9歳の記者だから大人にできないことができる…「Apple TV+」ドラマシリーズ『レポーター・ガール』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2020年~)
シーズン1:2020年にApple TV+で配信
シーズン2:2021年にApple TV+で配信
原案:デイナ・フォックス、ダーラ・レズニック・クリージー
イジメ描写
レポーター・ガール
れぽーたーがーる
『レポーター・ガール』あらすじ
『レポーター・ガール』感想(ネタバレなし)
子どもから学ぶジャーナリズムの価値
ジャーナリズムなんて自分には無縁だと思っている日本人は多いのかもしれません。
でも自分のあずかり知らぬところで不要不急の外出禁止が決定したり、大好きだった店が営業規制で潰れたり、楽しみにしていたイベントが中止になったり、また一方で五輪とかいう特大イベントだけは優遇されていたり、そんなことを経験してしまったら、もはやジャーナリズムを無視している場合でもないでしょう。なぜそんなことになったのか、どういう意思決定のプロセスがあったのか、誰が責任をとるのか、それらを追及して調査して報じるのがジャーナリズムです。それがなければ私たちはただ黙って疑うこともせずに何でも鵜呑みにするロボットみたいになっちゃいますからね。
ジャーナリズムは私たちが自由で平等な人間らしさを獲得するために欠かせないものです。でもやっぱりその大切さを認識するのは難しい…。
じゃあ、9歳の子に教えられてみるのはどうですか?
ということで今回の紹介する作品の話。それが本作『レポーター・ガール』です。
本作は「Apple TV+」のオリジナル・ドラマシリーズです。内容はずばりミステリー。9歳の女の子が自分の住むある地域の裏に潜む謎を解き明かしていきます。その子はジャーナリスト志望…というかもう記者として自分なりに活動している意欲旺盛なキッズです。
こうやって書くと子ども向けの内容なのだろうと思うじゃないですか。ミステリーといっても迷子の犬探しみたいな。正直、私もそんな感じだろうと鑑賞前は舐めていました。
ところがこの『レポーター・ガール』、只者じゃなかった。想像以上にがっちりとミステリーをやっています。『TRUE DETECTIVE』ほどじゃないにせよ、それでも地域社会に蠢く闇に焦点をあてており、かなり本格派です。主題になっている事件は児童誘拐であり、軽いものでは決してありません。
そんな事件を9歳の子を主役にして大丈夫なの!?と思うのも無理ないですが、まさにそこが本作の肝です。9歳の子が扱うには重すぎる事件。でも地域社会はその事件をうやむやにして大人はだんまりを決め込んでいる。そのような大人たちに対してこの9歳の子はジャーナリズムを見せつける。
作中でこんなセリフも出てきます。
「子どもは大人が正しいことをすると信じている」
『レポーター・ガール』はジャーナリズムを見失った大人たちにあらためてその大切さを気づかせる話になっています。子どもだからこそ大人がハッとさせられる。この感覚はドラマ『ベビー・シッターズ・クラブ』のときと同じですね。
その大事な役を担う主人公である9歳の記者を演じるのは、あの『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』で観客を驚かせる名演を披露した“ブルックリン・プリンス”です。『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』でも「これ、演技なの!?」と衝撃を受ける名俳優っぷりでしたが、今作『レポーター・ガール』でまたもその才能をたっぷり拝めたことでハッキリわかります。この子、天才だと。
共演は、『ハイネケン誘拐の代償』の“ジム・スタージェス”、『The Sinner -隠された理由-』の“アビー・ミラー”、『JUSTIFIED 俺の正義』の“ジョエル・カーター”、『フーディーニ&ドイルの怪事件ファイル 〜謎解きの作法〜』の“マイケル・ウェストン”、『The Whispers』の“カイリー・ロジャーズ”など。
