映画を独りよがりに好きにならないで…映画『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:カナダ(2022年)
日本公開日:2024年12月27日
監督:チャンドラー・レヴァック
性描写
あいらいくむーびーず
『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』物語 簡単紹介
『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』感想(ネタバレなし)
映画オタクを“よしよし”しない
最近もふとたまに考えるのですけども、「映画オタク」ってどういう人のことを今なら指すのでしょうかね。
私は現在は「趣味は?」と聞かれたら「映画鑑賞」とは答えるくらいではありますが、確かに平均的な人よりははるかに映画を年間で何作も観ています。それにこんな映画感想を自己満足で書いているサイトを運営していますし…。
でも近年は何かとオタク文化は「推し」という概念と接続して語られがちじゃないですか。私はこれといって特定の映画や監督を推すような情熱はないんですよね。特定の映画や監督を好きになっても、推しはしない。そういう意味では映画に対して誰よりも距離をとりたがる振る舞いかもしれません。
そのせいか推しのアツさで盛り上がっている映画ファンのコミュニティとかにはあまり馴染めません。だから傍から見れば冷めているようにすら映るかも…。
う~ん、そんなことを考えている時点で面倒な映画オタクなのかな…。
私はそういう自分の映画との関係性は気に入っているので何も困ってないのですけどもね。推してはいないからどんな映画や作り手に対しても執着しすぎることもないし、自由気ままに分析できるし…。他者とコミュニケーションをとるのもそもそも得意でもないですから。
たぶん批評家というか研究者みたいな立ち位置が好みなんだろうな…私は…。プロじゃなくてアマチュア未満の映画研究者ごっこです。
とまあ、こんな自分を考察してみましたが、今回紹介する映画は、映画オタクを自称する人、もしくはそうみられている人にとって、非常に居心地の悪い作品だと思います。
それが本作『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』。
本作は2022年のカナダ映画で、日本では2024年末に劇場公開されました。
主人公はひとりの高校生男子。いつも映画を得意げに語っている典型的なシネフィルで、周囲からは明らかに「やれやれ…」的な目線を向けられているのですが、本人は全く気にしていません。映画オタク男子を痛々しい青春とともに映し出す物語です。
日本だと『桐島、部活やめるってよ』が近いかもですが、あちらはまだ映画オタク男子が気持ちよくなれる余地があったと思いますが、この『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』は結構コテンパンにされます。よしよししてあげる都合よさは一切なく、手を緩めずに風刺してきます。変に露悪的でないのが、余計にリアルになってグサグサ刺さるという…。
これ、現在進行形でこんな映画オタク男子が鑑賞したら、どう思うんだろうか…。映画館を後にしながら心の奥底の動揺を隠すのに必死になるしかないような…。
とは言え、この『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』、レンタルDVD全盛期の2002年~2003年を舞台にしていて、主人公がレンタル映画ストアでバイトしたりするので、あちらこちらにシネフィルが喜びそうな要素も散りばめられています。
シネフィル批判的だけど、シネフィル需要にも答えている、器用な映画です。
『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』を監督するのは、これが長編映画監督デビュー作となる“チャンドラー・レヴァック”(チャンドラー・レバック)。女性監督で、自身の人生経験も交えてこの映画を作ったそうですが、主人公はあえて男子としています。女性監督でも男子を主人公にした物語も作り出せるということを表現したかったそうで、女性のレンズで男性のジェンダーを捉える批評性も持ち合わせた一作になっています。
対“映画オタク”撃退スプレーみたいな『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』ですが、この映画こそ、実はどの作品よりも映画オタクのための映画かもしれません。
『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』を観る前のQ&A
鑑賞の案内チェック
基本 | — |
