ネコ好きも映画好きも皆楽しめる抱腹絶倒コメディ…映画『キアヌ』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:アメリカ(2016年)
日本では劇場未公開:2017年にDVDスルー
監督:ピーター・アテンチオ
きあぬ
『キアヌ』物語 簡単紹介
『キアヌ』感想(ネタバレなし)
主演の彼は今年注目の天才映画監督?
「アクション」「サスペンス」「ホラー」とさまざまなジャンルが映画にありますが、底知れぬ根強い支持を集めるジャンルが「ネコ」です。
日本でも今年もネコ映画がいくつか公開されます。スマホアプリを映画化した『ねこあつめの家』とか、ネコと忍者が共演する『猫忍』とか。たぶんネコ映画は1年に1作は必ずあるんじゃないかな。
海外もネコ映画は盛んです。2016年には『メン・イン・キャット』という「ケビン・スペイシーがネコになってしまう」なんとも珍妙なコメディが公開されました。こちらはニューヨークが舞台だけどフランスと中国が製作した映画でしたが、今回紹介する本作『キアヌ』は正真正銘アメリカの製作したネコ映画です。
明らかに犯罪とは無縁で悪いことが全くできそうにない黒人男のコンビが、自分たちの飼っていた一匹の子猫をギャングに奪われてしまい、びびりながらも「俺たち、悪だぜ!」と精一杯の虚勢を張って、いかにも悪そうな黒人だらけのそのギャングに極悪な殺し屋として入り込む…ストーリーはこんな感じ。
すごくアメリカらしいネコ映画です。
映画に登場する子猫がとにかくカワイイ。これだけでもネコ好きは幸せを満喫できるでしょう。小さい子猫が元気いっぱいに走り回っている。はい、癒しです。小さい子猫が愛くるしく寝転がっている。はい、ヒーリング効果120%です。逆になんですか、ネコが嫌いな人はなぜ今この映画の感想記事を読もうとしているんですか(半ギレ)。
一方で本作はネコとは別の観点から映画ファンにも見逃せない一作ともいえます。それはアメリカの人気お笑いコンビ「キー&ピール」の“ジョーダン・ピール”と“キーガン=マイケル・キー”が主演しているということ。「だから何?」という反応が返ってきそうですが、この「キー&ピール」のひとり“ジョーダン・ピール”は映画監督として今年デビューしたのです。しかも、そのデビュー作である『ゲット・アウト』が、なんとまさかの映画批評サイト「Rotten Tomatoes」で99%のスコアを獲得するほど超高評価で大ヒット! 『ゲット・アウト』は白人の恋人との結婚を控えた黒人の男が恋人の両親に挨拶しに行ったところ、恐ろしい目に遭わされるというホラー・コメディ。日本では現時点で劇場公開予定はないのですが、楽しみすぎる…。
他にも本作『キアヌ』は主人公二人が映画好きという設定なため、やたらと映画のパロディがあったり、人気ゲーム「グランド・セフト・オート」のオマージュがあったりと、オタクに寄り添った作品になってます。まあ、というか完璧にオタク映画でもありますね。この『キアヌ』というタイトルだって“キアヌ・リーブス”が由来だし…。
監督は“ピーター・アテンチオ”という人で、この人物はずっと「キー&ピール」を支えてきた監督でもあるので、今回の映画も安定感のあるいつもの顔触れ。
こんな楽しい映画なのに、日本では本作は劇場未公開でDVDスルーです…。ぜひ暇なときでいいのでレンタルして観てみてください。
『キアヌ』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):子猫は失恋を忘れさせる
とある麻薬製造拠点。そこにアレンタウン兄弟が強襲。手当たり次第に撃ちまくり、全員を圧倒します。その大混乱の中、ギャング団のボスであるキング・ディアスの飼っていた小さな子猫イグレシアスは逃げ出します。ボスがアレンタウン兄弟に殺されようとした瞬間、子猫が現れ、兄弟は子猫を放して、駆け付けた警察に向き合い…。
子猫の方は街中へと走っていくのでした。
一方、別の場所。クラレンスはノリノリで車を運転しながら、レルに電話します。レルは家で意気消沈していました。恋人にふられたのです。生きる意味を失い、アポロ・クリード状態で絶望を噛みしめて嘆くだけの日々。
するとドアの外で音がします。ドアを開けると足元に子猫がいました。この小さな命は傷心したレルを癒します。部屋に連れ帰り、ミルクをあげ、可愛がってあげよう…。
クラレンスがレルの家に来ると子猫を紹介されます。キアヌという名です。なんだこの可愛すぎる子猫は…。
2週間後。クラレンスの妻のハンナが娘を連れてスペンサーと旅行に出かけたため、渋々ではあるもののひとりきりで過ごすことになってしまいました。寂しい…。
レルはすっかり失恋から立ち直り、キアヌをモデルにカレンダーの写真を撮っていました。全部映画ネタです。溺愛しまくりです。
2人はアクション映画を見に行くことになっており、キアヌはお留守番。
