ、あの壮絶な夫婦の破局を描いていく映画と比べたら、この『光をくれた人』は天国に見えてくるのでは? とくに前半部は幸せオーラに満ち溢れていますよ。
ただ、本作、ストーリーとか作品の出来以前に、特筆せざるを得ない話があって…。
それは、本作で夫婦を主演した“マイケル・ファスベンダー”と“アリシア・ヴィキャンデル”の二人が本作がきっかけで交際をし始めた…というなんともロマンチックな展開があったこと。映画の恋が現実の恋になるとは。そのため、このエピソードを知ったうえで本作を観ていると、お話しに集中する前に、「なんだ二人とも!ちゃっかりして!ほんと幸せそうじゃないの!」みたいな気分に終始なってきます。まあ、でも良かったですよ、日本公開時点で二人が別れていなくて…。
あと、公式サイトにも載っているガーディアン紙の批評…「ティッシュ会社の株価が上がるほど、観客は泣くに違いない」っていうのは、褒めているのかふざけているのか謎なのが、気になりました(どうでもいい話)。
『光をくれた人』のプロデューサーである“デヴィッド・ハイマン”は「ハリー・ポッター」の映画化権を持っている人で有名ですが、「ハリー・ポッター」の方がひと段落ついて今後はこういう映画とかを撮っていくのかな。
幸せを分けてほしい人にオススメです。
『光をくれた人』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):その灯台で人生を見い出す
1918年12月。第一次世界大戦後、軍人だったトム・シェアボーンは「しばらく静かな時間を過ごしたいんです」と灯台守の仕事を願い出ます。あまり良い職場ではないと言われますが、「西部戦線ほど過酷ではないはず」とトムは淡々と答えます。
普通は独身者は送らない僻地。「妻子がいるほうが慰めや助けになる」と言われつつも、2日後の臨時派遣が決まります。
トムはさっそく灯台のある地域へ行き、ハスラック港長を始めとする地元の有力者に挨拶します。するとイザベルという女性が現れ、トムはその場で少し惹かれていきます。イザベルもまた物静かながらどこかに思慮深さを秘めたトムに注目します。
とは言え、灯台に向かわないといけません。船で到着したのは周囲に海しかない、孤独な場所。前任者の灯台守は精神をおかしくしてしまったようですが、トムはここに望んでやってきました。冷たい風が吹きつける中、ひとりそこで立ち尽くすトム。
3カ月が経過。人がやってきてトムを迎えに来ます。前任者のトリンブルが崖から身を投げて死んでしまったというのです。臨時のはずでしたが正式に3年契約を結ばないかと提案されます。
トムはイザベルのもとを訪れ、食事をご馳走になります。その後、トムとイザベルは外で並んで歩きます。あまり喋らないトムにイザベルは親しげに接してくれます。イザベルも子どもを失った経験があり、心の奥に悲しみを抱えていました。
2人は互いの苦しみを打ち明けます。トムは未来について考える余裕はありませんでしたが、イザベルとの会話の中で笑みをこぼすことができました。
そしてイザベルは「ヤヌスへ連れて行って」と言ってきます。
灯台に行けるのは妻だけだと説明すると「じゃあ、結婚して」と口にするイザベル。
そんな結婚なんて考えたことがなかったトムはイザベルを家に送ります。
灯台へ戻ったトム。その寂しい地でイザベルに手紙を書きます。海を見渡すたびにあなたを想うと…。イザベルも手紙を返します。自分の写真を添えて…。
2人の愛は確実に強く芽生えて成長していきました。感情を取り戻したトムは、新しい将来について切望する余裕が生まれます。
やがてトムはこの島に来て一緒に暮らしてほしいと書き綴るのでした。
イザベルの答えは「イエス」…。
こうして2人は結婚し、町はお祝いムードに。幸せな時間を2人は満喫します。
2人は灯台に移動。イザベルは灯台の景色に圧倒されます。2人の住まいとなる部屋は静まり返り、ここでは誰も邪魔をする者はいません。
トムとイザベルは体を交え、それからも仲睦まじく夫婦の愛を深めます。そこでは孤独とは無縁でした。トムもイザベルも毎日が笑顔です。
ところがある事態が起き…。
イチャイチャを見守る
