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『猿の惑星 キングダム』感想(ネタバレ)…人類は猿を考察し続ける

猿の惑星 キングダム

それとも猿が人類を考察し続ける?…映画『猿の惑星 キングダム』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Kingdom of the Planet of the Apes
製作国:アメリカ(2024年)
日本公開日:2024年5月10日
監督:ウェス・ボール
猿の惑星 キングダム

さるのわくせい きんぐだむ
『猿の惑星 キングダム』のポスター。大自然の中で猿と人間が並ぶデザイン。

『猿の惑星 キングダム』物語 簡単紹介

人類が文明を衰退させた地球。高い知能と言語を得た猿たちはこの星で文明を穏やかに築いていた。しかし、穏便な猿ばかりではない。新たな支配者として巨大な帝国「キングダム」の頂点に立つべく、虎視眈々と権力の座を狙う猿もいた。世界の過去を知らない若き猿ノアは年老いたオランウータンから猿と人間の共存の可能性がわずかにあったという昔話を聞かされ、さらにあるひとりの人間と出会う。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『猿の惑星 キングダム』の感想です。

『猿の惑星 キングダム』感想(ネタバレなし)

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「猿の惑星」はどこまで続く?

『猿の惑星』シリーズがここまで続くとは…。人間も猿もびっくりです。まあ、猿はこの映画はたぶん観てないと思うけども…。

「猿の惑星」というフランチャイズは、もともとフランスの作家”ピエール・ブール”が1963年に発表した小説が原点であり、1968年に『猿の惑星』として映画化されました。

この映画が大好評となり、『続・猿の惑星』(1970年)、『新・猿の惑星』(1971年)、『猿の惑星・征服』(1972年)、『最後の猿の惑星』(1973年)と立て続けに続編が連発します。当時の映画製作のフットワーク速度には驚かされますね。

1980年代以降も映画製作は試みられるのですが、開発は難航。ようやく2001年に『PLANET OF THE APES 猿の惑星』としてリメイクされたものの、評価は芳しくなく、ほとんど“無かったこと”扱いにされます。

しかし、映画がまた再始動します。今度は前日譚的な作品群となり、2011年に『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』が公開。これが成功し、『猿の惑星:新世紀(ライジング)』(2014年)、『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』(2017年)と3部作を完遂します。

けれどもまだ終わりません。20世紀フォックスディズニーに買収され、今度はディズニーのブランドでシリーズがまたまた再稼働。ついに3度目のリブートですよ。

それが本作『猿の惑星 キングダム』

ただし、今回は2010年代の3部作(主人公の猿の名前をとって「シーザー三部作」とでも呼びましょうか)の世界と同一となっており、一応は続編にもなっています。それでも『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』から300年後の時間設定で、前作の登場人物はほぼでてこないので、完全にここから新規で楽しめるようにもなっています。

なんでも製作側としては『猿の惑星 キングダム』から新しい3部作を始めたいみたいですね。どうせならシーザー三部作の流れを受け継いで、邦題も『猿の惑星:建国記(キングダム)』とかにしてほしかったな…。

『猿の惑星 キングダム』の監督は、『メイズ・ランナー』シリーズの”ウェス・ボール”にバトンタッチ。将来的に予定されている人気ゲーム「ゼルダの伝説」の実写映画化の監督にも抜擢されており、注目度は上がっています(こちらの企画はまだどうなるかはわかりませんけど…)。

『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』と同様に基本は猿たちがメインでドラマが進行し、猿は俳優の演技によるモーションキャプチャーで精巧に表現されています

猿を演じる俳優陣は、『To Leslie トゥ・レスリー』『レプタイル 蜥蜴』“オーウェン・ティーグ”、ドラマ『ロック&キー』“ケヴィン・デュランド”、ドラマ『宇宙探査艦オーヴィル』“ピーター・メイコン”など。みんな猿になりきるために頑張ったそうです。すっごい猿でしたよ(なんだその感想)。なんでも前作まで関わっていた“アンディ・サーキス”が指導役で猿芝居を叩き込んだみたいです。あの人、ほんと、猿だな…。

わずかに人間キャラクターも登場していて、物語の鍵を握る役として、ドラマ『ウィッチャー』“フレイヤ・アーラン”が出演。他には、大学入学不正事件(詳細はドキュメンタリー『バーシティ・ブルース作戦 裏口入学スキャンダル』)で少し服役&監視処分となっていた“ウィリアム・H・メイシー”が久々に復帰して出演しています。

『猿の惑星 キングダム』は『猿の惑星』シリーズを一度も観たことがないという初見の人にもちょうどいい、入り口となる新章です。

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『猿の惑星 キングダム』を観る前のQ&A

Q:『猿の惑星 キングダム』を観る前に観たほうがいい作品は?
A:本作からいきなり観ても問題はないですが、世界観の歴史をより深く知りたい人は2010年代からの3部作『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』『猿の惑星:新世紀(ライジング)』『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』を鑑賞しておくと良いです。
✔『猿の惑星 キングダム』の見どころ
★ハイクオリティなVFXで表現される猿たち。
★続きが気になるSF叙事詩的な物語の行く末。
✔『猿の惑星 キングダム』の欠点
☆物語の個性は薄まった感じもある。