それが終わり、レルは車内で家でハッパをきめるのがいいと提案。クラレンスはヤワだと言われるのを気にしていました。あまり暴力的な曲も不安になるだけで、せいぜいリーアム・ニーソンの暴力的な映画でエンジョイする程度でした。
帰宅するとレルの部屋は荒らされており、キアヌの姿がどこにもありません。首輪だけが残されていました。レルはパニックになりながら、ショックを隠せない状況です。
警察は空き巣は滅多に捕まらないと言い、なぜネコが盗まれたのかと疑問を呈します。
レルは向かいに住んでいる麻薬の売人の隣人に情報を聞きます。あまり話したがりませんでしたが、レルの真面目な形相で考え直し、強盗の正体が地元のギャングだと教えてくれます。居場所はストリップクラブだとのこと。
小心者のクラレンスは考え直そうと落ち着かせてきますが、もう怒れるレルは止まりません。ヤバい奴が集まっているクラブへと勇ましく乗り込んでいく2人。既婚者であるクラレンスは居心地が悪そうですが、とにかくもっと黒人っぽくしろとレルに言われる始末。だったらやってやろうじゃないか、乱暴な言葉遣いくらいできるぞ…。
愛する子猫を取り返すまでは…。
夢中なことは悪いことじゃない
最初に言っておかなければならないことがあります。
「なんでこの映画に出てくる奴らは揃いも揃ってあのネコにこだわるの?」なんていう野暮な質問は無しですよ。
その理由は極めてシンプル。この世の真理と言ってもいい。それは…“子猫はカワイイ”。このニュートンの運動法則に匹敵する力こそがこの映画の登場人物たちの行動を説明する唯一にして絶対の全てです。
えっ、私はネコがあまり好きじゃない? そういう人はそこは目をつぶってください。クラレンスを演じた“キーガン=マイケル・キー”だってネコアレルギーのなか頑張ったんですから。そう振り返ってみると“キーガン=マイケル・キー”はあの子猫に触るようなシーンはかなり抑えられていたし、一応は気を使っていたのかな…。
それにしても本作はネコ好きの人しか登場しないです。『メン・イン・キャット』がネコ嫌いな主人公だったためネコに対する愛情が驚くほど乏しい作品だったのに対して、本作の溢れるネコ愛。メイキング映像からも愛情が垣間見えます。こんな現場、絶対にストレスがその場で解消されていきますよ…。
一方で、本作は子猫のキアヌをただのカワイイ癒しアイテムとして出しているだけでないのも良いところ。物語はボンクラ男二人が己の趣味を貫き通す話であり、オタクを全力応援する映画です。そんな中でネコという存在はオタク心を共有できる唯一の武器。凡人も、ギャングも、警察も、誰にだって夢中になれるものはあるよね…という極めて真っ当なメッセージでした。
個人的にはネコに負けず劣らず可愛いと思う、ジョーダン・ピールとキーガン=マイケル・キーが演じるレルとクラレンスのコンビが最高です。序盤のなんともだらしないレルのキアヌとの私生活や、頑張って悪になろうとするアホな姿、そしてなんだかんだでギャングたち下っ端と仲良くなるクラレンス…どれも愛らしい。コミュニケーションだ!とか、元カノの写真をキアヌに攻撃させる指示とか、地味でばかばかしい伏線回収も好きです。
ネタとしてはこれは「キー&ピール」の得意技なのでしょうが、黒人らしさをあえて笑いに変えるような風刺で攻めていることが多いです。片や子猫にメロメロな男で、片やドラッグも「N.W.A」の乱暴な曲もおっかなびっくりで腰が引けてしまう男。どっちも全然黒人らしくないのですが、そんな2人の精一杯の背伸び。そこが面白さの根底です。
あと、クスリでのトリップシーン。トリップシーンが面白いコメディ映画は名作です。本作のクラレンスが「ホーリー・シット」を吸ったことで展開される、謎空間でのジョージ・マイケルとの雑な共演(?)、そして”キアヌ・リーブス”の声でしゃべりだすキアヌ(猫)。トリップシーンは、“なんだこれ感”が多いほど良いですね。
ちなみに”キアヌ・リーブス”を出す予定は全然なかったらしく、”キアヌ・リーブス”本人の要望で出演が決まったらしい…。いいやつすぎる…。
「キアヌはずっと子猫のままの珍しい病気なの」という潔い開き直りと、不死身のアレンタウン兄弟で終わった本作…続編をつくるときは、”キアヌ・リーブス”本人も出演にぜひ期待します。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 77% Audience 55%
IMDb
6.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★
作品ポスター・画像 © 2017 Warner Bros. Japan LLC All rights reserved.
以上、『キアヌ』の感想でした。
Keanu (2016) [Japanese Review] 『キアヌ』考察・評価レビュー