原案は実写版『クルエラ』でも脚本を務めた“デイナ・フォックス”と、ドラマ『デアデビル』を手がけた“ダーラ・レズニック・クリージー”。製作総指揮には『クレイジー・リッチ!』や『イン・ザ・ハイツ』でおなじみの“ジョン・M・チュウ”が加わっています。
緊張感のある本格ミステリーでありつつ、そこまで考察必須の難解さもなく、子どもでも大人でも楽しめるほどよいバランスにまとまっていますので、気軽にどうぞ。シーズン1は全10話で1話あたり約40~60分です。サクサクと観れると思います。
オススメ度のチェック
ひとり | :じっくり堪能 |
友人 | :ミステリー好き同士で |
恋人 | :見やすい作品 |
キッズ | :子どもでも大丈夫 |
『レポーター・ガール』感想(ネタバレあり)
あらすじ(序盤):私はジャーナリスト
ヒルデ・リスコは9歳、そしてジャーナリストです。父親のマットも記者であり、幼い頃からその影響を受けた結果、今や一端の記者として自分も自負しています。ブルックリンに暮らしていたときは、自主発行の自分の新聞もあり、精力的に活動。姉のイジーはバカにするし、妹のジニーは幼すぎてさっぱり理解していませんが、母のブリジット・ジェンセンの温かい支えもあって記者活動は順調…。
ところが急に引っ越しすることになりました。察するに父は記者を辞めたようです。なぜなのかはわかりません。こうして祖父が暮らしていた家に移り住むことに。
そこは父の地元でエリー・ハーバーという小さな町。父はいいところだと繰り返し、スクープを追うだけが人生じゃないと言います。でもヒルデはここでも記者活動を止めるつもりはありませんでした。
ヒルデは夜中に家の前に車が止まっていたと気づきます。朝食時に家族に話しますが父は相手にしませんし、姉は記者ごっこだと呆れぎみ。しかたなく学校へ。男子に夢中な姉に相手にされず、友達づくりの気分じゃないヒルデは外で寂しく食事。
帰り道。ガレージセールをしていたペニー・ギリスという女性に出会います。父と知り合いのようで「もう二度と戻らないと言っていたのに」と言います。そして頼みたいことがあると言われ、庭に父が昔使っていた自転車を置いて行きました。それを見てなぜか複雑な顔の父。
次の日。あのガレッジセールのギリス家の前に警察が多数。死亡推定時刻の話をしている保安官。どうやらギリスが亡くなったようですが、階段から落ちただけの単なる事故と処理するようです。
けれど殺人を疑うヒルデは納得いきません。「マジックアワー・クロニクル」という新聞を作成し、学校のサイトにアップしてさっそく例のギリス事件を報道。しかし、父に怒られ、ヒルデは「この町に来てからパパ、変だよ」と文句。ところが父は「普通の子らしく振舞え!」とかつてないほどに激昂します。
そのヒルデの新聞は学校でも問題に。母は擁護し、「女性が殺されたとでっちあげた」と校長のキム・コリンズはご立腹するのに反論。
ヒルデのジャーナリズム魂はさらに燃え上がりました。警察署へ直行し、保安官の女性のトリップが相手してくれました。熱意に負けてファイルを見せてくれるトリップ。そこであのガレージセールの現場からビデオデッキが消えていることに気づきます。
そしてこのトリップも父のことを知っており、なぜなのかその理由を知ることに。実は昔、町長の息子が失踪したことがあり、その子の名前はリッチー・ファイフ。自転車で家に帰る途中に誘拐され、以来見つからず死亡扱いに。結局、ペニー・ギリスの兄であるサム・ギリスが捕まって一応は捜査終了となったようです。
学校での辛辣なイジメにも負けず、スプーンとドニーという同級生の助けも借りて調査を続行。そして偶然にも校長先生の部屋で例のビデオデッキを発見。そのビデオデッキを持ち帰り、家で接続。そこにあったテープを見ます。
そこに映っていたのは、3人の自転車の子。バンでリッチーが拉致される映像。そのリッチーと一緒にいた男の子は…。「パパだ」