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:世界観を堪能
友人 3.5:気軽に見れるエンタメ
恋人 3.5:恋愛要素は無し
キッズ 3.5:やや怖い猿もいるけど
↓ここからネタバレが含まれます↓

『猿の惑星 キングダム』感想/考察(ネタバレあり)

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あらすじ(前半)

大自然の中、ビルのような人工物の廃墟もすっかり緑に覆われています。その建造物残骸をチンパンジーたちが軽快に登っていきます。

ノア、アナヤ、スーナです。彼らは喋ります。猛禽類の卵を手に入れるのが目的でした。彼らの故郷では卵を入手できるのは一人前の大人として認められるために欠かせないのです。

同じ巣の卵を全て獲り尽くすことができません。鷲の子孫が残せなくなってしまいます。ノアはかなり無理して上のほうの巣を狙ったものの、親鳥に見つかってしまい、空から攻撃されてしまいます。そしてノアは滑り落ちてしまい、落下死しかけますが、なんとかギリギリ捕まって事なきを得ました。卵も手に入れました。

森に待機させていた馬の場所に戻ってきましたが、何かの気配を感じます。慌てて追跡。木の枝にのようなものが引っかかっており、類人猿ではないと判断。謎の相手は洞窟に逃げたようです。深追いはできません。

急いでその場を離れ、ホームに帰還します。そこではたくさんの猿たちが穏やかに住んでいました。子猿が外の様子を好奇心たっぷりに聞いてきます。母も心配してくれます。

ノアの父親のコロは村のリーダーです。猛禽類を堂々と従えています。しかし、父はすぐにあの布の匂いに気づき、息子を丁寧に諭します。父は何やら奥でその布について話し込んでいきました。

その夜、ノアは侵入者がいることを察知し、慎重に探索するも、その謎の存在と出会い頭に卵を割られてしまい、侵入者も消えました。このままではマズい…ノアは夜中に密かにホームを馬で出発し、代わりの卵を探して対処しようとします。

ところがノアがいない間にホームの近くで仲間が襲撃を受けていました。松明を持った猿たちの乗馬集団が荒々しく出現。その一団はどうやらノアの拾った布の持ち主を見つけようとしているようでした。

ノアの馬が見つかり、その後を追跡し、その恐ろしい集団はノアのホームに真っ直ぐに向かいます。ノアは急いで追いつこうとしますが、馬には敵いません。

ノアが戻ってきたとき、ホームは激しく襲われ、炎上していました。住んでいた者たちは無惨に虐げられています。ノアは高い構造物の上にいる父のもとに駆け付けるも、父は屈強な襲撃者に殺されてしまいます。懸命に対抗したノアの力ではどうにもならず、突き落とされてしまい…。

意識を取り戻したノア。ホームは静まり返り、煤と残り火、そして焦げた残骸が広がるのみ。家族も故郷も失いました。父の遺体を前に悲しみに沈み、石で墓を作って埋葬します。

今のノアにできるのは、この屈辱を晴らし、奪われた愛する者を取り戻すこと。ひとり馬に乗って出発します。まだ見ぬ世界の真実に直面するとは知らずに…。

この『猿の惑星 キングダム』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2024/05/13に更新されています。
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猿の惑星 ウェイ・オブ・ウォーター

ここから『猿の惑星 キングダム』のネタバレありの感想本文です。

『猿の惑星 キングダム』のわかりやすく見栄えのある魅力は、やはり映像表現。前作も凄かったですが、今回はさらに難しい映像に挑戦していました。とくにまわりですね。今作では、猿たちが川に溺れ、波にさらされ、海水に流され…やたらと水で苦しみます。体毛を持つ生物が水に濡れるというのはCGIの作業量としても相当にキツイはずですけど、全く違和感なく表現されていました。猿!水!猿!って感じの物量です。

視覚効果に詳しい“ウェス・ボール”監督だからというのもありますが、功労者は視覚効果スタジオ「Wētā FX」でしょうか。なんでもあちらも水表現がとんでもなかった『アバター ウェイ・オブ・ウォーター』で培ったテクニックをそのまま使っているそうで、なんだか「猿の惑星 ウェイ・オブ・ウォーター」状態でしたよ。

映像表現だけでなく、シナリオも『アバター』っぽくて、実際、『猿の惑星 キングダム』の脚本を手がけたのは、『アバター』シリーズのストーリーに関与している“ジョシュ・フリードマン”

まず主人公である猿のノアが、田舎っぽい故郷を持っていて(猿たちも自然に近い生活を維持している)、加えてという動物を従えることで「一人前」になるという設定が、もう『アバター』そのまんまです。未熟な青年がコミュニティを従えるまでの「男」になる系の王道ですね。

