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映画『ひらいて』感想(ネタバレ)…愛をひらいて、クィアに折りなおして

ひらいて

愛をひらいて、クィアに折りなおして…映画『ひらいて』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:ひらいて
製作国:日本(2021年)
日本公開日:2021年10月22日
監督:首藤凜
児童虐待描写 性描写 恋愛描写

ひらいて

ひらいて

『ひらいて』あらすじ

校内では一目置かれている女子高校生の愛は、同じクラスの男子高校生であるたとえに片思いをしていた。そんなたとえが誰かからの手紙を大事そうに読んでいる姿を偶然目撃した愛は、ある夜、悪友たちと学校に忍び込んだ際、その手紙を盗んでしまう。手紙は、糖尿病の持病を抱える陰気な少女・美雪からのものだった。学校でも目立たない美雪とたとえが密かに交際していることを知った愛の想いは揺れるが…。

『ひらいて』感想(ネタバレなし)

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監督:首藤凜に注目!

人が映画監督を志すとき、まあ、その背景には個人のいろいろな事情や想いがあるのだと思いますが、「いつかあれを映画にしてみたいな」という目標や夢があったりすることもあるはず。でもそんな理想が簡単に叶うわけもないのが現実。映画監督としてデビューするだけでもありがたいものです。今は一歩ずつ着実にキャリアを重ねて、自分の目指すあの作品に辿り着けたら…と願いながら前に進んでいる人も多いでしょう。

しかし、この“首藤凜”という監督はまだキャリアは浅いのにもうその憧れの作品の映画化を叶えてしまいました。

その映画とは本作『ひらいて』です。

まず“首藤凜”監督とは何者なのか。1995年生まれで、2016年に監督・脚本を手掛けた自主短編映画『また一緒に寝ようね』が「ぴあフィルムフェスティバル2016」で審査員特別賞と映画ファン賞を受賞して注目を集めます。そして2017年に初の長編オリジナル映画『なっちゃんはまだ新宿』が高く評価され、2019年には”山戸結希”監督プロデュースの若手女性監督が結集したオムニバス『21世紀の女の子』に参加。じゅうぶんに羽ばたける才能の持ち主です。

その“首藤凜”監督が「この小説を読んだ17歳からこの映画を撮るために生きてきました」と断言するほどに自身による映画化を熱望していたのが、“綿矢りさ”原作の「ひらいて」でした。

“綿矢りさ”と言えば、2001年の「インストール」で第38回文藝賞を受賞し、その受賞当時は17歳だったこともあって、その若さがメディアで話題となっていたりもしました。2003年に「蹴りたい背中」で第25回野間文芸新人賞の候補となり、2004年に同作品で第130回芥川龍之介賞を受賞(当時19歳)。最年少記録の大幅更新は業界を沸かせます。その後も筆は止まらず、多彩な作品を生み出し、そのたびに脚光を浴び、今やすっかり愛好するファンも多い小説家です。私は小説を全部読んでいないのでいつかコンプリートして読み終えておかないとな…。

“綿矢りさ”原作の映画化作品もこれまでいくつかあり、最近は2017年の『勝手にふるえてろ』、2020年の『私をくいとめて』と、いずれも“大九明子”監督の手で映像になっています。

それだけ有名な小説家であれば映画化権なんてとっくのとうにとられているのだと思いきや、案外そうでもないようで(やはり日本はそのへんの競争はハリウッドよりも緩いのか)、キャリアも浅めの“首藤凜”監督がこの“綿矢りさ”原作の「ひらいて」を映画化するという栄誉をゲットしたのでした。なんだろう、夢叶えちゃったから“首藤凜”監督、次、何するのかな…。

ともかくそんな監督個人的な待望だった映画化ですから、“首藤凜”監督の熱量もたっぷりな映画『ひらいて』。原作ものではあるけど、“首藤凜”監督の作家性はごく自然と蛇口全開になっている、そんな感じです。“首藤凜”監督は好きなものには一直線なクリエイティブ性なのかな…。

映画『ひらいて』の主人公である女子高校生も好きなものに一直線なタイプです。いや、一直線ではないか、曲がりくねりながら突進するようなトリッキーなアグレッシブさというべきだろうか…。

本作は高校の青春恋愛学園モノなのですが、女2男1の三角関係を中心に描いています。でもそれは大方の予想とは違う方向に進んでいく。そこに面白さがあります。本作を一部のメディアでは「禁断」「過激」とか表現する光景を見たりもしましたが、そういう言い方は良くないですね(教師と生徒の恋愛じゃないんだから)。せめて「規範的ではない」、もっとくだけた言い回しにするなら「自分の愛を見つける」…そんな作品だと言えばいいんじゃないかと私は思いますけど…。解釈は人それぞれですが、私はこんなクィア風味溢れる関係を描く映画なのだから、それを踏まえての社会の影響力を考慮した作品説明を意識したいし、そういう感想を書きたいと考えてます(詳細は後半の感想で)。

