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『渇きと偽り』感想(ネタバレ)…干上がった大地で事件の真相が露わになる

渇きと偽り

干上がった大地で事件の真相が露わになる…映画『渇きと偽り』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:The Dry
製作国:オーストラリア(2020年)
日本公開日:2022年9月23日
監督:ロバート・コノリー
恋愛描写

渇きと偽り

かわきといつわり
渇きと偽り

『渇きと偽り』あらすじ

オーストラリアのメルボルンの連邦警察官であるアーロン・フォークは旧友ルークの葬儀に参列するため、20年ぶりに故郷の小さな町に帰ってきた。ルークは、自身の妻子を殺した後に自らも命を絶ったという話だった。町は長らく雨が降らずに干ばつに襲われており、思い出の川も消えている。町にとどまって独自に捜査を行い始めたフォークは、自分自身の過去の事件とも向き合うことになり、さまざまな疑いが頭をよぎる。

『渇きと偽り』感想(ネタバレなし)

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オーストラリアで大ヒットの話題作

2019年から2020年にかけてオーストラリアは未曽有の大惨事となった森林火災で酷い目に遭いました。その事態を悪化させたのは、政府のトップだったスコット・モリソン首相の消極的すぎる地球温暖化対策にあったことがドキュメンタリー『炎上する大地』で痛烈に解説されています。

愚かな人類によって干上がってしまったオーストラリアの大地。人々の生活にも深刻な被害を与えました。後悔しても遅いかもしれませんが、今からでも改善できることはあります。無能な前政権に代わって新たに政府を率いることになったアンソニー・アルバネーゼ首相は、2030年までに温室効果ガス排出量を2005年比で43%削減し、2050年までにネット・ゼロを達成するという目標が盛り込んだ気候変動法案を法制化。これで干からびた地に潤いが戻ればいいのですが…。

そんなオーストラリアが大変な思いを経験した後の2020年末に本国で劇場公開されたこの映画はオーストラリアの人たちにとってことさら生々しく突き刺さるスリルだった…のかな。

それが本作『渇きと偽り』です。

本作はイギリス系オーストラリア人の作家のデビュー作である”ジェイン・ハーパー”の2016年の小説を映画化したもの。原作小説自体も高い評価を受けてベストセラーになったのですが、この映画版も高評価。オーストラリア映画テレビ芸術アカデミー賞(AACTA賞)にて、最優秀作品賞・監督賞・主演男優賞・主演女優賞などにノミネートされ、脚色賞と撮影賞を受賞しました(最優秀作品賞の受賞作は『ニトラム NITRAM』でした)。

興行的にも大ヒットしてオーストラリアの観客の心を掴んだ『渇きと偽り』ですが、物語は硬派なミステリーサスペンスです。主人公の男が地元の田舎に帰ってくることから始まります。久しぶりの帰省で楽しい雰囲気…では全くなく実は旧友の葬式のため。しかもその昔の友人は妻と息子を殺して自殺したというのです。さらにそれだけでは終わらず、この事件を調べていくうちに、主人公の過去にも関係してくる真相が浮き彫りに…という流れ。

よくある田舎の閉塞感のあるコミュニティの暗部が見えてくるサスペンスですが、ここはオーストラリアの辺鄙な地。日本とはまた全然違った環境になっていて、地域色がでるもんですね。日本はやっぱり高温多湿な田舎が多いのでジメっとした陰惨さが滲むものですけど、本作みたいなオーストラリアはとにかくカラっとしている。まあ、どっちにせよ不気味ではあるんですが…。

この『渇きと偽り』の映画化にものすごく前向きで、主演だけでなく、製作にも関与したのが、オーストラリアの俳優である“エリック・バナ”。キャリアの初期はコメディアンだったのですが、2000年に実在の犯罪者兼作家である人物を描いた『チョッパー・リード 史上最凶の殺人鬼』で主演を演じて大ブレイク。2003年には『ハルク』(MCUではない作品)で緑の巨人を演じて、以降はハリウッドでも存在感を発揮します。『ローン・サバイバー』『NY心霊捜査官』『ザ・ブリザード』『キング・アーサー』と続々と出演を重ねる中、この『渇きと偽り』のように母国で人気の作品にもしっかり手を出す。今作は“エリック・バナ”にとっても久々のオーストラリア国内で高評価獲得演技となったのではないでしょうか。

共演は、ドラマ『キャシアン・アンドー』の“ジェネヴィーヴ・オーライリー”、ドラマ『FARGO/ファーゴ』の“キーア・オドネル”、『チェイシング/追跡』を監督した“ジョン・ポルソン”、『マッドマックス2』の“ブルース・スペンス”、『ダーク・フェアリー』の“ジュリア・ブレイク”、『ガンズ&ゴールド』の“マット・ネイブル”など。