人類史と重ねるような叙事詩的なストーリー・テリングは前作から引き継いでいました。

今回の『猿の惑星 キングダム』で悪役として君臨するのは、暴君のプロキシマス・シーザーと名乗る猿(種はボノボらしい)。以前のシーザー三部作の主人公猿であるシーザーが葛藤の中で平和を模索する導き手であったのに対し(本作の冒頭で火葬シーンが描かれる)、このプロキシマス・シーザーは「虎の威を借る狐」ならぬ「猿の威を借る別の猿」で、シーザーの権威を都合よく我が物顔で利用して威張り散らしています。

いわゆる教義を悪用するナショナリズムというタイプで、そういう権力者は現代にもうじゃうじゃいますが、今作の場合は、“ウィリアム・シェイクスピア”の「ジュリアス・シーザー」でおなじみの独裁官「ガイウス・ユリウス・カエサル」がモチーフになっているんでしょうね。

律儀にもちゃんと最期はカエサルっぽい死に方をするし…(みんなに刺し殺されるように、今作ではみんなの鷲攻撃で突き落とされて死ぬ)。

私としてはあのプロキシマス・シーザーがどうやってあの地位に到達できたのかという背景のエピソードをもっと見たかったな…。

ともあれ、本作でこのアプローチはもう確定したようなものなので、次回作があるにしても人類史を「類人猿(エイプ;ape)」でなぞっていくやり方には変わりないのでしょうね。

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あの問題は残り続けるけど…

シーザー三部作は比較的後半にいくにつれ(とくに『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』)、結構ハイブローな渋みのある重みに落ち着いており、私はあの雰囲気が好きだったのですが、今回の仕切り直しとなった『猿の惑星 キングダム』は良くも悪くもエンターテインメントらしい一作に整えられました

アクションも増し増し、ストーリーも単純明快、SFも大振りです。見やすくなったと歓迎する人もいれば(わりと子どもでも楽しめるバランスになっていると思う)、個性は薄まってベタなエンタメになったなと硬派なSFファンは感じるかもしれません。

個人的にSFの観点で言いたいことがあるとすれば、第一に「喋る」という部分。シーザー三部作はこの「喋る」という行動のインパクトに重きが置かれていたのですが、今作『猿の惑星 キングダム』は猿たちは喋りまくります。

これだけ喋れるようになると、もう猿に感情移入するのもラクラクです。初期の『猿の惑星』はなんだかんだで人間側に視点があり、「あの猿に人間が支配されるなんて…!?」という衝撃をプロットの仕掛けにしていました。

でも現代の私たちは猿そのものに共感するのが簡単になっているんじゃないかと思います。その理由はこれだけ猿の表現がリアルになったということもありますし、今の社会の帰属意識が「人間」や「国家」に依存しなくなってきたというエコロジカルなグローバリゼーションも寄与しているんだと思います。

一方で、こうも数百年の歴史を経て「人語ぺらぺら」になると、この疑問も浮かんでしまいます。「なぜ英語なのか」と…。これ、吹替で見ると余計にヘンテコな演出になってしまうんですよね。ただでさえ、今作では「本」という文字がでてくるメディアが鍵になってくるし…。いくらアメリカだった土地が舞台とは言えね…。

逆に今回で「喋る」ことにインパクトを与えるのが人間、ノヴァ(メイ)のキャラクターです。シーザー三部作では人類は特殊なウイルスのせいで「言葉を話す能力を失った」ということになっていました。数百年後にまだ喋れる人類がいるというのは何の前触れなのか…。

この点に関しては、『猿の惑星 キングダム』は能力主義(エイブリズム)の問題が浮上します。

『アバター』も同じ問題を抱えているので脚本家の手癖なのか?と感じたりもしますが、『猿の惑星』自体がコンセプトとして優生思想前提のストーリー・トリックになっているので、これは厄介に深く刺さっている難点かもしれません。

なお、猿は裸同然で他の野生の人類は原始人風貌なのに、このメイはわりとさまになる服装(スポーティなパンツルック)で、なんで?と思いながら観ていたのですけど、ラストで「意外にそれなりの数の人類は機械文明を残して隠れ住んでいました」という、『フォールアウト』で観たような設定が明らかになったのでした。

それでもプロットのご都合的な装置としてのスーパーヒロインという感じは否めないけど…。

これからはこの生存している人類文明と猿たちの文明の対立になるのか、それとも融和になるのか、はたまだ別の脅威が現れるのか…。1作目の『猿の惑星』に繋げるような宇宙を示唆する演出もエンディングにはあったのですが、まだまだ波乱の歴史がいっぱい起きそうです。

『猿の惑星 キングダム』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 80% Audience 79%
IMDb
7.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
6.0

作品ポスター・画像 (C)2023 20th Century Studios. All Rights Reserved. キングダム・オブ・ザ・プラネット・オブ・ジ・エイプス

以上、『猿の惑星 キングダム』の感想でした。

Kingdom of the Planet of the Apes (2024) [Japanese Review] 『猿の惑星 キングダム』考察・評価レビュー