その映画『ひらいて』で強烈な印象を残す主人公を演じるのは、『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』『咲 Saki』『あゝ、荒野』などで映画キャリアを重ね、2018年の『ミスミソウ』でインパクト絶大な演技を見せつけた“山田杏奈”。この『ひらいて』も“山田杏奈”にしかできない“山田杏奈”ワールドが繰り広げられています。今作の“山田杏奈”は『樹海村』みたいな霊感はないだろうけど、悪霊くらいは簡単に殴り倒せそうな気がする…。

共演は、「HiHi Jets / ジャニーズJr.」の“作間龍斗”、『黄泉の国のオオマガさま』の“芋生悠”、『黒崎くんの言いなりになんてならない』の“鈴木美羽”、『のぼる小寺さん』の“田中偉登”、『37セカンズ』の“板谷由夏”、『寝ても覚めても』の“田中美佐子”など。

映画『ひらいて』は、宣伝でも作品内でもハッキリ明言はしていませんが、クィアネスが滲む関係性を見たいならオススメです。

なお、作中で親子間の暴力描写があるので、その点はご注意ください。

オススメ度のチェック

ひとり4.0:クィアな芽生えが見たいなら
友人3.5:俳優好き同士で
恋人3.5:同性愛ロマンスあり
キッズ3.5:性的なシーンあり
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『ひらいて』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『ひらいて』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):好きな人が好きな人

アイドル・ソングに合わせて校庭で踊る女子高校生たち。文化祭で披露するダンスの練習です。その中のひとり、新藤美雪がそっとその場を抜けていき、ダンスの中心にいた木村愛が少し後を追いかけます。

木村愛が立ち去った新藤美雪を探していると、校舎裏で倒れていました。「ジュース…」と擦れた声で呟く新藤美雪。すぐに木村愛はジュースの入ったコップを弱り切った新藤美雪の口元に持っていきますが、何を思ったのかそのジュースを自分で口に含んで口移しでわざわざ新藤美雪に与えます

少し体力が回復した新藤美雪。「保健室、一緒にいこうか」と木村愛は言いますが、「大丈夫だから」と小走りに去るのでした。その場に残された木村愛は新藤美雪が落とした飴を平然と食べます。

新藤美雪は保健室へ行くと、先生に「西村くんを手当てにしてあげて」と言われます。転んだらしく肘に傷があります。

授業中、西村が音読する間、木村愛は教科書に目をやります。そこには西村の名前である「たとえ」の言葉が…。

それが終わり、掃除の時間。木村愛はわざとゴミ箱を階段から落として、西村と掃除します。

「たとえって変わった名前だよね。どういう意味?」「わかんないな」「いい名前だね」

あまり会話は楽しく続かず、去っていく彼をじっと見つめる木村愛。西村に好意を抱いていましたが、西村はそっけない態度ばかりで全く距離を縮めることはできません。

西村が机の引き出しに何か入れているのを見かけ、それが気になります。

友人の竹内ミカと自転車で熟へ。竹内ミカは好きな多田健にお弁当を律儀に作っていました。そんな竹内ミカの感情に多田健はあまり気づいていない様子…。

ゲームセンターで遊んでいると学校に忍び込んだ奴らがいるとのことで自分たちも向かうことに。フェンスを乗り越え、夜の校舎に。木村愛は靴を脱ぎ、裸足で校舎を繋ぐ外の渡り廊下から身を乗り出して、あいた階段窓から侵入します。そして教室で西村の机の中を探り、教室の後ろの荷物棚に手紙を見つけます。

そこへ多田健が入ってきて急に抱きしめられ、「好きだ」と言われます。「私、好きな人がいるから」と木村愛はそっけなく言い、竹内ミカが来て話はそこで終わります。

さっそくひとりのときに手紙を読むと、それは西村たとえ宛てに書かれた手紙でした。書いたのはあの新藤美雪。「早く一緒に東京の街を歩きたいな」と丁寧な淡い想いが込められた文章です。

次の学校の日、木村愛は休み時間にどこかへ行く新藤美雪を追い、彼女が目立たない場所で腹部に注射を打っているのを目撃。

その夜。じっとできずまたも学校に忍び込んで手紙をとってくる木村愛。西村と新藤美雪は定期的に文通をしているようです。

木村愛は書店で1型糖尿病の本を手に取ります。そして学校で思い切って新藤美雪に話しかけ、「漫画はどれが面白いの?」とさりげない話題。さらに「インスリン、気にせず打って」と知ったばかりの1型糖尿病について「私の親戚にもいるんだ」と知識があるように装います。加えて「わたしも打ってみたい」と言い、実際に試して「こんなの全然気にしないで打てばいい」と言い、LINEを交換します。