『光をくれた人』では前半はトムとイザベルの出会いから仲睦まじい夫婦生活にいたるまでが実に美しく丁寧に描かれていました。
いかんせん主演の二人が現実でも付き合っちゃったがために、このパートは、フィクションなのかリアルなのかよくわからない感じで観てました。もはや結婚パーティとかで流れる新郎新婦たちの写真スライドショーを見ている気分。マイケル・ファスベンダーとアリシア・ヴィキャンデルの結婚の際は、本作のダイジェスト映像を流せばいいんじゃないですか。
二人は今最も輝く役者ですから、演技力も申し分なく、安定しています。そういう高い演技力があるからこその、イチャイチャを見守れる余裕なんですけどね。これに“デレク・シアンフランス”監督の得意技である実在感のある人物描写が加わるわけですから、完璧です。なんでも実際に撮影地となった人里離れた半島でスタッフと役者たちが共同生活しながら撮ったそうで、徹底したリアルを求める“デレク・シアンフランス”監督らしいこだわり。最初は嫌がっていた“マイケル・ファスベンダー”もすっかり島生活にハマっていたとか。
というか、灯台に佇む“マイケル・ファスベンダー”、めちゃくちゃ絵になるなぁ…。
“マイケル・ファスベンダー”、2015年は『スティーブ・ジョブズ』で女性のことなんて全然考えていないクソ野郎な奴を演じていたのに、それがまるで嘘みたいに正反対だった…。
幸せオーラがスクリーンの外にまで飛び出てきて、イチャイチャを見守っている観客側の心も癒すという、『ブルーバレンタイン』と真逆の効果を与える本作。『ブルーバレンタイン』が“結婚したくなくなる”映画なら、本作は“結婚したくなる”映画ですね。
孤島だからこその平凡さ
ただ、ストーリーに関してはそもそものプロットが平凡というかベタなので、退屈になりがちです。この手の「他人の子を育てる」系の話だと、日本でも是枝裕和監督作の『そして父になる』なんかがありましたが、どうしても既視感を拭えません。展開も予想どおりであり、予定調和で淡々と進むため、監督の過去作と比べると特別な個性はない感じにも受けました。
物語にサスペンスが入ってくる…例えば、流産するとか、赤ん坊が流れてくるとか、グレース(ルーシー)が行方不明になるとかの場面も、比較的盛り上がらずに収束するのも、単調さに拍車をかけている気がします。
中心となる夫婦への感情移入もしづらいです。これでは他人の子を奪うイザベルに不快感を持つ人も出るでしょうし、そのイザベルをかばうトムも理解しにくいでしょう。一応、トムには第1次世界大戦を兵士として経験したというバックボーンがあってこその葛藤があったわけですが、そこもこの子をめぐる行動の理由づけとしてはわかりにくいですし。
これらは“孤島”という特殊な環境下ゆえの難しさな気もします。『シャチの見える灯台』を観たときも同じく思いましたが、人のいない悠々とした自然だけがある空間で映画を展開させると、どうしてもフィールドに引っ張られて映画ものんびりしてしまいますね。
そもそも論として、灯台守という過酷な労働環境を夫婦という規範的な枠で払拭していくみたいな物語の軸を、安直に肯定していいのかなという引っかかりは私にもありましたが…。
“デレク・シアンフランス”監督、次はどんな実在感あるキャラクターを創造するのでしょうか。楽しみです。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 61% Audience 61%
IMDb
7.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★
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灯台を舞台にした映画の感想記事です。
・『ライトハウス』
作品ポスター・画像 (C)2016 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC
以上、『光をくれた人』の感想でした。
The Light Between Oceans (2016) [Japanese Review] 『光をくれた人』考察・評価レビュー