事件は今、娘に引き継がれました。
9歳の少女だからこそ記者になれる
子どもが事件を解き明かすと言えば、日本では国民的アニメとして劇場版も大ヒットしている『名探偵コナン』がありますが、あちらは子どもが捜査に介入してくることのリアリティは一切考えないという振り切った作りです。
対するこの『レポーター・ガール』はちゃんと子どもが関与してくることのリアリティを説得力を持って描いています。
主人公のヒルデは9歳にして『大統領の陰謀』を何度も観ているように、ジャーナリズムをしっかり体現しようという姿勢を持っています。加えてフェミニズムな価値観も芽生えています。きっとあの家庭はリベラルで自主性を重んじて育児してきたのでしょう(夫婦別姓でもありましたね)。
そんなヒルデが引っ越して移り住んだのは、保守的な田舎の地域。田舎特有の村社会で閉鎖性があり、ひとりの権力が全てを支配することも容易い場所。そこでヒルデは自分の生き方を試されることに。
当然、9歳なので限界があります。作中でもヒルデをパーフェクト・ガールのように描きません。等身大の9歳として普遍的に描いていますし、上手くいかなくて泣きじゃくることもあります。
しかし、ヒルデは自分が9歳だということも自覚していて、だからこそ「幼さは武器になる」と言い切ります。それはあざとさで大人を誤魔化すようなものではなく、9歳の子に正論を言われれば大人は否が応でも自分を改めるか突きつけられるということです。大人には子どもを守る責任があるというけれど、じゃあ大人として本当に責任をとれる正しさを持っているんですか…と。
このヒルデの揺るがない姿勢が物語では一貫しており、とても痛快なカタルシスをもたらしてくれています。“ブルックリン・プリンス”の大人顔負けの毅然とした存在感がまた素晴らしくて、『エノーラ・ホームズの事件簿』に通じる、子どもが大人社会に切り込む快感の連続ですね。
シーズン1:名記者ヒルデ、町を変える
シーズン1ではエリー・ハーバーという田舎町で暮らす誰もが知るいわくつきの事件、リッチー・ファイフ誘拐事件を解き明かします。それは単なる事件ではなく、地域全体の暗部を如実に浮き彫りにさせたものであり、ゆえに多くの大人はタブー視していました。
まず当初逮捕されたサム・ギリス。彼はヤカマ族というインディアンであり、やはりサムの犯人決めつけの背後には先住民差別がありました。
そしてその捜査を強引に進めたのが父子で保安官を務めるブリッグス家。ここでは警察による汚職という問題が政治選挙と絡んで根深く蔓延っていました。
他にもバードマンと呼ばれる男がマットから子ども時代に受けていたイジメ、痴呆になりながらも真相を追っていたマットの父、意外なカギを握る車椅子のシックル先生まで、さまざまな世間から除け者にされてきた存在がこの町にいます。
それらの点と点を線で繋げていくヒルデ。彼女もこの事件の調査を通して、報道というものがときに他人のプライバシーを暴露して心を傷つけるといった職業モラルを学習し、レベルアップしていきます。ただの再生数稼ぎのYouTuberみたいなのとは違うということですね。このヒルデが幼さもありつつ、それをカバーするようにプロとして学んでいく物語構成も巧みでした。
と同時にヒルデの両親のとても大人な夫婦の関係性の修復の過程も丁寧に描かれており、過去の追っていた事件のせいで“男らしさ”を萎えさせてしまったマットは地元で自分と向き合うことで自分を再度見い出そうとし、ブリジットは育児から仕事キャリアへと進む覚悟を見い出していく。こうやって家族が再起動していく感じも良かったです。なお、三女ジニーは癒し担当。
シーズン1の終盤で明らかになったのは、キム校長の母であるキャロル・コリンズ(マーガレット・ミラー)の新事実。そして車両窃盗団のエゼキエル・ミラーによる誘拐計画。湖からバンが見つかるも車内にリッチーの影も形も無し。リッチーは生きているのか…見事なクリフハンガーでシーズン1は一旦閉幕です。