『渇きと偽り』を監督したのはオーストラリアを代表する名監督で、これまでも数多くの映画やドラマを手がけ、オーストラリア作品の存在感を高めてきたクリエイターである“ロバート・コノリー”です。残念ながら日本では“ロバート・コノリー”監督作があまり見られないのですが、2018年のドラマ『ディープ・ステート』などは見られますね。

プロデューサーに関わっているのは、『ナイチンゲール』や『ペンギンが教えてくれたこと』などこれまたたくさんの映画を送りだしてきた“ブルーナ・パパンドレア”

王道のミステリーな捜査モノなので、そのジャンルが好きな人は『渇きと偽り』を満喫できると思います。干からびすぎている舞台なので鑑賞していると喉が渇いてきてしまいますけどね。

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『渇きと偽り』を観る前のQ&A

✔『渇きと偽り』の見どころ
★真相を追及する王道のミステリーが楽しめる。
✔『渇きと偽り』の欠点
☆子どもが殺される事件なので特に無惨。

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:ミステリー好きなら
友人 3.5:ジャンル好き同士で
恋人 3.0:ロマンス要素はやや薄め
キッズ 3.0:残酷な描写あり
↓ここからネタバレが含まれます↓

『渇きと偽り』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):嘘をついている人がいる

干からびた大地。そんな広々とした地域にポツンと立つ一軒家。中ではベビーベッドに寝かされた赤ん坊の泣き声が響き、壁に血、そして廊下に死体が…。

メルボルンの連邦警察官であるアーロン・フォークジェリー・ハドラーからメッセージを受け取っていました。それは古くからの友人であるルーク・ハドラーの葬式に来てほしいというもの。気軽には足を運べません。なぜならフォークはその地元から10代の頃に距離を置いて引っ越してしまったからです。

しかし、そのメッセージに記された「ルークも君も嘘をついた」という文章が心に刺さります

車で向かうことにしたフォーク。車内では干ばつのニュースが流れ、キエワラでは324日も雨が降っていないとのこと。

教会に到着し、後ろに立ちます。前には棺が3つ。スライドショーではルーク、そして妻カレンと子どものビリーの写真が流れています。参席者は悲痛な顔で嘆き悲しんでいました。若い時期の写真が表示され、フォークの脳裏にかつての記憶が蘇ります。

葬儀が終わり、フォークの前にグレッチェンという同年代の女性がやってきて、久しぶりの会話をします。グレッチェンにはラキーという子どもがおり、遠くで無邪気に遊んでいます。ビリーと同級生だそうで、グレッチェンはどう説明すればいいか迷っているようです。

みんな集まって送別会。その最中、グラントという男が「あいつは人殺しだ」と呟き、不評を買います。

フォークは、ふと途中で車を降り、昔の記憶に誘われるようにある場所に向かいます。この今は干上がってしまった川で、エリー・ディーコンの遺体は見つかったのでした。そう、あれは過去の出来事。そしてフォークとルークの人生を変えてしまった事件…。

ジェリーの家に寄り、残された赤ん坊シャーロットを育てているバーブから「ルークはやってない。家族を殺して自殺なんてありえない」と聞かされます。農場で借金があったのではないかと疑っているようですが、捜査権限はないフォークには何もできません。「君もルークも昔に嘘をついただろう。あの子が溺れたとき、放牧地から戻ったと嘘の発言をしたじゃないか」とジェリーに言われ、帳簿を見たら帰るととりあえず返事をします。

故郷のバーで休んでいると、グラントに責められ、フォークはエリーのことを謝りますが、グラントとその父は厳しい目を向けるだけでした。

夜、部屋で寝ていると「俺らの町に何しにきやがった」と押しかけてこられたりするなど、明らかにフォークはこの故郷では一部の人には歓迎されていません。

町の巡査部長のグレッグ・レイコーに会い、帳簿を見せてもらいます。遺体の発見時の様子も確認。なぜ赤ん坊を殺さなかったのかとグレッグは疑問のようです。こういう事件の対応は初めてらしく、グレッグは動揺していました。

次にカレンの職場でもある学校へ行き、校長のスコット・ホイットラムに聞き込みをします。不審な点はなさそうです。グレッチェンもいて子ども時代の思い出話で盛り上がります。

グレッグに「さっきは納屋で何をしていたんだ?」と訊ねると、「現場の3発はレミントンで色は青。でも家にあったのはウィンチェスター、色は赤だった」と言われ、何やらまだ怪しい点はありそうです。

ルークの自殺場所へ向かうと、そこは干上がった湖。今も血が無惨に残っています。湖周辺の土地所有者は、ルーク、マル・ディーコン、グラントの3家族。マレーの土地にはジェイミー・サリバンが祖母と住んでおり、ルークは死ぬ前に彼とウサギを撃っていたらしいです。