キッズ | 性行為のシーンが一部にあります。10代の子どもなら鑑賞はむしろオススメです。 |
『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(前半)
高校生のローレンス・クウェラーは映画が好きです。誰よりも好きだと豪語できるほどに夢中です。今は「Reject’s Night」という自作の動画を教室でお披露目。監督と脚本はローレンス。一緒に出演しているのは、唯一の親友のマット・マカーチャックです。
その映像が教室で流れた後、先生は課題とはまるで違う内容に困惑しながらコメントしますが、ローレンスは持論のクリエイティブ論を立ち上がってズラズラと並べて述べていきます。同級生で自分より映画を語れる人はいない…その自負がありました。この動画の良さもたぶん誰も理解できないはず。
その自信満々のローレンスの横でマットはやや恥ずかしそうに目をそらしていました。
学校でもビデオカメラは手放せないローレンス。雲などテキトーに撮っていますが、マットは時々静止しつつ、たまに撮影に付き合います。
ローレンスは家では母親とは口論になるばかり。シングルマザーで苦労を重ねてきた母ですが、ローレンスはそんなことを気にするわけもなく、ニューヨークの大学で映画を学ぶ目標にこだわります。「カナダの大学ではダメなのか」という母の意見も相手にしません。
ローレンスはニューヨークの大学で憧れのトッド・ソロンズ監督から映画を学びたいのです。カナダなんて映画の学びの場として興味はありません。
もはや自分の馴染みの場所のように通い詰めている「Sequels」という映画ストアに今日もやってきます。ここにある映画を自分のコレクションのようにご満悦で眺めます。そして頼まれてもいないのに熱量たっぷりに客に映画を紹介。
母はそんな息子に呆れ顔。母は映画は詳しくなく、クローネンバーグの名前もでてこないです。一緒に家での映画鑑賞に付き合うも、ローレンスはその母の態度にいちいち不満が爆発。同席していたマットはまたもや居心地が悪そうに横で縮こまっています。
結局、学費が問題なので、大学のためにもあの地元の「Sequels」でアルバイトを始めることにしました。
店長のアラナとの面接で、映画愛を饒舌に語るローレンス。人手不足ということもあり、採用してくれますが、ローレンスは自分の才能ゆえだと思い込みます。
他の店員と軽く挨拶し、仕事開始。しかし、「『シュレック』をどれくらい売れる?」 と聞かれ、ローレンスは困惑します。そんな大衆向けのファミリー映画に関心はありません。でもそれを売るのが仕事です。しょうがなく「『シュレック』のことなら何でも質問してください」というタスキをかけて客対応をします。
こうして映画に囲まれながらの仕事は続きますが…。
オタクの通過点と落とし穴

ここから『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』のネタバレありの感想本文です。
感想のネタバレを本格的に書く前に、私の話をまたしてしまいますけども、私は高校生のときは映画を全然観ていなかったので、映画オタクでは微塵もなかったです。ましてや自分の趣味を家庭や学校でも全開でアピールする感じもなく、むしろひたすらに自分を押し殺すような生き方をしていました。
なのでこの『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』の主人公であるローレンスと別方向で真逆な体験しかしておらず、正直、あまり共感できるような感じはないです。
ローレンスみたいな人も周りにいなかった気がする…(気づいていないだけかもだけど)。いや、私の子ども時代の身近にあんな同級生がいたら映画を嫌いになっていそうではある…。だから「本当にこんな高校生いるんだろうか?」という気持ちもないではないです。
しかし、オタクとしては(別に映画に限らず)、まあ、よくある定番の実像ではあるだろうなと思います。今作は2000年代初頭で、インターネットもそこまで普及していない時代ではありますが、これが日本が舞台で2005年以降ならニコニコ動画で息巻いていそうな奴ら、はたまた2020年代以降なら自分のSNSのアカウントやYouTubeのチャンネルで「今の映画はポリコレが~」と言い切っている奴ら…そんな層に該当するのかな。
たぶんSNSがある時代だったらローレンスはもっと詳しい人にボコボコにされている気もしますが、でもそれを開き直って無視していそう…。
主人公をシネフィルと紹介しましたが、ローレンスはわりとミーハーです。 『フルメタル・ジャケット』のあの罵倒圧迫シーンをニヤニヤと語る仕草に象徴されるように、日本でも「一般よりも洋画を知り始めた段階」に突入したあたりの状態というか…。