こうして木村愛は新藤美雪と映画やカラオケに行くまでの仲まで近づき、おもむろに本題の質問をぶつけます。

「なんか美雪ってかわいい、カレシいるの?」

西村たとえと付き合っていることを白状する新藤美雪。

すると木村愛はその新藤美雪に「じゃああれが美雪のファーストキス? ちゃんとやりなおそうか」と言ってキスをして…。

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クェアネスを感じる理由

『ひらいて』は、ざっくり言ってしまえば、非常に独占欲や支配欲の強い木村愛が、西村たとえという好意を抱く男子高校生に近づこうとするも上手くいかず、そこでその西村が密かに交際している新藤美雪に近づき、その新藤美雪にキス、どころか性的関係まで持ってしまい、文字どおりの略奪的な行動に出る…というストーリーです。好きな人を自分のものにするために「好きな人の好きな人」も自分のものにしたい…そんな欲望が見え隠れしています。

世間的には本作の木村愛は理解不能な人間のように思われやすいでしょうが、一方で見方を変えれば、本作で描かれているのはとても真っ当なクィアネスにも受け取れます。ヘテロノーマティビティ、モノセクシュアル、モノアモリーな規範に沿わない…つまり、木村愛はバイセクシュアル的でポリアモリー的な関係であってもそこまで気にしない、むしろそっちの方が本人にはしっくりくるのではないか、と。

おそらく原作者も監督も本作をクィアを描いた映画として明確に設定はしていないのでしょう(少なくともそんな説明を大手メディアでは語っていない)。観客の大方も木村愛をヤバい奴として軽く消費しがちでしょうし、正直、演じた俳優陣なんかもそんなノリで(少なくともインタビューを見る限りは)語っています。

しかし、『ひらいて』に自覚的かどうかを問わずクィアネスを感じて、そこに光を見い出している観客だってきっといるはずで…。

それは錯覚ではないはず。というのも“首藤凜”監督は本作の撮影前に見ていた映画のひとつに『ショー・ミー・ラブ』という思春期の少女たち同士の愛を描いた1998年のスウェーデンのレズビアン映画を挙げています。要はそういう作品内のコードをたぶん無意識かもしれないけど引用したり改変して本作にも影響させているのはあるでしょうし、『ひらいて』がクィア風味になるのも必然なのかな。

こんなふうに衝動的に愛を欲する姿を描いていくとおのずとクィアっぽくなる作家性を持つ監督というのは日本でもたまにいますが、あまり規範的な価値観に縛られていない証左なのではないかとも思います。それがレプリゼンテーションの意義としてはまた別の議論にもなってくるでしょうけど…。

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肯定感を与えてくれる相手

面白いのは、例えば“山田尚子”監督の『リズと青い鳥』みたいにフワっとした少女たちの交流の中でサフィックな関係が構築されていく姿に結実するのでもなく、『ひらいて』は受け手と攻め手が明確に分かれているような関係性で成り立っており、よりマゾヒズムを感じるというか、規範に真っ向からぶつかっていく反抗心が強めな感じがします。

『やがて君になる』の方向性に近いというか…。

それにしたって『ひらいて』の木村愛は我が道を行くスタイルです。あそこまで行くと清々しいし、ちょっと高校生らしい雑さもあってそこが愛嬌にさえ見える。ゴミ箱をぶん投げたり、荒っぽい面もあれば、1型糖尿病について調べてマウントをとる(とれてないけど)という行動に出たり、すごい精一杯な高校生の全力…。

そもそも木村愛は冒頭のダンスでセンターで踊っています。ということは女子コミュニティのヒエラルキーにおいてそこに陣取れるほどにパワーがあるということ。でも木村愛本人はその立場に満足そうには全然見えない。いつもつまんなそうな顔をしています。

新藤美雪は自分の体質ゆえに肯定感が全くないですが、一見すると学校の花形にいそうな木村愛も実は肯定感はないのだろうなと察せます。しかもプライドゆえか全然打ち明けられない。必死にわかっているふり、大丈夫なふりをしており、恋愛面も「恋をわかっている」ということにしておきたい。でも誰とも付き合えない、このもどかしさ。それ以前に恋愛すれば何か良いことになるのかもわからない。そこには恋愛伴侶規範に依存するしかない未熟さもある。

そんな木村愛は新藤美雪の存在によって予想外にも心の空虚さを埋めることができていく。西村からも「貧しい笑顔だね。自分しか好きじゃない人間の笑顔だよ」と言われ、新藤美雪からも「今言ったこと嘘でしょ。何も反省なんかしてないでしょう」と言われ、仮面の裏をバッサリ身抜かれ、ついに吹っ切れた木村愛は新藤美雪の教室へ駆け込み、あの言葉を口にする。

木村愛の感情に映画が投げやりになることなく、しっかり向き合ったからこその見事なラスト。“首藤凜”監督の演出力と“山田杏奈”の表現力が噛み合って、これ以上ない恵まれた映画化になったのではないでしょうか。本作は今後十数年経っても再評価される作品だと思います。

『ひらいて』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
?.? / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0
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作品ポスター・画像 (C)綿矢りさ・新潮社/「ひらいて」製作委員会

以上、『ひらいて』の感想でした。

『ひらいて』考察・評価レビュー