この事件の裏には何があるのか…。

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2つの事件にどんな関係があるのか

『渇きと偽り』はミステリーサスペンスとしてはかなり堅実に作られており、そんなトリッキーな仕掛けとかも飛び出してきません。とは言え、複数の謎が巧妙に仕掛けられていて、上手い具合に織り交ざっているので、それをひとつひとつ紐解かないと真相は見えてこない。シンプルながら面白さはじゅうぶんです。

本作の謎は主に2つ。「現在に起きたルークの家族の事件」「過去に起きたエリーの事件」です。

最初に観客と主人公のアーロン・フォークの立場は微妙に食い違います。フォークには何やら忌まわしい過去があるらしく、それが観客には完全に提示されないので、このフォークはいまいち信用しきれません。もしかしたらフォークもルークの事件に関与しているのかと不安になってしまいます。

フォークたちがまだ10代後半だった頃、この故郷の川でエリーの死体が発見されたこと。フォークはルークの提案で嘘の証言をしたこと。ルークの危なっかしい行動や、フォークとエリーとの恋模様などを見ていると、ルークがエリーを殺害したという可能性が浮上し、実際に今の地元でもそう信じている人は少なくないようです。ルークが殺されたのはその誰かによる復讐の結果なのか…。

しかし、本作は次々と犯人候補がでてきます。まずルークと直前まで一緒にいたというジェイミー。また、ルークを嫌うグラントも怪しく、カレンの残した「grant」の単語もその疑惑を強めます。さらにグレッチェンまで怪しくなってきて、フォークはかなり精神的に参ってきます。

俳優陣の演技も素晴らしく、それがミステリーを余計な味付けせずとも面白くさせている。最小構成要素しかない物語ですが、なかなかに魅入ってしまうミステリアスさでした。

結局、ルーク家族殺害の犯人は校長のスコット・ホイットラム。クロスリー教育信託の教育補助金が狙いであり、カレンの残した「grant」は人命ではなく「補助金」の意味。申請額7万ドルのために3人も殺害したという無惨な真相です。加えて、エリー殺害の犯人も浮かび上がってきます。エリーは父から虐待を受けており、家出を決意し、外へ出て川の傍に来た時、父に追いつかれ、殺されたのでした。

2つの事件は一見する無関係ですが、どちらも地域の暗黙の了解で成り立ってしまう体質がこの事件の真相を覆い隠していました。不正や暴力を隠蔽するコミュニティの歪みですね。

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自然環境を最大限に活かしている

良質なクライムサスペンスは舞台の自然環境を最大限に活かすものだと思っているのですが、この『渇きと偽り』はそれを100%完璧に満たしている作品でもありました。この干上がったオーストラリアの今の状況だからこそ、水没したはずの事件の真相が顔をだす。皮肉な味わいがあります。

舞台となったキエワラの地は長期の日照りで水源が枯れてしまい、川も湖も干上がり、ひび割れた地面がむき出しになっています。それこそ不快なものを覆い隠してくれるような水も草もないのです。だからルークの死体も渇いた地面に放置されました。かつてエリーの亡骸が川に沈んでいたのとは対比的です。

そして最後の最後で岩の隙間から見つかるエリーの鞄。本当の真相に繋がるヒントはこんなところに隠れていたのでした。これは渇きがちな気候だから残存できた物証ですよね。日本だったら大雨で流されていそうだし…。

そうやって考えると、あのカラカラの大地は犯罪捜査には都合がいいのかな。死体も証拠も隠すのも難しい環境という不幸中の幸いなのか…。まあ、住むのも苦労ばかりだろうから実際の住人にはキツイのだろうけど…。

その一方でラストのスコットを追い詰める場面での緊張感はこのオーストラリアならではです。ただの焼身自殺になるのではなく、地域一体を破壊的に燃やし尽くす大災害になるかもしれないのですから、それは大変です(自然火災の恐ろしさは何度も言うけどドキュメンタリー『炎上する大地』を観て理解してね)。ほんと、自殺というよりは自爆テロみたいな状態に近いような…。

嘘が積み重なって起きる悲劇。それを隠匿する人間社会。そんな人間たちなど知ったことかと容赦なく暴露していく自然。これ自体があらゆる問題の縮図にもなっている。風刺性も感じる物語でした。

『渇きと偽り』はこれで一応は解決して物語は閉じていましたが、なんと続編の制作がすでに進行中だとか。同じスタッフで続編『Force of Nature』(原作「潤みと翳り」)の撮影が開始されているそうで、次も期待できるのではないでしょうか。

『渇きと偽り』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 91% Audience 89%
IMDb
6.8 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
6.0

作品ポスター・画像 (C)2020 The Dry Film Holdings Pty Ltd and Screen Australia

以上、『渇きと偽り』の感想でした。

The Dry (2020) [Japanese Review] 『渇きと偽り』考察・評価レビュー