この通過点は何かの趣味にのめりこんだときに、多くの人が必然的に経験するものですけども、ローレンスは典型的なオタクの醜態を露呈している…。
ここはカナダらしいなと思ったところですが、カナダの映画オタクは母国のカナダ映画をダサいとみなしがちなのでしょうか。作中のローレンスはシネフィルに好まれるアメリカの映画監督が好きなようで…。カナダ・コンプレックスが尋常じゃなかったな…。日本の映画オタクが大衆邦画をバカにする感じか。でも日本でもカナダでもインディペンデントな映画もあるし、いくらでも面白い映画を掘り起こせるのに、ローレンスはネームバリューのあるシネフィル映画に傾倒する…。
ということでこのローレンス、ひと言で言えば「こじらせて」います。趣味は趣味でも偏狭な世界に引き籠もり、シネフィルをきどる自分に酔っています。
映画は映画オタクだけが観るわけじゃないし、自分の知らない映画の世界に触れるには見識を広げるという意味でも、いろいろな知識を吸収しないといけないのに、それも怠ります。
作中でそのまんまな演出がありましたが、まさに映画でマスターベーションしているだけのローレンスなのでした。
ものすごくぎこちない最初の一歩
『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』の主人公であるローレンスは、映画の趣味の範囲だけなら勝手に自己陶酔して自滅する愚者として放っておけばいいのですが、そこには有害なオタクの厄介な副作用が…。身近な周囲の人間にも被害を与えていきます。
このローレンス、自分には甘いですが、他人にはとにかく手厳しいです。社交性が低いというよりは「オタクこそ識者である」という価値観に染まって自己評価を見誤っているだけなのですが…。作中の「ナルシスト」という言葉どおりの人間でした。自分第一主義です。
健気に育ててくれている母親にも、バイト先の店長アラナや店員にも、唯一の友達のマットにさえも…。人間関係にはこれでも恵まれているようにも思いますが、その恵みにも唾を吐きかけてしまう。女子の参入を嫌うあたりなんてインセル仕草そのものです。
このローレンスを観ていると、『サウスパーク』のエリック・カートマンを実写化したような感じにみえてくる…。
男性のオタク趣味がその延長として有害な男らしさに接続するということがしっかり風刺されていたとも思います。ずっと無自覚に痛々しいです。
一方で、個人的にはローレンスよりもその友人のマットに共感したりする気持ちもありました。マットはローレンスと友達なのですが、ローレンスに「付き合ってあげている」んですね。マット自身の興味関心は抑え気味で、ローレンス側に寄ることで保っている友情です(ローレンスは気づいていませんが)。
「Sequels」(店内といい、店員の服装といい、レンタルビデオ店大手の「ブロックバスター」がモデルなのは明らか)の店長であるアラナも、夢に挫けながら映画業界の現実を味わってきた先人です。本来であればこのアラナも主人公になりうるストーリーを持っています。舞台がレンタルビデオ店の終わりに差し掛かっている時代というのもさりげなく哀愁がありますよね。
終盤まで本当に反省はしないローレンス。それでも自分の無力さを思い知り、ようやくぎこちない一歩を踏み出したようにも思えるエンディング。
カナダの大学の寮の自室に『マグノリアの花たち』のポスターを張っているのが何とも言えないですね。アメリカ映画のシネフィル領域からは意地でも抜け出していないけど、女性たちを主題にした映画をチョイスすることで、自分の殻をどう破るかという葛藤が滲んでいる…。
今の時代で私が映画オタク男子にオススメするなら、SNSで気に入った人をフォローしてそれだけで情報収集するのを止めて(今のSNSはローレンス大量生産工場ですよ)、とりあえずフェミニズムの良書10冊でも読んでみるとか、そうやって強引にでもバブルを破って視野を広げるのが一番ベターだと思います。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
関連作品紹介
映画オタクを主題にした映画の感想記事です。
・『サマーフィルムにのって』

・『ぼくとアールと彼女のさよなら』

作品ポスター・画像 (C)2022 VHS Forever Inc.All Rights Reserved. アイライクムービーズ
以上、『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』の感想でした。
I Like Movies (2022) [Japanese Review] 『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』考察・評価レビュー
#カナダ映画 #高校生男子 #オタク #映画業界