このシーズン1だけでしっかりフォーマットは確立されており、名記者ヒルデの魅力もいかんなく発揮。これはいくらでもエピソードを見続けたい新時代のミステリーの誕生ではないでしょうか。
あと両親世代が過ごした80年代カルチャーと、ヒルデのようなZ世代の融合という意味でも本作はなかなかに面白いバランスでした。これからはこういう世代のクロスオーバーがひとつの主流かな。
シーズン2:町の巨悪が立ちはだかる
『レポーター・ガール』のシーズン2はシーズン1の最大の謎「リッチーはどこへ行ったのか?」を解き明かす大団円です。
ヒルデの記事はあちこちの全国紙で取り上げられましたが、両親にもう手を引けと言われつつも、まだリッチーは生きているのではという思いを捨てられないヒルデ。夜中に大きな爆発音のようなものを聞いたのが気になり、ウォット・マネジメント社という企業を調査し始め、ストラータ工業という町と密接に関わる大企業に行き着きます。もしかしてこの企業が何か悪さしているのではないか?
シーズン2はいよいよ町の巨悪の登場。なんかここまでくると10歳の子どもには荷が重すぎる案件ですよ。『スーパーマン&ロイス』の題材にしないと…。それでも『スポットライト 世紀のスクープ』を持ち出してジャーナリズムの覚悟を父に語るヒルデは止まらない(確かに子どもが観る映画ではないけど…)。
ともかくシーズン2でも丁寧な伏線回収で事件が集約されていくという爽快感がある、オーソドックスな謎解きが楽しめました。
今回はさまざまな登場人物の関係性の結実が垣間見えてそこが見どころ。祖父と父とヒルデのジャーナリズムの継承がラストは光りますし、ヒルデとドニーとスプーンの友情のベタさも良いですし、イジーとイーサンとエマという新たな3人組の誕生も微笑ましいです。
自分の望むファッションを揶揄われて自身を失うスプーンや、イジーに想いを告白するエマなど、クィアなエピソードも挟まれますが、これらは「自分を隠さず立ち向かえ」という終盤のリッチーの決断とも繋がるシーズン2のメインテーマへのステップですね。
“ブルックリン・プリンス”のここぞという場面での泣きの演技に今回も感情を持ってかれるな…。ほんと、上手いなこの子…。
真相は簡単に説明するとこうです。ストラータ工業は長年にわたってカドミウムの不法投棄を隠蔽しており、子どもだったリッチーが偶然にそれを知ってしまいます。それを実の父のアーサー・コンウェイとハンク・ギリスに喋り、2人の大人は企業に立ち向かうも潰されます。危機を感じたアーサーはリッチーをこの町から密かに連れ出したのでした。本来は誘拐を目的にしたものではなかった…。
最後はカナダにいた大人のリッチーの登場とその告発でストラータ工業のグラント・ウィリアムズはお縄に。
現実社会では『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』のように大企業の不正と戦うのはものすごい長期戦になるのですが、『レポーター・ガール』で描かれたような「大人の嘘にうんざりだ! 若者をバカにするな!」という子どもからの叱責がもっと大人社会に届いてほしい…そんな願いのこもった誠実なドラマシリーズでした。
子どもにジャーナリズムを教えるのにこれ以上ないくらいにぴったりな作品。そして大人が子どもから学ぶことも大切。大人たちの皆さん、子どもは大人を取材するジャーナリストなのです。
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 81% Audience 87%
S2: Tomatometer –% Audience 80%
IMDb
7.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)Apple レポーターガール
以上、『レポーター・ガール』の感想でした。
Home Before Dark (2020) [Japanese Review] 『レポーター・ガール』考察・評価レビュー